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13話 『地中ダンジョン』

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 地中ダンジョンの壊れた入り口に来た瑠衣たちは、荒野の地面にぽっかり空いた穴を眺めていた。 入り口は階段が作られていて、底は真っ暗闇で全く見えない。

 瑠衣の後ろで仁奈の腕を取ってピッタリと張り付いている華の姿があった。 瑠衣が昔を思い出し『ああ、こういうの苦手だったな。 華ちゃん』と納得した。

 「でも、『ポテポテ』の話し方の方が恐怖を呼んだよな。 華ちゃん、お化けとか幽霊とか怖いのに、『ポテポテ』のアレは平気なんだな」
 「本当に華はズレてるよね」

 瑠衣と優斗は、先が見えない入り口を恐々と見ている仁奈と華を眺め、昔を思い出した。 昔とは、アンバーの家へ向かう為、真っ暗な森の中を歩きながら、瑠衣が悪戯心をだして怖い話をした時の事だ。 2人とも大分怖がっていた事を思い出したのだ。

 ピッタリと引っ付いている仁奈と華を見て、瑠衣と優斗が羨ましいと思っている事に2人は気づいていない様だ。

 「引っ付くなら俺にしとけばいいのに、仁奈の奴っ」

 瑠衣は思っている事をそのまま口にした。 優斗も瑠衣に同意を示した。 優斗の視線先には、いつも華がいる。

 「右に同感」

 別の思い出を思い出したのか、優斗は少し頬を染めていた。 優斗の様子を見た瑠衣は『思い出したのは、エロ関連か』と面白そうに目を細めた。 優斗の肩をガシッと掴んだ瑠衣は、意地悪な笑みを向けた。 すると優斗は分かりやすく狼狽えた。 瑠衣の中で悪戯心が沸々と沸いて来る。

 「優斗、魔物の位置を確認してくれ」
 
 瑠衣はチラリと仁奈と華を見ると、ニヤリと笑った。
 
 「こういうダンジョンってさ、浮かばれなかった冒険者の霊とか出てきそうだよな」

 仁奈と華は肩を小さく跳ねさせた。 顔は青ざめている。 ビビる華を見た優斗が、瑠衣に不機嫌な顔で抗議した。 瑠衣の人の悪い笑みが益々拡がった。

 「瑠衣っ! 止めろよ。 華が怖がるだろう」
 「ははっ、ごめん、ごめん」
 
 (やっぱり、こいつら弄ると面白いっ)

 フィルとフィン、風神と雷神たち従魔は、主たちの悪ふざけを『これから、魔物討伐に行くというのに緊張感ないな』と呆れた顔で見つめていた。

 ――瑠衣たちは遊びもそこそこに地中ダンジョンへ入っていった。
 
 フィンが銀色の少女の姿に変わり、身体を光らせ先頭を歩く。 全員が着ている白いマントが、フィンの光に反射して白く浮かびあがる。 フィンの後ろを仁奈と華が続き、仁奈たちの後ろを瑠衣と優斗が歩く。 一番後ろは風神だ。 風神の背にはフィルと雷神が乗っていた。 先頭を歩くフィンが優斗に声を掛ける。

 「ユウト、このまま真っ直ぐであってるの?」
 「ああ、あってるよ。 次の角を左だ」
 「了解!」

 『チリッ』
 
 瑠衣たちの周囲の空気が張りつめる。 瑠衣たちの全身に、痺れのような感覚が駆け巡った。 優斗の『魔族だっ!』と叫ぶ声と同時に足元の底が抜けた。 壊れていたダンジョンが魔族の黒いオーラに当てられ、信じられない速度で復元されていった。

 壊されたダンジョンは数年かけて、空気中に微量だが漂っている黒いオーラを吸収して再びダンジョンが作られる。 そうして復元されたダンジョンは、以前よりもレベルの高いダンジョンが作られるのだ。

 瑠衣たちはダンジョンが形成された行く様子をフィンの中で、呆然と眺めていた。 フィンの中は無重力状態だ。 全員がバランスを取って浮かんでいる。 優斗が華を膝に乗せて、監視スキルで分かった事を報告して来た。

 「魔族が黒いオーラをダンジョンに飛ばしたんだ。 待って! 今、魔族の位置を特定する」

 そう言うと、優斗は瞳を閉じた。 瑠衣の頭の中に風神の声が聞こえる。

 『主。 今、ユウトの精神が上へ飛んだ』
 「えっ?! それどういう状況?」

 優斗のこめかみから冷や汗が流れだし、眉間にも濃い皺が寄った。 次の瞬間、優斗は大きく息を吐き出した。 再び、瑠衣の頭の中で風神の声が聞こえる。

 『失敗したようだな。 戻って来た』
 
 「駄目だっ! 追えなかった。 何処にも魔族の気配はなかった。 一瞬だけ、捉えたんだけど。 逃げられた。 でも、こっちを監視してるかもしれない」
 
 (優斗、そんな事も出来るようになったのかっ!)
 
