I've always liked you ~ずっと君が好きだった~

伊織愁

文字の大きさ
12 / 22

隼人と芙美の場合(前編)

しおりを挟む
 「ぽちゃこ、その玉子焼き、美味しそうだな。 それ頂戴♪」

 隼人は何時ものように、芙美の前の席に座り、口を開けて玉子焼きが口元に運ばれるのを待っている。 目の前で座っているクラスメイトの里中芙美が、目を見開いて驚愕の表情で固まっているのを、隼人は内心で面白おかしく眺めた。 隼人が芙美を揶揄って楽しんでいる様子は、最早クラスでは見慣れた光景だ。

 (ぷっ! めっちゃ固まってる。 ちょっと、可愛いな)

 隼人は笑いが堪えられなくなり、肩を揺らして噴き出した。 芙美も揶揄われた事に気づき、真っ赤になって憤慨している。

 「九条くんっ、揶揄ったのね!! もう!!」
 「悪りぃ、悪りぃ、悪かったって。 自分で食べるから」

 隼人は、芙美が持っていた箸を取り上げ、玉子焼きを摘まむと口に運ぶ。 教室で目撃した女子たちが、驚愕の悲鳴を上げた。 当の芙美は、何が起こったのか理解できない様子で、口を開けたまま2度目の硬直だ。

 「うん、相変わらず旨いな。 今度、俺にも作って来てよ」

 芙美は、口を何度も開閉して、何も言えないでいる。 隼人は、芙美の様子を楽しそうに眺め、目を細めて購買部で買って来た特製コロッケパンを頬張った。 芙美が箸を恨めしそうに眺め、仕方なく箸を使うのを、隼人は意地悪な笑みを浮かべて眺めた。

 九条隼人は、高身長でモデル体型。 茶髪に長髪で、ピアスホールを何個も開けている。 イケメンというよりは、美人の部類に入る彼は、チャラチャラとした見た目とは違い、真面目に授業に参加している。

 里中芙美は、小柄で、真面目で大人しく、容姿も十人並みで、何処にでもいるこれっと言って特徴のない、目立たない女子生徒だ。 ただ、少しだけ人より肉付きが良く、ポチャッとしているのが芙美にとっては悩みの種である。

 隼人と芙美は同じ中学出身だが、隼人は2年生まで特進クラスにいて、芙美が一般クラスにいる事に、1年時の体育祭まで気づかなかった。 特進クラスと一般クラスは、使用する教室の階が違う。 余程の事がない限り、廊下ですれ違ったり、偶然出会う事なんてない。 3年は進学する大学の偏差値でクラス分けされる。 

 隼人は3年に進級する時に、芙美の偏差値に合わせ、進学する大学を決めた。 結果、クラスの皆より早々に推薦で大学が決まった。 3年生は受験勉強が優先され、学校行事が全て有志での参加になる。 故に、隼人は卒業までの時間を暇を潰して過ごしている。 芙美へのちょっかいも、暇潰しの一環である。



――放課後、隼人は当たり前のように芙美を誘った。

 「ぽちゃこ、一緒に帰ろうぜ。 どうせ暇だろ? 駅前のカフェ行こうぜ」
 「ごめんなさい。 今日は、手芸部があるからっ」
 「手芸部? 3年は何処の部でも1学期で引退だろ?」
 「あ、そうなんだけど。 有志で文化祭に参加しようかって言ってて、今日はそれの打ち合わせなの」
芙美は申し訳なさそうな顔をして『じゃあ、また明日』と教室を後にしてしまった。

 「また、振られたのか。 隼人♪」
 「ぐっ」

 3年に進級した春から、隼人は芙美を放課後デートに誘っているが、芙美が誘いに乗ってきたことは一度もない。 高校からの友人で小柄な少年が隼人の肩を組んで、楽しそうに笑っている。 反対側から、中学からの親友の声が聞こえてきた。 中低音で、廊下の端まで通りそうな声だ。

 「いい加減、諦めたらどうだ? 相手にされてないだろ」
 「うっ」
 「そんなにいいかな? ぽちゃこ」

 小柄な少年のセリフに、一気に周囲が冷気に包まれる。 小柄な少年は、突然の温度変化に自身の体を抱きしめ、クール少年は慣れているのか動じない。

 「俺意外の奴が、『ぽちゃこ』って呼ぶんじゃねぇ。 あいつを『ぽちゃこ』って呼んでいいのは俺だけだ」
 「どんな独占欲だよっ! ってか、揶揄ってたんじゃなくて、愛情表現かよっ」
 「里中には伝わってなさそうだけどな」
 「むっ。 何で伝わらないんだ! こんな分かりやすいのに~」

クール少年と小柄な少年に、哀れみの目で見られている事に、全く気づかない隼人だった。
 


――ある日の放課後

 (分かってる。 こんな事しても、きもいだけだって)

 3年の校舎裏に学校が作った施設に続く一本道がある。 施設には、様々なスポーツに対応したスポーツセンターや芸術棟、研究施設などもある。 一本道の右側にクラブ棟があり、左側は運動場になっていた。

