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2章 地中に埋まった骨鉱山
14 いやなやつ
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「起きろチビ! いつまで寝転がっていやがる!」
太い声で解は我にかえった。
自分が地面に尻餅をついた格好でいることに、どなりつけられて初めて気づいた。
呆然と座りこんだ時間がどれほどなのか、一瞬なのかそれともしばらくの間だったのかわからない。
解は周囲を見まわした。
暗い空間だ。
それなのにやけにまぶしい。
解はだれかが灯りをこちらに向けて立っているのに気づいた。
「ボーっとしてんじゃねえ! お前はここに遊びに来たんじゃねえんだ!」
太い声が解をどやしつけた。
解は男に注意を向けた。
男の頭部の縦横に革が巻いてある。
ボクシングのマンガで見たことのあるヘッドギアみたいだぞと解は思った。
その革に灯りがとりつけてある。
男が灯りに手をかけた。カチャカチャと音がして灯りがヘッドギアからはずれた。男が灯りを高く掲げた。
これで少しはあたりが見わたせるようになった。
しめった土のにおいがたちこめている。どこかでピチョン、という音がした。
結生、絵夢、それに杉野さんが地面にうずくまっているのが見えた。
解は声をあげた。いつもよりかすれた声が出た。
「結生くん、杉野さん、大丈夫?」
すぐに結生がこたえた。
「こっちは大丈夫。絵夢ちゃんもケガはないよ。」
「よかった。」
と言ったのは杉野さんだ。
「まぁま。」
絵夢が声をあげ、結生の手から離れて立ちあがり、杉野さんに抱きつくのが解の目にうつった。
解は絵夢から太った大男へと視線を移動した。
まっさきに解がたしかめたのは大男の足元だ。
(地面に足がついてる。この人はぼくらとおなじ人間なんだ。)
カク・シが言うところの地徒人だ、と解は思った。
大きな男だ。縦にも横にもだ。
とっさに解は(デブ)と思ってしまった。
腹のあたりがいちばん太い、洋梨みたいな体型の男だ。
そいつが解に近づいた。
そして爪先で解の足を蹴った。
力を入れて蹴とばしたわけではないが、だからといって丁寧な扱いにはほどとおい。
「チビすけ、さっさと立て。そっちのやつも、それから女も、お前らみんな遊びに来たわけじゃねえだろうが!」
解は一瞬ポカンとした。
いちばんはじめにシェルギの影を通りぬけた黒いデニムジャケットの女とちがって解はカク・シに感激したわけでもなく、よろこび勇んで蘇石骨を採掘しようと意気ごんだわけでもない。
それどころか不安を感じながら影を通りぬけたくらいだ。
それにしたって、こういうぞんざいな男がいきなり待ちかまえていると予測したわけじゃない。
なんだこりゃ、と解は思った。
それでも解は立ちあがった。
転がり落ちたときに足をぶつけたようで左足のくるぶしが痛んだ。
手のひらもヒリヒリした。
とはいえ大きなケガはなかったようだ。
同時に、いやな気分がわきおこった。ひどくいやーな気分だ。
男がいばりかえった態度で言った。
「いいかお前ら、これからお前らがやることを説明してやる。ついでにしっかりおぼえておけよ、オレは大河内だ。お前らの監督官だからな。」
この人のことを良い人だと思うのはすっごくむずかしいな、と解は考えた。
大河内と名乗った男はパーカーをはおり、そのなかに黒いTシャツを着ていた。
Tシャツには白い骸骨のイラストと英語の文章がプリントしてあるのが見えた。
下はチノパン。髪の毛はくしゃりと縮れている。
全体になんとなく汚い、と解は顔をしかめた。
それにいやなにおいがする。
もしかしてこの人は長いこと身体を洗っていないのかな、と思った。
十二歳の少年の目には大人は大人だという判別ができるだけで年齢の推測はむずかしい。
二十歳以上、三十歳未満だ、おそらく、と解は考えた。
そのとき大河内が服の左右を持ちあげてバサリと振ってみせた。
まるでわざと見せつけるようなしぐさだ。
それで解は気づいた。
パーカーに見えたものはカク・シが着ていた上衣とおなじ材質の布だ。
暗いのでわかりづらいが大河内が動くとぼんやりと色が変化して見えた。
ただし大河内が身につけているのは上衣だけだ。
胸元にはエンブレムがない。
解は、ふと思いついて言ってみた。
「あのー、あなたがカク・シって人の言ってた、ぼくらを案内してくれる人ですか?」
「そんなことは見りゃわかるだろうが、このチビが。身体だけじゃなくて脳みそもチビなのか、ああそうか可哀想にな! じゃあお前のこーんなにちっちゃい――」
と、大河内は右手の人差し指と親指を丸めて粒をつまむようなしぐさをしてみせ、
「――おつむでもよくわかるように説明してやる。ありがたいと思え。」
解はついさっき自分が考えたことを訂正した。
この人を良い人だと思うのは、むずかしいわけじゃない。
たぶん、いや、ぜったい無理だ。
大河内が言葉をつづけた。
「おれはカク・シ様の言いつけでこの西部六番坑道を監督している。お前らはこれから蘇石骨を見つけておれに寄こせ。おれがそれを確認する。おれがいいと言わなけりゃ、お前らいつまでも這いつくばって蘇石骨を探しつづけるはめになる。飯も休憩もおれがいいと言ってはじめてお前らに与えられる。いいか、チビ、そのちーっちゃい脳みそに叩きこんでおけ、おれはカク・シ様の代理で、おれの目はカク・シ様の目、おれの言葉はカク・シ様の言葉だ。おれのことを崇めろよ。」
