I've always liked you ~ずっと君が好きだった~

伊織愁

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隼人と芙美の場合(中編上)

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 今日の教室は、いつもと雰囲気が違う。 クラスメイト達が口々に昨日の話をしていた。 隼人が『とうとう、ストーカー行為で伊織くんに捕まる』という話題で持ちきりだった。 自分の席でクラスメイトの話が耳に入って来た芙美は、青ざめて固まっていた。

 ざわついている教室の扉が乱暴に開け放たれ、扉が擦れる音と打ち付けられる音が教室中に響き渡る。 今まで騒がしかった教室が水を撃ったように静まり返り、クラスメイト達の視線が一斉に扉付近に集中した。

 『般若が降臨なさった!!』クラスメイト全員の心の声である。

 (は、般若がいる~! いや、違う。 九条くんだっ! あの顔は、とても怒っていらっしゃるっ!)

 恐る恐る扉付近を見た芙美は、隼人を見て恐怖に震えた。 隼人が教室を見回すなり、ギロリと芙美を睨みつけてくる。 強い眼差しに、何故か寂しさが混じっているような気がして、芙美の胸に小さな痛みが刺した。

 いつもなら芙美を揶揄ってくる隼人だが、今日は芙美をチラリと見ただけで自分の席に着いてしまった。 てっきり絡んでくると思っていた芙美は、隼人の態度に寂しさを覚えたが少し拍子抜けした。



――放課後の手芸部
 開け放たれた窓から秋の風が吹き抜けていき、もう、風が冷たくなってきている。 流石に寒さを感じ、窓を閉める為に窓際に近づくと、裏庭を眺めた。 いつもいる隼人の姿が見えない。 木陰に座り、読書をしていて、時折こちらに視線を向ける隼人の様子が脳裏に過ぎる。 ぼうっと裏庭を眺めていると、後ろから他の部員が声を掛けてきた。

 「芙美ちゃん。 文化祭の打ち合わせ始めるよ」
 「うん」

 芙美は頭から隼人の残像を追い払い、窓を閉めて皆の元に戻った。 手芸部の窓の閉まる音が、裏庭に小さく響く。 裏庭にある葉緑樹の裏に、人影が覗く。 手芸部を寂しそうに覗く隼人の姿があった。



――穴場スポット、1・2年校舎の屋上、数分前にお昼休みの鐘は鳴っている。
 扉を開けると冷たくなってきた風が隼人の長い髪をなびかせる。 後から続いて扉を潜った小柄な少年が、自身の肩を抱いて小刻みに身体を震えさせた。 続いて潜ったのは黒髪短髪のクール少年、こちらは無表情で感情が読めない瞳で遠くを見つめている。

 「うわっ。 ちょっと寒いな。 やっぱ屋上は止めといた方が良かったんじゃない?」
 「そうだな」

 隼人は焦燥感丸出しで『はぁ~』と溜め息を吐くと、大袈裟に屋上の柵にもたれかかる。 隼人の様子を小柄な少年とクール少年は、半眼になってジト目で隼人を見つめた。

 「何あれ、かまってちゃんか? あれか、里中たちの部が、隼人の奇行を気持ち悪がって苦情出したのが効いてるんだな」

 隼人の胸に棘が1本グサリと突き刺さる。 小柄な少年は、隼人の様子に気づかないようで、話を続ける。

 「でも、何で今更? 隼人の放課後の奇行って、1年の時からだっけ? もう、2年弱くらい?」
 「この2年弱の間に、隼人の奇行の証拠と記録を取って、満を持しての苦情だったんだろ。 ストーカー行為を訴える時の常識だ」

 隼人の胸に更に棘が数本突き刺さり、肩を震わせている。 隼人の様子にクール少年は苦笑を漏らした。

 「俺は、苦情を申し立て部は、手芸部以外の部って聞いたけど」

 クール少年の言葉で、隼人に刺さっていた棘が数本、抜け落ちていく。 顔を上げた隼人の表情が明るく輝く。

 「避けてないで。 直接、里中に訊いてみれば?」
隼人はクール少年の顔を見つめて眉毛を下げると、切なげに小さく頷いた。



――次の日のお昼休み、穴場スポット屋上は誰も居ない。
 隼人と芙美はベンチと簡易パイプ椅子に向かい合い、それぞれ座っている。 隼人は、お昼休みに芙美を屋上に誘っていた。 珍しく芙美が隼人の誘いに乗って来た、芙美の方にも話があるらしかったからだ。 何故か、隼人の友人二人も黙って着いて来た。 今は少し離れた場所にいて、隼人たちの様子を伺っている。

 芙美がベンチに、隼人がパイプ椅子に座り、2人の間には箱椅子が置かれ、芙美の手作り弁当が並べられており、芙美の瞳は不安げに揺れていた。 昨日の放課後に芙美に確認すれば良かったのだが、隼人にも心の準備がいる。 もし、芙美に拒否られたら、隼人は生きていけないからだ。

