I've always liked you ~ずっと君が好きだった~

伊織愁

文字の大きさ
16 / 22

朱里と潤の場合(前編)

しおりを挟む
 もうすぐ、12月に入り、吐く息が白さを増し、寒さが肌を刺す季節になってきた。 文化祭も終わり、期末テストも間直に迫っている中、朱里と胡桃は放課後にファミレスで暖を取っていた。

 「ねぇ、胡桃。 寂しくない? 4年も離れ離れなんて考えられないんだけど」

 朱里はホットココアのカップを両手で持ち、息を吹きかけ、少し冷ましてから一口飲んだ。 朱里の仕草は可愛らしく、周囲の若い男子の視線を釘づけにしている。

 「めっちゃ寂しいよ!! 4年なんて絶対に無理!!」
胡桃はテーブルの上で突っ伏して項垂れた。
 「だよねぇ」
 (でも、能上の事だから、胡桃がこうなる事、分かってそうだけど)
胡桃はむくりと起きると語り出した。
 「でも、拓哉くん。 中学の頃から手作りのアクセをフリマのアプリとか、お姉さんが経営してるセレクトショップで売ったりしてて、普通の高校生よりもお金を稼いでるんだよ。 もう、半分社会人なんだよ」
 「うげっ、まじで! 地に足付けてんね」
 「そんな人に私の我儘で、行かないでなんて言えないよ。 アクセの勉強をもっとしたいんだって、その為に今までお金を貯めてたって」
 「能上は何て言ってんの? 付き合いは続けるつもりでいるの?」
 「うん、拓哉くんは別れるつもりはないって。 それでね、拓哉くんから携帯をプレゼントされて、これで毎日、テレビ電話してるんだ」

 胡桃は嬉しそうに携帯電話を見せてくれたが、朱里は胡桃の手に持っている携帯をじっとと見つめた。 何故か携帯は、嫌な雰囲気を醸し出していた。

 (その携帯、やばそうな空気出してるんだけどっ。 胡桃は絶対に気づいてないよね)

胡桃が窓の外を見て、瞳を輝かせた。 

 「あ、拓哉くん!」

 胡桃の声に、朱里もつられて窓の外を見ると、噂の胡桃の彼氏、能上拓哉がいた。 拓哉は相変わらず、アクセをいっぱいつけていて、色気を醸し出しており、胡桃を外に誘う仕草をしている。 胡桃が朱里を期待に満ちた瞳で見つめてきた。

 (あらまぁ瞳、輝かせちゃって。 めちゃ可愛いじゃん)
朱里は思わず、苦笑を漏らした。
 「どうぞ、お好きなように。 今度、お昼に特製コロッケパンね」
 「うん! ありがとう、朱里 また、明日ね」

 胡桃は、ショートボブから少し伸びた髪を揺らし、手を振って拓哉の下に走って行った。 2人の後ろ姿を見つめる朱里の脳裏に、嫌な予感が過ぎった。

 (まさかね。 でも、タイミングがバッチリだったよね。 あの携帯にGPSと盗聴器でも仕掛けてるの? まさか、そこまではしないよね)

 もしかしたら、拓哉ならやるんじゃないかという思いに至ると、朱里はぶるっと身体を震わせ、残りのホットココアを飲み干してファミレスを出た。



――お昼休み、食堂の入り口に入ると、購買部の紙袋を持った拓哉と出くわした。
 拓哉が無言で紙袋を朱里に差し出すと、朱里も無言で紙袋を受け取った。 紙袋からは、購買部に出店しているパン屋の、焼きたてのパンの美味しそうな香りが漂っていた。

 「昨日のお詫び。 礼は胡桃に言っといて」

 昨日のお詫びという事は、中身は『特製コロッケパン』かと思い、中を覗くと、予想通りに特製コロッケパンが入っていた。 それだけ言うと、拓哉は何処かにささっと行ってしまった。 胡桃と何処かで合流するんだろうと思われた。

