『私に嫌われて見せてよ』~もしかして私、悪役令嬢?! ~

伊織愁

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14話

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 王太子宮の中庭には稀に光妖精が姿を現す。 出て来も、草木に隠れてじっと見つめて来るだけなので、中々見つけられない。 エディはリュシアンから話を聞いてから、お茶会の度に中庭を探し回っていた。

 音楽祭の時は、あんなに沢山の光妖精が居たのというのに、エディは契約の事をすっかり忘れ、歌う事に集中して楽しんでいてしまっていた。 気づいた時には、もうベッドの中にいた。

 しゃがみ込み、光妖精が隠れていそうな植木を掻き分ける。 中々エディの目の前に現れない光妖精、エディに何か問題があるのか、と勘繰ってしまう。

 (もしかして、私が悪役令嬢だからっ?! その可能性が一番大きそうだわっ)

 光妖精が現れなくて、シュンと肩を落とすエディを見つめていたリュシアンから、アドバイスが送られた。

 「音楽祭の時には、エディの歌声で光妖精が現れたんだから、歌を歌ってみればいいんじゃないかな?」

 目から鱗である。

 (その手があったかっ~っ!)

 『んんっ』と咳払いをし、エディは深呼吸をした。 音楽祭と同じ歌を歌い始める。

 エディが歌い始めると、リュシアンは目を細めて優しい眼差しをエディへ向ける。 歌っているエディは全く気付いていない。 リュシアンはそろそろ本気でエディを好きな事にも気づいてほしいと思っていた。 リュシアンの切ない思いも知らず、エディは光妖精を誘う様にバラードを歌った。

 世の中は甘くない。 音楽祭で沢山の光妖精が現れたが、今日は一人も現れる事はなかった。

 歌い終えると、リュシアンたちがエディに惜しみない拍手を送ってくれた。 光妖精が現れなかったが、とても気持ちよく歌えた事に、リュシアンへ心からの笑みを向けた。

 そして、エディは気づいた。 もしかしたら、大聖堂で歌えば、また光妖精が出るのではと。

 ◇

 エディにはっきりと断られたガッドは、諦めきれず、エディに付き纏っていた。 連れない態度のエディに益々、ガッドは惹かれていき、何としても自身の物にしたいという欲望にかられていた。

 「おかしいな……こちらに行ったと思ったんだが……」

 廊下の柱の陰に隠れたエディは、ガッドに見つからなくて良かった胸を撫で下ろした。 一緒に隠れていたロジェも同時に大きく息を吐き出した。 ロジェはヨアンに見つからなくてホッとしているのだが。 どちらにしても、二人とも厄介な人から気に入られてしまったものだ。

 柱の陰から覗いたロジェは、廊下の奥へ来ていくガッドの背中が小さく消えた事を確認した。

 「完全に行きましたね、良かったです」
 「良かったわ。 さぁ、大聖堂へ行くわよ」
 「はい、お嬢様っ」

 学園の門を出て、大聖堂へ向かう。 時間も15時過ぎだという事で、大聖堂は誰も居なくて、静まり返っていた。 大聖堂の中は、静寂に包まれていて、厳かな雰囲気が漂っている。

 「誰も居ないわっ、チャンスよ、ロジェ」
 「はい。 今日の大聖堂は、何か雰囲気が違いますね」
 「うん」

 大聖堂の入り口に立ち、ロジェと小声で話す。 エディの勘が言っている。 今日は出るかもしれないと。 祭壇の前まで行くと、エディは深呼吸した。

 (……今日は別の歌を歌ってみようかしら……)

 エディは前世の歌ではなく、ルブラルン王国で有名な歌を歌ってみた。 歌い出しから大聖堂の空気が変わる。 厳かだった空気が動きだし、エディの周囲で大きく回った。

 魔力が溢れ出し、エディを中心にして周囲の空気を巻き込んで波紋の様に広がっていく。

 エディの魔力を感じたのか、光妖精が創造主の像の後ろから顔を出した。 エディは気を抜かず、歌い続ける。 しかし、背後の大聖堂の入り口で人の気配を感じた。

 「あら? 歌声? 誰かが歌ってるのかしら?」

 聞き覚えのある声に、エディとロジェの頬が引き攣る。 エディとロジェは今までの経験上、彼女とは関わりたくないと、咄嗟にベンチの影へ隠れた。 今までにないくらい、二人は素早く動いた。

 ダークヒロインと思われるリラの足音が祭壇の前で止まる。

 「なんか、今日は隠れてばっかりですね、お嬢様っ」
 「本当にね。 さっさと帰ってくれないかしら」

 ロジェと小声で会話しながら、小さく溜息を吐いた。 エディは隠れているベンチからそっと顔を出し、祭壇の前に立つ創造主の像を覗き見た。 顔を出していた光妖精は、もう姿が見えなくなっていた。 エディは悔しくて、淑女らしからぬ舌打ちを鳴らしてしまった。

 舌打ちをした後で、不味いと顔を歪める。

 「大丈夫ですよ、お嬢様っ。 誰も居ないと思ったみたいで、何処かへ行ってしまったみたいです」
 「……そう、良かった」
 
 ロジェの言葉で今度は心底、深い溜息を吐いた。 歌を歌う前に漂っていた厳かな空気は消えており、いつも静寂が包まれている大聖堂に戻っていた。

 「あぁぁ~っ、今日は、もう無理だわっ」
 「……そうですね、いつもの雰囲気に戻ってしまいましたっ」
 「仕方ないわね。 帰りましょうか、ロジェ」
 「はい、お嬢様」

