『私に嫌われて見せてよ』~もしかして私、悪役令嬢?! ~

伊織愁

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15話

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 エディはリラに連れられ、講堂の裏まで来た。 ロジェは隣で何かあれば、一瞬で切り捨てるつもりなのか、油断なくリラを観察している。

 (コーン、殺人は駄目だからねっ! でも、講堂裏って……いつの時代よっ。 何かしら良からぬ事をするか、愛の告白をする為の呼び出し場所だけど……)

 何の話をする為なのか分からないが、講堂裏には閉じ込める為の小屋や物置はない。 だから、何かしら良からぬ事を考えている訳ではなさそうだ。

 塀で行き止まりになった所で、前を歩くリラの足が止まり、振り返った。 無感情な顔に、やはり何を考えているのか、分からない。

 暫しじっとエディを見つめると、リラは口を開いた。

 「音楽祭で披露した歌……とても素晴らしかったわ」
 「ありがとうございます」

 『とても懐かしかったわ』と口が動いたが、エディは分からなかった。 エディは淑女の笑みを浮かべてお礼を口にする。

 「私も好きだわ、彼女の歌」
 「えっ!!」

 エディは一瞬、何を言われているのか分からず、目を丸くした。

 「私は彼女の二枚目に出した曲が好きね。 彼女の歌声がもう聞けないのは、とても残念だわ」

 リラはにっこり笑って『貴方は、他にどの曲が好き』と、聞いて来た。

 「えっ、もしかして……ブリエ嬢は、転生者? なのっ……」
 「そうよ。 そうじゃなかったら、貴方が歌った歌を知っている訳ないじゃない」
 「……っ」

 エディは、ダークヒロインだろうと思っていたリラが、転生者な事に驚きを隠せなかった。

 (ダークヒロインが転生者……あ、これはよくあるアレかっ! 何で分からなかったんだろうっ……ヒロインと悪役令嬢が転生者のラノベ、まぁまぁな数を呼んでたのにっ。 この子の目的は何? 仲良くなるか、それとも敵対するかっ……)

 エディもじっとリラを見つめる。

 (どっちだろ? 仲良くなる方だと、中身がオタクで悪役令嬢推しだったりするよね。 敵対だと、『ちゃんと悪役令嬢やれよっ』と迫って来るのよねっ)

 エディのこめかみに冷や汗が流れ、大分、ライトノベルに感化されている。

 『あぁ、そうそう、前世のあんたもそんな感じだった。 全部、考えてる事が顔に出てたっけ』

 リラが小さい声で何かを言っていたが、エディとロジェには聞こえていなかった。 エディは瞳を白黒させながら、リラの対応に困っている様子だった。

 「貴方は、この小説の内容を知っているの? ヒロインと悪役令嬢が転生者なんて、もう、小説の中で起こる事は起きるか分からないわ。 実際にリュシアンはヒロインの私に全く興味ないみたいだし」

 リラが『リュシアン』と呼び捨てした事に、エディの瞳がスッと細められた。

 「ブリエ嬢、王太子殿下が前世の小説の中の人で、貴方の中では呼び捨てが当たり前だったとしても、この世界では現実です。 学園の中では皆が平等だとうたっていますが、王族の方を名前で呼び捨てる行為は不敬です。 貴方は面識のない方に、ファーストネームで呼び捨てられても平気なのですか?」

 リラは一瞬だけ眉を顰めたが、直ぐに眉尻を下げて弁明して来た。 リラが小さく舌打ちをしていた事に気づいていない。

 「ご、ごめんなさい。 そうね、転生してるんだから……ここが現実なのよね。 でもね、私は心配なのっ! 小説の内容が変わって来てるから大丈夫だとは思うんだけど……」
 「……質問いい?」
 「うん、いいわ」
 「えと、貴方がヒロインで、私が悪役令嬢でいいのよね。 それで、この世界は前世で発行されていた小説に似ている」
 「うん、そうよ」

 リラが意地悪な笑みを口元に広げているが、エディは俯いたので、リラの顔は視えていない。

 (……やっぱり、悪役令嬢だったかっ! まぁ、分かってたんだけど……現実を突きつけられると、ショックだっ)

 「リュ、王太子殿下も性格が少し違うし、もしかしたら似ている世界に転生したのかなって思っていたんだけど。 殿下に話しかけても無視されるし……相手にされないしっ。 食堂で初めて会った時も無視されたし……」

 徐々にリラの顔が強張っていく。

 (いや、貴方……リュシアンと仲がいいとか、嘘をついたからでしょうっ。 リュシアンが居ないのを良い事に、リュシアンと不貞している噂を流したからでしょうっ)

 隣でロジェの顔が『何言ってるんだ、こいつ』と、瞳と口を信じられないくらい開けている。

 「やっぱり現実は違うのかなって思っていたら、貴方が音楽祭で前世の歌を歌ったでしょう? あぁ、だから小説の内容が狂ったんだって分かったの。 でも、もういいのっ、別に殿下と結ばれたいとは、思っていないし」
 「そう……」

 (あぁ、コーンの顔に『お前、大丈夫か』と明らかに出てるっ!)

