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招待状2
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「菜々。それでお前は彼をどう思っているんだ」
「とても尊敬しているし、最近は特別扱いしてくれるから……正直少し……惹かれています」
「そうか。それならわかった」
「お父さん、私が黒沢さんに話してみる」
「大丈夫だ。そうなったらそうなったで何とかなる。榊原を出たのはこんな時に備えてだ。財閥外の企業と取引もある。心配無用だ」
「迷惑かけてごめんなさい」
「謝ることなど何もない。お前は何も悪くない。気にするな。そして素直になりなさい。どうなってもお父さんはお前の味方だよ」
「……ありがとう」
父の優しさが身に沁みた。だが、父のことは黒沢さんの反撃ののろしでしかなかった。
* * * *
清家財閥の招待状が週明けに来た。彼に見せた。
「ああ、招待状か。来たんだな。来週金曜日の夜、船上パーティとクルーズ……君には同行してもらう。俺のパートナーを務めて欲しいんだ。ここに来る人は顔を覚えておいた方がいい」
「わかりました」
「その日は夕方からいつものところへお前も連れて行く。予約しておけよ。俺とお前。あそこで全部着替えたり出来るから何も持たずに行っていい。ただ、今回は少しめかし込んでいかないとな。お前は美人だから少しやるだけできっと映える」
そんなこと真顔で言われた事なんてない。恥ずかしくて真っ赤になる。すると、顎をつかんで私を熱い目で見ている。
「楽しみだ」
専務の話が本当なら、彼は大分前から私を秘書にしたがっていて、気にかけてくれていたということだ。それは今の彼を見ればうなずける。私を特別だと思わせてくれるだけの優しさを与えてくれている。
招待状は机の中のファイルにストックしてあるが、念のためコピーを取ってからしまっている。ご本人へお渡しすることもあるので、私が中身を把握するためだ。
前々日の夕方、招待状を崇さんへ事前にお渡ししたほうがいいか確認するため、机の中のファイルを捜した。すると、どれだけ捜しても見当たらない。血の気が引いた。
確か、ICチップの入ったカードも入っていて、船室が割り当てられていたのだ。重要なお客様には船に泊まれるよう手配しているのでカードを同封された方は必ずお持ち下さいと招待状には書かれていた。彼にはそれが入っていたのだ。
どれだけ捜してもない。しまってあった他の招待状などは全て入っている。つまり、それだけがなくなったのだ。
私はコピーしたときに持ち帰るのを忘れたのかとコピー機の周りを捜してみたが見当たらない。コピー機は御曹司の秘書部屋にあるので、わざわざ秘書課でコピーしてくることはない。
他人が入る余地はないはずだ。
時間がない。正直に申し上げて謝罪するしかないが、先方に招待状なしで入れるか、確認すべきか悩んだ。
そこへ崇さんが入ってきた。
「おい、香月。お前、あさってのクルーズは一緒に泊まるつもりで来ていいぞ」
「お部屋は崇さんの分だけです。私は終わったらすぐに失礼します」
「帰ったらダメだ。夜に特別な催しもある。ディナーはうまいぞ。それに俺の部屋は特別だろう。お前も泊まれるから一緒に飲もう。約束していたのに結局未だに飲みに行ってないぞ」
いたずらっぽい目で誘う。それどころじゃない。カードを紛失したので泊まれないかもしれない。私は立ち上がって彼の前で頭を下げた。
「申し訳ございません」
「どうした?」
「招待状と部屋のカードが入っていた封筒ごと見当たらないんです。もしかして、紛失したかもしれません。先方にどうしたらいいかお電話して確認致しますので少しお待ち頂けますか?」
「紛失……そんなことあるのか?」
「え?」
「お前、専務の時代を含めて今までそういうことはあったのか?」
「……ありません」
私が下を向いていると、彼が私の肩を慰めるようにポンポンと軽く叩いた。
「別に……招待状がなくても問題ない。変な話、俺の場合は突然普段着で行っても入れてもらえるだろう」
ニヤリと例を笑みを浮かべている。私はあっけにとられて彼を見た。
い、いくら同じような財閥の御曹司とはいえ、それはないだろう。おかしいんじゃないの?
