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9話 『瑠衣のサプライズ』
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優斗が隠れ家に転送すると、華が瑠衣と仁奈の個人部屋があった場所で魔法陣を展開させていた。 リビングの左側の壁が無くなっており、何もない床だけが敷かれてあった。
魔法陣が光ると、家具や壁、天井が作り出されていく。 部屋が出来上がると、優斗の目の前が壁で塞がれ、扉が1つだけ現れた。
優斗は出来たての扉に近づき、ノックをして中に居る華へ声を掛けた。 中から慌てた様な声が優斗の耳に届いた。
「華? 入っても大丈夫?」
「ゆ、優斗くんっ? どうしてって! ああ、監視スキルで分かるか。 どうぞ」
優斗の監視スキルを思い出したのか、納得したような声が聞こえた。 扉を開けて中に入ると、優斗の目が大きく開いて唖然とした表情をした。 部屋の内装を見た優斗は、隠れ家に戻って来た理由を忘れて眺めまわした。
「おお、何これ」
華の鼻息も荒く、瞳がキラリと光った。
「瑠衣くんらしいよね!! 流石、瑠衣くん! お洒落だよね」
「鈴木は、気に入るかな?」
「仁奈もシンプルなのが好きだから、大丈夫じゃないかな?」
瑠衣と仁奈の新しい部屋は、現代日本の様な内装だった。 30畳くらいのワンルームにロフトがあり、簡易キッチンやシャワー室、トイレ、ウオーキングクローゼット、バーカウンターまであった。 家具は全てシンプルな物だ。 正面の壁は一面のガラス張りで、場所が場所ならば、眼下に夜景が拡がっているのだろうな、と優斗は想像した。
(お洒落ねって?! 瑠衣って、こんな趣味だっけ? シンプルなのが好きなのは知ってるけどっ、正面の全面ガラス張りがっ、なんか嫌な感じだっ)
華が優斗を振り返った。
「それで、優斗くんはどうして隠れ家に戻って来たの?」
華の問いかけで、自身が何故、隠れ家に戻って来たのか思い出した。
「ああ、そうだっ! お客さんだよ、オーダーメイドの。 瑠衣のお願いが終わったなら、お店に戻って来て欲しいんだけど」
優斗の話を聞いた華の瞳がキラキラっと光る。 嬉しそうな華を見ると、優斗から笑みが零れる。 もう、トリップしている華を見て『相変わらずだな』と眉を下げた。 優斗は華の腰を優しく引き寄せると、転送魔法陣を展開させた。
――優斗が隠れ家に転送するのを見送ると、瑠衣は応接室へと向かった。
店の右側にショーケース型のカウンターがあり、ショーケースには色々な薬湯が並び、華が考案した回復薬も並んでいる。 カウンターの奥に華の作業場に続く扉がある。 店の壁には武器、防具、魔道具が飾られ、見本として置いてある。 店の奥に応接室があり、隣にお客様へお茶を出す為の簡易キッチンが設置されていた。
2階は華の作業場から上がれるようになっていて、在庫置き場になっていた。 他にも会議室兼休憩室もある。
瑠衣が応接室に入ると、中央に置いてあるソファーに向かい合って座り、仁奈とレヴィンが楽しそうに談笑している様子が目に映った。 瑠衣は黒い笑顔を張り付け、仁奈の隣にドカッと座った。 ソファーが軋んだ音を立てて抗議の声を上げる。
「あ、瑠衣。 王子は?」
「華ちゃんを呼びに行ってる」
