君がたとえあいつの秘書でも離さない

花里 美佐

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帰国

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 七ヶ月に入り、少しだけお腹が目立ってきた。
 
 清水物流には週三回、短時間でパートに行っている。
 まだ、体調不良なのでとさくらさんには伝えていた。
 
 妊娠はもともと痩せていたのもあり、他の人はあまり気づいていなかった。
 でも最近、病院で会社の人に会ってしまい、妊娠していることがばれた。
 そろそろかもしれない。そう思っている。

 昨日日曜日も、皐月が遊びに来てくれていた。
 望と会って意気投合。
 どうやら性格が似ているらしい。

 直也さんは私のことを心配してくれているようだ。
 
 皐月がすべて内緒にしているのを恨めしげにしているそうだが、自分は隠し事が苦手なのを自覚しているとかで、知らなくてもいいと言い切ったらしい。

 それはそれでどうなの、と言う気がしないでもないけれど。
 ふたりは、来春結婚予定だ。
 良かった。自分のことのように嬉しい。

 石井コーポレーションを無事円満に退職出来た。
 そして、弘取締役は連絡してこなかった。
 携帯や住所も変えたからかわからないが、どうやら諦めたらしい。

 さくらさんが言うには社長と専務がキレたらしい。
 
 社長は、石井コーポレーションの次期社長は、これからどんな成果を上げようとも弘取締役になることはないと明言したらしい。
 隆専務もさくらさんと清水社長に離婚をちらつかされて、さくらさんを巻き込もうとして何かしようとしたり、古川さんにこれ以上ストーカーまがいのことをしたら、いずれ首にするとまで言ったらしい。

 望は司法試験に合格した。この間発表があった。
 姉ながらそれには驚いた。
 集中力がすごい。
 久しぶりに勉強してるところを見たけど、尊敬する。

 司法修習に入るまでに、出産できそうなので、まだ一緒にいてくれる。

 今日は、買い物をしながら散歩。
 まだ九月中旬なので暑いが、緑が多いので木陰を選んで歩いている。
 
 引っ越したのが五月。
 匠さんには弘取締役の対策上携帯を変えたと話した。
 海外なので、パソコンにメールを入れてもらっている。
 
 たまに、パソコンでテレビ電話もする。
 顔しか写さないから、お腹周りには気づいてない。

 でも、この間お母様から連絡があった。
 携帯変えたのに、どうして?

 嫌な予感がしていたら、今日を迎えた。

 木陰でベンチに座って、買い物袋を横に置いていた。
 今日、望はバイト。
 
 こちらでも結局、パラリーガルをはじめた。
 司法修習が始まるまでやるとかいってる。
 信じらんない。

 目の前に影。

 目を上げると、え?
 蜃気楼か何か?日差しで顔がよく見えない。

 「……遙。久しぶりだね。やっと会いに来たよ」

 懐かしい声。
 匠さんがいる?え?

 「遙?聞こえてる?」

 肩をつかんで私の顔の前に自分の顔を近づけてくる。

 「……た、匠さん。え?どうして……」

 買い物袋をどかして、すぐに横に座ると、私のお腹にそっと触った。

 「紹介してくれよ……早く俺の子供に。待ちくたびれて会いに来た」

 そう言うと、私の左手を持ち上げて、指輪をなぞる。
 そして、お腹に向かって話しかける。

 「……お前のママは驚きすぎて声がでなくなっちゃったのかな?」

 優しい眼差しに、目の前が曇りだした。
 気づくと涙で彼の顔がよく見えない。
 彼に抱きついた。

 「……う、う、うー」

 彼は、私を優しく抱きしめると、背中を撫でてくれた。

 「愛してる遙。大変だったな。もうそろそろいいだろ、雲隠れ生活」

 その言葉にびっくりして、身体を離して彼を見た。
 彼はハンカチを出して私の涙をぬぐっている。

 「え?ねえ、どういうこと?」
 「どういうことって?君が引っ越ししたときから分かっていたよ。妊娠はさすがにわからなかったが」

 笑顔で私の両手を握り、話し始めた。
 
 「まず……君につけていろと言った指輪。これにはGPSが入っている。アメリカで君に何かあってもすぐに分かるように入れておいたんだが、どうやら違う使い道がその後日本であったようでね。役に立ってくれたよ。君はね、どこにいようと俺のものなんだよ」
 
 「……嘘でしょ?」
 
 「君が引っ越しをすればすぐに分かるというわけだ。まあ、それはいいとしよう。弘君対策ということもあったからね」
 
 「……」

 「それと。清水物流の清水社長のことだけどね。さくらさんには話していないようだが、事件後から連絡をくれたんだ。父や俺と今でも連絡を取り合っている。君を『身・請・け』したときにも報告があったよ」

 嘘でしょ?そんな前から。

 「それより遙。どうして妊娠したことを隠していた?GPSでいつも同じ病院に行っていたので、確認させた。総合病院だったから心配でね。柿崎がパート先に確認して妊娠が分かった。その時の俺の気持ち分かる?清水社長やさくらさんにも言ってなかったのか」

 怖い顔をして睨んでいる。
 望の言ったとおりだった。

 「ごめんなさい。言うつもりだった。そろそろ連絡しようと思っていたの。本当よ。とりあえず、安定期過ぎて弟の試験結果が出てからと思ってたから」
 
 「本当かな?」
 
 「……いざ、連絡しようと思うと怖くて。ちょっとどうやって連絡しようとか考えていて。匠さん怒りそうだし。今も怒ってるでしょ?嘘じゃないのよ、この間も皐月に相談して……」
 
 「遙……皐月さんには妊娠のこと話したんだな」
 
 「……だ、だって。ごめんなさい。アメリカへ行く匠さんにそんなこと言ったら必ず連れて行くとか、はじまると思ったの。妊娠がわかったのもあなたがアメリカに発つ直前だったし。会社も辞められてなかったでしょ。だから……」
 
 「分かった、分かった。落ち着け。そんなふうに言わなくていい。怒っているわけじゃないんだ。しょうがなかったのも理解できる。さぞ驚いただろう……俺も聞いたときは耳を疑った。君を妊娠させるつもりはなかったからね。でも君には俺だけのはずだから、俺の子で間違いない。お腹の子を守ってくれてありがとう。君に全部押しつけてしまって、自分が許せない。父も君に謝っておいてくれと言っていた。別れるよう言われたらしいな」
 
 「……それは。しょうがないことよ。お父様を責めてはだめよ。会社経営者なんだから。従業員が一番大事だし、そう、奥様のためにも匠さんは失えない、退社させることだけは絶対させられないっておっしゃっていた」
 
 「……まさか、君が妊娠してるとは知らなかったからと青くなっていた。父のあんな顔初めて見たよ。母は怒り狂ってる。俺もひっぱたかれた」
 
 え?本当に?

 「いや、母の怒り方はすごかった。柿崎や柿崎の妻もおびえるほどだった。許せない、離婚するとか騒ぎ出して、わけわからない。父は真っ青だし。母には本当に弱いんだ。柿崎が、離婚したら古川さんの義母さんになれませんよとかいったら静かになった。びっくりしたよ。あんなに怒る母は初めて見た。俺は両親の初めての顔を遙のお陰でたくさん見せてもらった」

 「匠様。そろそろ、古川さんをご自宅へお送りしましょう。冷えるといけませんから」

 そう言うと、木陰から柿崎さんが現れた。運転手をされているお父様の柿崎さんだ。

 「……邪魔だ、柿崎。呼ぶまで来るなと言ったろ」

 「古川さん。色々申し訳ございませんでした。私達親子がもっとしっかりしていればこんなことにはならなかったでしょう。お一人でおつらかったでしょう。今までの分、これからしっかり償いますから。早くお屋敷へ移って下さい」

 深々と頭を下げられた。

 「やめてください、柿崎さん。誰も悪くないですから。私が黙っていたのがいけないんです」

 「息子が言っていました。遙さんが妊娠してるとアメリカにご連絡したとき、匠様が怒ってパソコンの電源が一旦切れたとか。怒り狂って暴れたらしいですよ」

 「余計なことを言うな、黙れ」

 「ですから、堂本家は古川さんの妊娠発覚で大変な騒ぎでした。上から下まで。早くお顔を見せて差し上げて下さい。奥様もそのうち来てしまいますよ」

 「いや、冗談じゃなく、今日も一緒に来るって大騒ぎだったんだ。さすがに今日はやめろと父に言われて諦めたが……」

 私は椅子から立ち上がった。
 すると、匠さんはびっくりしてじっとお腹を見てる。
 
 「遙。本当に子供がいるんだな……」

 「何?変?恥ずかしいから、じっと見ないで」

 「何言ってるんだ。俺の子だろ。俺が見なくて誰が見るんだよ。柿崎見るな!」

 柿崎さんは苦笑して、匠さんを見てる。
 もう、仕事のときの匠さんとは別人になってる。
 本当にこういうところ、可愛いのよね。

 「はいはい落ち着いて下さい。赤ちゃん、パパが会いに来てくれたよ。良かったね。会わせるのが遅くなってごめんね」

 私は、お腹に手をやりながら話しかけた。
 すると、匠さんは私を引き寄せ抱きしめた。

 「やだ、匠さん、恥ずかしいからはなして」
 
 「うるさいな、半年も我慢してたんだ。静かにしてろ」

 木漏れ日がふりそそぐ。
 
 私達はようやく親子三人で再会出来た。良かった。安心した。

 すると、ピクリ。赤ちゃんが動いた。

 「匠さん、赤ちゃんが動いた!」
 
 「どこだ?」
 
 私が押さえているところを彼がおずおずと触る。

 すると、またピクリ。
 
 「あ」
 
 「動いた!」

 「俺の子供はさすがだな。すぐに返事するとは。将来が楽しみだ」
 
 「やめてよ、こんな早くから。女の子かもしれないでしょ」

 「そうだ、性別聞いてないのか?」
 
 「うん。楽しみにしようと思って……」

 「……今度診察いつ?」
 
 「え?来週……」

 「絶対一緒に行く。どっちか確認するぞ」
 
 「……」

 「匠様、行きますよ」
 
 「……」
 
 「……」
 
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