財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す

花里 美佐

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酔っ払いのキス2

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 お酒がいつも以上に回ってしまった。グラスを持ち上げた私の手を御曹司がつかんだ。

「おい、そのくらいにしておけ。香月、大丈夫か?お前、目が……」

「……なんれすか?」

「ったく、しょうがないな……どうなっても知らないぞ」

 私は机の上で頭を伏せてしまった。誰かが私の頭を撫でている。何か言っているが子守歌にしか聞こえない。

「どれだけ苦労して支社に来たと思ってるんだ……馬鹿め……香月、連れてくぞ。いいんだな?」

「……うーん。おうちに帰ります……」

「ああ、お前のおうちじゃないけどな。俺の今いるおうちに帰るよ」

「……ついたら……教えてくらさい……」

「ああ、教えてやる」

 そのままタクシーに乗ったのまでは覚えている。意識がなくなった。ふわふわと雲の上を歩いているような感じだった。

 次に気づいた時はすごく寝心地のいいスプリングが効いたベッドの感触だった。

 うーん、うちのベッドより広い気がする。

 腕を伸ばしたけど、ぬいぐるみのペンちゃんがいない。おかしいな?

 しかも香りがする。これってどっかで嗅いだことがある。何だったっけ?

 ギシッとベッドの音がして、気配がする。うん?なんかおかしいな……。

 頬に温かいものがチュッと音を立てた。え?

 うっすらと目を開ける。誰?え?ここどこ?

「……えっと……ここどこ?」

 周りを見る。すると、目の前のイケメンがこちらを甘い目で見ている。えっと誰だっけ?

「……大丈夫か?」

 聞き慣れた声を判別した私は、びっくりして飛び起きた。

 うそ、うそ、た、崇さん?この香りの人って崇さんじゃない?ということは……。私は自分の服を確認した。

「あー、よかった……」

 服は一緒だった。

「……ぷっ。くく……」

 崇さんが私を見て笑ってる。もう、何なの。そうじゃない、ここってもしかしなくても崇さんが泊まってるホテル?

「……あ、あの、あの私、すみませんでした……」

 するりと彼の手が私の頬を撫でた。びっくりして、身体を引いてしまい、バランスを崩してまた後ろにひっくり返った。

「……あはは」

「もう、いやだ……」

「ほら、水飲めよ」

 そう言うと、ペットボトルを私にくれた。私は首をすくめて彼を見ながらお礼を言って水を飲んだ。

「……はあー。美味しい」

「香月。明日は休みだし、ゆっくり泊まっていけ」

「い、いいえ。そんな恐れ多い、か、帰ります……」

「寝顔が可愛いから、つい食っちまおうかと思ったが、残念……次にもし同じ事があったら、据え膳は有難く頂くからな。お前がいいというなら、今日これから美味しく頂くのもやぶさかじゃないぞ」

 隣に座ってきてフェロモン満載の笑顔で迫る。私は両手を自分の身体に巻き付けると、下を向いた。そっと頭を撫でてくれた。

「この状態でタクシーに乗るときっと気持ち悪いぞ。さっきも気持ち悪いって言ってた。無理しないで寝ていけ。ここはスイートだ。部屋なら有り余ってる。ベッドもたくさんあるから大丈夫だ」

