34 / 44
第三章 氷室商事へ
研修開始
しおりを挟む私の目の前には陽樹さんが座っていた。
「独身寮はどうだった?」
そう、私は今日女子寮から氷室商事へ初出社した。俊樹さんは昨日からアジア三カ国に出張。二週間。
「ええ、とてもいいです。帰りたくなくなりそうなぐらい快適です。作られた方が女の子の気持ちを考えて作ってるとしか言いようがありません」
皆がくつろげるラウンジも共用部にあり、スイーツやカフェの飲み物などが手軽にとれるようになっている。そこに集まって夜ゆっくり話をしている住人を結構見かけた。調度品も女性向けでとても素敵なのだ。
「そうなのか?まあ、女子寮が非常に評判がいいのはそういうことだったのか。俺は男だからわかんないけどね……」
「それで、私はどこの配属になりますか?」
「そうだね、俊樹の管轄内だとすぐにばれる。ちなみに、あいつの子飼いが住んでいる部署は、営業三部。うちはね、営業四部まであるんだ。営業三部と四部は同じフロア。だから、君は四部も行かないほうがいいだろう」
「……」
「それから、営業部以外の事務方の部も必ず接点が出来てしまうからそれもやめた方がいい」
「……はあ」
「となると、消去法で営業一部と営業二部、あるいは役員付」
「……役員付って無理です」
「もちろんだ。秘書はやらせないよ」
「では、営業……」
「僕の管轄である役員企画室へ行ってもらおう」
「どこですか、それは?」
「男性しかいない部署。うちはね、秘書に仕事を依頼するいわゆる政策秘書を役員毎に置いているんだ」
なにそれ?政策秘書?議員さんか、なんかですかね?
「まあ、訳わからないかもしれないけど、そこは要するにその役員と営業部の間に立って、秘書にさせることを決める重要なパイプ役。影のエリートと言われる連中のいる場所だ。秘書より秘密が多い」
「そんなすごいところ、しかも、今女性がいないって言いませんでした?」
「だからいいんじゃないか。女子は噂好きだ。あることないことすぐに話す。俊樹にすぐにばれて大目玉だぞ」
「……なるほど」
「俊樹の戻る営業三部の仕事をとりあえずやっている担当者に君を預ける。今営業三部の役員は橋本常務。その下にいる部長以下役職付は俊樹の子飼い。あいつらは君が来るかもしれないと俊樹に言われているらしい。まあ、海外出張の間に君がこちらへ来ることくらい予想済みだろう」
「……そうですよね」
「あっちは会長秘書があいつを取り仕切っているからよそ見している余裕はない。君も安心してうちのことを勉強して下さい」
「はい、よろしくお願いします」
立ち上がり挨拶をすると、ノックの音がしてイケメンが迎えに来た。
「専務」
「ああ、梶原。彼女が森川菜摘さん。俊樹の秘書だ。そして婚約者。森川さん、彼は梶原営業企画副室長。今ちょうど室長が社外に出ている時期で、彼が実質室長をしている。彼に任せるからついて行きなさい」
「森川さん。お待ちしていました。梶原です。どうぞよろしく」
「はい、こちらこそなにもわからないのでよろしくお願いします」
「じゃあな、梶原。頼んだぞ」
「はい、専務」
陽樹専務は明るい笑顔を振りまいて出て行った。本当に名前の通り太陽のような笑顔を振りまく人なのだ。少し斜に構えた俊樹さんとは兄弟だけど違う。
「企画室の説明は受けましたか?」
「はい、政策秘書とか……」
梶原さんは苦笑いしている。
「まあ、結構難しい案件も営業の担当者から聞いて秘書を通じて役員にあげることもあります」
「あの。役員秘書と何が違うんですか?」
「そうですね、実務のことしかやりません。スケジューリングや予約、電話、お客様対応などは秘書の役割です。それ以前のことですかね。秘書が自分でたくさんの営業部の人から案件を頼まれて順番付けするのって難しいでしょ」
それはよくわかる。どの人も急ぎだと言うし、金額によって順番を付けるときもあれば、営業部の部長の力の差とか悲しい理由も実は背景にある。
「わかります。よーくわかります。結構、機嫌の悪い役員に怒られたり、取引の内容も知らないのに責められたり……」
「そうでしょうね。そういったことをやってあげるんです。秘書は楽になります。それ以外の仕事も多いですからね」
「いいですね。ミツハシフードサービスにはそういう部署ありません」
「この部署については、男性秘書室だと思っている人が大半です。あまり重要事項を扱っていると知られるのはマイナスなんです。だから配属されたものと担当役員ぐらいしか本質は知りません」
「なるほど。ご苦労が多いんですね」
「でもやりがいはありますよ。秘書は女性にさせているので企画室は男性ばかりです。あなたは逆ハーレム状態ですよ」
真面目な顔して面白いこという人だな。
「そんな重要なところに……私が入って大丈夫なんですか?」
「入るといっても二週間だけ。少ししかできないでしょうし、ここにいることを営業三部に知られないようやるにはそれが一番です。女性はいませんって言えばいい」
「なるほど……」
「森川さんは、秘書業務だけでなく、実務を俊樹さんに任されていたと聞いていますが違いますか?」
「そうです。どうしてご存じなんですか?」
「少し探りを入れてありました。あなたをうちに二週間預けると急に言われたので、こちらも失礼ながらあなたを調べさせていただきました」
「そうでしたか。俊樹さんは案件の中身について私に下調べさせたり、業務部で培ってきた知識を使って仕事を任されることもありました。正直秘書ではないと思います」
「それは誇っていいことですよ。お仕事ができるということですからね」
「やめてください、私はただの食品オタクなんです。家も喫茶店ですし、ミツハシだからこそ役にたつんです」
「俊樹さんの管轄である営業三部は農産品などを輸入し、ミツハシフードサービスのような食品会社に卸しています。だから、俊樹さんがあちらへ入ったんです。実情調査とパイプ作り。いずれあちらの達也取締役が上に立つ頃には大きくうちとの関わりが変わると思います」
なるほど……。そういうことだったのね。まあ、最近になって大体わかってきてはいたけれど……。
「では、ようこそ氷室商事、営業企画室へ」
扉を開けて入ると男性だらけ。ひえー、彼が知ったらキレるなこれは……。
私を見つめる人達が皆いい男なんだよね。はー、ある意味すごい体験ができそうだ。逆ハーレム万歳!
2
あなたにおすすめの小説
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!
楓乃めーぷる
恋愛
見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。
秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。
呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――
地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。
ちょっとだけ三角関係もあるかも?
・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。
・毎日11時に投稿予定です。
・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。
・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。
涙のあとに咲く約束
小田恒子
恋愛
事務系の仕事に転職したばかりの松下理緒は、総務部の藤堂がシングルファーザーではないかという噂を耳にする。
噂を聞いた後、偶然藤堂と小さな男の子の姿を見かけ、男の子が落とした絵本をきっかけに親しくなる。
家族持ちの藤堂にどうしようもなく惹かれていく。
そんなある日、真一は事故で亡くなった兄夫婦の子で、藤堂が自分の子どもとして育てていると知ったた理緒は……
ベリーズカフェ公開日 2025/08/11
アルファポリス公開日 2025/11/28
表紙はぱくたそ様のフリー素材
ロゴは簡単表紙メーカー様を使用
*作品の無断転載はご遠慮申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる