17 / 112
2章 地中に埋まった骨鉱山
16 骨の鉱山
しおりを挟む
大河内がそれを放りなげ、足元に散らばる骨を蹴とばした。
ムダに乱暴な動きだ。この人はなにかを蹴とばしたくて仕方ないのかな、と、さっき飛とばされた解は思った。
結生がたずねた。
「カラジョルって節足動物に見えたけどちがうんですか? 骨があるということは脊椎動物ですか?」
大河内は一瞬ぐっと言葉につまり、すぐさまあたりの骨をいっそう蹴ちらかした。
「うっせえ! そんなのオレが知るか!」
結生はおだやかな顔ですぐさま引きさがった。
そのためか大河内もそれ以上あばれることはしなかった。
そのかわり顔をしかめた。
「カラジョルだけじゃない。 天流衆国ってところにはオレたちが見たこともないような変な生物がいるらしい。でかいのから小さいのまで色々だ。そいつらは寿命が来ると特定の場所に集まる。たとえばここだ。」
「ってことは、ええと、変な生きものの墓場?」
「ゾウの墓場みたいなものかな。」
解と結生はそれぞれ首をかしげて大河内の話をどうにかして理解しようとした。
大河内の口がへの字に曲がった。
大男は不気味なものを見るような目であたりの骨を見わたした。
「前はもっとべつの場所にあったのが最近になってなぜか墓場が地中に埋まっちまったんだとさ。それでな、 蘇石骨ってのは変な生物の身体のいちばん奥にあるんだ。つまりここに集まってくる気味の悪いやつらが死んで骨だけになったら、取りだせる。」
「それで 骨鉱山というんですか。」
「そうだ。」
「ベラットってどんなかたちをしてるんですか? どうやって見わけるんですか?」
解が矢つぎばやにたずねると、大河内が歯をむいた。
「うるせえガキだな、ったく!」
あんたほどじゃないぞ、と言いたいのを解はグッとがまんしてかわりにべつのことを言った。
「だってぼくらそれをさがすために来たんでしょう。」
「色がちがうんだよ。」
大河内は大きな身体をかがめてまた骨を一つ拾った。
「ふつうの骨はこんな色だ。まったく気味わるい色だよな、マジで墓場って感じ。まあこうやって光るおかげで日がささなくても探しやすいんだけどよ。それで、 蘇石骨ってやつだけは赤く光るんだ。」
「赤。ええと、信号みたいな感じ?」
「赤信号より弱い光だが色はあんな感じだ。見りゃすぐわかる。大きさはモノによる。」
大河内は説明のために取りあげた骨を遠くへ放りなげた。
「いいかお前ら、言っとくがこのあたりはお前らより先に来たやつがとっくに採掘しおわった場所だからな。お前らはもっと離れた場所を探すんだ。で、見つけたらオレを呼べ。」
大河内はチノパンのポケットから白っぽいものを取りだして、結生に差しだした。
「お前が持て。お前、名前は?」
「宮崎結生です。」
「ふん、宮崎な。」
大河内はついでのように杉野母娘と解の名もたずねた。
ただし解が、
「小松解です」
と名乗ったのに対して返事もしなかった。
解は結生の手元を見た。
「それ、貝?」
「巻貝に見えるね。」
結生の片手に少し余るほどのサイズの、縦に長くて少しふくらみのある巻貝だ。
解の知らないことだがそれは日本でニシガイと呼ばれる貝に似たかたちをしていた。
うす暗いなかではっきりしないが、おそらく明るい色だ。
白かそれに近い色だろう。
大河内が結生に命じた。
「宮崎、お前ちょっと離れたところまで行け。」
結生が大河内に言われた通りに骨を踏みながら移動した。
ときどきパキ、パキ、と乾いた枯れ枝が折れるような音がする。
結生の体重で淡く光る骨が折れる音だ。
けっこうもろいんだなと解は思った。
結生が三十メートルほど離れると、大河内がチノパンの反対側のポケットから、おなじような巻貝を取りだした。
大河内の持つ巻貝からガサコソとなにか出てきた。
「わっ。」
解はおどろいて思わず声をあげた。
そいつはオレンジ色の胴体をしており、まるで虫のように、節のついた足が何本も生えている。
「貝の中身? でも足がある。ヤドカリっぽい。ねえ、これなんですか?」
大河内が足元の骨を解に向けて蹴ちらかした。
「チビ、お前ホントうるせえ。いいから黙ってろ!」
解は口を閉じた。
大河内が巻貝に向かって声を出した。
「スノだ、スノにつながれ。」
巻貝の中身、オレンジ色の身の部分がぐにゃりと動いた。
解は目を丸くして貝の身の変化を見守った。
身の端が巻貝の殻の外へ平べったいかたちに広がり、シワが寄りはじめた。
貝の身の半分くらいが人間の耳のようなかたちになった。
なんだこりゃ、と解は思った。
発生した耳もどきに向かって大河内が口元を近づけた。
「宮崎、聞こえるか。」
その声に呼応するように巻貝の身がふたたびかたちを変えた。
耳もどきの反対側に一本の線が生まれ、そのまわりが盛りあがり、今度はまるで人間の口のようなかたちになった。そして口みたいなかたちになった部分が動いた。
なんと、そいつは声を発したのだ。
『あ、はい、聞こえます。』
巻貝の身から結生の声がした。
ムダに乱暴な動きだ。この人はなにかを蹴とばしたくて仕方ないのかな、と、さっき飛とばされた解は思った。
結生がたずねた。
「カラジョルって節足動物に見えたけどちがうんですか? 骨があるということは脊椎動物ですか?」
大河内は一瞬ぐっと言葉につまり、すぐさまあたりの骨をいっそう蹴ちらかした。
「うっせえ! そんなのオレが知るか!」
結生はおだやかな顔ですぐさま引きさがった。
そのためか大河内もそれ以上あばれることはしなかった。
そのかわり顔をしかめた。