耳元でコソコソと囁くと、仁奈の頬が赤く染まった。 瑠衣の瞳に意地悪そうな光りが滲む。 向かいから面白がる様な笑い声が聞こえ、瑠衣はレヴィンを見た。 仁奈は更に恥ずかしそうに羊皮紙をテーブルに置くと、勢いよく説明をし出した。
「あ、あの。 レヴィンさん、こちらにオーダーメイドの要望を書いていただけますか?」
瑠衣は少し、レヴィンに違和感を覚えた。 レヴィンは何処か胡散臭い笑みを浮かべて、瑠衣たちを眺めていたからだ。 違和感というよりも既視感に近い。
「はい、分かりました。 あの、要望は何でも聞いていただけるのでしょうか?」
「こちらで出来る事でしたら、何でも訊きますよ。 ただし、私たちにも限度がありますので。 出来ましたらお手柔らかにお願いします」
レヴィンと名乗った少年は、瑠衣の説明ににこやかに答えた。
「はい」
レヴィンはウキウキした様子で羊皮紙に必要事項を書き始めた。 レヴィンの様子に瑠衣の第六感が怪しい奴だと訴えている。 瑠衣はレヴィンの動向をじっと見つめた。 2階から優斗の転送魔法陣の音が聞こえ、2人が戻って来た事が分かり、瑠衣はソファーから立ち上がった。
「すみません。 担当者が戻って来たみたいなので連れてきます。 仁奈、後を頼むな」
(風神、俺が居ない間、ここに居てくれ)
『承知した』
「うん」
風神は、幻影魔法で姿を消して応接室に瑠衣と入れ違いで入っていった。 店に戻ると、カウンターの奥の扉から優斗と華が出て来た。 華と視線を合わすと、顔の前で掌を合わせて眉を下げて華に詫びた。
「ごめんね、華ちゃん。 俺の我儘で行ったり来たりさせて」
返事は優斗から返って来た。
「本当だ」
「優斗、お前。 最近、心が狭くなってるぞ」
「ルイ、しょうがないわよ。 ユウトの過保護は、死んでも治らないわよ」
カウンターで店番をしていたフィンが、訳知り顔で頷きながら宣っている。 隣でフィルも呆れながらもフィンに『うんうん』と賛同した。 空気を察した華が話を変える。
「あ、じゃあ、私はお客様の話を聞いてこようかなっ」
「華、俺も行く。 若い男と2人っきりにさせられないから」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
「駄目」
2人が応接室に向かうのを見て、瑠衣たちは苦笑を零すしかない。 瑠衣はフィンの方を見ると、同意を求めた。
「優斗と華ちゃん、ちょっと1回離れた方がいいよなっ。 大丈夫かよ」
「それは、無理じゃないかしらっ?」
「ぼくは、ユウトとハナが仲いい姿を見てたいっ」
フィルの純粋な瞳にほわっとした空気が流れる。 瑠衣は『いや、依存し過ぎじゃないか』と言いかけて止め、他の事を聞いた。
「まぁ、あいつらの事は少し置いとくか。 それよりあのレヴィンって奴、人間か?」
フィルとフィンは『えっ』と驚いた顔をした後、首を傾げた。
「カレからは、何も感じなかったけど? フィルは何か感じた?」
「ううん。 ぼくも、何も感じなかったけど」
「そうか。 いや、俺の勘違いならいいんだ」
優斗たちと入れ違いで仁奈が出て来た。 そのまま瑠衣と仁奈、2匹のスライムで店番をしていたが、午前中とは打って変わって結構なお客が来店し、瑠衣たちは休む間もなかった。
暫く話し込んでいたレヴィンが応接室から、出て来た。 瑠衣がいるカウンターの前を通ると、ねっとりした笑みを瑠衣に向けて来た。 レヴィンの笑みに、益々瑠衣は不信感を抱いた。
(なんだ? あいつっ! まさか、この俺に喧嘩売ってんのかっ!)
