I've always liked you ~ずっと君が好きだった~

伊織愁

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奏多と陽茉莉の場合(後編)

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 伊織が言っていた『いい作戦とは言えないぞ』と言っていた通り、予期せぬ事が起こった。 奏多は朝、学校に来ると数人の空手部員に、空手道場に連れ去られた。 奏多は目の前に立っている男を知っている。

 今年の空手のインターハイで優勝し、空手部の特待生で部長だ。 険しい顔した空手部の部長は、腕組をして奏多を見据えていた。 鋭い眼光で見つめられた奏多は、内心で『めんどくさい事になったな』と嘆息していた。

 「で、何か用ですか? 空手部の部長さん」
空手部の部長は、目を細めて奏多を見た。
 「お前が、従弟の彼女にちょっかいを掛けていると聞いた。 人の彼女に手を出すな、大人しく諦めろ」
 「はぁ?!」
 (やっぱり、陽茉莉の事か。 しかも、従弟ってっ! こいつ、ゴリラ男の言い分をそのまま信じたのかっ)

 奏多は、空手部の部長の言い分にあからさまに、呆れた表情を向けた。 訊く耳を持っていないだろうと思ったが、陽茉莉との関係を話した。

 「俺が本当の彼氏なんだけど。 で、陽茉莉につきまとっているのが、あんたの従弟だ。 信じられないなら陽茉莉に訊いてくれ」

 『陽茉莉に訊いてくれ』の言葉と同時に、陽茉莉が空手道場に入って来た。 乱暴に開けられた道場の扉が、大きな音を響かせながら閉じた。 奏多は後ろを振り向いて呆気に取れられた。

 「奏多っ! 無事っ!」
 「えぇぇっ! 陽茉莉っ」

 再び『陽茉莉』と呼ぶ奏多の声に被せて、空手道場の扉が大きな音を立てて開けられた。 入って来たのは、ゴリラ男と取り巻きの男たちだった。 ゴリラ男を見て、奏多は何となく経緯を察した。

 (うわぁ! こいつらも来たのかよっ。 更にややこしくなるだろうがっ)

 「陽茉莉っ!」

 ゴリラ男が陽茉莉に詰め寄ろうとしたが、ゴリラ男の頬を平手が打つ音が道場に鳴り響いた。 ゴリラ男をキッと睨みつけると、陽茉莉は叫んだ。

 「いい加減、しつこいのよっ!! あんたとは、付き合わないって何回も言ったでしょうがっ! 私が好きなのはね、一宮奏多なの!」

 陽茉莉が奏多の腕を取り、奏多を引き寄せた。 この世の終わりのような顔したゴリラ男は、その場で崩れ折れた。 随分、撃たれ弱いゴリラ男を、奏多は呆れた顔で眺めていた。

 「一宮、お前の話は理解した。 従弟が悪かったな。 こいつには、きっちり言い聞かせとくから」
背後から聞こえて来た空手部の部長に奏多は、お辞儀だけで返事を返した。
 「陽茉莉、行こう」
 「うん」

 陽茉莉と空手道場を出て、3年の校舎裏まで走って来た。 一応、奏多はゴリラ男が追いかけてきていないか、後ろを確認した。 後ろには誰も居なかった。 ゴリラ男は追いかけて来なかったらしい。 

隣で大きく息を吐く陽茉莉の姿が映った。 陽茉莉は、奏多の方を向くと、笑顔で言った。

 「ああ、怖かった~っ! 最初からこうすれば良かった」
隣でしゃがみ込んだ陽茉莉に奏多は、苦笑を零した。 奏多は隣にしゃがみ込み、笑いかけた。
 「でも、これでもう、しつこく言い寄って来ないだろう。 空手部の部長も言い聞かせとくって言ってたし。 中々、良かったよ。 さっきのタンカ! 真に迫ってたし、あいつら信じたんじゃない?」
 「えっ?!」

