28 / 44
第二章 恋愛と仕事
side 俊樹
しおりを挟む「さあ、達也君……本音で話すとしようか。会社の利益になる話だ。業務部のほうの根回しは君に頼みたい。もちろん今まで営業にいたんだからそちらの助けも頼もうかな」
「わかりました。さすが俊樹さん。でも頼みますよ、社内ではかなりの評価を得ている森川さんを独り占めしている。仕事の時くらい貸して下さい」
「申し訳ないが、彼女を誰かに貸すことはない」
「いずれ、俊樹さんは氷室へ帰るとわかっているし、彼女をそちらに連れて行くことはなかなか難しいんじゃないんですか」
「だから、彼女を俺の元から奪って、今後ずっと使いたいと?」
「もちろん、彼女の能力を買っているからです。彼女にも言いましたが、プライベートでの彼女に興味はない。安心して下さい」
目の前の食事をしながら、笑みをうかべつつ達也を見る。昔から口がうまい男だ。そう言ってくることはわかっていた。
「森川さんに関しては、僕がどこに行こうと付いてきてもらうつもりだ。それに関しては絶対譲れない。誰に何を言われても阻止する。例えば君のアノ大事な人が僕の秘書になるといったら、君は了承するのかい?」
達也が箸を止めて、こちらを凝視する。おお、目の色が変わった。見たことか、お前の弱みもわかっている。
「違う仕事をしています。彼女のことを……調べましたか?」
「君の大事な人の存在は知っていたよ。申し訳ないが、会長と話すときは君のことが必ず話題にあがる。もちろん結婚のこともね。会長がやきもきしているのも知っているから」
「そうですか……どうやら私は俊樹さんを優しいお兄さんだと勘違いしていたようだ。敵に回すとこんなにまずい人だったとは思わなかったな」
「それはこちらの台詞だ。君は僕の彼女への思いを、自分と一緒だと思わないことだよ。理解してもらおうとも思わないが、僕は彼女を仕事上もプライベートでも一分たりとも人に預ける気はないんだ」
達也は、黙って考えている。
「彼女以外の適任の秘書がいれば考えましょう。数ヶ月借りるだけでもダメですか?」
「君なら彼女以外の人も探せるだろうし、育てていくこともできるだろう。自分の色に染めることもできるはずだ」
菜摘は通常の秘書とは違う仕事をさせている。僕にとって有益かつ彼女の能力を発揮させる形でのサポートをさせているのだ。
秘書的なこともさせているが、本来秘書にはさせないような仕事も業務関係ではいまだにやらせている。
だから、秘書として渡しても、彼女がいわゆる秘書業務の中でやったことのないこともあるだろう。
達也が言っても無駄だと諦めた。両手を上げて頭を振りながら出て行った。すると、入れ違いに菜摘が入ってきた。
達也が出て行くのを見送ると、ため息をついて心配そうにこちらを見た。
俺は彼女のもとへ駆けていき、ついこらえられずにぎゅっと抱きしめた。菜摘が腕を押して一歩下がるとこちらを見た。
「もう……無茶はダメです」
「大丈夫だ。俺を信じてついてこい。誰にもお前は渡さない」
「俊樹さん……」
彼女の腕を引いてもう一度抱きしめる。今日の兄貴との面会は仕事でもあり、プライベートでもある。俺は決心した。
菜摘のことは、もう少ししてから紹介しようと思っていたが、この会社で横やりを入れられることが今後もあり得るとわかった。
社長と今朝面会したときに、大口の取引を氷室商事とうちで締結させることを条件に菜摘の秘書業務を外さない取引をした。
社長は会長の意向には逆らえない。だが、この額の取り引きなら頷かざるを得ない。
社長に聞いて分かったが、おととい会長は菜摘と直接話をして、かなり彼女を気に入ってしまったらしい。
打てば響くような物言い。物怖じしないことや、相手を見て言葉を選ぶ。そういったことが普通に出来る。秘書として欲しい素質だ。
仕事が出来ることは、前の部長が彼女を秘書室へ取られたくないとごねたことや、社内の噂もあって確信していただろうから、時期社長として目をかける達也の秘書に据えたいと考えるのは間違ってはいない。
このままだと、いずれ何らかの理由をつけて菜摘を達也に奪われかねない。今回は良くとも……いずれ社長になる達也が力をつけてくれば、俺では太刀打ちできない。
彼女を俺のテリトリーから出さない方策を本気で考えるときが来たようだ。今度はその道筋をつけるため、兄に会わせるのだ。菜摘と僕を繋ぐ鎖の準備は万端だ。
1
あなたにおすすめの小説
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
【19時、駅前。片桐】
その日、机の上に貼られていた付箋に戸惑った。
片桐っていうのは隣の課の俺様課長、片桐課長のことでいいんだと思う。
でも私と片桐課長には、同じ営業部にいるってこと以外、なにも接点がない。
なのに、この呼び出しは一体、なんですか……?
笹岡花重
24歳、食品卸会社営業部勤務。
真面目で頑張り屋さん。
嫌と言えない性格。
あとは平凡な女子。
×
片桐樹馬
29歳、食品卸会社勤務。
3課課長兼部長代理
高身長・高学歴・高収入と昔の三高を満たす男。
もちろん、仕事できる。
ただし、俺様。
俺様片桐課長に振り回され、私はどうなっちゃうの……!?
涙のあとに咲く約束
小田恒子
恋愛
事務系の仕事に転職したばかりの松下理緒は、総務部の藤堂がシングルファーザーではないかという噂を耳にする。
噂を聞いた後、偶然藤堂と小さな男の子の姿を見かけ、男の子が落とした絵本をきっかけに親しくなる。
家族持ちの藤堂にどうしようもなく惹かれていく。
そんなある日、真一は事故で亡くなった兄夫婦の子で、藤堂が自分の子どもとして育てていると知ったた理緒は……
ベリーズカフェ公開日 2025/08/11
アルファポリス公開日 2025/11/28
表紙はぱくたそ様のフリー素材
ロゴは簡単表紙メーカー様を使用
*作品の無断転載はご遠慮申し上げます。
Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ
慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。
その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは
仕事上でしか接点のない上司だった。
思っていることを口にするのが苦手
地味で大人しい司書
木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)
×
真面目で優しい千紗子の上司
知的で容姿端麗な課長
雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29)
胸を締め付ける切ない想いを
抱えているのはいったいどちらなのか———
「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」
「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」
「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」
真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。
**********
►Attention
※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです)
※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる