彼は溺愛という鎖に繋いだ彼女を公私共に囲い込む

花里 美佐

文字の大きさ
40 / 44
第三章 氷室商事へ

彼のお仕置きー1

しおりを挟む
 

 彼は黙って私の前を歩いていき、振り向くとひとこと言った。

「帰るぞ。荷物を持って来い。下にいる」

「え?まだ、終業時間まで一時間くらいあるけど……」

 まだ四時くらいだ。終業時間ではない。

 ぴたりと足を止めた彼の背中に鼻からぶつかった。

「……痛っ」

「おい」

「……え?」

「すぐに帰ると言ったら帰る。お前のボスが帰ってきたんだ。俺に従え。あいつらには帰ると言わなくていい。ボスが戻ったのでついて行くと言えばいい」

 後ろを振り向かず前を見たまま言う。何なの、もう。勝手すぎる。

「俊樹さんはお疲れなんですからどうぞ先にマンションへ帰って休んでいてください。私は終業後そちらに行きます」

 くるりと振り向いた彼は上から私を見下ろした。何、その目?疲れているせいもあるだろうけど、いつもと違う。

「……これ以上何か言ってみろ。このまま引っ張っていくぞ。それでもいいのか?」

 怒った時の例の地を這うような声に変った。まずい。逆らうなと私の警報が鳴った。

「……わ、わかりました。す、すぐに戻りますので……」

 逃げるように私はエレベーターホールへ向かった。彼はロビーのソファーに座って携帯をいじりだした。

 部屋に戻ると先に失礼しますと言ったら皆笑っていた。まだいたの?と言われたくらいだった。

 きっと大変だよと相模さんには言われた。俊樹さんは知らぬふりをしながら、いろいろ陰から君のためにしてくれていたようだからねと言う。

 確かにそうなんだろう。さっきのあの様子だと間違いなく私には地獄が待っている。

 エレベーターホールに戻ると彼は私を見つけてゆっくり立ち上がった。

「さてと……帰るぞ」

 黙って後ろをついていく。怖い。

「……」

 外に出た瞬間、彼は突然立ち止まり伸びをした。先ほどまでの怒りのオーラが消えている?私のほうを振り向いた。

「行こうか、婚約者殿」

 彼が手を出してきた。恐る恐る手を出すとぐんと彼のほうへ引っ張られた。胸にぶつかった。彼が私の耳元でささやく。

「たっぷりお仕置きだぞ。楽しみにしてろ」

「……え?」

 嬉しそうに鼻歌を唄いながら、タクシーを止めると私を押し込んだ。マンションへまっしぐらに向かう。

 部屋に入るとリビングやダイニングテーブルの上を見て彼は驚いている。それはそうだろう。予測していなかったであろう彼の顔を見て私は嬉しかった。

「これ……もしかして菜摘。お前、食事準備してあったのか?」

 私は彼が今日帰るかもしれないと昨日京子さんに聞いた。だから彼の好物を作って準備していた。

 キッチンにはその準備の後がある。リビングも彼が帰ってきて過ごしやすいように整えてあるし、彼の好きなお酒もそろえておいた。

 ダイニングテーブルの上はすでにカトラリーがセッティング済み。あとは料理を出すだけになっていた。

「はい。今日戻るかもしれないと京子さんから聞いていました。それで準備していました」

 彼はふうっと息を吐き、急に私を抱きしめた。頭を肩に乗せてぎゅっと抱いた。彼の香水が香る。

「最近の菜摘はこれだからな……参るよ。怒れないじゃないか。先回りして、どうすると俺が喜ぶか知り尽くしている。今回は俺にお仕置きされるのを覚悟していてやったんだな。陥落したくないのに、くそっ」

 私は彼の背中をそっと抱きしめた。

「私は陥落しちゃった。研修に行っていることすべてわかっていて、なおかつ知らぬふりを通して私がやりやすいようにしてくれた。俊樹さんの手の上で踊っていただけだったのに、嫌な気持ちひとつしなかった。惚れ直しました」

 彼は私をじっと見つめるとキスをした。優しいキス。もっと欲しかったのに、すぐに離した。彼の服をぎゅっとつかんでつま先立ちになった。

「あ、どうして……」

「もっと欲しいのか?少しは我慢しろ。お仕置きだからな」

「ええ?!お仕置きってそっち?」

「そっちだ……どうだ、我慢できそうか?」

 私は彼に抱き着いた。頭を彼の胸にすりつける。

「俊樹さんこそ……我慢できるの?大変なのはわかるのに……」

 彼に抱きついて、すぐに彼の状況はわかった。

「そうだな。気持ちはここで我慢してお前をぎゃふんと言わせたい。でも身体のほうはお前を今すぐ欲しいと叫んでる。食事より、お前を先に食べないとまずいかもしれん。菜摘の作ったものはあとで食べても大丈夫か?」

「……どう思います?」

 彼は私のおでこをデコピンした。

「痛っ」

「ったく、その得意げな顔やめろ。お前の欲しいものをやらないからな」

「やだ、私だって待ってたのに……」

 彼は笑いながら私を抱き上げベッドへ向かう。服を脱がす彼の手が止まった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

【書籍化】Good day !

葉月 まい
恋愛
『Good day !』シリーズ Vol.1 人一倍真面目で努力家のコーパイと イケメンのエリートキャプテン そんな二人の 恋と仕事と、飛行機の物語… ꙳⋆ ˖𓂃܀✈* 登場人物 *☆܀𓂃˖ ⋆꙳ 日本ウイング航空(Japan Wing Airline) 副操縦士 藤崎 恵真(27歳) Fujisaki Ema 機長 佐倉 大和(35歳) Sakura Yamato

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

この溺愛は契約外です~恋焦がれた外科医から愛し愛されるまで~

水羽 凛
恋愛
不幸な境遇を生きる健気な女性花名は母親の治療費と引き換えに外科医である純正の身の回りの世話をすることになる。恋心を隠せない花名に純正は……。

私の婚活事情〜副社長の策に嵌まるまで〜

みかん桜
恋愛
身長172センチ。 高身長であること以外ごく普通のアラサーOL、佐伯花音。 婚活アプリに登録し、積極的に動いているのに中々上手く行かない。 「名前からしてもっと可愛らしい人かと……」ってどういうこと? そんな男、こっちから願い下げ! ——でもだからって、イケメンで仕事もできる副社長……こんなハイスペ男子も求めてないっ! って思ってたんだけどな。気が付いた時には既に副社長の手の内にいた。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~

泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の 元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳  ×  敏腕だけど冷徹と噂されている 俺様部長 木沢彰吾34歳  ある朝、花梨が出社すると  異動の辞令が張り出されていた。  異動先は木沢部長率いる 〝ブランディング戦略部〟    なんでこんな時期に……  あまりの〝異例〟の辞令に  戸惑いを隠せない花梨。  しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!  花梨の前途多難な日々が、今始まる…… *** 元気いっぱい、はりきりガール花梨と ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

処理中です...