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2章 地中に埋まった骨鉱山
17 伝話貝――スホベイ
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解はおどろいて結生を見た。
三十メートル離れた位置で、結生もおどろいた顔をしている。
大河内がうなずいた。
「そういうことだ。こいつが連絡手段だ。お前からおれに連絡したいときにはそっちのやつに『ルーにつながれ』というんだ。そうすりゃいまのように話ができる。」
『これは一体なんですか? 貝じゃないんですか?』
「ったく、今日来たやつはああだこうだうるせえやつばかりだな!」
大河内がどなった。
いまの声は巻貝なしでも結生まで聞こえただろうなと解は思った。
「伝話貝というんだ、いいか、こいつの仕組みをおれにきいたってムダだぞ、こんな変てこなモノ、なにがどうなって話ができるのかおれが知るかってんだ!」
『伝話貝、ですか。』
結生の声が巻貝のなかから聞こえた。解の頭にある考えが浮かんだ。
「もしかして、大河内さん、そのスホベイってやつも死んだらここへ集まるんですか? 身体のいちばん奥にベラットってやつがある?」
大河内がギロリと目をむいて解をにらみつけた。
「だったらどうした! いいかチビ、もし宮崎に持たせたスノの身を引きちぎって蘇石骨を取りだしてみろ、そんなズルは認めんからな!」
(この男がこんな風におどすってことは、じゃあホントにそうなんだ。この変な貝にも蘇石骨があるんだ。たしか貝には骨がないはずだから、貝殻のいちばん奥が蘇石骨かな?)
解の頭にもう一つ考えが浮かんだが、それを大河内に質問のかたちでぶつけるのは止めておいた。
その間に結生がもどってきた。
大河内は解、結生、それに杉野母娘に向かって尊大に、ある方向を指さしてみせた。
「あっちへ進め。この向こうにも坑道が一本ある。その坑道を進めばべつの広い場所に出る。そこはまだ手つかずの墓場だ。そこで蘇石骨を探せ。見つけたらオレに知らせろ。いいか、サボるんじゃねえぞ、一個見つけたら飯をやる。ほれ、とっとと行きやがれ!」
大河内はまたしても足元の骨を蹴ちらかした。彼の話はそれでおしまいで、四人は大河内が示した方角へ向かって歩きだした。
四人は骨の集積された広場の奥に細い道を見つけた。
道に入ると急に真っ暗になった。
大河内が結生に手わたしたのは伝話貝だけで灯りはなかったから、四人は注意深くそろそろと進んだ。
全員が壁に手をついて離さないようにした。
先頭を歩く結生がときどき声をあげた。
「ここにでっぱりがある。」とか「ぬかるんでいるから気をつけて。」とか。
それでもそうやって先導する結生自身を含めて四人とも、時々石やぬかるみに足をとられてつんのめった。
そのたびに、おたがい声をかけあった。
それぞれが持っているスマートフォンで足元を照らすこともみんな考え、話しあい、結局やめた。
たしかに暗いし足元はよくないけれど、それだけだ。
いまのところは。
(つまり結生くんも杉野さんも、いまより厄介なことが起きるかもしれないって考えているんだ。)
解はそう思った。
道はゆるやかな下り坂だ。
地中に向かって進むことになる。
しめった土のにおいに混ざってときどき腐ったようなにおいがする。
しばらく歩くとそのにおいは消え、またしばらく歩くと今度はべつの腐ったにおいが鼻につき、ほどなくして消えていく。
現れるのはにおいだけだが、それでもそのたびに解は緊張した。
暗いというただそれだけで身体がこわばる。
なにが出てくるかわからない、と思ってしまう。
解は不安を追いはらいたいと思った。
それで、なんでもいいから頭にパッと浮かんだことを口にした。
「カク・シって人の話だと、前は天流衆の人が自分たちで蘇石骨を採掘していたんだよね。ってことは変な生物の墓場はだんだん深く埋まっちゃったってことだよね。」
「うーん、多分。」
「なにがあったんだろう。大きな地震とか?」
「どうだろうね。日本中で地震があるけど――あ。」
結生が話を中断した。
「あそこだ。」
さっきとおなじように行く手の下のほうがうっすらと明るむのが見える。
四人は足を速めた。
いそいだ拍子に絵夢が転んだ。
杉野さんがあわてて娘が立ちあがるのに手を貸した。
「絵夢ちゃん、もう少しだよ。がんばろう。」
結生が声をかけると、小さな女の子は、
「うん。」
とうなずいた。
すぐに広い場所へ出た。
地面があわい緑色に光っている。
骨の集積所だ。
解は一緒にここまで来た三人の顔を見た。
坑道では暗すぎてお互いの顔が見えなかったが、ここでは骨の光でそれぞれがよく見えた。
とにかくさっさと蘇石骨を探そう、と、みんなの意見が一致した。
解と結生、それに杉野さんは屈みこんだ。結生が首をかしげた。
「ずいぶんきれいに骨だけが残った状態だね。肉や内臓が少しでもあればひどいにおいがすると思うけど。」
