彼は溺愛という鎖に繋いだ彼女を公私共に囲い込む

花里 美佐

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第三章 氷室商事へ

彼のご帰還ー1

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「相模君、僕の婚約者が大変お世話になったようだな」

 空港から直行してきた彼は、企画室のドアを開けるなり、つかつかと私の前に来た。

 そして横にいる相模さんへこの一言を最初に放った。私は頭にきて、立ち上がると彼に言った。

「俊樹さん、相模さんを責めるのはやめてください。責任はすべて私にあります」

 ちろりと私を見た彼。

「当たり前だ、俺の言いつけを守らない菜摘が全部悪い。何を勘違いしている?俺は相模に礼を述べているんだよ。商社について何も知らないどしろうとのお前に、短い時間でいろいろ教えてくれたんだ。しかもこんな背景が面倒な相手、俺だったら絶対嫌だからね」

「……!」

 ひどい言い草。確かにそうだけど……。相模さんが笑いながらゆっくりと立ち上がり、俊樹さんを見た。

「おかえりなさい、俊樹さん。お久しぶりです。心配されることは何もありません。森川さんは実務に明るく、あっという間に吸収されました。きっと氷室へ入られたらここ数日の結果が出ることでしょう」

「そうか、色々ありがとう。いくら兄貴の頼みとはいえ、面倒なことを押し付けてすまなかったな。こっちに戻ったら君には特別に礼をする」

「いえいえ。楽しかったですよ。三部の皆さんは気づいていたのに知らぬふりをしてくれて、彼女に教えておいてほしいことまでリスト化して僕に渡してきました。あの人達も俊樹さんの気持ちを先回りしていました。彼らにも礼をしてあげてください」

 うそでしょう……私ってピエロ?本当に馬鹿みたい。皆さんに内密とかいっておきながら、結局バレバレで陰から助けられていたということだ。私は相模さんに深く頭を下げた。

「相模さん、本当に気を使って頂きいろいろありがとうございました。本当に私って馬鹿ですね……自分勝手でご迷惑おかけしていたのにも気づかないでいたなんて……皆さん知らぬふりをして助けてくださっていたんですね」

「大丈夫ですよ。それも俊樹さんが根回ししたんでしょうから……森川さんのためにね」

 私が彼の顔を見上げると、彼に頭をポンとたたかれた。

「彼女は頑固でね。たまには知らぬふりで彼女の手の上で踊ってやってもいいが、自分が誰の部下なのか忘れてもらっては困るね。菜摘が転籍したら教えたいことをリスト化させてあったのが役に立ったな。少し早めに見せただけのことだ」

 まさか、そうだったの……。結局彼の手の上で踊らされていたのね。そう、私は氷室俊樹というすごい人の直属部下だったことを忘れていたかもしれない。

「……俊樹さん……」

「さてと、ふたりで下へ降りる前に専務へ挨拶に行こうか。企画室の皆さん、うちの森川が大変お世話になりました。ひと月後、一緒にこちらへ戻ります。またよろしくお願いします」

 彼は深々と頭を下げた。驚いた。私も彼を見て頭を下げた。

「こちらこそどうぞよろしくお願いします」

 皆が梶原副室長の返事に合わせて立ち上がり頭を下げてくれた。

 コンコンというノックの音がして、ドアが開いた。陽樹専務と京子さんだ。

「俊樹、早かったな。おかえり」

「専務、京子さん。菜摘のこと、お世話になりました」

「おい、睨むなよ。睨まれるようなことはしてないぞ」

「睨んでません。じっと見ていただけです」

「俊樹さん、さすがですね。成果をあげつつ、三日も早く海外出張からお戻りになるなんて驚きました」

「そうですか、きっと本気になれば兄さんだってできますよ」

「そうだな、俺なら四日前には戻れるだろう。って、痛いな、何するんだよ京子」

 京子さんが陽樹専務の腕をつねっている。

「専務は余計なこと言わなくて結構です」

 京子さんが目くばせするので、急いで企画室を出た。

 四人で専務の部屋へ入った。私は目の前のふたりに向かって頭を下げた。

「専務、京子さん、色々と本当にありがとうございました。おかげさまで思った以上にいろいろ学べました」

 腰かけた二人の兄弟は頭を上げて立っている私を見ている。

「まあ、役に立ててよかったよ。未来の義妹を大切にしているということが分かってもらえて、俺達もやったかいがあった」

 京子さんはにっこりと笑っている。

「俊樹さん、コーヒーでいいですか?」

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