 (相変わらず、アクセ、ジャラジャラつけてるな)
 「おい! 何、入り口でボケっと突っ立ってんだ。 邪魔になるだろう」

 後ろから声を掛けられた朱里は、謝罪して慌てて端により、声の主が誰か分かると目を細めた。 声の主は、幼馴染で、黒髪短髪、少し不愛想な顔をしているが、顔は整っている。

 「ご・ごめんなさい!! あ、なんだ、潤か」
朱里の塩対応に、潤のこめかみが引くついた。
 「なんだとは失礼だな。 今の男、誰?」
潤の雰囲気が一瞬だけ、冷たい物に変わったが、朱里は気づかない。
 「え、ああ、能上? ほら、話したでしょ? 胡桃の彼氏」
 「ああ。 ええぇ、今のチャラチャラした奴が?! 葉月さんと合って無くないか?」
 「ああ見えて、胡桃一筋なんだよね。 怖いくらいねっ」
 「ふ~ん。 んで、その葉月さんの彼氏に、何を恵んでもらったわけ?」
潤が目を細めて、朱里が持っている紙袋を見つめる。
 「特製コロッケパン。 昨日の放課後、胡桃とファミレスで話してたんだけど、途中で能上が迎えに来て、胡桃を連れてったもんだから、そのお詫びに所望したの」
 「ほう。 久しぶりにお昼一緒に食べね? 俺もパンだし」
 「うん、いいよ。 じゃ、中庭のベンチに行こう」
 「えっ! 中庭?! 寒いじゃん!」
 「いいから、いいから」
 (さっきからあんた狙いの女子の視線が痛いのよっ)

 少し離れた場所から、朱里をきつい瞳で見つめる瞳がいくつかあった。 潤を無理やり中庭に連れ出し、冷たい風を避けれる場所を見つけ、2人で並んでベンチに座った。 潤とは、家同士が隣で、幼稚園からの幼馴染だ。 朱里とは気安く話すが、潤は時折、女子には冷たい態度をとる事がある。

 そこが女子に媚びてなくて良いと、顔もそこそこ良いので、一部の女子に人気だ。 中には過激な女子もいるので、おいそれとモテる男子とは、あまり一緒にいる所を見られたくないのだが、潤は幼馴染なので無下に出来ない。

 「やっぱり、特進と一般だと全然、会わねぇな」
 「だね。 使う教室の階が違うし、移動教室も違う場所なんでしょ?」
 「うん、研究所でやってる」
朱里は口元を引き攣らせた後、コロッケパンを頬張った。
 「でも、」

 朱里の視界が突然暗くなり、次いで感じたのが、口元近くの頬に唇の柔らかい感触だ。 潤の唇が何かを食んだ。 朱里の瞳は最大限に開かれ、潤を押しのけた。

 「何してんの?!」
潤はニヤッと笑い、意地悪な笑みを向けた。
 「特製コロッケパン、上手いな。 反対側にも食べかすついてるけど、取ってやろうか?」
朱里はティッシュを取り出して、口元を拭うと、潤に向かって叫んだ。
 「じ、自分で取れるよ!! もう、子供の時と違うんだから!」

 潤はガクッと肩を落とした。 潤は違う反応を見たかったらしいが、朱里には通じなかった。 幼い頃、よくそうやって、朱里の食べかすを取ってやっていたのが、あだとなったみたいだ。

 潤は予鈴が鳴ると、溜め息を吐いて教室に戻って行った。 後に残された朱里は、訳も分からない様子で首を傾げるだけだった。 背後の廊下で、数人の女子が2人の様子を覗いていた事にも気づいていなかった。



――放課後、3年校舎裏に朱里の姿があった。
 3年校舎裏の1本道は、クラブ棟や研究施設、スポーツセンターがある区画に続いている。 それらの施設に用がない生徒たちは通らない為、人通りはあまりない。 3年校舎裏で、数人の女子の甲高い声が響いていた。

 お昼の食堂で、朱里と潤の様子を伺っていた女子たちに朱里は囲まれ、目を細めて彼女たちをあきれ果てた瞳で眺めていた。

 「ちょっと! あんた、川村とどういう関係よ! 中庭であんなっ!」
『あんな』とは、昼間の潤の所業の事であろうと思われる。
 「潤とは、幼稚」

 彼女たちは最後まで言わせず、潤を呼び捨てにしている事が気に入らないらしく、怒号が校舎裏に鳴り響いた。 朱里の目が徐々に座っていく。

 (いや、そっちが訊いてきたんだから、最後まで言わせてよ!)

