I've always liked you ~ずっと君が好きだった~

伊織愁

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隼人と芙美の場合(後編)

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 隼人の頭上には、どんよりとした雲がかかっており、雨が降っている。 失恋した男の朝である。 今日は、文化祭の準備日だ。 借りる教室で文化祭の準備をする。 もう一つ問題が発生した。 手芸部など弱小の部活は、教室の1室を2つの部が半分に区切って使用する。 手芸部の相方は写真部だった。

 そう、隼人のストーカー行為の苦情を出した部だ。 あれから、隼人の放課後の奇行はない。 芙美たちと一緒に文化祭準備をしていたのだから、覗く必要もなくなったからだ。

 今更、相方を交換してくれとも言えなくて、お互いに気まずい思いのまま準備を始め、半分を区切る為に衝立を立てた所で、隼人たちはやっと楽に息が出来た。

 しかし、必然的にお互いに声を潜めて会話をする。 写真部は部員の写真を展示するだけで、本番も部員が2人程が当番で時間を決めて回すらしい。 部長が両腕を腰に当てて、隣と隔てている衝立を見つめ、ひそひそと話した。

 「本番は隣は静かだろうね。 何も言って来ないし、大丈夫と思うわ」

 隼人は、何も無かったように自然に芙美に話しかけている。 芙美は少し、ぎごちないが自然に振舞おうとしていた。 隼人もここまで来るのに、亮と直に宥めすかされ、叱咤され、最後は両腕を掴まれて引っ張って連れて来られた。

 「さぁ、頑張って準備を始めるわよ!」

 衝立の前、窓ぎわのスペースにL字型の簡単な畳2畳分のキッチンスペースを作る。 そこをお茶菓子を準備する場所に設定し、キッチンスペースの前に長机を2つ並べて体験ブースを作る。 テーブルクロスは手芸部員が全員で作ったパッチワークだ。 椅子は理科室の背もたれのない椅子を借りて来て、クッションをおく。

 クッションも部員の手作りを各自持ってきていた。 廊下側と空いてある衝立の前のスペースに、前もって組み立てていた飾り棚を並べて、それぞれ各自の展示作品を並べていく。 拓哉がクラスの劇の練習の合間に来て、自分の作品が展示されているスペースに追加でアクセを並べていく。

 「なんか、カントリー風なんですね。 隼人先輩のイメージじゃない」
 「こっちの方が手作り感が出るだろ? ちょっとした雑貨屋っぽくなったじゃん」

 途中で昼休憩を挟み、休まず作業を続け、夕方近くに文化祭準備は終わった。 最後に黒板に皆でウエルカムの文字を書くと全ての準備が終わった。



――放課後の屋上も穴場スポットだ。
 芙美と手芸部部長は、文化祭の準備を終え、屋上に来ていた。 放課後の屋上は風もきつくて肌寒い。 2人は缶のホットコーヒーをカイロ代わりにして、暖をとっていた。

 「で、芙美ちゃんは何を悩んでるのかな?」
 「えっ! 私、悩んでそうな顔してた?」
 「う~ん、九条くんに対する態度がいつもと違った。 九条くんはいつも通りだったけど、ちょっと違ったかな? これでも結構、部員の事は見てるんだよ」
 「そっか、部長には嘘つけないね」

芙美は、眉を下げてまいったなって表情でこめかみを掻いて、照れ隠しした。

 「昨日、九条くんに告白されました」
 「ほう、とうとうか」
 「断りました」
 「えっ! まじで! 優良物件なのに、結婚なんてなったら、玉の輿だよ。 ってか、九条くんそこまで考えてると思うよ。 高校生だけど、執着心すごいから」
 「え~と、だからかな」
部長は『ん?』と傾げて、頭の上にはクエスチョンマークが飛んでいる。

 「九条くんとは、同じ中学で、中学の時もあんな感じで、いや、もっと俺様だったかな。 中1の時の遠足で、私が作ったお弁当を交換して食べたのがきっかけで、仲良く(?)なったんだけど。 その時に『今日からお前は、俺の弁当係だ』って言われた時は衝撃的だったけど」

部長から乾いた笑いが漏れる。

 「でも、その時に九条くんの執事から、九条くんには良家のお嬢様と婚約することが決まってるからって言われて。 九条くんとは住む世界が違うんだなって思って、私は諦めたんだよ、九条くんの事」
 「ん? それは芙美ちゃんも九条くんのこと、好きだったって事? そんな素振りなかったじゃん。 全然わかんなかった」
 「でも、九条くんが告白して来たって事は、婚約の話はないんじゃないの?」
芙美は首を横に振る。
 「なくなってるとしても、九条家が私を許してくれるとは思えないから」
 「今時そんな事を言う親がいるとは思いたくないけど、家が家だけにだもんね。 シンデレラが王子様と結婚した後、本当に幸せだったのかって話だよね。 九条くんと結婚したら苦労するだろうね」
芙美は『結婚しようとは言われてないよ』と部長の言葉に苦笑で返した。



