財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す

花里 美佐

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告白3

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「香月。ずっと好きだった。付き合ってくれないか。もちろん結婚前提だ」

「崇さん。至らない秘書の私を叱ることもせず、優しくしてくださり、この間も庇って下さった。最近あなたを目で追いかけている私に気がついていないんですか?」

「それはもう気がついてるさ。この間だって俺もお前を目で追いかけてたら、目が合ったよな」

「私、目をそらしてごまかしたんですけど、バレバレでしたか?」

「香月があのときどんな顔だったか見せてやりたいよ。真っ赤になって可愛かった」

「私で本当に大丈夫?私も崇さんが……好きです」

「菜々……」

 そう言うと、彼は覆い被さってあの日のようにキスをした。お互いの気持ちが通じ合ったキス。甘くてとろけてしまいそうだった。

「あ……ん……」

「綺麗だ。本当に……好きだよ菜々。ずっと側にいて欲しい」

 満点の星の下、彼はまた私を抱き寄せた。
 
 そのまま、手を引かれて船室へ戻った。他の船室とはフロアが違う。驚くほど素晴らしい部屋だった。玖生さんが言っていただけのことはある。特別室だろう。

「菜々を口説き落とすために玖生へ頼んであったんだ。この間のスイートに負けないくらいのいい部屋だろ?この間のホテルではお預けされたが、今日は……全部くれるか?最初は……思い出に残る場所でしたかったんだ」

 私は彼を見てうなずいた。嬉しい。全て私のためにしてくれたことだと思うだけで幸せだった。

「ありがとう。この服を脱がせるのは俺の役目だ」

 そう言って、彼は私の後に立ち、ドレスのボタンを外した。そしてうなじに口づけながら、ドレスを肩から落とした。

 下着姿になった私が恥ずかしそうにしているのを見て、キスを軽くおとした。徐々に、髪飾り、靴を脱がせていく。私も彼のタイを緩め、背広を脱がす。Yシャツのボタンに手をかけた。彼はそれを嬉しそうに見ている。

 スラックスになった彼は下着姿の私を抱き上げてベッドへ向かった。そして、全て取り払った。

「ああ、綺麗だ……菜々……」

「大好き、崇さん……」

「煽るなよ……どうなっても知らないぞ」

「……いいの……ああ……」

 彼は大きくゆさぶってくる。境界線がわからなくなったころ、私をぎゅっと抱きしめて止まった。

「愛してる、菜々」

「あ、もっと……キスして……」

「キスしながら愛してやる。ゆっくりと一晩中……」

 そう言うと、彼は私の唇を優しく塞いだ。

「どれだけ我慢していたか、菜々にはわからないだろう。今日は寝かせない」

「あ、崇さん、もっと……あ、そこはだめ……」

「もっと欲しいんだろ?」

 一度にたくさんの刺激を与えられて真っ白になった。そして朝までふたりで溶け合った。

 * * * *

 翌朝。

 お風呂に入り、出てきたところで彼の話し声がした。相手は辰巳さん?電話だ。

「ああ、そうか。一昨日の様子だとそうだろうな。父さんには俺からも話してみるが、解雇しないと見せしめにならない。もちろん秘書課以外には内密にだ。ああ、清家にも知られているからな。けじめは必要だ」

 解雇。黒沢さんと伸吾のことだろう。内々に片付けるつもりだろうが、秘書課のなかでは無理だろう。

 彼女がずっと彼を好きだったことは知っていたし、気持ちがわからないでもない。政略結婚は親も絡んでいるから必死になるんだろう。

 総帥はこんな何もない私を認めて下さるんだろうか。それに、招待状が盗まれたといっても、伸吾に気を許していた私の落ち度でもある。いくら、彼が私を庇っても秘書を外される可能性もあるだろう。

 バスルームの鏡に映る自分の姿にさっきは驚いた。彼の跡が身体中に残っていた。愛されて嬉しい。もう、私も彼へのこの気持ちを抑えきれない。秘書を外されてもいいから別の形で彼の側にいたい。