――瑠衣のサプライズにより、自身の部屋が変わった部屋に入った仁奈は、あんぐりと口を開けた。
夕食とお風呂を終え、瑠衣に促されて新しい部屋に仁奈は足を踏み入れた。 部屋を眺めて仁奈が最初に思った事は『ここは何処のスパダリの部屋だ』だった。 夜景が拡がってそうなガラス張りの窓の外は、隠れ家を守る森が拡がっていた。 『ホ~』とフクロウの鳴く声が遠くに聞こえる。
仁奈は軋む首を後ろに居る瑠衣の方へ向けた。
「る、瑠衣。 これは、いったい?」
瑠衣は当たり前のように宣った。
「ん? どうせ、毎晩どっちかの部屋で寝る事になるんだ。 だったら、一緒の部屋にしたらいいだろうと思ってね」
瑠衣の話を聞いた仁奈は真っ赤になって目が飛び出した。 背中に流した銅色の髪が、静電気を帯びた時の様に角を立てる。 瑠衣は仁奈の様子に、面白い物を見つけた様な笑みを浮かべた。
(面白いな。 何て顔するんだよ、仁奈)
仁奈は言葉にならない声を出して固まっている。
「な、な、な、〇△□※~!」
「ほら、とっとと寝るぞ。 ロフトにベッドがあるから」
声にならない叫び声を上げている仁奈を抱き上げ、危なげなく瑠衣はロフトまで上がっていった。 新しい部屋で過ごす初めての夜が、静かに更けていった。
次の日、店に行くと、瑠衣たちが来るのを、レヴィンが待ち伏せていた。 自身も武器の素材集めをしたいと、瑠衣たちは懇願されて困惑する事になる。
――店の応接室で、優斗と華はレヴィンの要望に『困ったな』と眉を下げていた。
優斗は改めてレヴィンの装備を眺めていた。 意外にしっかりとした防具を着ている。 レヴィンは優斗の視線にニヤリと妖しい笑みを浮かべた。 レヴィンの何処か胡散臭い笑みに既視感を抱いた。 優斗の脳内で監視スキルの声が響く。
『魔族の気配はありません。 胡散臭い笑みが篠原瑠衣にそっくりですね』
監視スキルの声に『ああ、人を欺く時の瑠衣の笑みに似てるのか』と目を細めてレヴィンを眺めた。 じっとと見つめて来る優斗に、レヴィンは分かりやすく動揺していた。 しどろもどろで優斗に話しかけてきた。
「あの、何か? 私、変ですか?」
レヴィンの声に、優斗は営業スマイルで応じた。
「いや、新人冒険者さんにしては良い防具を着てるな、と思って。 それに、中々新人からオーダーメイドの武器は作らないんだけどね。 お金がかかるから」
「ああ」
自身の防具を見ると、防具を撫でながら、レヴィンの瞳に妖しい光りが宿った。
「これは、とてもお世話になった人の物なんです」
「へぇ~、そうなんだね」
『人として危なそうです。 気を付けて下さい』
監視スキルの声に、優斗は更に笑みを深めた。
「素材集めだけど、君の希望する魔物が現れてからになるから、少し時間がかかるよ」
「はい、魔物が出るまで通わせてもらいます」
レヴィンは躊躇いなく言い、向かいに座って話を聞いていた優斗と華は、再び『困ったな』と笑みを浮かべた。 優斗の脳内で監視スキルが『あらら』と呟いた。
魔法陣が光ると、家具や壁、天井が作り出されていく。 部屋が出来上がると、優斗の目の前が壁で塞がれ、扉が1つだけ現れた。
優斗は出来たての扉に近づき、ノックをして中に居る華へ声を掛けた。 中から慌てた様な声が優斗の耳に届いた。
「華? 入っても大丈夫?」
「ゆ、優斗くんっ? どうしてって! ああ、監視スキルで分かるか。 どうぞ」
優斗の監視スキルを思い出したのか、納得したような声が聞こえた。 扉を開けて中に入ると、優斗の目が大きく開いて唖然とした表情をした。 部屋の内装を見た優斗は、隠れ家に戻って来た理由を忘れて眺めまわした。
「おお、何これ」
華の鼻息も荒く、瞳がキラリと光った。
「瑠衣くんらしいよね!! 流石、瑠衣くん! お洒落だよね」
「鈴木は、気に入るかな?」
「仁奈もシンプルなのが好きだから、大丈夫じゃないかな?」
瑠衣と仁奈の新しい部屋は、現代日本の様な内装だった。 30畳くらいのワンルームにロフトがあり、簡易キッチンやシャワー室、トイレ、ウオーキングクローゼット、バーカウンターまであった。 家具は全てシンプルな物だ。 正面の壁は一面のガラス張りで、場所が場所ならば、眼下に夜景が拡がっているのだろうな、と優斗は想像した。
(お洒落ねって?! 瑠衣って、こんな趣味だっけ? シンプルなのが好きなのは知ってるけどっ、正面の全面ガラス張りがっ、なんか嫌な感じだっ)
華が優斗を振り返った。
「それで、優斗くんはどうして隠れ家に戻って来たの?」
華の問いかけで、自身が何故、隠れ家に戻って来たのか思い出した。
「ああ、そうだっ! お客さんだよ、オーダーメイドの。 瑠衣のお願いが終わったなら、お店に戻って来て欲しいんだけど」
