平安事件絵巻~陰陽師の兄と妹はあやかし仲間と悪人退治致します!

花里 美佐

文字の大きさ
9 / 38
第一章

五ノ巻ー作戦会議①

しおりを挟む
 兄上は戻ってきた私を見て目を見張った。

「夕月。こんな時間に外をうろつくなんて危ないと言っているだろ。連絡をくれたら私が行くのでお前は動くな」

「大丈夫ですよ」

「大丈夫じゃない。今までとは訳が違う。お前、自分の姿がどれほど変わっているか認識していないようだな。晴孝が来て心配していたが……兄の目にもお前は美しいぞ。晴孝の心配は大げさじゃなかったようだ」

 嘘でしょう……兄上が褒めた?恥ずかしい。兄上から美しいなんて言われたのは初めてだ。

「さてと……それでは急いで楓姫から聞いてきたことを話してくれ。早速作戦会議だ」

 ひと通り話すと、目をつむって聞いていた兄上は遠くを見て、何か考えている。

 兄上が手を叩いた。白藤と権太と旭丸、鈴が兄上の前に膝を突いて現れた。鈴は兄上に命じられ、ここで私を待っていたらしい。作戦会議のためだ。

「夕月」

「はい」

「正式に東宮殿入内の際は、このまま権太を下男として連れて行け」

「……え?」「……は?」

 権太がかぶりを振った。

「いやですよ、兼近様。俺がおしろい臭いところ嫌いなのを知っていてそんなことを言うんですかい?おしろいが大好きな白藤に行かせた方がいい」

 大きなお腹をポンポンと叩きながら顔をしかめる。もってりとした体格以上に顔周りの黒髭が彼をたくましく見せている。

「……あちきは兼近様のおそば以外にはどこへも行く気はござんせん」

 ぷいと横を向いたつり目の真っ白な美人が白藤。まあ、そうだろう。白藤は兄に片想い中。彼女は兄にあやかしを代表して嫁入りしたいというのだ。そのため、常に兄の側に控えている。

 他の狐のあやかし達に色々言われているらしいが、力も強いので文句を言う奴は彼女の幻術で夢をみたままになってしまう。

 兄がそんな権太を見ながら、手元の杯を上げて言った。

「権太。皇子のところでは仕える者達もうまいものがたらふく食えるぞ。酒もうちにあるものより、ずっと良いものがあるからな」

 権太の目が輝きだした。私は顔を覆った。ああ……この一言は何より権太の心を揺さぶる。彼は何を置いてもついてくるだろう。酒と食べ物のためなら何でもする。

「……わかりました。しょうがないですね、鈴だけじゃ何の役にも立たないでしょうし、おいらが夕月さんを助けやしょう」

 ポン、ポンといい鼓の音がする。そう、権太のお腹を叩いた音だ。すると、鈴が尻尾を立てて、毛を逆立てた。

「権太!は誰よりも夕月を大事にしている。それに、お前と違ってどんな人間の膝にも乗れる。情報を取るのはいつも我だよ。食い物や……邪な恋心しかない、お前達とは全く違う」

 最後のひと言は余計だった。白藤がつり目をもっとつり上げ、鈴に向き直った。

「猫の分際であちきに意見するたあ、いい度胸ざんすね。恋心の意味も知らない子猫の分際でいい気になるんじゃあないよ!」

「そうだ、お前なんてひとひねりだ!」

 立ち上がった権太の後に尻尾が見えた。茶色のふさふさとした立派な尻尾だ。怒りで変化が崩れ、尻尾を出してしまった。横の白藤には黒髪の間から、白い耳が少し覗いている。横の旭丸は呆れて知らんふりしていた。

 あやかし達は兄の前だからという甘えもあるのだろう。少し感情的になると本来の姿が見えてくる。するといつもは笑って見ている兄の様子が今日は違った。

 すぐに右手の人差し指と中指をたてて何か呟いた。ピクッと三匹は動きが止まった。金縛りになっている。兄の術だ。

「お前達……ふざけている場合ではない。夕月はもちろん、静姫に命の危険もある。お前達がそんなことでは……他のものをつかうしかないな」

 兄がゆっくり指を下げた途端、三匹は動けるようになった。すぐに並んで静かに頭を下げてひざまずいた。

「おいらが行きやす!」

「あちきも何でもします!」

「にゃあ!(やるにきまってる)」

 兄が私を向いて言う。

「入内予定の東宮殿の東の対には調度品を先に入れてもらい、数日後私が事前に偵察へ入る。何か仕込まれる可能性があるからだ。それと、朱雀皇子の側近とその娘は探りが必要だろう……鈴」