「そ、そんな……」

 言われてみれば、とても素敵な部屋だった。間接照明になっていたのであまり見ていなかったのだ。

「慌てるな。このまま寝てろ。トイレは出て左側の扉だ」

 あっけにとられている私をおいて出て行こうとする。

「あ、あの……」

「どうした?」

「あ、ありがとうございました。ご迷惑おかけしてすみません……」

 ゆっくりとこちらへ戻ってくる。ベッドに乗り上げて私の目の前に来ると、顎を捕らえた。

「少しよくなったのか?それならお互い酔っ払っていることだし、宿泊費としてだけもらいたい」

 そう言って私の唇に人差し指を載せてきた。あっけにとられていたら、目の前の美しい顔が近づいて来て、唇の端に温かいものがチュッとついた。

「目をつむれよ」

 耳元で言われて目をつむった瞬間、もう一度キチンとしたキスが落ちてきた。一回、二回目は押しつけるように……。

「……ん、はあ……」

 声が出てしまった。私の目を見た彼は、ゴクリと喉の音を立てた。

「その目は反則だ」

 そう言うと、私の背中を逆の手で引き寄せて三回目のキスをした。油断して一瞬息をするために口を開けたら彼の侵入を許してしまった。

「ん、ん……」

 ああ、気持ちいい。とろけてしまいそうになった。この人、絶対キスが上手なんだと思う。酔いも手伝って、理性が飛んだ。彼に身体を預けて止まらなくなってしまった。彼の服をぎゅっとつかんだ。

「ん、ああ……」

 私の色がついた目を、彼はじっと見て嬉しそうに言った。

「もっとキスが欲しいのか?いくらでもやるが、でもこれだけじゃ終われないぞ」

 彼が私をベッドに横たえた。そしてもう一度深いキスをする。彼の手が私の服の上を走り出した。

「ん、ん……」

 キスが首元へ移り、彼の手が私のブラウスのボタンを外す。

「菜々……」

 彼が私の名前を呼んだ瞬間、我に返った。ビクッとした。

「……あ、私……」

 彼は私の様子に気づいて、身体を起こした。そして私の頭を優しく撫でたあと、外したブラウスのボタンふたつをはめ直してくれた。

「危ないところだった……さすがの俺もこれ以上進んだら止まれない。さてと、あとはゆっくり寝ろ」

 彼はそう言うと寝室を出て行った。私はしばらく呆然として何も考えられず、気づいたら眠ってしまっていた。

 翌朝。

 喉が渇き、トイレに行きたくなって目が覚めた。

 時間を見るとまだ六時だった。

 化粧も落としていない。シャワーも浴びたかった。でも着替えもない。頭も、そして身体も重い。私は馬鹿だ。

 トイレに行くためそっとドアを開けて部屋を出る。まじまじと周りを見たがとても綺麗なスイートルーム。

 カウンターのメモ帳を見て気づいた。ツインスターホテル横浜だったのか。

 秘書になってから都内でひとり暮らしをしていたが、支社になって自宅へ戻った。

 昨日は飲み会だから遅くなると伝えたが、さすがに朝帰りとは言ってない。まあ、アラサーの娘にとやかく言う親ではないので安心だ。

 ガタンと音がした。彼が起きたんだろう。トイレに行って戻ってきた。私はそっと部屋を出ると、彼に声をかけた。

「おはようございます」

「ああ、早いな。眠れたか?」

 眠そうな顔。なんか可愛い。前髪が垂れてる。

 こちらを見る眼を見て、夕べのことを少し思い出した。そうだ、夕べこの人とキスを……。

 前を見られなくて目線を落として返事をした。

「ええ……本当にありがとうございました。あの、私……帰ります」

「何もそんなに急がなくてもいいだろ」

「あ、いえ、やっぱり着替えたいし、実家なので心配していると思います」

 目をそらして言うと、彼はため息をついた。

「じゃあ、着替えたら送るから待ってろ」

「いいえ、大丈夫です。窓から見て驚きました。ここ駅からすぐだったんですね。電車で帰ります」

 彼は私の顔を見て、これ以上止めても無理だと思ったらしい。

「……わかった。駅は目の前だ。気をつけて帰れよ」

「はい」

 そう言うと、荷物を持って私は部屋を出た。彼はドアを開けて送ってくれた。

 前髪を垂らした寝起きもイケメンって破壊力がすごい。それに対して私は化粧も落とさず寝てしまいすごい状態。

 我に返った私は、恥ずかしすぎて少しでも早くここから消えたかった。

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