 ドゥクレ家の馬車停めまで、元来た道を歩き、馬車へ乗り込むとエディは屋敷へ戻って行った。

 ◇

 王宮には、幾つかの応接間がある。 来客する客人によって通される応接間が違う。 高位貴族の来客を迎える応接間で、会合が行われていた。 応接間に張り詰めた空気が流れている。

 お互いが黒い笑みを浮かべ、高級そうな柔らかいソファーに腰かけていた。 向かい合わせで座っているので、彼らの間には視えない火花が散らされている。

 「最近、不穏な噂が流れていてね。 私の婚約者に不名誉な傷が付くのは困るんだよね」

 張り詰めていた空気を破ったのはリュシアンで、牽制を受けたガッドは、爽やかな笑みを浮かべていた。

 「おや、王太子殿下にしては、余裕がありませんね。 もしかして、エディット嬢から婚約解消を求められているからですか?」
 「気安く、王太子の婚約者を名前で呼ぶな。 エディもお前に名を呼ぶ事を許していないだろう」

 爽やかな笑みを浮かべて、厭味が言えるのはガッドくらいだろう。 リュシアンの牽制など、全くガッドは気にしていなかった。 リュシアンから漂う空気が仄暗いものに変わる。

 「忠告しておく、私はエディと婚約解消はしない。 私が国王となり、エディが私の隣で王妃なる。 これは確定事項だ。 これ以上、エディに付き纏うな。 エディが二股かけているふしだらな女だと、噂される」

 リュシアンとガッドの笑みが同時に消えた。 暫し、睨み合いが続く。

 「忠告はした。 これが最後通告だ」

 ガッドはリュシアンを睨みつけるだけで、返事は何も返して来なかった。

 「話は以上だ」

 リュシアンは立ち上がり、扉まで向かう。 応接間の扉の前で、振り返ってガッドの名前を呼んだ。

 顔を上げたガッドはリュシアンに鋭い視線を向ける。

 「お前は何の為に、私を廃してまで王になろうとする?」
 「私が王太子殿下を廃そうとはしていませんよ」
 「エディを奪おうとしている事事態がそう言う事なんだ」

 ガッドはリュシアンの言葉に眉を顰める。

 「王太子殿下の考えすぎでしょう。 私はただ、エディット嬢が欲しいと思っただけです」
 「先程も言ったはずだ。 私のエディを名前で呼ぶな。 もし、権力を振りかざしたい、顕示欲だけで王になりたいのなら、お前にスペアとしての役割も与えられんぞ」

 『スペア』という言葉にガッドの表情が始めて歪んだ。
 
 「ちゃんと肝に銘じておくんだな」

 リュシアンはガッドの返事を聞かず、応接間を出て行った。 しかし、子供っぽい厭味しか言えず、アンリに慰められるのだった。 リュシアンにすれば、エディから婚約解消を求められている事を言われた事がとても傷ついた。

 「全く、たまに物凄く、子供っぽくなりますよね。 殿下は」
 「しかし、ガッドが私の忠告を聞くと思うか?」
 「思いませんね」

 王太子宮の執務室に戻って来たリュシアンは、執務机に突っ伏した。 リュシアンから情けない声が漏れる。 アンリがいつもなく優しい声を掛ける。

 「しかし、このまま何も忠告せずに居ると、要らない噂が大きくなりますから。 余計な噂は小さいうちに摘み取っておかないと、後から大変な目に遭います。 それに、闇妖精の呪いの件を疑われていると、分かったと思いますね」
 「そうだな、これでガッドがどう出てくるか……まだ、懲りずに闇妖精の呪いを送って来るのかな」

 顔を上げていたリュシアンは、『楽しみだ』と、とてもいい笑みを浮かべた。

 ◇

 翌日の放課後もエディは大聖堂へ向かっていた。 生徒会の手伝いで執行委員に臨時で所属しているが、先日の音楽祭の後、皆で話し合った。 一部の生徒ばかりに仕事を押し付けない様に。

 今は、初めに説明された様に、ローテーションで生徒会の雑用を手伝っている。

 (まぁ、暫くの間だけだろうけね。 直ぐにまた、我がままを言い出すんだろうなっ)
 
 今日はガッドに追いかけ回される事無く、すんなりと学園を出られた。 ロジェもヨアンの顔を見ずに済んで、今日一日はとても気分よく過ごせた。 エディとロジェは笑顔で大聖堂へ辿り着いた。
 
 大聖堂の辿り着くと、入り口で立っている生徒がいた。 いつものお馬鹿な雰囲気はなく、神妙な顔をしたダークヒロインのリラだ。 表では淑女の笑みを浮かべていたが、内心では叫んでいた。

 ロジェは顔に『お化けが出た』みたいな表情を浮かべていた。

 リラはエディの前まで来ると、『貴方に話があるの』と、至極、真面目な表情で言った。

 「話ですか?」
 「ええ、そうよ。 大事な話なの。 着いて来て、誰にも聞かれたくないわ」
 「お嬢様っ」

 ロジェが心配そうにエディの制服の袖を引っ張る。 いつもと違う雰囲気に警戒したが、エディは着いて行く事に決めた。

 「分かったわ、話を聞きましょう」

 (何か遭ったなら、その時に考えよう。 それに、絶対に助けてくれると思うのよね、リュシアン)

 最終的にリュシアンを頼っている事に、自己嫌悪に陥ったが、前を歩くリラに着いて行った。
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