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第三章 氷室商事へ
彼のご帰還ー2
しおりを挟む「コーヒーはいいですので、ぜひ京子さんも座ってください……菜摘も座れ」
京子さんは専務の横に座り、私は彼の隣に座った。
「ひと月後に戻れということで父さんから連絡がありました。ミツハシと相談してくれたそうですね。兄さんありがとう」
「ああ、それは父さん、いや社長が主導してミツハシの社長に相談した。まあ、父さんに礼を言っておけよ。会長がいない時間を見計らって行ったんだ。あとから達也君が入ってきたがすでに決まったあとだった」
すごい……それってある意味作戦勝ち?もしかして、ミツハシは氷室商事にはかなわないということなのかもしれない。
「達也がミツハシで社長になるころには、兄さんはすでにうちの社長になっているだろう。少し世界が変わるかもしれないな」
「まあ、そうだろうな。でもうちに足を向けることはできない。うちあってのミツハシだ。うちはミツハシがいなくても平気だがね」
にやりと笑う専務。複雑な心境の私。ミツハシを下に見られるのは正直いい気分ではない。
「森川さん。顔に書いてあるよ。ミツハシを悪く言わないでって……」
専務が私を見て笑っている。
「あの……すみません」
「痛いな、つねるなよ京子」
「ごめんなさいね、菜摘さん。この人本当にデリカシーがなくて……ミツハシはいい会社だし、気にしないでね」
「……いいえ。すみません」
ポンと私の頭に手をやる彼は、優しい目で私を見ながら言った。
「いい会社だが、今の社長にそれ以上は望めない。達也がいなければ氷室で吸収合併してもよかった。俺がミツハシを離れることで、これからは達也の求心力が一層強まる。あいつのことだ、おそらくうち以外の商社と新たな提携も視野に入れているだろう」
「まあ、そうだろうな。でもお前をうちに戻すということは、あいつもどうなるかぐらいわかっているはず。お前はあちらのいいところも、悪いところも、有能な社員もすべて把握済みだろう。数年はうちの顔色を窺わないと経営できないことくらい百も承知のはずだ。その後に関しては……俺とお前で出し抜くことも可能だろう」
ふたりは同じような微笑みを浮かべて笑っている。怖い兄弟……。これってどう考えたらいいんだろう、複雑な心境だわ。
「兄さん、今回菜摘を企画室に入れたのは誰の案?」
「まあ、お前の想像通りだろうな」
「やはりそうでしたか。まあ、彼女にはいい勉強になったでしょう。あそこは彼女にピッタリですからね。狼の巣にひよこを落としてくださったのが唯一気に入りませんでしたが……」
「狼たちも牙を抜かれておとなしかったですよ。背後の大きな狼の存在を感じていたんじゃないでしょうか。皆大人しいと梶原副室長が言ってました」
「本当に皆さんから優しく、よくしていただきました」
頭を下げる。何度同じことを聞いても優しく教えてくれた。女子だったから?それもあるだろうが、本当にうれしかった。
「あそこの連中の森川さんへの評価はとても高かった。紹介した俺も面目が保てた。あそこは機密だらけだし、信用できない人間は絶対入れられない。森川さんを入れることはある意味賭けだった。まあ、あれだけ色々拒んでいた俊樹が選んだ人だ。うちの京子に匹敵するんだろうとは思っていたが予想通りだったな」
「当たり前ですよ。義姉さんとは違う意味で実務にたけたミツハシの切り札の一人。達也に取られかけたと言ったでしょ」
「俊樹さん、やめてください。言いすぎです。そんな能力ありませんから……」
「まあ、義姉さんに比べると色気はいまいち足らないけどね」
目の前のふたりは目を見開いて彼を見ている。そして笑い出した。
「あの口の悪い俊樹が帰ってくるんだと今の発言で認識した。俺も楽しみだ。やっと少しは楽になる。期待してるぞ」
「期待してください。永峰俊樹がようやく氷室俊樹に戻るんだ。氷室陽樹の弟として全力で昇格する兄さんを支えるから安心してくれ」
兄弟は姉妹となる私たちの目の前でハイタッチを交わした。
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