I've always liked you ~ずっと君が好きだった~

伊織愁

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悠里と佐奈の場合(中編下)

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 「〇△□※~~!!」
佐奈の声にならない叫び声が、三年校舎裏に響き渡った。 急いで悠里から出来るだけ飛びのいて離れる。 

 (塩谷くんって距離感が近すぎ!! そこそこ美形だから心臓に悪い!)

 悠里は佐奈の様子を面白そうに見ている。 悠里に揶揄われているのは分かっている。 入学式で出会ってからずっとそうなのだ。 悠里が直ぐに佐奈との間合いを詰めてくる。

 「気づいてる? イヤホンがちゃんと携帯に差し込まれてないから音が駄々洩れだけど、コードレスイヤホン使ってないんだな」
 「っつ、あれは、失くす確率が高いから使ってないっ」
 (っはず! 全然、気づかなかった! むしろ聞こえにくいからもっと音量上げようと思ってた!)

 悠里に指摘されて携帯を確認すると、先端がちょっと差し込まれてただけだった。 何で気づかなかったのか佐奈自身も信じられない。

 「俺、ここで見てるから。 自由にやって」
ニコニコ笑顔で壁に凭れ掛かって、持ってる袋の中身を探り出す。 ここでお昼を摂るようだ。
 「えっ」
 (え! 嫌だ! 切実にどっか行って欲しい。 一番、見られたくない人の前で練習するとかって何プレイよ!!)

 視線に気づいた悠里が佐奈の方を見る。 目が合うとふっと目元を緩ませた悠里に心臓が軽く跳ねた。

 「相川、昼は? 食べないで練習してるのか?」
 「いや、もう、食べたから」
 (三限目の休み時間に早弁した何て言えないっ)
乾いた笑いを漏らした佐奈は、チラリと悠里の方を見る。
 
 悠里は『ふ~ん』とさして興味ないのか、特製コロッケパンにかぶりついている。 悠里の動く様子がない気配に、佐奈は大きく溜息を吐いて、覚悟を決めて練習を再開させた。 背中に悠里の視線が突き刺さって来るが、気にしないと自分に言い聞かせ、佐奈は応援団の練習を続けた。



――午後の鐘が校舎に鳴り響く。
 教室に戻った佐奈はぐったりと机に項垂れた。

 (精神をごっそりと削られて終わった。 何でいつも構ってくるんだろう。 かまってちゃんか?)

 悠里の今までの言動を思い出し、一つの仮説に辿り着いたが、直ぐに頭に浮かんだ仮説を打ち消す。 『まさかね』とあるわけないと佐奈は頭を振って、仮設を頭から追い出した。

 次の日から練習場所を変えようかと思っていたが、悠里はどこにでも現れる。 一時はどこかで見張られてるんじゃないかって思うくらいに。 教室が遠いはずなのに悠里と出くわした。

 隣のクラスと言っても、CクラスとDクラスで文字が隣り合わせなだけだ。 A~Cは特進クラスで学力のレベルが段違いで違う。 一般クラスのD~Fは、学力は普通だけど、特進クラスに入れなかった生徒も大勢いるので、偏差値は高い。

 一・二年生の特進クラスは三階で、一般クラス・特待生クラスは二階、一階は一年生の一般クラス・特待生クラスが使っている。 因みに、一学年A~Iクラスまである。 G~Iクラスは特待生クラスで、主にスポーツと芸術に長けた生徒が在籍している。 三年生の校舎は渡り廊下で繋がった別の棟だ。

 日本全国、海外から生徒を募っているので、昨今の少子化にしては、生徒数は多い。 悠里は特進クラスで佐奈は一般クラスだ。

 そういった理由で、佐奈と悠里は毎日、顔を合わせる事が難しいはずなのだ。 どちらかが会いに行かない限りは。



――放課後の食堂、佐奈はいつもの様に同じクラスの応援団の練習仲間と休憩中だった。
 佐奈はニコニコ笑顔の悠里を困惑の表情で迎えていた。 テスト期間も終わり、通常授業も始まり、本日から放課後の活動も許された。

 (何で、ここにいるの!!)

 悠里がにっこり笑い、軽い音が鳴り、佐奈が座っているテーブルの目の前に、スポーツドリンクのペットボトルが置かれる。 佐奈は、悠里の姿を見ると、頬を引き攣らせて困惑の表情を見せた。

 「俺の奢り。 どう? 少しは上達した?」
 (正直、その事は訊かないで欲しいっ)

 佐奈は乾いた笑い声しか出ない。 悠里の目が怪しく光り、面白がっているのが、悠里の表情にありありと出ている。 悠里は、佐奈が嫌がっている事を確実に分かっている様子だ。

 「一緒に練習したげようか? 俺、振り付け全部覚えてるし」
 「いや、結構です」
 (絶対にいや!! 他のクラスなのに、何でうちのクラスの応援団の振り付け、覚えてるの!!)

