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第一章 すべてのはじまり

近づく距離ー1

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 翌日。

 出社したら私の机の横に段ボール箱がある。溶解用の箱だ。専務の付箋がその箱についている。

『北村さんへ この箱も溶解して下さい。中身は僕が入れたのでそのまま運んでおいてもらえればいいです。今日の便に間に合えば乗せて下さい 畑中』

 専務、今日が運び込みの日だって把握しているんだ。この中身何?絶対怪しい。

 私は中身を自分で別な段ボールに入れ替えようと蓋を開けて中身を見た。すると、これも営業二部の案件だ。担当者印を見ると、峰山さんだ。やはり間違いない。何かあるんだ。内容は?大阪の美術館に関する内容?よくわからない。

 これをどこに置いたら見つからないで済むのかな。ガラス越しに鈴木さんを捜す。今日は机に向かってる。

 それにしてもこのことをどうやって話したらいいの?とりあえず、社内メールをしてみる。ええと、『聞きたいことがあるので、私の所へ連絡して下さい』と書いておく。

 すると、すぐに気付いたらしく、パソコンのメールの所を開いて私の方を振り返った。うなずいてる。
 
 周りに人がいなくなったのを見計らって、ガラスで覆われた役員室へ彼が入ってきた。

「おい、こっち側ブラインド下げろ」

 そう言われて、フロア側をブラインドを下げた。かえって目立たないかしら?

「あー、背中が痛い。くそっ。で?どうした?」

 猫背だったのに、ブラインドを下げた途端身体を伸ばしている。

「……これを見て。今朝、専務は本社へ急に行ったんだけど、これを今日の溶解で捨てるように頼まれたの。中身見るなと書かれてたんだけど、開けてこっちの箱に詰め直した。あなた、必要になりそうでしょ?」

 彼はこちらに歩いてくると中身を持ち上げて確認した。そして、じっとしばらく書類を確認してから私を見た。

「里沙。お前、どこまで知ってる?これを俺に連絡してきたということは、この担当者が怪しいということまでわかってるんだろ?」

 そうね、まあ、そうなるわよね。

「斉藤さんからそれとなく聞き出してあるの。そのほうが協力出来るかもしれないと思ったから……お互い探り合う無駄なことはやめようと思って。あ、でも私は何も彼女に話してない。話せることがまだなかったのもあるけれど、守秘義務があるから。協力できることはするけどね」

 すごい怖い目で睨んでる。

「おい、首突っ込むなと言っただろ。俺に教えてくれるのはありがたいが、お前これを捨ててなかったことがばれたら本当にまずいぞ。畑中専務はいつ戻ってくる?」

「午後そうね、おそらく二時過ぎると思う」

「この間と同じように中身を変えるんだ。そして、コピーを上の方は取って、それを載せておけ。そうじゃないと開けて確認されたらまずい。同じガムテープで留めろよ」

 そうか、そこまで考えてなかった。

「そこまでしないとまずいの?」

「当たり前だ。君のことも疑いはじめている可能性もあるし、俺が入ったことで何か感付いて用心をはじめたんだ。自分で箱を詰めたということはそういうことだろ。残念ながら畑中専務はクロだな」

 確かに、そうかもしれない……。信じられない、あんなに私には優しい人だったのに……。

「それなら、私は何をすればいい?」

「とりあえず、この二人に関する書類を抜いて、同じ宛先だけ集めよう」

「わかった」

 二人で黙々と書類の中身を分けて確認していく。頭の中で金額を累計していくとすごい数字になった。これって架空請求?書類見た限りではそうとしか思えない。領収書がない。そのことを彼に指摘する。

「里沙。お前賢いな。見ただけでそこまで把握したのか、しかも金額も暗算して……。褒めてやりたいところだが、これ以上は探るなよ。俺に教えてくれるだけでいい。とにかく危ないから何もするな。お前の携帯を貸せ。安全のためGPSを俺に入れさせろ。心配だ」

 彼に携帯のロックを外して渡すと何やら私の方にアプリを入れている。位置情報アプリの共有?

「安心しろ。君が何か連絡取れなくなってまずい状況じゃない限り追跡しない」

「へえー?じゃあ、プライベートで怖い目に遭ったら助けてくれる?」

「……まあ、そうだな、お前が好きでもない男から襲われそうになったら連絡してこい。助けてやるよ」

「いいボディガードを手に入れたわ。よろしくね」

 上目遣いで彼を横目で見たら、驚いた顔をして見てる。私が吹き出して笑ったら、彼も笑い出した。
 
「それで?あなた自身の調査は進んでるの?」
 
「昨日から少しづつ調べているが、思ったより金額も大きいし、どこまでの人間が絡んでいるのかわからなくなった。本社に畑中が行ったということは実行させているのは本社の連中の可能性が高い」

「……ねえ。わかっていることを話し合った方がいいと思うの。関根課長とは知り合いなの?」

「課長は俺のことを見たことがあったようだな」

「……で?あなたは本当は誰なの?」

「焦るな、近いうちいずれ話すときが来るだろう」

「ねえ。部長もあなたと一緒にこのことを随分前から探ってるの?」

「部長にはずっとここの様子を探ってもらっているんだ。ここは財団なので、普通の会社とは違って非営利団体だ。だからこそ本社の目を盗んで何かする奴が出るかもしれないと心配していたんだ。こんなことになるんじゃないかと思って彼をここへ配属したんだよ」

「それが当たった訳ね。嬉しいような、悲しいような……」

 つまり、鈴木さんは人事に介入できるくらいの権限のある人ってこと?まだ若いのに、どういうことなの?本社でこんなことを任されるってどういうことだろう。

 
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