「にゃ(はい)」

「お前の一族から何匹か朱雀皇子の侍従とその娘へつかせるようにせよ。情報を集めろ」

「にゃあ(わかりました)」

「白藤」

「あい」

「侍従の娘のところに女房として入れ。晴孝に言って中宮殿から入るということにさせる……白藤、お前の美貌が役に立つぞ」

 白藤は目をキラキラとさせて真っ赤になった頬を両手で抑えている。ああ、これを手玉に取ると言うんだ。兄は本当にたちが悪い。

「あい、わかりました。でも、そうしたらあちきの一番大切な兼近様の側にいるものがいなくなります。やっぱりあちきは残って、他の狐族より美人を選んでその娘に仕えさせましょう」

 ちろりと目を上げた兄が言う。

「わたしなら大丈夫だ。犬の旭丸もいるし、式神もいざとなれば使う。お前の入る場所は南の対だ。静姫の入るところと真向かいの対だろう。何かあれば直接駆けつけて夕月を守ってくれ。おそらく最初のターゲットは夕月だ」

「え?」

 私が驚いて兄を見つめると、ため息をついている。

「楓姫のところで聞いてきただろう。以前も絹という一番大切にしていた女房に手を出された。そういう女房を手玉に出来れば姫を言うなりに出来るという考えだろう」

「でも……私が古部の娘とわかっいて手を出すとは思えません」

「そうだな。私が……お前の後にいるのだからね。普通わかっているなら絶対に仕掛けてはこない」

「つまり、わかっていないということですか?」

「あやかし達から忠信、桔梗親子についての情報は入ってきていなかった。あちらで呪術を使ったとして、あやかしを遣えるようなものはいないということだ」

「なるほど」

「つまり、私の本当の力を知らない。私をただの暦師だと思っているかもしれない。ある意味侮っている可能性もある。私は今まで父上の遺言もあって権力へ近寄らないようにしてきたのだ」

「兄上……」

「今思えば、隠密で動いてきたことが役に立ちそうだ。左大臣様と父は親友だった。そして私もその息子の晴孝と親友。気持ちはどうしても左大臣様寄りになる。だが、左大臣様は父のためうちの秘密についてはずっと口をつぐんで下さっている。帝にも推挙なさらない」

「なるほど。あちらは古部の力を知らないということですね」

「まずはあの忠信の後にいる術師が誰かを見極めねばならない。まあ、何か部屋から見つければ、そこからたぐることも可能だ」

「兄上って本当にすごいですね」

「馬鹿め。お前ももう少し修行しておけばよかったのだ。すぐに修行から逃げ出していたから、肝心な時に困るのだ」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ハーレム系ギャルゲの捨てられヒロインに転生しましたが、わたしだけを愛してくれる夫と共に元婚約者を見返してやります!

ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
 ハーレム系ギャルゲー『シックス・パレット』の捨てられヒロインである侯爵令嬢、ベルメ・ルビロスに転生した主人公、ベルメ。転生したギャルゲーの主人公キャラである第一王子、アインアルドの第一夫人になるはずだったはずが、次々にヒロインが第一王子と結ばれて行き、夫人の順番がどんどん後ろになって、ついには婚約破棄されてしまう。  しかし、それは、一夫多妻制度が嫌なベルメによるための長期に渡る計画によるもの。  無事に望む通りに婚約破棄され、自由に生きようとした矢先、ベルメは元婚約者から、新たな婚約者候補をあてがわれてしまう。それは、社交も公務もしない、引きこもりの第八王子のオクトールだった。  『おさがり』と揶揄されるベルメと出自をアインアルドにけなされたオクトール、アインアルドに見下された二人は、アインアルドにやり返すことを決め、互いに手を取ることとなり――。 【この作品は、別名義で投稿していたものを改題・加筆修正したものになります。ご了承ください】 【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』にも掲載しています】

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

処理中です...