太い声で解は我にかえった。
自分が地面に尻餅をついた格好でいることに、どなりつけられて初めて気づいた。
呆然と座りこんだ時間がどれほどなのか、一瞬なのかそれともしばらくの間だったのかわからない。
解は周囲を見まわした。
暗い空間だ。
それなのにやけにまぶしい。
解はだれかが灯りをこちらに向けて立っているのに気づいた。
「ボーっとしてんじゃねえ! お前はここに遊びに来たんじゃねえんだ!」
太い声が解をどやしつけた。
解は男に注意を向けた。
男の頭部の縦横に革が巻いてある。
ボクシングのマンガで見たことのあるヘッドギアみたいだぞと解は思った。
その革に灯りがとりつけてある。
男が灯りに手をかけた。カチャカチャと音がして灯りがヘッドギアからはずれた。男が灯りを高く掲げた。
これで少しはあたりが見わたせるようになった。
しめった土のにおいがたちこめている。どこかでピチョン、という音がした。
結生、絵夢、それに杉野さんが地面にうずくまっているのが見えた。
解は声をあげた。いつもよりかすれた声が出た。
「結生くん、杉野さん、大丈夫?」
すぐに結生がこたえた。
「こっちは大丈夫。絵夢ちゃんもケガはないよ。」
「よかった。」
と言ったのは杉野さんだ。
「まぁま。」
絵夢が声をあげ、結生の手から離れて立ちあがり、杉野さんに抱きつくのが解の目にうつった。
解は絵夢から太った大男へと視線を移動した。
まっさきに解がたしかめたのは大男の足元だ。
(地面に足がついてる。この人はぼくらとおなじ人間なんだ。)
カク・シが言うところの地徒人だ、と解は思った。
大きな男だ。縦にも横にもだ。
とっさに解は(デブ)と思ってしまった。
腹のあたりがいちばん太い、洋梨みたいな体型の男だ。
そいつが解に近づいた。
そして爪先で解の足を蹴った。
力を入れて蹴とばしたわけではないが、だからといって丁寧な扱いにはほどとおい。
「チビすけ、さっさと立て。そっちのやつも、それから女も、お前らみんな遊びに来たわけじゃねえだろうが!」
解は一瞬ポカンとした。
いちばんはじめにシェルギの影を通りぬけた黒いデニムジャケットの女とちがって解はカク・シに感激したわけでもなく、よろこび勇んで蘇石骨を採掘しようと意気ごんだわけでもない。
それどころか不安を感じながら影を通りぬけたくらいだ。
それにしたって、こういうぞんざいな男がいきなり待ちかまえていると予測したわけじゃない。
なんだこりゃ、と解は思った。
それでも解は立ちあがった。
転がり落ちたときに足をぶつけたようで左足のくるぶしが痛んだ。
手のひらもヒリヒリした。
とはいえ大きなケガはなかったようだ。
同時に、いやな気分がわきおこった。ひどくいやーな気分だ。
男がいばりかえった態度で言った。
「いいかお前ら、これからお前らがやることを説明してやる。ついでにしっかりおぼえておけよ、オレは大河内だ。お前らの監督官だからな。」
この人のことを良い人だと思うのはすっごくむずかしいな、と解は考えた。
大河内と名乗った男はパーカーをはおり、そのなかに黒いTシャツを着ていた。
Tシャツには白い骸骨のイラストと英語の文章がプリントしてあるのが見えた。
下はチノパン。髪の毛はくしゃりと縮れている。
全体になんとなく汚い、と解は顔をしかめた。
それにいやなにおいがする。
もしかしてこの人は長いこと身体を洗っていないのかな、と思った。
十二歳の少年の目には大人は大人だという判別ができるだけで年齢の推測はむずかしい。
二十歳以上、三十歳未満だ、おそらく、と解は考えた。
そのとき大河内が服の左右を持ちあげてバサリと振ってみせた。
まるでわざと見せつけるようなしぐさだ。
それで解は気づいた。
パーカーに見えたものはカク・シが着ていた上衣とおなじ材質の布だ。
暗いのでわかりづらいが大河内が動くとぼんやりと色が変化して見えた。
ただし大河内が身につけているのは上衣だけだ。
胸元にはエンブレムがない。
解は、ふと思いついて言ってみた。
「あのー、あなたがカク・シって人の言ってた、ぼくらを案内してくれる人ですか?」
「そんなことは見りゃわかるだろうが、このチビが。身体だけじゃなくて脳みそもチビなのか、ああそうか可哀想にな! じゃあお前のこーんなにちっちゃい――」
と、大河内は右手の人差し指と親指を丸めて粒をつまむようなしぐさをしてみせ、
「――おつむでもよくわかるように説明してやる。ありがたいと思え。」
解はついさっき自分が考えたことを訂正した。
この人を良い人だと思うのは、むずかしいわけじゃない。
たぶん、いや、ぜったい無理だ。
大河内が言葉をつづけた。
「おれはカク・シ様の言いつけでこの西部六番坑道を監督している。お前らはこれから蘇石骨を見つけておれに寄こせ。おれがそれを確認する。おれがいいと言わなけりゃ、お前らいつまでも這いつくばって蘇石骨を探しつづけるはめになる。飯も休憩もおれがいいと言ってはじめてお前らに与えられる。いいか、チビ、そのちーっちゃい脳みそに叩きこんでおけ、おれはカク・シ様の代理で、おれの目はカク・シ様の目、おれの言葉はカク・シ様の言葉だ。おれのことを崇めろよ。」
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