 「そいつ、どんな奴だった?」
 「一瞬だけ見えたけど、前に街で見かけた魔族だった。 翼が生えた犬のような魔物に跨ってた」

 話を聞いた瑠衣から『ちっ』と舌打ちが漏れる。 そうしているうちに新たなダンジョンが形成された。 瑠衣たちはダンジョンの途中の階層に降り立ち、フィンから吐き出されて砂地の上に立った。 瑠衣の隣で華を下ろした優斗が、狙っていた魔物の位置を特定した。

 「予想通り、魔物はダンジョンのボスになったみたいだ。 一番、最下層だ。 予想よりも強くなってるぞ」
 「まじかっ! 魔族の奴、余計な事しやがってっ。 生きて出られるか、俺ら」
 「大丈夫じゃない? 瑠衣と王子がいるんだし」

 楽観的な意見を言う仁奈を、瑠衣は目を細めて見た。 そして、無鉄砲な仁奈の肩を掴んで釘を刺した。 仁奈の肩に止まっていた雷神が、瑠衣の勢いに押されて抗議の声を上げながら飛び立つ。

 「仁奈、絶対にむやみに突っ込んで行くなよっ! 出来立てなんだ。 何があるか、どんな魔物がいるか、分からないんだからなっ」
 「しかも、魔族のオーラを吸収してる。 ここに出て来るモンスターは、魔族に操られていると思っていて間違いないよ。 皆、気を引き締めてね」

 フィルにしては、低い声がダンジョン内にこだました。 瑠衣たちがその事実に大きく息を呑んだ。 優斗のそばで華が鞄を探り、何かを取り出した。 華が取り出したのは数個の丸い瓶だ。

 中身は華が考案した飴玉大の大きさの回復薬と同じ様な物が入っていた。 中の飴玉の様な物は、金色に輝いていた。 華が皆の前で掲げ持つと、薬の説明をした。

 「これはね、浄化薬モドキの魔法弾です。 こんな事もあろうかと、大量に作っておいたの。 必要になると思って」
 
 華は『はい』と皆に配りながら説明を続ける。
 
 「投げつけるもよし、地面に叩きつけるのもよし。 でも、飲むのは止めてね、ガラス玉だから。 自分の身体にかける様だけにしてね。 魔道具も作ったから、絶対に外れないよ」
 
 華は再び『はい』と皆に魔道具を渡した。
 
 「ただし、効果は聖水で作った物の10/1位しかないのよね。 残念だけど」
 
 華は注意事項の説明も忘れなかった。 優斗が華に微笑みかける。
 
 「いや、これでも充分、心強いよ。 ありがとう、華」

 瑠衣たちの周囲に不安な空気が漂っていたが、一気に和やかな空気に変わった。 それぞれが華の作った腕輪型の魔道具を受け取って見つめた。 瑠衣と仁奈の物は、ユリの花の形をした魔法石が連なっている物だった。 華から魔道具を受け取った優斗は、音を立てて固まった。 瑠衣は優斗に心から同情した。

 瑠衣と優斗は渡された魔道具を見ると、顔から表情が抜けた。 ユリの花の魔道具を見て、もう少し、瑠衣が男だという事を考慮して欲しかった、と内心で呟いた。

 優斗の魔道具は、当然の如く黒い竜だった。 優斗の木刀の鍔に使われている物と、ベルトに使われている物と同じだった。 優斗の魔道具を見て瑠衣が呟く。

 「流石は華ちゃん。 優斗に竜を巻き付かせたい願望が現れてるな。 でも、今回は優斗の方が絶対的にいいな。 ちょい、花柄は恥ずいわっ」
 「瑠衣、言葉にするなっ。 なんか恥ずかしいからっ」

 優斗は『優斗に竜を巻き付かせたい』という言葉に反応したらしい。 片手で顔を覆って照れている優斗を見ると、瑠衣は『初い奴めっ』、と意地悪な笑みを浮かべた。

 恥ずかしいと言いながら、2人は大人しく魔道具を腕に嵌めた。 仁奈はとても気に入ったようで、華にお礼を言っていた。

 「ありがとう、華。 実は前から、こういう魔道具、使ってみたかったんだよね」
 「心の中で、魔法弾を飛ばすイメージを浮かべるだけでいいからね」
 「分かった」

 そして、フィルとフィンの分の魔道具もあった。 フィルとフィンの魔道具は華と同じ物だった。 フィンは喜んでいたが、フィルは微妙な顔をした。 フィルは可愛いよりも、かっこいいを目指している。 フィルは、優斗の魔道具を恨めし気に見つめていた。

 ワイワイと騒ぐ仁奈たちを連れて、瑠衣たちはダンジョンを進んだ。 先に進んだ瑠衣たちの目の前に現れた魔物は、やはり魔族に操られていた。 瑠衣たちは自身の武器を構えて、現れた魔物と対峙した。

 ◇

 ダンジョンの遥か上空では、魔族の姿に変わったレヴィンが面白そうに地上を眺めていた。 レヴィンの様子は、かつてのベネディクトを彷彿とさせる。

 「さぁ、面白いものを見せてくれよ。 世界樹に選ばれた人間、本当の力を見せてくれ」

 レヴィンの目の前で黒いオーラが拡がると、瑠衣たちの姿が映し出された。 とても13歳とは思えない笑みを浮かべ『クックッ』とレヴィンの笑い声が上空に響いていた。
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