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2章 地中に埋まった骨鉱山
18 蘇石骨の採掘(前)
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解はうなずき、それから足元の骨をじっと見た。
目の前に大きな角が二本生えた頭蓋骨がある。
解はそれぞれの角に手をかけてそいつを持ちあげた。
思ったよりもずっと軽い。
解はそいつと目をあわせてみた。
(牛みたいな生きものだったのかな。いや、牛よりずっと大きな角に見えるな。)
解はそいつを自分の目よりも高く掲げて注意深くながめた。
頭蓋骨のなかには空洞が広がるばかりで、大河内の説明のような赤い光はなかった。
解は頭蓋骨が落ちていた場所のすぐそばにある骨を見た。
生きものの身体のかたちが骨の配列としてまだ残っている。
首の骨、肩甲骨、あばら骨、骨盤ーー。
「あっ。」
解は声をあげた。
興奮してドキドキした。もしかしてと思った。
骨のうち、首から背中にかけてゆるやかなカーブを描いてのびる骨、背骨のなかに、ほんのりと赤い色が見えた。
大河内が言ったとおりで見まちがえようのない色と光だ。
「あった!」
解の声に結生と杉野さんが集まった。
解は赤く光る小さなかたまりを指でつまみあげた。
厚みのある骨だ。
正面から見るとヒトデのまんなかに大きく三つ穴があいたようなかたちをしている。
(いや、でもヒトデよりでっぱりの数が多いな。一、二、三……七つだ。)
解はそれをじっと観察し、手ざわりをたしかめた。
乾いてすべすべしている。そしてたしかに赤かった。
赤い色の骨というよりも、骨のいちばん芯に赤い光の源があってそれが内側から骨を照らしているように見えた。赤い光はときどき強く、また弱く光った。
この光は赤いけど熱くもあたたかくもないんだな、と解は思った。
「これが蘇石骨……。」
解はつぶやいた。
杉野さんがうれしそうにわらった。
「よかった。覚悟したよりずっと早く見つかって助かる。ここがホントに手つかずの場所なら、あと三つもすぐに見つかりそう。」
笑顔が出るとその場の雰囲気も明るくなった。
結生が伝話貝に向かってささやいた。
すぐにオレンジ色の身が人間の耳と口のかたちに変化し、口もどきの部分から、
『どうした。』
と大河内の声がした。
解は一瞬、伝話貝を結生の手から借り大河内に向かって「どうだ、見つけたぞ。」と言いたい気分になった。
大河内は解のことをバカにして蹴とばしたけど、でもまっさきに蘇石骨を見つけたのは解なのだ。
もちろん解は実際には伝話貝を借りたりはしなかった。
とにかく、これで少なくとも食事だ、と解は考えた。
そう考えたとたんに解のお腹がグウ、キュルル、と音を立てた。
いつの間にか空腹だったようだ。
そういえば電車を降りてから、いやその前、カラジョルに乗ってから、一体どれくらいの時間が立っただろうかと解は急に気になった。
結生が伝話貝を通じて大河内に報告した。
「解くんが蘇石骨を見つけました。」
すると伝話貝の口もどきから大河内の不機嫌な声が、全員にはっきり聞こえた。
『そうか、じゃあもっと見つけろ。』
それだけだった。
そのあと結生がどれだけ呼びかけても、大河内の返答がない。
伝話貝はうんともすんとも言わず、しまいにかたちが元にもどってしまった。
ヤドカリみたいなやつはガサゴソと巻貝の奥へ姿を消した。
解と結生、それに杉野さんは顔を見あわせた。
杉野さんが腹を立てたような顔で言った。
「どういうこと? 話がちがう、あの人は一つ見つけたら食事にするって言ったのに。」
結生が一瞬顔をふせてすぐにまた上げた。
「解くん、その骨を見せて。」
「あ、うん。」
解は結生に蘇石骨を手わたした。
結生はそれを手のひらに乗せてじっと見つめた。
「椎骨だ。これを見つけた場所はわかる?」
「こっちのほう。」
解は蘇石骨を見つけたあたりを見まわした。
はじめに手にとった、角のある頭蓋骨が目についた。
「これとセットになった骨だったと思う。」
結生が頭蓋骨のそばに立ち、腰をかがめて顔を骨に近づけた。
解もそうした。
そしていくつかの骨を指さした。
「ええと、ほら、このへんの骨ってこいつの胴体の部分じゃないかな。」
「ああ、本当だ。」
解は大河内とちがって意味もなく骨を蹴とばしたりしなかったから、角の生えた生きものだった骨は元の場所に一そろえ残っていた。
解は背骨に指でふれた。
「そうそう、ここ。ここに蘇石骨があったんだよ。」
「胸椎か腰椎か、たぶん腰椎かな。これを脊椎動物の骨だと仮定しての話だけど。」
「きょうつい? ようつい?」
解がキョトンとすると、結生がほほえんだ。
「背骨ってこういう、ドーナツみたいに穴のあいた骨がユニットになって一本なんだ。それで一つ一つの骨を椎骨というんだよ。首の部分の骨を脊椎、胸のあたりを胸椎、腰のあたりを腰椎というんだ。その下に仙骨という大きいのがあって骨盤につながる。もし尻尾がある動物ならそのあとに尾骨がつづくんだ。」
「すごい、くわしいね。」
杉野さんが感心したような声をあげた。
結生がはにかむように微笑した。
「ぼくは四月になったら獣医学科のある大学へ進む予定なんです。ええと、それはともかく、もしかしたら骨のこの部分をさがせばいいんじゃないかな。」
目の前に大きな角が二本生えた頭蓋骨がある。
解はそれぞれの角に手をかけてそいつを持ちあげた。
思ったよりもずっと軽い。
解はそいつと目をあわせてみた。
(牛みたいな生きものだったのかな。いや、牛よりずっと大きな角に見えるな。)
解はそいつを自分の目よりも高く掲げて注意深くながめた。
頭蓋骨のなかには空洞が広がるばかりで、大河内の説明のような赤い光はなかった。
解は頭蓋骨が落ちていた場所のすぐそばにある骨を見た。
生きものの身体のかたちが骨の配列としてまだ残っている。
首の骨、肩甲骨、あばら骨、骨盤ーー。
「あっ。」
解は声をあげた。
興奮してドキドキした。もしかしてと思った。
骨のうち、首から背中にかけてゆるやかなカーブを描いてのびる骨、背骨のなかに、ほんのりと赤い色が見えた。
大河内が言ったとおりで見まちがえようのない色と光だ。
「あった!」
解の声に結生と杉野さんが集まった。
解は赤く光る小さなかたまりを指でつまみあげた。
厚みのある骨だ。
正面から見るとヒトデのまんなかに大きく三つ穴があいたようなかたちをしている。
(いや、でもヒトデよりでっぱりの数が多いな。一、二、三……七つだ。)
解はそれをじっと観察し、手ざわりをたしかめた。
乾いてすべすべしている。そしてたしかに赤かった。
赤い色の骨というよりも、骨のいちばん芯に赤い光の源があってそれが内側から骨を照らしているように見えた。赤い光はときどき強く、また弱く光った。
この光は赤いけど熱くもあたたかくもないんだな、と解は思った。
「これが蘇石骨……。」
解はつぶやいた。
杉野さんがうれしそうにわらった。
「よかった。覚悟したよりずっと早く見つかって助かる。ここがホントに手つかずの場所なら、あと三つもすぐに見つかりそう。」
笑顔が出るとその場の雰囲気も明るくなった。
結生が伝話貝に向かってささやいた。
すぐにオレンジ色の身が人間の耳と口のかたちに変化し、口もどきの部分から、
『どうした。』
と大河内の声がした。
解は一瞬、伝話貝を結生の手から借り大河内に向かって「どうだ、見つけたぞ。」と言いたい気分になった。
大河内は解のことをバカにして蹴とばしたけど、でもまっさきに蘇石骨を見つけたのは解なのだ。
もちろん解は実際には伝話貝を借りたりはしなかった。
とにかく、これで少なくとも食事だ、と解は考えた。
そう考えたとたんに解のお腹がグウ、キュルル、と音を立てた。
いつの間にか空腹だったようだ。
そういえば電車を降りてから、いやその前、カラジョルに乗ってから、一体どれくらいの時間が立っただろうかと解は急に気になった。
結生が伝話貝を通じて大河内に報告した。
「解くんが蘇石骨を見つけました。」
すると伝話貝の口もどきから大河内の不機嫌な声が、全員にはっきり聞こえた。
『そうか、じゃあもっと見つけろ。』
それだけだった。
そのあと結生がどれだけ呼びかけても、大河内の返答がない。
伝話貝はうんともすんとも言わず、しまいにかたちが元にもどってしまった。
ヤドカリみたいなやつはガサゴソと巻貝の奥へ姿を消した。
解と結生、それに杉野さんは顔を見あわせた。
杉野さんが腹を立てたような顔で言った。
「どういうこと? 話がちがう、あの人は一つ見つけたら食事にするって言ったのに。」
結生が一瞬顔をふせてすぐにまた上げた。
「解くん、その骨を見せて。」
「あ、うん。」
解は結生に蘇石骨を手わたした。
結生はそれを手のひらに乗せてじっと見つめた。
「椎骨だ。これを見つけた場所はわかる?」
「こっちのほう。」
解は蘇石骨を見つけたあたりを見まわした。
はじめに手にとった、角のある頭蓋骨が目についた。
「これとセットになった骨だったと思う。」
結生が頭蓋骨のそばに立ち、腰をかがめて顔を骨に近づけた。
解もそうした。
そしていくつかの骨を指さした。
「ええと、ほら、このへんの骨ってこいつの胴体の部分じゃないかな。」
「ああ、本当だ。」
解は大河内とちがって意味もなく骨を蹴とばしたりしなかったから、角の生えた生きものだった骨は元の場所に一そろえ残っていた。
解は背骨に指でふれた。
「そうそう、ここ。ここに蘇石骨があったんだよ。」
「胸椎か腰椎か、たぶん腰椎かな。これを脊椎動物の骨だと仮定しての話だけど。」
「きょうつい? ようつい?」
解がキョトンとすると、結生がほほえんだ。
「背骨ってこういう、ドーナツみたいに穴のあいた骨がユニットになって一本なんだ。それで一つ一つの骨を椎骨というんだよ。首の部分の骨を脊椎、胸のあたりを胸椎、腰のあたりを腰椎というんだ。その下に仙骨という大きいのがあって骨盤につながる。もし尻尾がある動物ならそのあとに尾骨がつづくんだ。」
「すごい、くわしいね。」
杉野さんが感心したような声をあげた。
結生がはにかむように微笑した。
「ぼくは四月になったら獣医学科のある大学へ進む予定なんです。ええと、それはともかく、もしかしたら骨のこの部分をさがせばいいんじゃないかな。」
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