 「じゃ、文芸部、ぽちゃこが苦情を出したんじゃないんだな?」
 「うん、文芸部の皆には九条くんは、変な人じゃないってフォローしてあるし、皆は分かってくれてるよ。 でも、他の部の人はちょっと、気味悪がってるかなって。 だから苦情出したのも、隣の部屋を使ってる写真部だと思う。 九条くんのこの2年弱の間の記録を取ってたみたい」
芙美の話に、隼人の眉間に皺が寄った。
 「あの、放課後の奇行さえ止めれば、これ以上揉めないと思うけど」
 「じゃ、その代わりに毎日、放課後は俺に付き合って」
 「それは無理。 文化祭の準備もあるし、本来なら受験勉強も頑張らないといけないし」

 隼人の表情が見る見るうちに曇っていき、口を尖らせて不機嫌になっていく。 隼人の様子に芙美が眉毛を下げて、明らかに『困ってます』と顔に出ている。 芙美が不意に少し離れた場所にいる隼人の友人に目線で助けを求めると、隼人は芙美の頬を両手で包み、自分の方に向ける。

 にっこり笑って『何処見てんの』と隼人の目が芙美を攻めたてると、慌てふためく芙美を意地悪な笑みを浮かべ、面白そうに眺めた。 二人の様子を遠目で見ていた隼人の友人少年二人は、呆れた表情で見つめていた。

 「あいつ、彼氏か? 里中の彼氏なのか? 『今は、受験で忙しいから、暫く会うのは止めましょ』って言われた彼氏みたいじゃん」
 「まぁ、放課後の覗き見は、隼人のお気に入りのルーティンだったからな。 楽しみを奪われてムカついてるんだろ」
クール少年が的確に隼人の心情を述べた。 小柄な少年は呆れた声を出す。
 「ってか、あいつあんなポンコツだっけ? 里中もはっきり言った方がいいぞ。 『私たち付き合ってません』って」

 友人二人が好き勝手に話す内容は、隼人たちに筒抜けだ。 隼人はガクッと肩を落として、居たたまれなくなって両手で顔を覆った。 羞恥で耳まで真っ赤になっていると、芙美も俯いて真っ赤になって何も言えないでいる。 

 (ぐっ、確かに、今のは彼氏面みたいになったしまったけどっ)
 「お前ら全部、聞こえてるからな!」 
隼人は立ち上がって、友人二人に向かって吠えた。 隼人の顔はまだ、羞恥で真っ赤に染まっている。
 「あはは、自称彼氏が怒った♪」

 隼人は小柄な少年に詰め寄ると、睨みを利かせる。 隼人の睨みを平然と受け止め、小柄な少年はもっともな事を述べた。 小柄な少年が隼人に熱い眼差しを送ってくる。

 「隼人、肝心な事、里中に何も言ってないだろ? 告るチャンスだ!」

小柄な少年が言い放った言葉に、隼人の全身が音を立てて固まった。 頬もひくひくと引き攣らせている。

 「うわぁ、固まった。 分かりやすいヘタレだな。 それでいて俺のものみたいな発言。 イタイわ~」

 更に小柄な少年が追い打ちを掛けてくる。 クール少年の苦笑に、負けた気になった隼人は、思いもよらない事を宣った。

 「よし、決めた! 俺も文化祭に参加する。 もちろん、ぽちゃこの有志の会で! そして、文化祭準備期間も含めて、文化祭終わるまでにぽちゃこに告る!」

 小柄な少年とクール少年が唖然として固まった。 コソコソと話していたので離れた場所にいた芙美には聞こえていない。

 「もちろん、亮と直も参加するよな?」

 隼人の笑顔には『逃げるのは許さない』とありありと書いてある。 小柄な少年の名前は亮といい、クール少年は直之といい、2人は直と呼んでいる。

 「え~~! やだよ! 文化祭は女の子と二人で回って遊びたい!」
 「俺はいいよ。 大学推薦で決まって暇だし、亮も決まった女いないだろ」
 「いないけどさっ! それはこれから見つけようと」
再度、隼人の有無を言わさない笑顔が亮に迫って来て、亮は隼人の圧力に負けた。

 「話、済んだ? そろそろお弁当食べない? 良かったら、お友達二人もどうぞ」

 にっこり微笑んで芙美がお弁当を差し出す。 芙美の笑顔にその場の空気が一気に和んだ。 お弁当の時間にして、先ほどの隼人とのやり取りをうやむやにしようとしている芙美に、隼人は全く気付かない。 芙美の意図を無視して隼人は高らかに宣言した。

 「俺も文化祭に参加する。 勿論、ぽちゃこのとこの手芸部と一緒に! 亮と直も手伝ってくれるって」
 「え~~~! 私たちと一緒に? 本気で言ってるの?」
 「そうしたら放課後、一緒にいれるだろ。 受験勉強も教えれるぜ」

 芙美が隼人の執着心にたじろいで一歩、また一歩と後退して、隼人から距離を取った。 隼人は、芙美が後退した分詰め寄り、意地悪な笑みを向ける。

 「早速、今日の放課後、手芸部に紹介しろよ」

 芙美が逃げられない事を悟り、深いため息をついたのを面白そうに隼人は眺める。 後ろで、更に二人の様子を面白そうに眺めている直と、不満たらたらな亮の溜め息が屋上に微かに響いた。
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