優斗の話を聞いた華の瞳がキラキラっと光る。 嬉しそうな華を見ると、優斗から笑みが零れる。 もう、トリップしている華を見て『相変わらずだな』と眉を下げた。 優斗は華の腰を優しく引き寄せると、転送魔法陣を展開させた。
――優斗が隠れ家に転送するのを見送ると、瑠衣は応接室へと向かった。
店の右側にショーケース型のカウンターがあり、ショーケースには色々な薬湯が並び、華が考案した回復薬も並んでいる。 カウンターの奥に華の作業場に続く扉がある。 店の壁には武器、防具、魔道具が飾られ、見本として置いてある。 店の奥に応接室があり、隣にお客様へお茶を出す為の簡易キッチンが設置されていた。
2階は華の作業場から上がれるようになっていて、在庫置き場になっていた。 他にも会議室兼休憩室もある。
瑠衣が応接室に入ると、中央に置いてあるソファーに向かい合って座り、仁奈とレヴィンが楽しそうに談笑している様子が目に映った。 瑠衣は黒い笑顔を張り付け、仁奈の隣にドカッと座った。 ソファーが軋んだ音を立てて抗議の声を上げる。
「あ、瑠衣。 王子は?」
「華ちゃんを呼びに行ってる」
耳元でコソコソと囁くと、仁奈の頬が赤く染まった。 瑠衣の瞳に意地悪そうな光りが滲む。 向かいから面白がる様な笑い声が聞こえ、瑠衣はレヴィンを見た。 仁奈は更に恥ずかしそうに羊皮紙をテーブルに置くと、勢いよく説明をし出した。
「あ、あの。 レヴィンさん、こちらにオーダーメイドの要望を書いていただけますか?」
瑠衣は少し、レヴィンに違和感を覚えた。 レヴィンは何処か胡散臭い笑みを浮かべて、瑠衣たちを眺めていたからだ。 違和感というよりも既視感に近い。
「はい、分かりました。 あの、要望は何でも聞いていただけるのでしょうか?」
「こちらで出来る事でしたら、何でも訊きますよ。 ただし、私たちにも限度がありますので。 出来ましたらお手柔らかにお願いします」
レヴィンと名乗った少年は、瑠衣の説明ににこやかに答えた。
「はい」
レヴィンはウキウキした様子で羊皮紙に必要事項を書き始めた。 レヴィンの様子に瑠衣の第六感が怪しい奴だと訴えている。 瑠衣はレヴィンの動向をじっと見つめた。 2階から優斗の転送魔法陣の音が聞こえ、2人が戻って来た事が分かり、瑠衣はソファーから立ち上がった。
「すみません。 担当者が戻って来たみたいなので連れてきます。 仁奈、後を頼むな」
(風神、俺が居ない間、ここに居てくれ)
『承知した』
「うん」
風神は、幻影魔法で姿を消して応接室に瑠衣と入れ違いで入っていった。 店に戻ると、カウンターの奥の扉から優斗と華が出て来た。 華と視線を合わすと、顔の前で掌を合わせて眉を下げて華に詫びた。
「ごめんね、華ちゃん。 俺の我儘で行ったり来たりさせて」
返事は優斗から返って来た。
「本当だ」
「優斗、お前。 最近、心が狭くなってるぞ」
「ルイ、しょうがないわよ。 ユウトの過保護は、死んでも治らないわよ」
カウンターで店番をしていたフィンが、訳知り顔で頷きながら宣っている。 隣でフィルも呆れながらもフィンに『うんうん』と賛同した。 空気を察した華が話を変える。
「あ、じゃあ、私はお客様の話を聞いてこようかなっ」
「華、俺も行く。 若い男と2人っきりにさせられないから」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
「駄目」
2人が応接室に向かうのを見て、瑠衣たちは苦笑を零すしかない。 瑠衣はフィンの方を見ると、同意を求めた。
「優斗と華ちゃん、ちょっと1回離れた方がいいよなっ。 大丈夫かよ」
「それは、無理じゃないかしらっ?」
「ぼくは、ユウトとハナが仲いい姿を見てたいっ」
フィルの純粋な瞳にほわっとした空気が流れる。 瑠衣は『いや、依存し過ぎじゃないか』と言いかけて止め、他の事を聞いた。
「まぁ、あいつらの事は少し置いとくか。 それよりあのレヴィンって奴、人間か?」
フィルとフィンは『えっ』と驚いた顔をした後、首を傾げた。
「カレからは、何も感じなかったけど? フィルは何か感じた?」
「ううん。 ぼくも、何も感じなかったけど」
「そうか。 いや、俺の勘違いならいいんだ」
優斗たちと入れ違いで仁奈が出て来た。 そのまま瑠衣と仁奈、2匹のスライムで店番をしていたが、午前中とは打って変わって結構なお客が来店し、瑠衣たちは休む間もなかった。
暫く話し込んでいたレヴィンが応接室から、出て来た。 瑠衣がいるカウンターの前を通ると、ねっとりした笑みを瑠衣に向けて来た。 レヴィンの笑みに、益々瑠衣は不信感を抱いた。
(なんだ? あいつっ! まさか、この俺に喧嘩売ってんのかっ!)
