『私に嫌われて見せてよ』~もしかして私、悪役令嬢?! ~

伊織愁

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26話

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 エディの目の前で、リラの放った火魔法が襲ってくる。 直ぐに闇妖精を呼び出し、防御を固めようとしたが、間に合わない。 眉を顰めたエディの視界に、小さい人影が飛び込んで来た。

 「お嬢様っ! 伏せて下さいっ」

 不測の事態の為、ベンチの下で隠れていたロジェが飛び出して来た。 ロジェの勢いにエディは突き飛ばされ、床へ倒れ込んだ。 床へ叩きつけられた背中に、痛みが走る。

 「ロジェっ!」
 「……っお嬢様、大丈夫ですかっ?! 頭を上げないで下さいっ」

 上に伸し掛かっているロジェの頭上を炎が走る。 エディの視界で、オレンジ色の炎が通り過ぎていく。 炎を見たエディの口から、情けない声が飛び出した。

 「なっ、建物の中で火魔法を放つなんてっ! 火事になったらどうするのよっ! 火魔法は開けた場所で使う事が推奨されてるでしょうっ!」
 「今は、使用場所を言ってる場合ではないですっ、お嬢様っ!」

 暫く火を噴く火妖精の魔法から逃げ回る。 ロジェと床を這いながら、必死に足を動かして移動した。 流石に焼死は避けたいと、ベンチを下を移動していると、ベンチが無くなってしまった。

 「「ぎゃっ! ベンチがなくなったっ!」」

 大聖堂の扉の前まで移動したエディとロジェは、荒い息をして祭壇の前のリラを見つめた。 無様なエディを見られて満足したのか、リラは火妖精を帰す。 そして、愉悦を浮かべた。

 「ふふっ、中々、楽しめたわっ! 貴方の逃げ惑う姿は滑稽で、面白かったわよ」
 「……っ」

 眉を顰めたエディを見つめたリラは、『そこで見ていなさい』と祭壇の前で膝をついた。 厳かな空気が流れる大聖堂の中、リラの祈りが捧げられる。 リラから光の粒が溢れ出て、創造主の像に吸い込まれていった。 エディとロジェは息を呑んで見守る。

 エディの視界の中で創造主の像が歪んで見え、何重にも揺れた。

 創造主の像から魂が抜け出る様に創造主が現れた。 創造主は瞼を開けると、にっこりと微笑んで、呆気にとられて見つめるエディたちと視線を合わせる。 男性なのか、女性なのか、性別の分からない美しい姿だ。 そして、美しい姿からは想像できない様な、しわがれた声が紡がれた。

 「やぁ、やっと会えたね、リラ。 君を待っていたよ」
 「えっ?! 私を待っていたっ?!」

 創造主は美しい顔で黙って頷いた。 リラは栗色の瞳を煌めかせ、嬉しそうにはしゃいでいる。

 「やっぱり、私が主役よね。 しわがれた声は聴き取りづらいけど、貴方は私の想像以上に綺麗だわ」

 エディもリラの意見には同意するが、リラの態度が不敬すぎると、頬を引き攣らせていた。 ロジェが隣で『アワアワ』と言い、焦っている姿がとても可愛らしい。

 黙ってリラと創造主を見守っていると、背後の大聖堂の扉が開けられた。 金属の弾ける鈍い音が鳴る。 ゆっくりと振り返った視界に映し出された人物を見て、エディの瞳が見開かれた。

 「リュシアンっ! 無事だったのね」
 「エディ、待たせたね。 大丈夫だ、私に怪我はないよ」

 にっこりと微笑むリュシアンの背後に、大量の土砂の山が崩れた様な光景と、前庭が所々、壊されている光景が広がっていた。 大分、前庭が破壊されている様子に、エディたちが全く気付かなかった事にも驚きを隠せなかった。

 (うわっ! ガッド様がどうなったか、聞かなくても分かるわねっ)

 リュシアンが大聖堂へ入って来た事に気づき、創造主がリュシアンに声を掛けて来た。

 「やぁ、王子。 君は条件を満たした、君の願いを叶えよう。 しかし、無理意地は駄目だよ?」

 創造主の言った言葉に事情を知らないエディとロジェ、リラの三人は『ん?』と頭上に疑問譜を浮かべる。 反してリュシアンは嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 (えっ、願いっ?! まさか……いつの間にっ?!)

