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第三章 愛と迷い
彼の本心ー1
しおりを挟むタクシーで私のアパート近くのコンビニまで行った。降りて軽く買い物をしてから帰ってきた。
彼氏をこのアパートへ入れたことは一度しかなかった。悟は同期で同じ部だったし、他にも同じ会社の人が住んでいるのを知っていたからだ。
そんな私が彼をすぐにここへ連れてきた。そこには私の気持ちが見え隠れする。私にとって、付き合ってもいない男性を自分の部屋に呼ぶなんて、今までならあり得ない。
だって、彼との関係は今のところあのワンナイトで終わっている。今は付きあえないと言われ、放置された上、今日に至る。
そして彼は、自分の縁談がまだ解決してないのに今夜もそういうことを匂わせた。まるでセフレだ。
だから、先ほど牽制したのだ。私はセフレだけにはならないと決めているのだ。
「なんだかすごく落ち着く部屋だな。里沙らしいというか。女々しくなくて、すっきりしている」
「……あなたねえ。もう少し言い方あるでしょ?それってディスってるように聞こえますけど。女子力低くてすみませんね」
台所で背を向けながら、部屋でテーブルの前に大きな身体を折り曲げて座る彼を振り返って見た。
「里紗。お前のそういうところが俺は好きなんだ」
は?何それ、意味わかんない。
「……悪いけど言ってることが全くわかんない」
「いいよ、わかんなくて。俺はわかってるから」
彼が買って来たおつまみとビールを並べ出した。私は作り置きしていた厚揚げと野菜の煮物やお手製のピクルスなどを出した。
「里沙、これのどこが女子力低いんだよ?すごいじゃないか」
「……あなたの今までの彼女ってこういうもの作ってくれなかったの?普通の家庭料理よ」
「そうだな。いなかった」
「そうなの?まあ、でもあなたの口に合う味かどうかは保証できないわよ」
彼は箸を取って食べ出した。
「……厚揚げの煮物、うまい。甘すぎなくていい。この野菜のピクルスもうまい。ビールに最高だ」
「そう?あなたの口に合ったなら良かったわ」
私は自分のお茶漬けを作りながら、一応彼の分も作った。
「はい、良かったらどうぞ」
私のお茶漬けはいつも残り物。今日は昨日の焼き魚の残りと香味野菜を刻んだもの、梅干し、鰹節、など。彼にも同じものにしてしまったけど……。
「おー、お茶漬け。うまそうだな。店やれるんじゃないか、里沙。やばい、俺お前の料理に堕ちそうだ」
「お褒め頂き光栄です。ただのお茶漬けなのに……あー美味しい……」
お椀を両手で持ち上げて、お茶を飲んだ。
「ふっ。里沙お前。俺に対して緊張感がまるでない。これだと俺は家族か友達だな」
「ごめんね、残り物で……恋人にはもっとしゃれたものを作らないとね。でもあなたは恋人じゃないでしょ?」
彼は箸を置いて、じっと私を見た。
「じゃあ、なんだ?」
「さあね。それはあなたに聞きたいわ」
「縁談のことは文也に聞いたんだろ?」
「聞いたわ。社長のお嬢さんだそうね」
「ああ。だが、文也から聞いたと思うけど、ふたりとも全くその気がない。だから、放っておいてもそのうち消える話だとお互い思っていた。社長には昨日お会いしてきっちりお断りしたが、はぐらかされた。だから、社長の息子夫婦に頼んである。必ず破談になるはずだ」
「……破談にしていいの?」
「里沙、何が言いたい?どういう意味だ?」
「あなたは、次期社長の右腕だって聞いている。今の社長にも可愛がられているって聞いているし、今までだってきちんと断らなかったのは少しその気があったからでしょ?」
「その気は全くない。俺がいずれこの会社を出たいと思っていることを知っていて、そのことを知る社長が俺を縛り付けるために考え出した方策がこの縁談だ」
「……この会社を出たい?次期社長の右腕なのに?好待遇なんじゃないの?」
「好待遇とは給料のことか?確かに給料はいいだろうし、やりがいもあると言えばある。だが……」
「なに?」
「今の専務とは友人から始まっていて、俺としては彼に仕える気はなかった。だが、周りを固められて入社して今に至る。対等な友人関係だったはずが常に敬語で話さねばならない部下になった」
「あなたの中で、専務は友人であって、部下になることは我慢できないことなのね」
「ここだけの話にしてくれ。でも陽樹はわかっている、おそらくな……」
「それで?あなたは最終的にどうしたいの?」
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