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第一章 入社と出会い
出会い
しおりを挟む永峰俊樹さん。彼の秘書に抜擢されたことが出会いとなった。
「ああ、君か。よろしくね」
兄とは違うイケメン。若いのに何故役員?そうか、社長の親戚だから?仕事も知らないのにずうずうしい。
顔に出ていたかも知れない。
「ふーん。勝ち気なタイプだね。お手並み拝見といこうか」
私の顔色を見て、ニヤリと笑う。こっちの台詞だ、ふん。
最初はそんな関係で始まった。
「だから、本部長。これはそうじゃなくて、こっちの営業部所属の商品です」
「あっそ。じゃあ、この案件は君がやれ」
「は?」
「君はわかってるんだから、僕が読む必要はない。君から聞いた方が早い。その間に僕はこっちの案件をかたづける。わかったらさっさとやる」
彼の横顔を見ながらあっけにとられる。
この人一体何なの?っていうか秘書ってこんなことする?はじめてだからよくわかんないけど、私これでいいのかな?
「ふーん。そりゃ、ちょっと変かもな」
今日も巧は唐揚げ定食。巧とは新村君のこと。同期なので最近名前で呼ぶようになった。
「そうだよね。私も絶対おかしいと思うんだ」
彼は箸を振り回している。
「というかさ、菜摘が仕事できるから利用してるんだろ。信用されているとも言えるけどさ」
「そうかなあ」
「まあさ、とにかくやるしかないじゃん。役員様なんだから。とりあえず、プロジェクトはただの業務部員として参加するんだからそっちは俺とコンビで今年は獲るぞ」
獲るとは提案賞。
「もちろんだよ。去年は悔しかったもんね。頑張ろう」
ふたりでハイタッチする。
「ふーん。君達コンビなの?」
振り返ると噂の永峰本部長。
「コンビというか、提案をするときにタッグ組んでやる相方です」
巧が立ち上がって挨拶しながら本部長に言う。
「森川さんは勝ち気だからねえ。君も大変だ。愚痴なら聞くよ。同じこと考えてたりして……もっと優しくしろよとか」
巧は笑って答えた。
「いや、そんなことありませんよ。俺の気の付かないところをフォローしてくれる頼もしい相方です」
なんて、いい奴なんだ巧。デザートをおごろうっと。
それに引き換え本部長。後でコーヒーに砂糖入れてやる。
「……確かにね。気は回るね。俺のことを考えてやってくれるともっと嬉しいよ、森川さん」
チロリと私を見ていなくなった。何なのよ、もう。
「相変わらず、やな感じ……」
「いや、あれはもしかすると牽制?」
巧が後ろ姿を見ながら呟いた。
午後に入り、本部長が会議の間、業務部員としての仕事をこなす。
「巧、どう?」
パソコンを見ながら表を作っている。
「そうだな。こんな感じでいいだろ?」
「そうね。いい感じ。さすが巧」
「あー疲れた」
「何か、甘いものでも買ってくるね」
「サンキュ。俺、チョコアイス」
「はいはい」
私は財布を持って売店へ行く。売店でアイスを物色していたら、うしろで声がする。
「森川さんでしょ。信じらんないよねー。永峰本部長や新村さんまで自分のテリトリーに入れていい気になってる。マジ可愛くないし、サイテー」
「新村さんは告白されても断りまくってるらしい。森川さんが好きらしいって言う噂本当なの?」
「あの人、仕事しか興味ないでしょ。ま、色気ないしねー」
私は顔が凍るくらいアイスの入っている冷凍庫の冷気を浴びながら、悪口を聞こえないふりをして耐えた。
そうか。そういうことか。最近廊下で女子社員から睨まれることが多くなった。何だろうって思ってたけど、そういうことだったのか。アイスを二つ持ちながら戻る。
巧にアイスを渡すと、嬉しそうに受け取った。
「おい、菜摘、菜摘聞いてんのか?」
「……え?」
「大丈夫か?疲れてんじゃないか。もういいよ。今日は終わりにしよう」
「う、うん」
「後は俺がやっておくからお前秘書のほうやってこいよ」
「そうだね。ありがとう」
数日後。皆の視線が気になるようになってきた。
私は脳天気にあまり会社の人間関係を考えず今まで来た。つけがまわってきたのかもしれないと最近反省している。
「森川さん。どうした?」
本部長が私を心配そうに見ている。
「え?」
「最近、元気がないな。君のトレードマークの勢いもない。何かあったのか?」
本部長も私のこと良く見てるんだな。
「いえ。大丈夫です」
「大丈夫そうに見えないから聞いている」
「……私、結構自分のことしか見えてなかったので」
「それで?人の陰口が気になってきたとか?」
びっくりして本部長を見た。万年筆を手の上で回しながらこちらを見る。
「やっぱりな。いや、俺のことで何か言われたとか?」
もしや、自意識過剰くん?
「はい。素敵な本部長を独り占めしていると言われています」
本部長はうなずいた。
「そうか。君は俺のことどう思ってんの?少なくとも素敵とは思ってないんだろ?」
「そうですねー。有能な若い役員の方。社長の親戚だから仲良くしようってとこですかね」
彼はひっくり返って笑う。
「森川さん。君は本当に得がたい存在だ。仕事は出来る。顔もそこそこ可愛い。でも僕に色目やおべっかを使わない。素晴らしいよ、本当に」
「嫌みですか?」
「そんなわけないだろ。君には助けられてる。それに秘書としても実は有能だと思う。本当は業務の仕事を取り上げたいところだが、プロジェクトも近いしね」
そんなことしてみなさい。秘書なんてすぐにやめてやる。
「プロジェクト頑張りなさい。二年目だが、君には五年目くらいの見識がある。追い込み時には秘書を休んでもいいよ。ただし、戻ってきたときは覚悟しろよ」
私は笑顔で立ち上がった。
「ありがとうございます。そうさせていただきます」
本部長は私を見て、困ったような顔をした。
「はー。君、本当に自分のことしか見えてないんだな」
「え?では失礼します」
「これじゃ、新村君も大変だ。いや俺も……大変かもしれん」
私はもう、部屋から出てしまっていたので彼のつぶやきは聞こえなかった。
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