 「ありがとうございます、主さま。 肝に銘じます」
 
 創造主はリュシアンの答えに鷹揚に頷いた。 慌てたのはリラである。

 「願い? リュシアンの願いって何っ?! 私より先にリュシアンが願ったって事?!」

 エディとロジェの疑問に思った事をリラが大きな声で叫んだ。 創造主は何が面白いのか、楽しそうにリラを眺めている。

 「リュシアン、創造主が言った条件って?」

 エディの胸に嫌な予感が過ぎる。 リュシアンはリラを祭壇の前に立たせようとしていた。 もし、創造主の条件がリラを祭壇の前に立たせることなら、エディも無関係でないかも知れないと。

 「ああ、主さまの条件はブリエ嬢を祭壇の前へ連れて来る事だったんだ。 主さまは祭壇から離れられないんだそうだ」
 「そう、ですか……」

 (嫌な予感が当たったっ……何で、創造主がブリエ嬢を望んでいるのっ?)

 「では、始めようか」

 エディの思考を遮るしわがれた声が大聖堂で響く。 皆は創造主が言っている事が理解出来なくて、リュシアンとロジェ、リラの三人は不思議そうに首を傾げているが、エディだけが青ざめていた。

 何せエディは、小説の中では悪役令嬢なのだ。 何かの拍子で断罪されるか、命を取られるか分からない。 逃げ出したいが、恐怖で足が竦み、動けないでいた。

 顔を俯けた瞬間、リュシアンがエディの腰をそっと引き寄せ、耳元で囁く。

 「大丈夫だ、エディが恐れている様な事にはならない」
 「でもっ……」
 「主さまは私の願いを叶えてくれると言った。 心配しなくても大丈夫だ、安心して」

 ゆっくりと創造主がリラへ近づいていく。 リラも不安が過ぎったのか、後ずさりながら、不安に顔を歪めている。 創造主のしわがれた声が優しさを滲ませ、リラへと落ちる。

 「大丈夫、怖い事はないよ。 直ぐに終わるからね。 でも、先に説明をした方がいいかな。 私が君を祭壇に連れて来る様、王子に頼んだんだ。 王子の願いを叶える条件としてね」
 「リュシアンの願いって?」

 リラはとても聞きたそうにリュシアンへ視線を向ける。 リュシアンの代わりに創造主が問いに答えた。

 「それは個人的な事だから、私には言えないね。 知りたければ、本人に聞けばいい」

 リラは再びリュシアンの方へ視線をやるが、ピッタリとエディが寄り添っている為、不機嫌な顔を隠さない。 小さく息を吐いたリュシアンは、『仕方ないな』と呟いた。

 「まぁ、知られても構わないし、いいよ。 教えてあげるよ。 その代わり、もう、エディにちょっかいを掛けるのは止めるんだよ」
 「……っ」

 有無を言わさないリュシアンの笑みに、リラは悔しそうに口を引き結んだ。

 「私の願いは『王になった私の王妃に、エディがなる事』それ以外は、叶えないで欲しい』だね。 私の願いを叶えるためには、主さまの条件を満たさないといけなかった。 その条件は」
 「私を祭壇の前へ立たせる事ってことっ?! 何でっ?!」
 「そうだ。 理由は分からない。 でも、一応、私も知りたいですね。 主さまがブリエ嬢を求める訳を」

 皆が一斉に創造主へ視線を向けた。 創造主が『やっと本題に入れるね』としわがれた声で呟き、笑みを浮かべた。

 「リラ、このままだと、前世のリラと現世のリラ、二つの魂はなじまない。 ずっと現世のリラが奥底に閉じ込められていると、やがて二つの魂は歪んでしまう。 暴走を起こしてはリラが破滅してしまうんだよ」