陽茉莉の表情が徐々に青くなっていく。 奏多も陽茉莉を見て『えっ』という顔をした。

 「えっと、演技でしょ? ゴリラ男を納得させる為のっ」

 奏多の頬を、陽茉莉の平手が打った音が鳴った。 3年の校舎裏に乾いた音が鳴り響いた。 奏多の顔が横に振られ、視界の端に陽茉莉の涙目が映った。 奏多の心にざわりと蠢く感情が沸き上がる。 奏多は無意識に笑ってしまった。 陽茉莉を嘲笑した訳ではない。

 心の奥で陽茉莉の泣き顔を見て、歓喜が沸きあがったのだ。 当然ながら、陽茉莉には通じない。 奏多を睨みつけると、詰った後、校舎に走って行った。

 「最低っ!! 奏多のバカっ!」

 暫く、陽茉莉の言葉を理解する事に時間が掛かった。 そして、理解した途端、奏多の心にさっきとは別の歓喜が沸き上がる。 奏多の胸に沸きがった感情、陽茉莉が自分の事を好きなのかという可能性に。


――2月の屋上は、とても寒いと陽茉莉は自身を抱きしめた。
 友人の表情は『なら、空き教室でも良かったよね』とありありと出ていた。 保温性のあるお弁当箱を開けて、温かいお味噌汁を飲む。 友人は水筒からお茶をコップに入れ、息を吹いて適温に冷ましていた。

 「そんな事言ったってさ。 初めから『彼氏の振り』だったじゃん。 一宮にしてみれば、昨日今日の話だよ。 そりゃあ、演技だと思うでしょ。 ゴリラ男を排除したかったんだから」
 「そうですね」

 友人は手作りのおにぎりを頬張り、咀嚼した。 のりのいい香りが陽茉莉の食欲をそそる。 陽茉莉は、温かい白米を口に入れた。 ご飯が温かいだけで、冷たいおかずもいつもより美味しく感じる。

 『しかもさ、お味噌汁なしの時は、ご飯もあんまり温かくない』
 『こっちにすると、普通のお弁当箱に戻れなくなるよ』

 奏多の声が陽茉莉の脳裏でこだまする。 思いっきり溜め息を吐いた後、友人を必死な形相で見た。 陽茉莉の顔を見た友人は、頬を引き攣らせて後ずさった。 しかし、ベンチに座っているので仰け反る事しか出来ないでいた。

 「どうしようっ! 奏多の事、諦めたくないっ!」
友人は陽茉莉を『しょうがない奴』と顔に出した。
 「もう、告白するしかないでしょ。 振りじゃなくて本物の彼氏になってって」
陽茉莉は、愕然とした表情をした。
 「ええええっ! 何でそんな顔、すんのよっ!」
 「なんか、また私から言うのかと思ったら、振られる未来しか見えないっ!」
 「ああ、あんた可愛いのにねぇ。 男運ないよね」

 『そうなんだよ~っ!』と陽茉莉が嘆いている事も知らずに、奏多は先日の事を思い出し、ふわふわと浮ついてた。


――陽茉莉の携帯に奏多からメールを送った。
 ゴリラ男は排除できたが、直ぐに奏多たちが別れると、不審に思われるので、暫くは一緒に帰らないかという内容を送った。 そして、この間の事も謝りたいという文面も入れた。 奏多は決めていた、今日、陽茉莉に告白しようと。

 (俺、告白された事はあるけど、した事なかったわっ! なんて言えばいいんだ?)

 奏多は初めての告白に分かりやすくテンパっていた。 放課後は直ぐに来た。 奏多は陽茉莉の教室まで迎えに行こうと、ホームルームが終了すると、陽茉莉のクラスへと足を向けた。 奏多の後を追って来る人物に気づき、振り返ると、後ろに居たの幼馴染の佐和だった。 佐和の表情は何処か暗かった。

 「佐和? どうした?」
 「奏多に話があるの。 大事な話なの! お願いっ」
佐和の張りつめた空気に、奏多は頷いた。
 「分かった」

 奏多は佐和の後ろを付いて行った。 丁度、佐和に捕まったのが、陽茉莉のクラスの前で、教室から陽茉莉が見ていた事に奏多は気づかなかった。 そして、陽茉莉は無意識に奏多たちの後を追った。


 1・2年校舎と3年校舎を繋ぐ渡り廊下の端の階段近くで、佐和は止まった。 陽茉莉は1・2年校舎から上へあがり、渡り廊下の端の階段をそっと降りた。 奏多たちから姿が見えない所でしゃがみ、心臓が爆発しそうになるのを必死に抑えた。

 「話しって何?」

 奏多の声が廊下に響く。 訊いておいてなんだが、奏多は佐和の話の内容が何となく分かっていた。 付き合いが長い幼馴染の佐和の気持ちもとっくに知っている。 佐和は、真っ赤になりながら言った。

 「もう、分かってると思うんだけど。 私は奏多が好き。 ずっと、好きだったの。 私と付き合って欲しいっ」

 (やっぱりかっ! 悪いな佐和、お前の答えは昔から決めてるんだ。 ん? あれ、あそこにいるの陽茉莉? もしかしてあれで隠れてるつもりなのかっ?)

 階段は柵状になっている為、陽茉莉の背中が丸見えになっていた。 奏多には陽茉莉の背中は震えている様に見えた。

 (もしかしなくても泣いてるっ?)

 「ごめん、佐和。 俺、好きな子が出来たんだよね。 その子以外は考えられないわ」

 奏多は佐和の方を見ずに、陽茉莉の背中を見て返事をした。 奏多の顔を見て佐和は、眉を下げて寂しげに笑った。

 「うん、分かった。 ありがとう、ちゃんと振ってくれて」

 佐和が去った後、奏多は陽茉莉がしゃがみ込んでいる階段を上った。 陽茉莉は奏多が近づいて来た事に気づいたのに顔を上げなかった。 泣き顔を見られたくないからだろう。 奏多は陽茉莉の前にしゃがむと言った。

 「陽茉莉、好きだよ。 振りじゃなくて、俺を本物の恋人にして」

 陽茉莉が勢いよく顔を上げた。 まさか、自分の事だとは思わなかったようだ。 信じられないと表情が言っていた。

 「本当なんだけど。 実はあの日、陽茉莉が先輩に振られた日、陽茉莉を初めて見た時に一目惚れしたんだ」
 「えっ」
 「だって、あんな可愛い泣き顔を見せられたら、惚れるでしょ」
陽茉莉は何が起きたのか分からない顔をしていた。
 「な、な、な、」

 真っ赤になった陽茉莉を抱き寄せ、唇を寄せた。 陽茉莉は音を立てて固まった。 しかし、抵抗もしなかった。 陽茉莉を離すと、笑いかけた。 陽茉莉はまだ、信じられないのか、涙目になっていた。

 奏多の胸にざわりと、仄暗い感情が沸き上がったが、笑顔で隠した。 そして、思い出した事があった。 まだ、信じられない様子の陽茉莉に奏多は言った。

 「陽茉莉の願いを叶える代わりに、俺の願いも聞いてくれるって言った事、覚えてる?」
陽茉莉は『うん』と頷いた。
 「俺とデートしてよ。 その時に返事を聞かせて」

 真っ赤になった陽茉莉に、胸が高鳴り、もう一度だけキスをしようと顔を近づけたら、ガシッと奏多の頭を男の手が掴んで来た。 顔を上げた陽茉莉も、振り向いた奏多の顔も『しまった』と顔を固まらせた。 怒りを滲ませた伊織の般若の顔があった。

 「2度目はないって言ったよな? 2人とも明日の朝、反省文提出なっ!」

 奏多と陽茉莉は『学校でキスしてごめんさない』という恥ずかしい反省文を書かされる事になり、頭を抱えたのだった。             ―完― 
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