――瑠衣のサプライズにより、自身の部屋が変わった部屋に入った仁奈は、あんぐりと口を開けた。
夕食とお風呂を終え、瑠衣に促されて新しい部屋に仁奈は足を踏み入れた。 部屋を眺めて仁奈が最初に思った事は『ここは何処のスパダリの部屋だ』だった。 夜景が拡がってそうなガラス張りの窓の外は、隠れ家を守る森が拡がっていた。 『ホ~』とフクロウの鳴く声が遠くに聞こえる。
仁奈は軋む首を後ろに居る瑠衣の方へ向けた。
「る、瑠衣。 これは、いったい?」
瑠衣は当たり前のように宣った。
「ん? どうせ、毎晩どっちかの部屋で寝る事になるんだ。 だったら、一緒の部屋にしたらいいだろうと思ってね」
瑠衣の話を聞いた仁奈は真っ赤になって目が飛び出した。 背中に流した銅色の髪が、静電気を帯びた時の様に角を立てる。 瑠衣は仁奈の様子に、面白い物を見つけた様な笑みを浮かべた。
(面白いな。 何て顔するんだよ、仁奈)
仁奈は言葉にならない声を出して固まっている。
「な、な、な、〇△□※~!」
「ほら、とっとと寝るぞ。 ロフトにベッドがあるから」
声にならない叫び声を上げている仁奈を抱き上げ、危なげなく瑠衣はロフトまで上がっていった。 新しい部屋で過ごす初めての夜が、静かに更けていった。
次の日、店に行くと、瑠衣たちが来るのを、レヴィンが待ち伏せていた。 自身も武器の素材集めをしたいと、瑠衣たちは懇願されて困惑する事になる。
――店の応接室で、優斗と華はレヴィンの要望に『困ったな』と眉を下げていた。
優斗は改めてレヴィンの装備を眺めていた。 意外にしっかりとした防具を着ている。 レヴィンは優斗の視線にニヤリと妖しい笑みを浮かべた。 レヴィンの何処か胡散臭い笑みに既視感を抱いた。 優斗の脳内で監視スキルの声が響く。
『魔族の気配はありません。 胡散臭い笑みが篠原瑠衣にそっくりですね』
監視スキルの声に『ああ、人を欺く時の瑠衣の笑みに似てるのか』と目を細めてレヴィンを眺めた。 じっとと見つめて来る優斗に、レヴィンは分かりやすく動揺していた。 しどろもどろで優斗に話しかけてきた。
「あの、何か? 私、変ですか?」
レヴィンの声に、優斗は営業スマイルで応じた。
「いや、新人冒険者さんにしては良い防具を着てるな、と思って。 それに、中々新人からオーダーメイドの武器は作らないんだけどね。 お金がかかるから」
「ああ」
自身の防具を見ると、防具を撫でながら、レヴィンの瞳に妖しい光りが宿った。
「これは、とてもお世話になった人の物なんです」
「へぇ~、そうなんだね」
『人として危なそうです。 気を付けて下さい』
監視スキルの声に、優斗は更に笑みを深めた。
「素材集めだけど、君の希望する魔物が現れてからになるから、少し時間がかかるよ」
「はい、魔物が出るまで通わせてもらいます」
レヴィンは躊躇いなく言い、向かいに座って話を聞いていた優斗と華は、再び『困ったな』と笑みを浮かべた。 優斗の脳内で監視スキルが『あらら』と呟いた。
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