 悠里がテーブルと佐奈が座っている椅子の背もたれに手をつき、佐奈との距離を縮めてくる。 悠里の方を見ると、意地悪な顔をして笑みを浮かべている。 悠里から得も言われぬ色気が漂ってきた。

 (何、その只ならぬ色気!!)

 佐奈は腰が引けて、大きな音を立てて椅子ごと悠里から離れた。 後ろから京太郎の声がする。

 「おい、悠里。 相川が引いてるの分かってて、追い詰めるな」

 京太郎が悠里を止めてくれて、佐奈との距離が物理的に離された。 佐奈から自然と安堵の吐息が漏れる。 佐奈の様子に不満気な顔をした悠里だが、京太郎に強制連行されて行った。



――それからも神出鬼没の悠里に悩ませられる佐奈
 一・二年校舎と三年校舎の間にある食堂の建物は、三階建てだ。 一階が食堂で二階が図書室、三階を職員室として使っている。 佐奈は、まじかに迫っている期末テストに向けて勉強する為、図書室に来ていた。

 (この間、中間が終わったばっかりなのに、もう、期末か~。 時間が経つのは早いっ、中間やばかったからなぁ。 真面目にやらないとって思っているのにっ)

 図書室の開けた窓から風が入り、佐奈の黒髪を揺らす。 溜め息を吐くと、中庭を何と無しに眺める。 先ほどから全く勉強に集中出来ない。 手中出来ない理由は分かっている。 佐奈から少し離れた場所をじろりと半眼になって見つめた。

 悠里が特進クラスの女子と『きゃきゃうふふ』と楽しそうに勉強をしている。 悠里の笑顔に『楽しそうでよろしい事で』と、佐奈の胸に意地悪な感情が過ぎる。

 (私、何でこんな事、思ってるんだろうっ?!)

 悠里の周りにいる女子の一人が、一際大きな声で騒いで悠里の腕に巻き付く。 佐奈の胸に一気に冷気が広がった。 段々、佐奈の表情が無くなっていく。
 
 佐奈の様子を伺っていた悠里と目が合う。 にっと意地悪な笑みを作る悠里に、心の底から腹が立つ。 これ以上勉強に集中出来なくて、佐奈は図書室を後にした。

 (何あれ!! デレデレして!! 何で私、あんな意地悪な奴の事なんか気にしてんのっ)

 佐奈は廊下の真ん中で、頭を抱えて項垂れた。 佐奈の後ろで誰かが立ったような気配がすると、色気のある低い声が降りて来た。

 「おい、相川。 廊下の真ん中で立ち止まるな。 通行の邪魔だ」

 不機嫌な声に振り返ると、伊織が大量の本を抱えて立っていた。 佐奈は、キリッとした目で伊織に見つめられ、心臓が急激に収縮を始める。 顔に蒸気が上がり、頬が熱を持ち、全身が石になって動かない。 キラキラな伊織に卒倒しそうだ。 佐奈が胸に抱えている教科書を見た伊織が声を掛けてくる。

 「なんだ、自主勉か? 相川は、中間やばかったからな。 しっかりやれよ」

 佐奈は、伊織に頭をくしゃくしゃに撫でられ、更に顔が火照った。 通り過ぎて行く伊織の背中をじっと見つめる。 佐奈の横を通り過ぎる時、伊織が後ろをチラッと見たような気がした。

 (何、今の!! そんな事されたら、キュン死するんですけど!! ん? なんか、行き成り暗くなった?)

 佐奈の視界が突如暗くなり、不審に思って顔を上げると、黒い笑顔の悠里と瞳とぶつかった。 佐奈の全身から血の気が引き、周囲の温度が下がったのが感じられ、佐奈の体が小刻みに震える。

 佐奈の第六感が『逃げろ』と囁く。 足が反射的に動き、佐奈は踵を返して逃げ出した。 背中に悠里の無言の圧力が突き刺さる。 一階の食堂まで降り、中庭に駆け出す。 中庭を突っ切って、一・二年校舎の昇降入り口まで走った。 そこで、追いかけてきていた悠里に捕まった。

 壁まで押し合い揉み合い、二人の足音が下駄箱に響く。 佐奈は傘立てに足を取られ、壁際に置いてある傘立ての上に座り込んでしまった。 

 「っつ!」

 傘立てが音を立てて揺れ、お尻の感触に何かがへしゃげたのを感じたが、佐奈は気にする余裕がなかった。 佐奈の視界いっぱいに悠里の顔があったからだ。 次に佐奈の唇に感じた感触に、体が反射的に動いた。

 鈍い音と頭頂部に地味に広がる痛み。 佐奈は悠里の顎に頭突きを喰らわし、佐奈の瞳には涙が光る。 悠里の顔が後悔と恥辱に歪み、佐奈の涙に動けないでいる。 無言で暫く、お互いを見つめた後、顎を抑えて動かない悠里を突き飛ばし、佐奈は校舎を飛び出して行った。

 佐奈の背中を見送った悠里は、溜め息を吐いて、ただ、地面を見つめるだけだった。 悠里の胸には、後悔しか残っていない。
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