 「はっ?! 破滅っ? 悪役令嬢のエディじゃなくて、ヒロインの私がっ?!」

 リラは創造主の言っている事が理解できない様で、憤りを感じて叫んでいる。 エディの背中に悪寒が走った。 創造主が言っている事が本当なら、エディも同じでなのではないかと。

 「君も言っていたでしょう。 この世界は小説とは違う物語を辿っていると」
 「それはっ……」
 「この世界は、私が若い頃に地球を覗いた時、見かけた小説を模倣して作った世界なんだ。 だから、似ているだけで違う世界だよ。 模倣の世界は模倣でしかないからね」

 リラは信じられないと、瞳と口を開けて固まっていた。 創造主は『これ以上の話し合いは無駄だね』とリラの頭上に片手をかざした。 頭を撫でる様に空中で動かすと、リラの魂が抜け出て来た。

 エディとロジェは言葉にならない叫び声を出し、リュシアンは眉を顰めただけだった。

 「さぁ、前世のリラ、出ておいで」

 リラの形をした魂の中から一つの球体が出来て、創造主の掌の上で何かを言っているかのように発光している。 創造主が今から何をするのか、創造が出来ず、エディはじっと見守るしかなかった。

 前世のリラの魂を取り出すと、リラの形をした魂が身体に戻って行った。

 エディとロジェ、リュシアンの三人の息を呑む音が静寂に包まれた大聖堂で響いた。 驚きすぎて何も言葉を発せない三人を尻目に、創造主は発光するリラの魂と会話している様だ。

 しかし、創造主の口は動いているが、声は出ていない。 リラの魂とだけ会話している。

 暫く前世のリラの魂と会話した後、眩しい光を放った。 眩しすぎて瞳を開けていられなくて、強く瞼を閉じた。 瞼の裏まで光が届き、瞼を閉じているのに眩しく感じる。

 「終わったよ、大人しく地球へ帰ってもらった」

 創造主の声が聞こえたと同時に、眩い光が収まった。 創造主の『地球へ帰ってもらった』という言葉に、エディの胸が力強く鼓動し、身体中で心臓の音が聞こえる。

 (次は私の番っ?!)
 
 懐かしい地球という言葉を聞き、郷愁を駆られても、エディは帰りたいとは思わなかった。 エディが生きる世界は、生まれたこの世界だ。 創造主は躊躇う事もなく、リラの意思も聞かずにリラを地球へ戻した。 エディは顔を上げる事が出来なかった。

 エディの腰を強く引き寄せる腕を感じ、身体の左端に温かい体温を感じて、顔を上げる。

 エディの視界に優しい眼差しを送って来るリュシアンが居た。 優し眼差しは大丈夫だと、語っていてエディを心の底から安心させた。 じんわりとリュシアンの温もりが伝わって来る。

 見つめ合う二人に創造主のしわがれた声が落ちる。

 「エディの魂は取らないよ。 君の魂は母親の中に居た時から馴染んでいたからね。 前世と現世が二つに分かれていない。 最初から一つの魂なんだよ」
 
 創造主の話にエディはホッと胸を撫で下ろした。

 「言ったでしょう? 大丈夫だって、創造主は私の願いを叶えてくれたんだから、エディが死ぬわけない」
 「あ、そうですよねっ。 私、ビビり過ぎました」

 『あははっ』とリュシアンと笑い合ったが、彼が願った内容を思い出して、エディの身体が軋んだ音を鳴らして固まった。 リュシアンの願いの内容を理解すると、エディのこめかみに青筋が出来た。

 「なんでっ、そんな願いを私に聞かないで、願ったんですかっ?!」
 「それは、絶対にエディを逃がしたくないから。 無理意地はしないって言ったけど、早めに諦めて私の元へお嫁に来てよ」
 「……っ」

 爽やかな笑みを浮かべて、もの凄く怖い事を言われた。 しかし、全く嫌な気がしていない自身を感じていた。 きっとリュシアンからは、一生逃げられないんだと悟った。
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