「カラジョルだけじゃない。 天流衆国ってところにはオレたちが見たこともないような変な生物がいるらしい。でかいのから小さいのまで色々だ。そいつらは寿命が来ると特定の場所に集まる。たとえばここだ。」
「ってことは、ええと、変な生きものの墓場?」
「ゾウの墓場みたいなものかな。」
解と結生はそれぞれ首をかしげて大河内の話をどうにかして理解しようとした。
大河内の口がへの字に曲がった。
大男は不気味なものを見るような目であたりの骨を見わたした。
「前はもっとべつの場所にあったのが最近になってなぜか墓場が地中に埋まっちまったんだとさ。それでな、 蘇石骨ってのは変な生物の身体のいちばん奥にあるんだ。つまりここに集まってくる気味の悪いやつらが死んで骨だけになったら、取りだせる。」
「それで 骨鉱山というんですか。」
「そうだ。」
「ベラットってどんなかたちをしてるんですか? どうやって見わけるんですか?」
解が矢つぎばやにたずねると、大河内が歯をむいた。
「うるせえガキだな、ったく!」
あんたほどじゃないぞ、と言いたいのを解はグッとがまんしてかわりにべつのことを言った。
「だってぼくらそれをさがすために来たんでしょう。」
「色がちがうんだよ。」
大河内は大きな身体をかがめてまた骨を一つ拾った。
「ふつうの骨はこんな色だ。まったく気味わるい色だよな、マジで墓場って感じ。まあこうやって光るおかげで日がささなくても探しやすいんだけどよ。それで、 蘇石骨ってやつだけは赤く光るんだ。」
「赤。ええと、信号みたいな感じ?」
「赤信号より弱い光だが色はあんな感じだ。見りゃすぐわかる。大きさはモノによる。」
大河内は説明のために取りあげた骨を遠くへ放りなげた。
「いいかお前ら、言っとくがこのあたりはお前らより先に来たやつがとっくに採掘しおわった場所だからな。お前らはもっと離れた場所を探すんだ。で、見つけたらオレを呼べ。」
大河内はチノパンのポケットから白っぽいものを取りだして、結生に差しだした。
「お前が持て。お前、名前は?」
「宮崎結生です。」
「ふん、宮崎な。」
大河内はついでのように杉野母娘と解の名もたずねた。
ただし解が、
「小松解です」
と名乗ったのに対して返事もしなかった。
解は結生の手元を見た。
「それ、貝?」
「巻貝に見えるね。」
結生の片手に少し余るほどのサイズの、縦に長くて少しふくらみのある巻貝だ。
解の知らないことだがそれは日本でニシガイと呼ばれる貝に似たかたちをしていた。
うす暗いなかではっきりしないが、おそらく明るい色だ。
白かそれに近い色だろう。
大河内が結生に命じた。
「宮崎、お前ちょっと離れたところまで行け。」
結生が大河内に言われた通りに骨を踏みながら移動した。
ときどきパキ、パキ、と乾いた枯れ枝が折れるような音がする。
結生の体重で淡く光る骨が折れる音だ。
けっこうもろいんだなと解は思った。
結生が三十メートルほど離れると、大河内がチノパンの反対側のポケットから、おなじような巻貝を取りだした。
大河内の持つ巻貝からガサコソとなにか出てきた。
「わっ。」
解はおどろいて思わず声をあげた。
そいつはオレンジ色の胴体をしており、まるで虫のように、節のついた足が何本も生えている。
「貝の中身? でも足がある。ヤドカリっぽい。ねえ、これなんですか?」
大河内が足元の骨を解に向けて蹴ちらかした。
「チビ、お前ホントうるせえ。いいから黙ってろ!」
解は口を閉じた。
大河内が巻貝に向かって声を出した。
「スノだ、スノにつながれ。」
巻貝の中身、オレンジ色の身の部分がぐにゃりと動いた。
解は目を丸くして貝の身の変化を見守った。
身の端が巻貝の殻の外へ平べったいかたちに広がり、シワが寄りはじめた。
貝の身の半分くらいが人間の耳のようなかたちになった。
なんだこりゃ、と解は思った。
発生した耳もどきに向かって大河内が口元を近づけた。
「宮崎、聞こえるか。」
その声に呼応するように巻貝の身がふたたびかたちを変えた。
耳もどきの反対側に一本の線が生まれ、そのまわりが盛りあがり、今度はまるで人間の口のようなかたちになった。そして口みたいなかたちになった部分が動いた。
なんと、そいつは声を発したのだ。
『あ、はい、聞こえます。』
巻貝の身から結生の声がした。
0
あなたにおすすめの小説
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
少年騎士
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。
村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~
楓乃めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。
いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている.
気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。
途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。
「ドラゴンがお姉さんになった?」
「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」
変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。
・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる