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7話
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次のお茶会で味方になってくれる友人を作ろうと、張り切ってお茶会に参加したのだが、エディは現実に打ちのめされていた。 前回同様、いや、前回以上にエディは周囲から敬遠されていた。
「どうして私が話しかけたら誰もが逃げていくのかしら? コーン、何故だか分かる?」
「さぁ、どうしてでしょう? 僕はコーンじゃないです、ロジェです」
お約束になっているロジェの名前の弄りにも、声に覇気がない。 いつも楽しくロジェの名前を弄っているのだが、今の状況を考えると、真面目にふざけられない。
(真面目にふざけるとかって、何?)
「私ってそんなに怖い顔してるかしら?」
「いいえ、お嬢様は可愛らしいお顔をされてます」
「……っ可愛いってっ、それは身内びいきねっ。 どっちかって言うとキツイ見た目でしょ?」
「そんな事はないと思いますが」
隣で立っているロジェを見つめ、頬に片手を当ててエディは大きく息を吐き出した。 ロジェはエディが言うキツイ見た目に、本気で不思議そうにしている。
「そうよね。 コーンは狐の小人獣人だったわね……」
「コーンではありませんって……っお嬢様はどうやっても僕の名前をコーンにしたいんですねっ」
ムッと唇を尖らせた後、エディの溜息にロジェの狐耳が小さく動き、尻尾も揺れる。 ロジェはとても可愛らしいが、狐である。 少年の様な見た目だからキツさは緩いが、顔立ちが狐である。
きっと、キツイ見た目は狐獣人であるロジェたちにとっとは普通なのだ。
再びエディが大きく息を吐き出し後、軽く足音をさせて近づいて来る気配に、エディは身構えた。
そろっと伏せていた瞳で近づいて来る人影に視線をやると、綺麗に磨かれた高級な靴が視界に入った。 エディの視線が上へ向けられていく。 エディの視界が捉えた紳士は。
「やぁ、お美しいご令嬢。 今日もお一人なのですか?」
「ええ、気軽なお茶会ですから、わたくしの婚約者はお忙しい方なので」
(……っ、やっぱり、ジュレ家の自慢話野郎っ)
内心では頬を引き攣らせ、『変なのを引っ掛けてしまった』と、とても後悔している。
(コーンの何気ない一言に乗るんじゃなかったっ……考え無しな性格を直さないとっ)
ガッドはエディの分の飲み物も取ってきており、『飲み物をどうぞ』と差し出してくる。 エディは何も考えず、差し出された飲み物を受け取ろうと手を伸ばした。
「駄目だよ、エディ。 知らない男の飲み物を受け取っては、何が入っているか分からない。 とても危険だよ」
ガッドが差し出したグラスを素早くリュシアンが取り上げ、直ぐにロジェへ渡した。 渡されたロジェは訳も分からずにグラスを受け取る。 いつの間にエディの背後に居たのか、今はガッドとエディの間に身体を入れ、エディを庇っている。
「殿下っ! どうして、ここにっ」
「エディ、リュシアンでしょ」
リュシアンの低い声が地面に落ちて響く。
『ん?』と黒い笑みを浮かべて首を傾げる様子がとても恐怖を煽った。 リュシアンから只ならぬ空気が醸し出され、周囲へ漂っていく。 近くに居た誰もが何も言えなく、身体を硬直させている。
「り、リュシアン、今日は公務で視察に行っているのでは?」
(はっ?! 私、何、浮気がバレた女の言い訳みたいな事、言ってるのっ?! そんな女が一番嫌いだったのにっ)
血の気が引いた青い顔をしたエディの肩を抱き、リュシアンはガッドに向き合う。
「私の可愛い婚約者が気分を害した様だ。 悪いが失礼するよ」
まるでガッドの所為でエディの気分が悪くなった様な言い方を残し、悔しそうに口を歪めたガッドを尻目に、エディはリュシアンに連れられてお茶会会場を後にした。
入り口で待っていたアンリにすれ違い様、指示を出す。
「アンリ、ロジェが持っているグラスを預かってくれ」
一瞬のアイコンタクトでアンリは小さく頷いた。 後ろから追いかけて来たロジェの持っているグラスに、アンリは手を伸ばした。
「ロジェ、そのグラスを渡しなさい。 私が戻しておきます。 ロジェはそのまま、お二人に着いて行って下さい」
「あっ、はいっ」
最初、右往左往していたロジェだが、アンリの指示を聞き、持っていたグラスを渡したら直ぐにエディを追いかけて行った。 グラスを受け取ったアンリは踵を返し、待ち構えている『影』に渡した。
「さて、何が混入されているのでしょうね」
サイドで結ばれた白髪の髪が静かに揺れ、アンリの瞳が怪しく光を宿した。
エディはリュシアンに肩を抱かれて会場を出て行く時から、リュシアンの恐怖に当てられ、記憶が飛んでいた。 エディが我に返ったのは、馬車に乗り込む時だった。
「やだっ、王太子殿下が居ないじゃないっ! 今日、イベントがあるはずなのにっ」
リュシアンに手を差し出され、馬車の補助台に足を掛けた所で、少女の声にエディの足が止まった。
(今、イベントって言わなかった?)
しかし、振り返った先には誰も居なかった。 急に動きを止めたエディをリュシアンとロジェが訝し気に見つめて来る。 エディは誰も居ない馬車停めの入り口を見つめた。
馬車停めの向こうは中庭の庭園で、お茶会会場になっているのだ。 もしかして、お茶会にヒロインも来ていたのかと、背中に悪寒が走った。
「エディ、どうしたの? 早く馬車に乗って、帰るよ」
「……っ!!」
リュシアンの『帰るよ』だけが低く響いた。 身体を大きく震わせたエディは、リュシアンに乗せていた手を強く握りしめられ、更に頬を引き攣らせた。
「はい、り、リュシアン」
「エディ。 さ、乗って」
手を強く引っ張られ、エディは馬車に乗り込んだ。 ロジェもエディの後に続き、馬車はゆっくりと王宮へと車輪を走らせた。
◇
エディとリュシアンを乗せた馬車が走り去っていく様子を物陰から見ていたガッドは悔しそうに舌を鳴らした。 もう少しで、睡眠の魔法を掛けたぶどうジュースをエディに飲ませるところだったのだ。
エディを攫って既成事実を作ろうとしていた。 結婚前に婚約者が他の男と肉体関係を持ったら、リュシアンに一泡吹かせられる。 同時にエディが手に入ったのだ。
先日のお茶会でガッドは、エディの事を気に入り、もの凄く欲しくなった。 ガッドに近づいて来る令嬢は、爽やかな見た目と、ガッドが王位に近い貴族だからだ。
しかし、ガッドの話を聞くと、何故か令嬢たちは表情を引き攣らせて離れていく。
ガッドは気づいていなかった。 爽やかな見た目とは裏腹に、自身の自慢話ばかりされる事に、令嬢たちが嫌気を差していく事に。 本日のお茶会でも、令嬢たちはそっとガッドから離れて行った。
(笑顔で話を聞いてくれたのは彼女だけだったな……。 仕方ない、次は学園に入ってからだ。 絶対にお前の婚約者は頂くからな、覚えて置けリュシアン)
お茶会会場を後にし、エディたちを乗せた馬車が見えなくなった方へ視線をやった後、ガッドは自身も帰るため、ジュレ家の馬車が止まっている方へ歩き出した。
ガッドの後ろでブラウンの髪を結い上げ、マロンの瞳をした少女がじっとガッドの後ろ姿を見ている事に、誰も気づかなかった。 少女が呟いた独り言も誰にも聞こえていなかった。
「あれって、爽やか貴公子のガッド様だわっ! でも、悪役なのよねっ。 素敵だけど、残念だわ」
少女の独り言は誰にも聞こえていない。 馬車停めの方を眺め、黄色い声を出して騒いでいる少女を、遠目で見ていた令嬢たちは『はしたない』と内緒話をしていた。
◇
馬車で王宮まで連れられて来たエディはへびに睨まれた蛙の様に、じっと固まっていた。 ロジェもエディと同じく固まっていた。 ロジェの顔は青ざめ、湧き上がった恐怖を飲み込むように大きく喉を上下させた。
王太子宮、リュシアンの私室の居間に連れ込まれた二人は、エディはソファに座らされ、ロジェは扉付近で立たされていた。 視線だけでロジェを見つめるリュシアンから指示が飛ぶ。
「ロジェ、君は私の執務室で待機していて。 アンリが戻ってくるはずだから、報告してくれ」
リュシアンの私室の居間は、高級で柔らかい三人掛けのソファが向かい合わせで置かれている。
居間の奥にはサンルームも作られていて中庭が一望できる。 サンルームからリュシアンの個人的な部屋へ移動できる様だ。 居間の隣は執務室で、リュシアンは黙ったままのロジェに、執務室へ繋がる扉に視線だけ向けて『執務室へ行け』と促す。
「で、でも、あの、未婚の男女を密室に置いて行くのはっ」
勇気を振り絞って反抗したロジェは、リュシアンの氷の様な冷たい眼差しに、強く身体を震わせて固まった。 エディの助けを求める視線も無駄だった。 存外、リュシアンはお怒りらしい。
「しょ、承知しましたっ」
(行かないでっ! コーンっ?!)
臣下の礼をした後、トボトボと歩きながらロジェはエディが座っているソファの後ろにある執務室へ繋がる扉の方へ歩いて行った。 後ろ髪を引かれている様な眼差しを向けて来たが、ロジェは扉を開けて執務室に消えた。
リュシアンはエディの方へ黒い笑みを向け、エディが座っているソファの隣へ腰掛ける。
リュシアンの重みを受け、ソファが沈みこみ、少しだけソファが軋んむ。 エディの身体が恐怖で震える。
「エディ、駄目じゃないか。 私以外の男に気を許したら。 お仕置きが欲しいのかな?」
「そ、そんな事は……」
エディは恐怖で涙目になり、顔を左右に振った。
「本当に? ロジェに踊らされて、私の他に好きな人を作ろうとしてたんでしょ?」
エディは僅かに青い瞳を見開き、『何故、殿下がその事を知っているのか』という言葉を必死で飲み込んだ。 猫目みたいなツリ目が僅かに下がり、涙目になっているエディの姿に、リュシアンの胸が高鳴っている事に気づいていない。
「わ、私は……っごめんなさいっ! 婚約者として、やってはいけない事をしましたっ! でも、好きになれそうな人は見つかりませんでしたけど……」
リュシアンが隣で息を吐き出す音が耳に届いた。
リュシアンに失望されたかもと思い、エディの胸に何かが差した。 胸に痛みを覚え、エディは首を傾げた。 自身の胸に手を当てて胸の痛みを確かめる。
(あれ? 何だろう? 殿下に失望されたかもって思ったら、胸が痛くなった? 何で?)
「エディ」
「は、はいっ?!」
「素直に謝ってくれたから、今回は許そうと思う」
「えっ」
「しかし、次はないよ。 私に嫌われようとして、色々と可愛らしい事をしてもいいけれど、他に男を作る裏切りだけは許さないよ」
「……っはい、申し訳ありませんでしたっ」
「しかし、はっきり言って腹の虫が収まらないから、お仕置きだよ」
「っ……お仕置きですかっ……」
リュシアンからのお仕置きとは何だろうと、身構えて身体を少しだけソファの端に引いた。
瞬間、腰に手を回されて強く引き寄せられたと同時に、エディの唇に何やら柔らかい感触が触れた。
『むにっ』と柔らかい物がエディの唇に押し付けられている。 リュシアンと口づけをしている事に気づいたエディは、身体を小さく震わせて硬直させた。
前世では歌手を目指していて、恋などした事がなかった。 なので、今回が正真正銘、エディのファーストキスだ。 エディの身体が硬直している間に、リュシアンの膝の上へ乗せられ、後頭部を押さえられている。 慣れた様子で口づけを続けるリュシアン。
我に返ったエディは必死にリュシアンの胸を押しながら、少しだけ胸がモヤっとしていた。
リュシアンは、戻って来たアンリが居間に突入して来て、無言でエディから引き離されるまで口づけを続けていた。 一緒に居間へ戻って来たロジェが女の子の様な悲鳴を上げていた。
「どうして私が話しかけたら誰もが逃げていくのかしら? コーン、何故だか分かる?」
「さぁ、どうしてでしょう? 僕はコーンじゃないです、ロジェです」
お約束になっているロジェの名前の弄りにも、声に覇気がない。 いつも楽しくロジェの名前を弄っているのだが、今の状況を考えると、真面目にふざけられない。
(真面目にふざけるとかって、何?)
「私ってそんなに怖い顔してるかしら?」
「いいえ、お嬢様は可愛らしいお顔をされてます」
「……っ可愛いってっ、それは身内びいきねっ。 どっちかって言うとキツイ見た目でしょ?」
「そんな事はないと思いますが」
隣で立っているロジェを見つめ、頬に片手を当ててエディは大きく息を吐き出した。 ロジェはエディが言うキツイ見た目に、本気で不思議そうにしている。
「そうよね。 コーンは狐の小人獣人だったわね……」
「コーンではありませんって……っお嬢様はどうやっても僕の名前をコーンにしたいんですねっ」
ムッと唇を尖らせた後、エディの溜息にロジェの狐耳が小さく動き、尻尾も揺れる。 ロジェはとても可愛らしいが、狐である。 少年の様な見た目だからキツさは緩いが、顔立ちが狐である。
きっと、キツイ見た目は狐獣人であるロジェたちにとっとは普通なのだ。
再びエディが大きく息を吐き出し後、軽く足音をさせて近づいて来る気配に、エディは身構えた。
そろっと伏せていた瞳で近づいて来る人影に視線をやると、綺麗に磨かれた高級な靴が視界に入った。 エディの視線が上へ向けられていく。 エディの視界が捉えた紳士は。
「やぁ、お美しいご令嬢。 今日もお一人なのですか?」
「ええ、気軽なお茶会ですから、わたくしの婚約者はお忙しい方なので」
(……っ、やっぱり、ジュレ家の自慢話野郎っ)
内心では頬を引き攣らせ、『変なのを引っ掛けてしまった』と、とても後悔している。
(コーンの何気ない一言に乗るんじゃなかったっ……考え無しな性格を直さないとっ)
ガッドはエディの分の飲み物も取ってきており、『飲み物をどうぞ』と差し出してくる。 エディは何も考えず、差し出された飲み物を受け取ろうと手を伸ばした。
「駄目だよ、エディ。 知らない男の飲み物を受け取っては、何が入っているか分からない。 とても危険だよ」
ガッドが差し出したグラスを素早くリュシアンが取り上げ、直ぐにロジェへ渡した。 渡されたロジェは訳も分からずにグラスを受け取る。 いつの間にエディの背後に居たのか、今はガッドとエディの間に身体を入れ、エディを庇っている。
「殿下っ! どうして、ここにっ」
「エディ、リュシアンでしょ」
リュシアンの低い声が地面に落ちて響く。
『ん?』と黒い笑みを浮かべて首を傾げる様子がとても恐怖を煽った。 リュシアンから只ならぬ空気が醸し出され、周囲へ漂っていく。 近くに居た誰もが何も言えなく、身体を硬直させている。
「り、リュシアン、今日は公務で視察に行っているのでは?」
(はっ?! 私、何、浮気がバレた女の言い訳みたいな事、言ってるのっ?! そんな女が一番嫌いだったのにっ)
血の気が引いた青い顔をしたエディの肩を抱き、リュシアンはガッドに向き合う。
「私の可愛い婚約者が気分を害した様だ。 悪いが失礼するよ」
まるでガッドの所為でエディの気分が悪くなった様な言い方を残し、悔しそうに口を歪めたガッドを尻目に、エディはリュシアンに連れられてお茶会会場を後にした。
入り口で待っていたアンリにすれ違い様、指示を出す。
「アンリ、ロジェが持っているグラスを預かってくれ」
一瞬のアイコンタクトでアンリは小さく頷いた。 後ろから追いかけて来たロジェの持っているグラスに、アンリは手を伸ばした。
「ロジェ、そのグラスを渡しなさい。 私が戻しておきます。 ロジェはそのまま、お二人に着いて行って下さい」
「あっ、はいっ」
最初、右往左往していたロジェだが、アンリの指示を聞き、持っていたグラスを渡したら直ぐにエディを追いかけて行った。 グラスを受け取ったアンリは踵を返し、待ち構えている『影』に渡した。
「さて、何が混入されているのでしょうね」
サイドで結ばれた白髪の髪が静かに揺れ、アンリの瞳が怪しく光を宿した。
エディはリュシアンに肩を抱かれて会場を出て行く時から、リュシアンの恐怖に当てられ、記憶が飛んでいた。 エディが我に返ったのは、馬車に乗り込む時だった。
「やだっ、王太子殿下が居ないじゃないっ! 今日、イベントがあるはずなのにっ」
リュシアンに手を差し出され、馬車の補助台に足を掛けた所で、少女の声にエディの足が止まった。
(今、イベントって言わなかった?)
