美しき造船王は愛の海に彼女を誘う

花里 美佐

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第四章

椎名の応援

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 夢かと思ったその日から……メールだけが来るようになった。

「さくら、おはよう」

「さくら、おやすみ」

 今日はそれだけだった。

 実はあれからぷつりと電話が来なくなった。今週末までにどうしても仕事を終えないといけないそうでメールになると書かれていた。

 そして、それまでは僕も声を聞きたいのを我慢するからさくらも我慢してくれと書いてあった。

 私は付き合いだしてようやく彼を意識しだしたので、電話で声を聞けないのは寂しかった。

 あれから三日。

 椎名さんが店に現れた。前回お試しで作ったオフィス用のアレンジなどをそろそろリニューアルするにあたり、話し合うためだった。

 彼は椎名さんがここへ来ると聞いて自分も行くと騒いだそうだが、どうにもならないほどの仕事があり、泣く泣く諦めたそうだ。

 店は叔母さんに任せ、椎名さんを奥へお通しした。ここは一応寝起きができるように小さいが二部屋作ってある。リビング兼小さなダイニングに彼を通した。

「すみません、こんなところにお通しして……」

「ここも改善点のひとつとしてあげておきましょう。これからはセレブのお客様もこられるでしょうし、応接室が必要かと思います」

 おっしゃる通りだった。お通ししてお茶を出しながら相談するところがない。

 まあ、普通の花屋ならそんなところ必要ないが、この街では必要なのかもしれない。

「実はそうなんです。上のカフェにお連れしてお話していました」

 椎名さんは苦笑いした。

「なるほど。まあ、それはそれでいいんでしょうが、特別感がないとノースエリアのお客様には受け入れていただけません。付加価値が必要です。ここにくれば綺麗な応接室で最先端の花が生けてあり、素敵なお茶菓子がもらえるとか」

「……はあ」

「まあ、そこはおいおい考えましょう。ただ、部屋は必要ですね。ここでお泊りになるのをやめたらどうですか。そこを応接室にリニューアルなさっては?」

「ええ。実は考えています。遅い時間に叔母の家まで戻るのもどうかと思っていて、隣のサウスエリアに家を借りようかと……」

「そうですか。それはその、蓮様には話されました?」

「あ、いえ。まだ何も……」

 彼は何か含みのある表情をして、咳払いをすると、仕事の依頼に話を代えた。

「今日は前回のアレンジの更新をお願いしようと思っていますが、この間色々作って見せてくださったうちの迷っていたほうを今度はお願いします」

「あ、はい……」

 前回、神崎造船に入れるアレンジを作る際、三人で相談した。最後まで候補だったものがある。そのことだろう。

「季節が変わりましたから、花やグリーンは変えますが、コンセプトは同じで作りますね」

「はい。仕事はこれで終わりです」

 椎名さんはにっこり笑った。あっけなかった。彼は小さな声に変えて話し出した。

「蓮様とお付き合いすることになったとお聞きしました。おめでとうございます」

「……あ、あの」

「やっと、ですね。ほっと致しました」

 え?どういうこと?椎名さんの顔を見た。

「蓮様は清水さんが気になってしょうがないのに、免疫がなさ過ぎて自覚していませんでした。身近で見ていてやきもきさせられ疲れました。ようやく恋心を清水さんに打ち明け、お付き合い了承していただけたと伺い、安心しました」

 びっくりした。彼は椎名さんに話しちゃったの?それにしたって……。

「あの、どういう……」

 赤くなって彼に聞き返すと彼はにやりと笑った。

「とにかく蓮様は、自分が選んだ人じゃないとお付き合いや結婚は考えられないと言って、女性をずっと遠ざけてきたんです」

 びっくりして固まった。うそでしょう。あんなにモテるのに、そんなことある?

「まあ、びびっと感じないとビジネスも動こうとしないところもおありでしてね、こればかりは言っても無駄なので、旦那様や奥様、私も諦めておりました」

「びびっと……」

「ああ、すみません。雷が落ちるように何かアイデアがでる時に蓮様がびびっと来たから取引するとか言うんです」

 私がそれ?

「この間私が実家へ帰った際、蓮様ご自身であなたの店に行って花を注文したとき、きっと雷がびびっと落ちたんでしょう。あはは」

 椎名さんが笑ってる。初めて見た。

「それでですね。実は、今週末あさってですが旦那様が半年ぶりに帰国してお戻りになるのです。それで蓮様は今とても忙しくて私が来たと言うわけです」

「あ、ええ。それは伺っています」

「清水さんにも覚悟していただかないといけないのです。蓮様は旦那様に清水さんとお付き合いしていることをきっとすぐにお話になると思います」

 ガタンと音を立てて私は立ち上がった。は?え?

「まあ、落ち着いてください。お座りください」

 立場が逆転したように、椎名さんが私に座れと手で示す。彼は目の前のお茶を優雅に飲んだ。

「あなたに花言葉のアレンジで撃退をお願いした人は氷山の一角です。蓮様には現在、旦那様を通した縁談もかなりきておりまして、旦那様が断りづらい方もおられます」

「……」

「だからといって清水さんには蓮様と別れてもらっては困りますよ。逃げないでくださいね」

「……椎名さん」

「知らないよりは知っておいたほうがいいし、対策はみんなで考えますから。まずは、旦那様のことですが、おそらく清水さんとお会いになればお許しになるかと思います」

「……え?」

「それは、旦那様が蓮様を尊重して信じているからにほかなりません。それにもう一つ理由があります。あなたは旦那様のお母さまの親友のお孫さん同様です」

「……そうですけど……でも……私は、ただの花屋です」

「それはそうでしょう。旦那様のお母上の親友だった先々代の店長だってただの花屋だったんですからね」

 椎名さんは面白そうに話す。

「……椎名さん」

「旦那様と奥様にご面会されるときはそれなりに準備をこちらでも致しますからご心配なさらないでください」

「……」

「とにかく、蓮様をよろしくお願いします」

 急に立ち上がって執事らしく丁寧に頭を下げられる。びっくりしてしまった。

「そんな、頭を御上げください」

「いいえ。蓮様はうかれています。何かしたら叱ってください。大丈夫、きっと叱られても別れると言われるよりは耐えられます」

「あはは、椎名さんったら」

 二人で顔を見合わせて笑った。笑っている場合ではなかったのだが、椎名さんの言葉はあたたかくて、私の怯えを取り除いてくれた。

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