 本当は秘書として、このまま総帥になるまで彼を全力で支えたい。これからが彼の一番大事な時期だ。日傘専務に言われたことを実行しなくてはいけない。水をやり、肥料をやり、大切につぼみを育て花を咲かせるのだ。

 そして、どうすれば交際を許して頂けるのだろう。

「菜々、どうした?身体大丈夫か……」

 目の前にはいつの間にか彼が立っていた。心配そうな顔をして私を見ている。

「あ、いいえ。大丈夫です。それより、このあとどうするんです?」

「そうだな、朝食を食べてから考えよう。ここへ運ばせるからちょっと来てくれ。話がある」

 ルームサービスを頼んだあと、ベッド脇のソファで彼は話しだした。

「あの事件の背景がはっきりした。当事者のひとりである君は全て聞く権利がある。でも正直聞かせたくないんだ。聞いたら君のショックが大きいと思う。知らなくても済むならそれがいい」

「大体想像しているから、覚悟は出来てる。きっと、私との交際も最初から仕組まれていたんでしょ?」

 崇さんはベッドに腰掛けていたわたしの隣に座ると肩を抱き寄せた。

「菜々。あの頃、君は精神的に参っていて普通じゃなかったと言ってただろ。だから気にするんじゃないぞ」

「やはりそうだったのね」

「いつも俺が君を目で追っていたのを、黒沢が気づいて、斉藤に君を誘惑するよう言ったそうだ。そして、これが彼女を縁談相手から外した本当の理由なんだが、彼女は複数の男性と現在も関係を持ち続けている。そのひとりが斉藤。あの二人は君と付き合う前からいままでずっと定期的に関係を持っていたんだ。男女の仲だったんだよ」

 私はそこまでは考えていなかった。声も出ない。

 ああ、気持ちが悪い。それってつまり伸吾を彼女とある時期……共有していたの?

 想像するとたまらなくて、急に吐き気がした。私は口を押さえてよろよろと立ち上がり、バスルームへ駆け込んだ。

「……菜々!?おい、大丈夫か?」

 追いかけてきた彼は、目の前でバタンとドアを閉めた私に驚いたようだった。

 しばらくしてから落ち着いた私は、顔を洗って出てきた。

「菜々!大丈夫か?気分は?」

「……うん、大丈夫……」

 崇さんは私の顔をのぞき込み、身体を支えて座らせた。ぐったりと背もたれに身体を預けている私に、彼は水を持ってきてくれた。

「ありがとう」

「少し横になるか?」

「ううん。大丈夫よ。ごめんなさい……」

 彼は私をそっと抱きしめると頭を撫でた。

「こんなにショックを受けるとは思わなくて……俺は本当に馬鹿だな。黙っていればよかった。菜々を苦しめてしまった」

「そこまでは想像してなかった。同期だから仲がいいんだろうと思ってたの。本当に……私って馬鹿……」

 最後は涙声になってしまった。彼は私をぎゅっと抱きしめて背中を撫でている。

「あいつらは絶対にゆるさん」

 総帥はきっと、そんな男に騙された私をもっと嫌悪したに違いない。

「私、きっと総帥から見たら本当に見る眼のない馬鹿に映ったでしょうね。事実だからどうしようもないけれど……」

「菜々、君は被害者だ。自分を責めるな。それに俺がもっと早く、君に勇気を出して告白していたらこんな目に遭わせずすんだ。君への気持ちを黒沢に見抜かれたのも原因のひとつだ」

「そういう問題じゃないです。利用されたのは私。利用されるような馬鹿だったの」

「菜々、やめろ」

 彼は私を胸の中にしまうと、ぎゅっと抱きしめた。

「もう済んだことだ。忘れるんだ。いいね」

 私も彼の身体にすがりついた。

「菜々。船を下りたら俺のマンションへ来ないか?明日までゆっくり二人っきりで過ごしたい」

「いいの?」

「もちろん。もっと一緒にいたいだろ」

「うん。今日は一緒にいたい。全部忘れたい」

「ああ、忘れさせてやる」

 彼は私を優しく抱き寄せた。
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