 「でもね、このままだと悪役令嬢の所為で世界が滅ぶのよっ! 悪役令嬢は、自身が王になりたくて、虹色の魔力を保持してもいないのに創造主に願うのっ! 自分を女王にして、リュシアンを王配にって。 勿論、悪役令嬢は闇妖精としか契約できないから、失敗して、魔王になって世界を滅ぼす事になるんだけど……」

 『うん、嘘だな』とエディとロジェから表情が抜け落ちていく。

 「……そうなんだ」
 「そうなのっ!」

 リラは力強く頷いた。

 「ヒロインを虐めていた悪役令嬢が魔王になって、リュシアンに成敗されたシーンはスカッとしたわっ! そして、ヒロインとリュシアンは結ばれるのよ」

 『さっきと言っている事が違う、今のが本当の話だな』と、エディとロジェは、無言で頷いた。

 リラはうっとりと話すが、世界が滅ぼされた世界で、何故、リュシアンとヒロインだけが生き残っているのか首を傾げる。 世界が滅ぶ前に、悪役令嬢を倒さなかったのかと。

 (そうか……小説の中の私はヒロインに嫉妬して虐めて、女王になる資格もなくて、リュシアンを王配にと、望んだのかっ。 それで、契約に失敗して魔王になってリュシアンに殺されるのねっ)

 少し考えてから、『ん?』とエディは眉を顰めた。

 「なんで、悪役令嬢は殿下に自身を王妃にしてもらわなかったのかしら? 王妃は別に虹色の魔力を保持していなくてもいいんだけど……まぁ、五属性くらいは必要だけど」

 (しかし、ここまで小説の内容を聞いても前世で読んだ記憶がない。 もしかして、面白くなくて忘れている? いや、そんな事ないわ。 一度、読んだ事ある小説は忘れていても、読み返した時に思い出すし……)

 「そんなのっ、ヒロインが居るんだからっ……リュシアンに振られるんだからっ……」
 「うん、そう言う事を言ってるんじゃなくて……因みに、この小説の題名と作者は?」
 
 リラが答えた作者は、エディが前世で好きだった作家だった。 そして、リラが言った小説は、買ったけど読めていなかった小説だった。

 (そうかっ、まだ、読んでなかった小説かっ。 好きな作家だから、世界観とかで既視感があっただけね。 そりゃ、キャラの名前と内容を思い出さないはずだわっ)

 「同じ転生者が魔王になるのは悲しいわっ。 だから、貴方はガッド様と結ばれる事を勧めるわっ」
 「えっ、何で? 小説の内容と違うなら、私は魔王にならないじゃない? ガッド様にも興味ないし」
 「えっっ、あ、そうなんだけどっ」

 『ガッドが王位を狙っている事に気づいた悪役令嬢が、ガッドを利用して女王になるから……えと、どうやって誘導すればいいか分からないわっ』

 (なるほど、悪役令嬢はガッドを利用するのかっ)

 追いかけ回して来ていたガッドを思い出すと、背中に冷や汗が流れる。

 ブツブツと言っている事が聞こえ、どうやらリラは本音では諦めていなくて、エディを破滅においやろうとしている様だ。 リラは策士にはなれないらしい。

 (小説の中の悪役令嬢な私は、虹色の魔力を保持しているリュシアンを操って女王になる事は考えなかったのね。 リュシアンの気持ちがヒロインに向いてるなら、そういう手段に出てもおかしくないよね? お妃教育で、教養もあるだろうから、闇妖精としか契約できない自身が創造主と契約できないのはわかっていただろうし。 まぁ、無くなったしまった小説の内容を批評しても仕方ない)

 「で、結局、貴方はどうしたいの?」
 
 『そんなの、ムカつくあんたを嵌めてぎゃふんと言わせたいだけよっ!! もう、王子の事は要らないけど、チャンスがあれば奪うけどねっ! アンタの悲しむ顔を見たいしっ! なんて言えないし……』

 ブツブツとまたリラは言い出した。

 『いや、言ってるだろう』と、エディとロジェは内心でツッコミを入れた。 リラの独り言がエディに聞こえていた事に気づき、リラがハッとして視線を合わせた来た。

 「と、兎に角、このままでは世界が滅ぶって言う事よっ!!」
 「えっ……」

 リラは鼻息荒く、正門の方へ歩いて行った。 リラの後ろ姿を呆けて眺めるエディとロジェ。

 「結局、何が言いたかったのかしら」
 「そうですね、でも、お嬢様の事を妬んでいる事は分かりましたよ。 それで、ガッド様と結ばれて欲しいみたいです。 お嬢様、魔王になられるんですね。 おめでとうございます」
 「ありがとう、コーン。 って、そうじゃないわよっ! 魔王にも、女王にも、ガッド様にも私は興味がないからねっ。 世界を滅ぼそうなんて思ってないしっ……」

 (でも、小説の内容が分かっただけでも、良かったわっ。 あ、もう一つ小説と違う部分があるわ。 私が虹色の魔力を保持して生まれた事よ。 小説では闇妖精だけだなのよね? これって、転生チートってやつ?!)

 エディが今後の事をどうするか考えながら百面相する姿は、面白い。 そばで呟いたロジェの言葉はエディには聞こえていなかった。

 「お嬢様、僕はコーンではありません。 って、聞こえていませんね。 ふむ、考え事する姿はヒロインと同じですね。 ただ、善と悪かの違いだけですけど」
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