「じゃあ、途中の道で嗅いだイヤなにおいはもしかして骨だけになる前のやつ?」
解がたずねると、結生はもう一度首をかしげた。
「そうかもしれない。でもあんなに暗いと全然見えなかった。」
三十メートル離れた位置で、結生もおどろいた顔をしている。
大河内がうなずいた。
「そういうことだ。こいつが連絡手段だ。お前からおれに連絡したいときにはそっちのやつに『ルーにつながれ』というんだ。そうすりゃいまのように話ができる。」
『これは一体なんですか? 貝じゃないんですか?』
「ったく、今日来たやつはああだこうだうるせえやつばかりだな!」
大河内がどなった。
いまの声は巻貝なしでも結生まで聞こえただろうなと解は思った。
「伝話貝というんだ、いいか、こいつの仕組みをおれにきいたってムダだぞ、こんな変てこなモノ、なにがどうなって話ができるのかおれが知るかってんだ!」
『伝話貝、ですか。』
結生の声が巻貝のなかから聞こえた。解の頭にある考えが浮かんだ。
「もしかして、大河内さん、そのスホベイってやつも死んだらここへ集まるんですか? 身体のいちばん奥にベラットってやつがある?」
大河内がギロリと目をむいて解をにらみつけた。
「だったらどうした! いいかチビ、もし宮崎に持たせたスノの身を引きちぎって蘇石骨を取りだしてみろ、そんなズルは認めんからな!」
(この男がこんな風におどすってことは、じゃあホントにそうなんだ。この変な貝にも蘇石骨があるんだ。たしか貝には骨がないはずだから、貝殻のいちばん奥が蘇石骨かな?)
解の頭にもう一つ考えが浮かんだが、それを大河内に質問のかたちでぶつけるのは止めておいた。
その間に結生がもどってきた。
大河内は解、結生、それに杉野母娘に向かって尊大に、ある方向を指さしてみせた。
「あっちへ進め。この向こうにも坑道が一本ある。その坑道を進めばべつの広い場所に出る。そこはまだ手つかずの墓場だ。そこで蘇石骨を探せ。見つけたらオレに知らせろ。いいか、サボるんじゃねえぞ、一個見つけたら飯をやる。ほれ、とっとと行きやがれ!」
大河内はまたしても足元の骨を蹴ちらかした。彼の話はそれでおしまいで、四人は大河内が示した方角へ向かって歩きだした。
四人は骨の集積された広場の奥に細い道を見つけた。
道に入ると急に真っ暗になった。
大河内が結生に手わたしたのは伝話貝だけで灯りはなかったから、四人は注意深くそろそろと進んだ。
全員が壁に手をついて離さないようにした。
先頭を歩く結生がときどき声をあげた。
「ここにでっぱりがある。」とか「ぬかるんでいるから気をつけて。」とか。
それでもそうやって先導する結生自身を含めて四人とも、時々石やぬかるみに足をとられてつんのめった。
そのたびに、おたがい声をかけあった。
それぞれが持っているスマートフォンで足元を照らすこともみんな考え、話しあい、結局やめた。
たしかに暗いし足元はよくないけれど、それだけだ。
いまのところは。
(つまり結生くんも杉野さんも、いまより厄介なことが起きるかもしれないって考えているんだ。)
解はそう思った。
道はゆるやかな下り坂だ。
地中に向かって進むことになる。
しめった土のにおいに混ざってときどき腐ったようなにおいがする。
しばらく歩くとそのにおいは消え、またしばらく歩くと今度はべつの腐ったにおいが鼻につき、ほどなくして消えていく。
現れるのはにおいだけだが、それでもそのたびに解は緊張した。
暗いというただそれだけで身体がこわばる。
なにが出てくるかわからない、と思ってしまう。
解は不安を追いはらいたいと思った。
それで、なんでもいいから頭にパッと浮かんだことを口にした。
「カク・シって人の話だと、前は天流衆の人が自分たちで蘇石骨を採掘していたんだよね。ってことは変な生物の墓場はだんだん深く埋まっちゃったってことだよね。」
「うーん、多分。」
「なにがあったんだろう。大きな地震とか?」
「どうだろうね。日本中で地震があるけど――あ。」
結生が話を中断した。
「あそこだ。」
さっきとおなじように行く手の下のほうがうっすらと明るむのが見える。
四人は足を速めた。
いそいだ拍子に絵夢が転んだ。
杉野さんがあわてて娘が立ちあがるのに手を貸した。
「絵夢ちゃん、もう少しだよ。がんばろう。」
結生が声をかけると、小さな女の子は、
「うん。」
とうなずいた。
すぐに広い場所へ出た。
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解は一緒にここまで来た三人の顔を見た。
坑道では暗すぎてお互いの顔が見えなかったが、ここでは骨の光でそれぞれがよく見えた。
とにかくさっさと蘇石骨を探そう、と、みんなの意見が一致した。
解と結生、それに杉野さんは屈みこんだ。結生が首をかしげた。
「ずいぶんきれいに骨だけが残った状態だね。肉や内臓が少しでもあればひどいにおいがすると思うけど。」
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