――隼人は父親の会社に急いで向かっていた。
 何故かというと、芙美を探して屋上に向かった隼人は、芙美と部長の話を聞いてしまったからだ。 父の会社に着いた隼人は、社長室をノックもなしに乱暴に大きな音を鳴らして開ける。 デスクに向かって仕事をしていた父親が顔を上げて不機嫌に眉を顰めた。

 「何だ、ノックも無しに。 隼人、お前も、もう」

 隼人は父親のデスクまで足音も荒く近づき、デスクを両手で叩きつけて大きな音が鳴った。 デスクの色々な物が少し浮いて小さく音を鳴らした。 隼人は父親を鋭く睨むと、高らかに宣言した。

 「俺には、ずっと好きな人がいる。 そいつ以外と付き合う気も、結婚する気もない。 絶対に親父が選んだ人とは、結婚しない! 芙美の事は、絶対に悪い虫呼ばわりさせない!」
父親はフッと嗤った後
 「そうか、分かった。 なら、その芙美さんという娘を連れて来い、品定めしてやろう」

 隼人は、入って来た時と同じように、荒々しく出て行った。 父親の『悪い虫って、お前が思っているような意味じゃないんだけどな』と呟いた言葉は、隼人の耳には届かなかった。



――文化祭当日
 手芸部の展示販売は、部長の作戦通りに、とはいかなかった。 ある意味では人は集まったが、隼人の取り巻きの女子が隼人を取り囲んで、手芸体験に本来参加したかった生徒たちが、取り巻きの女子を怖がり、体験ブースに近寄る事も出来なかったからだ。 隼人が切れて取り巻きの女子を追い出すと、やっと本来の目的を果たせた。

 午後の隼人の当番になると、伊織の予告通りに隼人の叔父がやって来た。 叔父は隼人が作ったコースターをじっと見ている。 隼人が作ったコースターは、2色の色が混ざった毛糸を使い、何種類か編み上げた。

 結果、30枚の色とりどりのコースターが出来上がった。 隼人のコースターは1枚100円で販売する事にした。 数枚の隼人の手作りコースターを手に取ると、叔父は優しく微笑んだ。

 「商品に見合った適正価格だな。 お店の雰囲気もいい。 ただ、もう少しひねりが欲しいな」
 「経営者の目で見るなよ。 高校生の文化祭だぞ。 それに、目的は部員を増やすことにあるんだから、これでいいんだよ」
叔父は可愛い甥っ子の反論に、益々眉を下げて笑った。
 「そうか、これを6枚もらうよ。 包んでくれ。 体験していきたいけど、残念ながら時間がない。 折角、隼人が給仕してくれるのに」
 「さっさと帰れ」

 隼人の叔父は、体験ブースにいる芙美の姿を残念そうに見つめた後、隼人に手を振って帰っていった。



――文化祭は順調に全日程を無事に終えた。
 隼人はもう一度、ちゃんと告白しようと後夜祭の後、芙美を屋上に呼び出していた。 芙美が屋上の扉を開けて入って来た。 芙美は話の内容が分かっているのか、困った顔をしている。 隼人は、芙美に何か言われる前に、話を切り出した。

 「文化祭の前の日に、親父に話を付けてきた。 婚約者の事、なかったことにしてもらった。 ごめん。 この間、ぽちゃこと部長が話してるの聞いた。 盗み聞きするつもりはなかったんだけど。 それで、芙美の気持ちは分かったから、俺、絶対に親父に認めさせるから。 だから、俺と結婚を前提に付き合ってください」

 芙美は涙目になっていたが、中々、首を縦に振らなかった。 芙美を抱きしめると宣言した。

 「俺は、諦めないからな。 嫌われてないなら、もう一度、好きにさせる、絶対に。 だから、俺が知らない間に諦めたりするな」

 隼人の眼差しが一瞬で熱を帯びる。 隼人と芙美の視線が絡み合うと、お互いの顔が近づき、唇が重なり芙美を抱きしめる隼人の手に力がこもる。 2人の背後に後夜祭の花火が上がり、学園に花火の音が鳴り響いた。

 風が屋上を吹き抜ける。 隼人の長い髪が、芙美の肩でなびいている髪と絡まる。 芙美の手がそっと隼人の背中に回った。 2人の背後で、屋上の扉が大きな音を立てて蹴破られると、姿を現したのは、怒れる獅子のような伊織だった。

 屋上は一瞬にして、甘い空気が霧散し、隼人と芙美は怒れる獅子の獲物になった。 伊織は隼人と芙美を睨みつけると叫んだ。

 「お前ら! 屋上でいちゃつくな! ったく、文化祭だからって皆、浮かれやがって! あっちこっちで、いちゃつきやがって、巡回する教師の気持ちにもなれ! 隼人と里中は、明日、反省文、提出な!」

 伊織はそれだけ言うと、次の巡回場所まで急いで走って行った。 隼人と芙美は、キスの現行犯で、反省文を提出させられるという羞恥に、視線が合うと自然に笑みが零れた。

 後日、父親に芙美との交際をあっさりと了承され、肩透かしを食らって脱力する隼人。 実は、婚約者に決まっていた相手に、既に断られてる事を知らなかったのは隼人だけである。 余談だが、叔父が購入した隼人の手作りコースターは、家族の愛用品となった。               ――完
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