 朱里はあらかさまに溜め息を吐いた。 朱里は、こう言う事には慣れている。 昔から、やれ『人の男に色目を使った』とか『男にモテるからって調子に乗るな』とか、色々とあらぬ誤解をされ、呼び出されては文句を言われていた。 朱里の腹に黒い物が溜まっていく。

 (そう言えば、女子に囲まれてたら、いつも助けてくれる男の子がっ)

 「おい! 何やってんの? そこで揉められると、通りずらいからめっちゃ迷惑なんだけど」
声の主に、潤狙いの女子たちが慌てだす。
 「なんだよ、朱里かよ。 お前、何でいつも女子と揉めてるんだ?」
 (諸悪の根源が言うな!!)
 「私だって、好きで揉めてるんじゃないけど。 彼女たちが、昼間の私たちを見て、関係がいかがわしいものだって言うから、ちょっと説明しようと思っただけよ」
 「ちょっと! 私たちそんな事、言ってないでしょ!」
潤は無言で朱里と揉めていた女子たちの間に、さっと身体を滑り込ませた。
 「昼間の? ああ、あれね。 別にいかがわしくないでしょ。 俺ら恋人同士だし♪」
潤の一言で、その場の空気が凍りつき、朱里が笑顔のまま固まった。
 「へ?」

 一瞬の逡巡の後、彼女たちの悲鳴と怒号が沸き起こった。 朱里は固まったまま身体を軋ませ、首を潤の方に向ける。 潤が深い溜め息を吐き、彼女たちを一瞥して鋭い瞳で見つめる。 潤の身体から仄暗いオーラが染みだして来ていた。

 「別に君たちに関係ないよね? 俺たちの関係がいかがわしいか、いかがわしくないかなんて」

 彼女たちは、潤の黒い闇に呑まれ、何も言わずに校舎の方に去って行ってしまった。 潤が朱里の方を向くと、呆れた声を出した。

 「あんなのは、聞き流しとけよ。 文句言いたいだけなんだから」
 「分かってるわよ。 それより、私たちはいつから恋人同士になったのよ。 変な噂が広まるじゃん!」

 潤がずいっと朱里に身体を寄せ、朱里を見つめる瞳に熱が帯びていく。 朱里は瞳を大きく開けると、理解した。 潤の瞳が『好きだ』と言っている事に。 朱里は潤の熱い眼差しに動けず、潤の瞳を見つめていた。

時が止まっている2人の背後から、低い声がした。
 「おい、いい雰囲気のところ悪いけどな。 ここでいちゃつくな! 用がないなら、早く下校しろ」

 声の主は、学園の女子生徒から絶大な人気を誇る、現代文の教師、相葉伊織だ。 伊織が2人の背後で、般若の如くお怒りになっていらっしゃる。 朱里と潤は慌てて、身体を離した。 朱里は徐々に、潤から後ずさりして離れて行く。

 「あ、えと、さ、さよなら~~」

 朱里は堪らず、逃げだすように校舎裏から走り去った。 朱里は首元まで赤く染まっている事に気づかなかった。 朱里の心臓は今にも爆発しそうくらい鼓動していた。

 (自慢じゃないが、好意を持たれるなんて、これまでもいっぱいあった。 好きなんて言われ慣れてる。 でも、あんな瞳で見つめられた事なんてない。 どうしよう、潤にときめくなんて! 心臓うるさい!)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

隣の夫婦 ~離婚する、離婚しない、身近な夫婦の話

紫さゆり
恋愛
オムニバス形式です。 理解し合って結婚したはずの梓、同級生との再会が思わぬことになる雅美、年下の夫のかつての妻に引け目を感じる千晴、昔の恋の後悔から前向きになれない志織。 大人の女性のストーリーです。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...