彼は溺愛という鎖に繋いだ彼女を公私共に囲い込む

花里 美佐

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第二章 恋愛と仕事

side 俊樹

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「さあ、達也君……本音で話すとしようか。会社の利益になる話だ。業務部のほうの根回しは君に頼みたい。もちろん今まで営業にいたんだからそちらの助けも頼もうかな」

「わかりました。さすが俊樹さん。でも頼みますよ、社内ではかなりの評価を得ている森川さんを独り占めしている。仕事の時くらい貸して下さい」

「申し訳ないが、彼女を誰かに貸すことはない」

「いずれ、俊樹さんは氷室へ帰るとわかっているし、彼女をそちらに連れて行くことはなかなか難しいんじゃないんですか」

「だから、彼女を俺の元から奪って、今後ずっと使いたいと?」

「もちろん、彼女の能力を買っているからです。彼女にも言いましたが、プライベートでの彼女に興味はない。安心して下さい」

 目の前の食事をしながら、笑みをうかべつつ達也を見る。昔から口がうまい男だ。そう言ってくることはわかっていた。

「森川さんに関しては、僕がどこに行こうと付いてきてもらうつもりだ。それに関しては絶対譲れない。誰に何を言われても阻止する。例えば君のアノ大事な人が僕の秘書になるといったら、君は了承するのかい?」
 
 達也が箸を止めて、こちらを凝視する。おお、目の色が変わった。見たことか、お前の弱みもわかっている。

「違う仕事をしています。彼女のことを……調べましたか?」
 
「君の大事な人の存在は知っていたよ。申し訳ないが、会長と話すときは君のことが必ず話題にあがる。もちろん結婚のこともね。会長がやきもきしているのも知っているから」

「そうですか……どうやら私は俊樹さんを優しいお兄さんだと勘違いしていたようだ。敵に回すとこんなにまずい人だったとは思わなかったな」

「それはこちらの台詞だ。君は僕の彼女への思いを、自分と一緒だと思わないことだよ。理解してもらおうとも思わないが、僕は彼女を仕事上もプライベートでも一分たりとも人に預ける気はないんだ」

 達也は、黙って考えている。

「彼女以外の適任の秘書がいれば考えましょう。数ヶ月借りるだけでもダメですか?」

「君なら彼女以外の人も探せるだろうし、育てていくこともできるだろう。自分の色に染めることもできるはずだ」

 菜摘は通常の秘書とは違う仕事をさせている。僕にとって有益かつ彼女の能力を発揮させる形でのサポートをさせているのだ。

 秘書的なこともさせているが、本来秘書にはさせないような仕事も業務関係ではいまだにやらせている。

 だから、秘書として渡しても、彼女がいわゆる秘書業務の中でやったことのないこともあるだろう。

 達也が言っても無駄だと諦めた。両手を上げて頭を振りながら出て行った。すると、入れ違いに菜摘が入ってきた。

 達也が出て行くのを見送ると、ため息をついて心配そうにこちらを見た。

 俺は彼女のもとへ駆けていき、ついこらえられずにぎゅっと抱きしめた。菜摘が腕を押して一歩下がるとこちらを見た。

「もう……無茶はダメです」

「大丈夫だ。俺を信じてついてこい。誰にもお前は渡さない」

「俊樹さん……」

 彼女の腕を引いてもう一度抱きしめる。今日の兄貴との面会は仕事でもあり、プライベートでもある。俺は決心した。

 菜摘のことは、もう少ししてから紹介しようと思っていたが、この会社で横やりを入れられることが今後もあり得るとわかった。
 
 社長と今朝面会したときに、大口の取引を氷室商事とうちで締結させることを条件に菜摘の秘書業務を外さない取引をした。

 社長は会長の意向には逆らえない。だが、この額の取り引きなら頷かざるを得ない。

 社長に聞いて分かったが、おととい会長は菜摘と直接話をして、かなり彼女を気に入ってしまったらしい。

 打てば響くような物言い。物怖じしないことや、相手を見て言葉を選ぶ。そういったことが普通に出来る。秘書として欲しい素質だ。

 仕事が出来ることは、前の部長が彼女を秘書室へ取られたくないとごねたことや、社内の噂もあって確信していただろうから、時期社長として目をかける達也の秘書に据えたいと考えるのは間違ってはいない。

 このままだと、いずれ何らかの理由をつけて菜摘を達也に奪われかねない。今回は良くとも……いずれ社長になる達也が力をつけてくれば、俺では太刀打ちできない。

 彼女を俺のテリトリーから出さない方策を本気で考えるときが来たようだ。今度はその道筋をつけるため、兄に会わせるのだ。菜摘と僕を繋ぐ鎖の準備は万端だ。
 
 
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