冗談を言ってる場合じゃない。全く笑えない。
「そんなわけありません。さすがにいくら榊原の御曹司でも……あちらも有名な清家財閥です。セキュリティチェックで入る前に招待状を確認しますよ。いくらでも最近なら偽装できます。何故かわかりませんが、招待状を封筒ごと必ず持って来るよう書いてありました」
「俺はそんなセキュリティチェック通らなくても入れるだろう。だからいらん。もしかしてお前に教えてなかったか。清家玖生は親友だ。家同士が立派なライバルだから、知られると結構面倒なんで内密にしている。お互いビジネス上は知らぬフリをするようにしているんだ。だからもう一人の親友を介して内密で会うことが多い」
清家玖生。日本の財閥筆頭である清家の御曹司。何故か清家の総帥はもう八十歳になるご老人だ。
総帥には息子さんもいるそうだが、財閥のお仕事をされていない。その息子である玖生さんが総帥を継ぐといわれている。
若い頃からお父様の代わりにお仕事をされていて、すごい人だと噂で聞いたことはあった。
ライバルの清家御曹司が親友?
「玖生が嫁さんを迎えるんだが、有名な華道家らしい。明日は親しい人と清家財閥の重要取引先だけを招待してお披露目みたいなものをするつもりなんだよ。だから、俺にとっては半分プライベートだ。あいつの執事は俺との関係を知ってるし、俺が来たらどんなときも基本通してくれるって訳だよ。あ、一応裏口を勧められるけどね」
この口ぶりはやったことがあるな……。そういうことではなくて、船室の部屋のカードもないのが問題なのだ。
「それだけじゃありません、指定されているお部屋のカードもなくて……」
「別になければないで帰ってくればいいだけだ。まあ、おそらく予備がある。何の問題もない。落ち着け、大丈夫だ。とにかくなくしたというのが不思議だ」
「どこかで落としたのか、あるいは忘れてきたのか、捜しましたが見当たらないんです」
「少し調べてみよう。何か理由があるかもしれん」
「理由って何ですか?」
「さあどうだろうな。少し探ってやるから待ってろ」
彼はそう言って席へ戻ると、自分の携帯を出してメールをしている。しばらくして彼は電話をすると言って出ていった。
「とても尊敬しているし、最近は特別扱いしてくれるから……正直少し……惹かれています」
「そうか。それならわかった」
「お父さん、私が黒沢さんに話してみる」
「大丈夫だ。そうなったらそうなったで何とかなる。榊原を出たのはこんな時に備えてだ。財閥外の企業と取引もある。心配無用だ」
「迷惑かけてごめんなさい」
「謝ることなど何もない。お前は何も悪くない。気にするな。そして素直になりなさい。どうなってもお父さんはお前の味方だよ」
「……ありがとう」
父の優しさが身に沁みた。だが、父のことは黒沢さんの反撃ののろしでしかなかった。
* * * *
清家財閥の招待状が週明けに来た。彼に見せた。
「ああ、招待状か。来たんだな。来週金曜日の夜、船上パーティとクルーズ……君には同行してもらう。俺のパートナーを務めて欲しいんだ。ここに来る人は顔を覚えておいた方がいい」
「わかりました」
「その日は夕方からいつものところへお前も連れて行く。予約しておけよ。俺とお前。あそこで全部着替えたり出来るから何も持たずに行っていい。ただ、今回は少しめかし込んでいかないとな。お前は美人だから少しやるだけできっと映える」
そんなこと真顔で言われた事なんてない。恥ずかしくて真っ赤になる。すると、顎をつかんで私を熱い目で見ている。
「楽しみだ」
専務の話が本当なら、彼は大分前から私を秘書にしたがっていて、気にかけてくれていたということだ。それは今の彼を見ればうなずける。私を特別だと思わせてくれるだけの優しさを与えてくれている。
招待状は机の中のファイルにストックしてあるが、念のためコピーを取ってからしまっている。ご本人へお渡しすることもあるので、私が中身を把握するためだ。
前々日の夕方、招待状を崇さんへ事前にお渡ししたほうがいいか確認するため、机の中のファイルを捜した。すると、どれだけ捜しても見当たらない。血の気が引いた。
確か、ICチップの入ったカードも入っていて、船室が割り当てられていたのだ。重要なお客様には船に泊まれるよう手配しているのでカードを同封された方は必ずお持ち下さいと招待状には書かれていた。彼にはそれが入っていたのだ。
どれだけ捜してもない。しまってあった他の招待状などは全て入っている。つまり、それだけがなくなったのだ。
私はコピーしたときに持ち帰るのを忘れたのかとコピー機の周りを捜してみたが見当たらない。コピー機は御曹司の秘書部屋にあるので、わざわざ秘書課でコピーしてくることはない。
他人が入る余地はないはずだ。
時間がない。正直に申し上げて謝罪するしかないが、先方に招待状なしで入れるか、確認すべきか悩んだ。
そこへ崇さんが入ってきた。
「おい、香月。お前、あさってのクルーズは一緒に泊まるつもりで来ていいぞ」
「お部屋は崇さんの分だけです。私は終わったらすぐに失礼します」
「帰ったらダメだ。夜に特別な催しもある。ディナーはうまいぞ。それに俺の部屋は特別だろう。お前も泊まれるから一緒に飲もう。約束していたのに結局未だに飲みに行ってないぞ」
いたずらっぽい目で誘う。それどころじゃない。カードを紛失したので泊まれないかもしれない。私は立ち上がって彼の前で頭を下げた。
「申し訳ございません」
「どうした?」
「招待状と部屋のカードが入っていた封筒ごと見当たらないんです。もしかして、紛失したかもしれません。先方にどうしたらいいかお電話して確認致しますので少しお待ち頂けますか?」
「紛失……そんなことあるのか?」
「え?」
「お前、専務の時代を含めて今までそういうことはあったのか?」
「……ありません」
私が下を向いていると、彼が私の肩を慰めるようにポンポンと軽く叩いた。
「別に……招待状がなくても問題ない。変な話、俺の場合は突然普段着で行っても入れてもらえるだろう」
ニヤリと例を笑みを浮かべている。私はあっけにとられて彼を見た。
い、いくら同じような財閥の御曹司とはいえ、それはないだろう。おかしいんじゃないの?
冗談を言ってる場合じゃない。全く笑えない。
「そんなわけありません。さすがにいくら榊原の御曹司でも……あちらも有名な清家財閥です。セキュリティチェックで入る前に招待状を確認しますよ。いくらでも最近なら偽装できます。何故かわかりませんが、招待状を封筒ごと必ず持って来るよう書いてありました」
「俺はそんなセキュリティチェック通らなくても入れるだろう。だからいらん。もしかしてお前に教えてなかったか。清家玖生は親友だ。家同士が立派なライバルだから、知られると結構面倒なんで内密にしている。お互いビジネス上は知らぬフリをするようにしているんだ。だからもう一人の親友を介して内密で会うことが多い」
清家玖生。日本の財閥筆頭である清家の御曹司。何故か清家の総帥はもう八十歳になるご老人だ。
総帥には息子さんもいるそうだが、財閥のお仕事をされていない。その息子である玖生さんが総帥を継ぐといわれている。
若い頃からお父様の代わりにお仕事をされていて、すごい人だと噂で聞いたことはあった。
ライバルの清家御曹司が親友?
「玖生が嫁さんを迎えるんだが、有名な華道家らしい。明日は親しい人と清家財閥の重要取引先だけを招待してお披露目みたいなものをするつもりなんだよ。だから、俺にとっては半分プライベートだ。あいつの執事は俺との関係を知ってるし、俺が来たらどんなときも基本通してくれるって訳だよ。あ、一応裏口を勧められるけどね」
この口ぶりはやったことがあるな……。そういうことではなくて、船室の部屋のカードもないのが問題なのだ。
「それだけじゃありません、指定されているお部屋のカードもなくて……」
「別になければないで帰ってくればいいだけだ。まあ、おそらく予備がある。何の問題もない。落ち着け、大丈夫だ。とにかくなくしたというのが不思議だ」
「どこかで落としたのか、あるいは忘れてきたのか、捜しましたが見当たらないんです」
「少し調べてみよう。何か理由があるかもしれん」
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