しかし、振り返った先には誰も居なかった。 急に動きを止めたエディをリュシアンとロジェが訝し気に見つめて来る。 エディは誰も居ない馬車停めの入り口を見つめた。
馬車停めの向こうは中庭の庭園で、お茶会会場になっているのだ。 もしかして、お茶会にヒロインも来ていたのかと、背中に悪寒が走った。
「エディ、どうしたの? 早く馬車に乗って、帰るよ」
「……っ!!」
リュシアンの『帰るよ』だけが低く響いた。 身体を大きく震わせたエディは、リュシアンに乗せていた手を強く握りしめられ、更に頬を引き攣らせた。
「はい、り、リュシアン」
「エディ。 さ、乗って」
手を強く引っ張られ、エディは馬車に乗り込んだ。 ロジェもエディの後に続き、馬車はゆっくりと王宮へと車輪を走らせた。
◇
エディとリュシアンを乗せた馬車が走り去っていく様子を物陰から見ていたガッドは悔しそうに舌を鳴らした。 もう少しで、睡眠の魔法を掛けたぶどうジュースをエディに飲ませるところだったのだ。
エディを攫って既成事実を作ろうとしていた。 結婚前に婚約者が他の男と肉体関係を持ったら、リュシアンに一泡吹かせられる。 同時にエディが手に入ったのだ。
先日のお茶会でガッドは、エディの事を気に入り、もの凄く欲しくなった。 ガッドに近づいて来る令嬢は、爽やかな見た目と、ガッドが王位に近い貴族だからだ。
しかし、ガッドの話を聞くと、何故か令嬢たちは表情を引き攣らせて離れていく。
ガッドは気づいていなかった。 爽やかな見た目とは裏腹に、自身の自慢話ばかりされる事に、令嬢たちが嫌気を差していく事に。 本日のお茶会でも、令嬢たちはそっとガッドから離れて行った。
(笑顔で話を聞いてくれたのは彼女だけだったな……。 仕方ない、次は学園に入ってからだ。 絶対にお前の婚約者は頂くからな、覚えて置けリュシアン)
お茶会会場を後にし、エディたちを乗せた馬車が見えなくなった方へ視線をやった後、ガッドは自身も帰るため、ジュレ家の馬車が止まっている方へ歩き出した。
ガッドの後ろでブラウンの髪を結い上げ、マロンの瞳をした少女がじっとガッドの後ろ姿を見ている事に、誰も気づかなかった。 少女が呟いた独り言も誰にも聞こえていなかった。
「あれって、爽やか貴公子のガッド様だわっ! でも、悪役なのよねっ。 素敵だけど、残念だわ」
少女の独り言は誰にも聞こえていない。 馬車停めの方を眺め、黄色い声を出して騒いでいる少女を、遠目で見ていた令嬢たちは『はしたない』と内緒話をしていた。
◇
馬車で王宮まで連れられて来たエディはへびに睨まれた蛙の様に、じっと固まっていた。 ロジェもエディと同じく固まっていた。 ロジェの顔は青ざめ、湧き上がった恐怖を飲み込むように大きく喉を上下させた。
王太子宮、リュシアンの私室の居間に連れ込まれた二人は、エディはソファに座らされ、ロジェは扉付近で立たされていた。 視線だけでロジェを見つめるリュシアンから指示が飛ぶ。
「ロジェ、君は私の執務室で待機していて。 アンリが戻ってくるはずだから、報告してくれ」
リュシアンの私室の居間は、高級で柔らかい三人掛けのソファが向かい合わせで置かれている。