 クラブ棟には、校舎内に部室を持てない部活動の部室がある。 芙美が所属している手芸部もその一つだ。 手芸部の部室は1階にあり、3年校舎とクラブ棟の間にある裏庭から、手芸部の様子がよく見える。 裏庭から手芸部を眺める事が、1年の体育祭で芙美を見つけた時から、隼人の日課になっていた。

 「お前は、ストーカーか」

背後から不愉快なセリフを吐かれた隼人は、素早く反応する。
 「気配、消して近づいて来て、さらっと人聞き悪いこと言うなよ。 伊織くん!」
声と気配で分かった隼人は、伊織を見ると睨みつけた。
 「苦情が来てるんだっ。 クラブ棟の1階を部室に使ってる部から。 毎日、高身長のピアスホールだらけで、茶髪の長髪ヤンキーが、ずっとこっち見てて怖いってな」

 腕を組んで呆れ混じりの溜め息を吐いた伊織に、思いもよらない事を言われた隼人は、驚愕の表情で固まった。

 「えっ?」
 「生活指導室に来い」
伊織のこめかみには、青筋が立っていて、ついでに銀縁眼鏡のレンズも怪しく光っていた。
 「くっ」



――生活指導室で、中央に置いたテーブルを挟んで座ると、伊織が話を切り出した。

 「お前、何やってんの?」

 隼人はムスッと口を尖らせて何も言わない。 隼人と向かい合わせで座った伊織の瞳は、何処までも冷たく光っていた。 手を組んで顎を乗せた伊織が低い声で隼人の名を呼ぶ。

 「隼人」

上目遣いで伊織を見ると、観念したように隼人は自分の気持ちを吐き出した。
 「だって! 全然、俺の気持ち伝わってないんだぞ! 分かりやすくアプローチしてるってのに!」
 「だからって、毎日、毎日、見られたら気持ち悪いだろっ。 里中の周囲の生徒からも気持ち悪がられるわ!」
 「な、なんでっ?!」
 「さっき、分かりやすくアピールしてるってお前が言ったんだろうがっ。 里中以外は、皆知ってるって事だ!」
伊織が頭を掻きながら、溜め息を吐いた。
 「何、焦ってんの? お前」
 「伊織くんは、俺の親父と付き合いあるから知ってるだろ。 高校卒業と同時に、俺が親父のお気に入りを婚約者にあてがわれるの」
 「ああ、九条家当主に聞いてるよ。 俺がこの学校に着任する時に、一応、変な虫付けるなって頼まれたな」
隼人は口を引き結んで伊織を睨みつけると、吐き捨てるように言った。
 「っ。 伊織くんも敵か!」
 「敵か味方かって訊かれるとなぁ。 九条家は、相葉グループのVIP待遇の取引先だから、下手な事は出来ないんだよな。 俺は、継ぐ気ないから、関係ないと言えばないけど。 家との繋がりでそういう訳にもいかないんだ。 無下には出来ないんだ、悪いな」
 「変な虫って! 伊織くんだって、女でも男でもとっかえひっかえしてた癖にっ!」
 「してないわ! 人聞き悪いこと言うな! 俺の事は関係ないだろうがっ」
 「今でも迎えに来るじゃん。 自称、恋人たちがっ。 伊織くんだって、相葉グループの会長にあてがわれた婚約者を放置してる癖にっ」

 隼人の言葉で部屋の空気が一変する。 何処からか冷気が漂い、一気に部屋の温度が下がった。

 「ほう、言うようになったな、隼人。 ガキの頃は、俺を遠目で見て怖がって、近寄りもしなかったのにな。 それと、お前には、もう一つ言いたい事があるんだがっ!」
 「えっ! 何?」
伊織の目の奥が笑っていない瞳に見つめられ、冷や汗が流れて隼人の背筋が凍った。

 「お前が『伊織くん』呼びするからっ! お前の所為で、生徒たちに『伊織くん』呼びが定着しただろうが、どうしてくれるんだ! 元々お前は『伊織くん』呼びしてなかっただろう?」
 「それは、まぁいいじゃん。 そんな事よりも! ぽちゃこの事、親父には黙っててよ。 お願い!」

 隼人は顔の前で両手を合わせ、お願いポーズをして懇願した。 九条家当主に知られたら間違いなくややこしい事になるのは目に見えている。

 「放課後のストーカー行為は止めろよ。 それに当主への報告義務はない。 お前の味方とも言わない。 ストーカー行為については、正式に苦情が来てるし、学校には報告義務があるから、反省文な。 明日の朝、提出しろ。 もう、帰っていいぞ」

伊織は『気を付けて帰れよ』と生活指導室を後にした。

 (正式に苦情ってっ! ぽちゃこの癖に生意気なっ)

 苦情を申し立てたのは、手芸部以外の部なのだが。 芙美が手芸部の部員に、隼人をフォローしている事を知らなかった。 そんな事とは知らずに、芙美への憤りと切なさを募らせていく隼人だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

隣の夫婦 ~離婚する、離婚しない、身近な夫婦の話

紫さゆり
恋愛
オムニバス形式です。 理解し合って結婚したはずの梓、同級生との再会が思わぬことになる雅美、年下の夫のかつての妻に引け目を感じる千晴、昔の恋の後悔から前向きになれない志織。 大人の女性のストーリーです。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...