居間の奥にはサンルームも作られていて中庭が一望できる。 サンルームからリュシアンの個人的な部屋へ移動できる様だ。 居間の隣は執務室で、リュシアンは黙ったままのロジェに、執務室へ繋がる扉に視線だけ向けて『執務室へ行け』と促す。
「で、でも、あの、未婚の男女を密室に置いて行くのはっ」
勇気を振り絞って反抗したロジェは、リュシアンの氷の様な冷たい眼差しに、強く身体を震わせて固まった。 エディの助けを求める視線も無駄だった。 存外、リュシアンはお怒りらしい。
「しょ、承知しましたっ」
(行かないでっ! コーンっ?!)
臣下の礼をした後、トボトボと歩きながらロジェはエディが座っているソファの後ろにある執務室へ繋がる扉の方へ歩いて行った。 後ろ髪を引かれている様な眼差しを向けて来たが、ロジェは扉を開けて執務室に消えた。
リュシアンはエディの方へ黒い笑みを向け、エディが座っているソファの隣へ腰掛ける。
リュシアンの重みを受け、ソファが沈みこみ、少しだけソファが軋んむ。 エディの身体が恐怖で震える。
「エディ、駄目じゃないか。 私以外の男に気を許したら。 お仕置きが欲しいのかな?」
「そ、そんな事は……」
エディは恐怖で涙目になり、顔を左右に振った。
「本当に? ロジェに踊らされて、私の他に好きな人を作ろうとしてたんでしょ?」
エディは僅かに青い瞳を見開き、『何故、殿下がその事を知っているのか』という言葉を必死で飲み込んだ。 猫目みたいなツリ目が僅かに下がり、涙目になっているエディの姿に、リュシアンの胸が高鳴っている事に気づいていない。
「わ、私は……っごめんなさいっ! 婚約者として、やってはいけない事をしましたっ! でも、好きになれそうな人は見つかりませんでしたけど……」
リュシアンが隣で息を吐き出す音が耳に届いた。
リュシアンに失望されたかもと思い、エディの胸に何かが差した。 胸に痛みを覚え、エディは首を傾げた。 自身の胸に手を当てて胸の痛みを確かめる。
(あれ? 何だろう? 殿下に失望されたかもって思ったら、胸が痛くなった? 何で?)
「エディ」
「は、はいっ?!」
「素直に謝ってくれたから、今回は許そうと思う」
「えっ」
「しかし、次はないよ。 私に嫌われようとして、色々と可愛らしい事をしてもいいけれど、他に男を作る裏切りだけは許さないよ」
「……っはい、申し訳ありませんでしたっ」
「しかし、はっきり言って腹の虫が収まらないから、お仕置きだよ」
「っ……お仕置きですかっ……」
リュシアンからのお仕置きとは何だろうと、身構えて身体を少しだけソファの端に引いた。
瞬間、腰に手を回されて強く引き寄せられたと同時に、エディの唇に何やら柔らかい感触が触れた。
『むにっ』と柔らかい物がエディの唇に押し付けられている。 リュシアンと口づけをしている事に気づいたエディは、身体を小さく震わせて硬直させた。
前世では歌手を目指していて、恋などした事がなかった。 なので、今回が正真正銘、エディのファーストキスだ。 エディの身体が硬直している間に、リュシアンの膝の上へ乗せられ、後頭部を押さえられている。 慣れた様子で口づけを続けるリュシアン。
我に返ったエディは必死にリュシアンの胸を押しながら、少しだけ胸がモヤっとしていた。
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