天流衆国の物語

スズキマキ

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2章 地中に埋まった骨鉱山

16 骨の鉱山

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大河内がそれを放りなげ、足元に散らばる骨を蹴とばした。
ムダに乱暴な動きだ。この人はなにかを蹴とばしたくて仕方ないのかな、と、さっき飛とばされた解は思った。
結生がたずねた。
「カラジョルって節足動物に見えたけどちがうんですか? 骨があるということは脊椎動物ですか?」
大河内は一瞬ぐっと言葉につまり、すぐさまあたりの骨をいっそう蹴ちらかした。
「うっせえ! そんなのオレが知るか!」
結生はおだやかな顔ですぐさま引きさがった。
そのためか大河内もそれ以上あばれることはしなかった。
そのかわり顔をしかめた。

「カラジョルだけじゃない。 天流衆てんりゅうしゅう国ってところにはオレたちが見たこともないような変な生物がいるらしい。でかいのから小さいのまで色々だ。そいつらは寿命が来ると特定の場所に集まる。たとえばここだ。」

「ってことは、ええと、変な生きものの墓場?」
「ゾウの墓場みたいなものかな。」
解と結生はそれぞれ首をかしげて大河内の話をどうにかして理解しようとした。
大河内の口がへの字に曲がった。
大男は不気味なものを見るような目であたりの骨を見わたした。
「前はもっとべつの場所にあったのが最近になってなぜか墓場が地中に埋まっちまったんだとさ。それでな、 蘇石骨ベラットってのは変な生物の身体のいちばん奥にあるんだ。つまりここに集まってくる気味の悪いやつらが死んで骨だけになったら、取りだせる。」
「それで 骨鉱山こつこうざんというんですか。」
「そうだ。」
「ベラットってどんなかたちをしてるんですか? どうやって見わけるんですか?」
解が矢つぎばやにたずねると、大河内が歯をむいた。
「うるせえガキだな、ったく!」
あんたほどじゃないぞ、と言いたいのを解はグッとがまんしてかわりにべつのことを言った。
「だってぼくらそれをさがすために来たんでしょう。」
「色がちがうんだよ。」
大河内は大きな身体をかがめてまた骨を一つ拾った。
「ふつうの骨はこんな色だ。まったく気味わるい色だよな、マジで墓場って感じ。まあこうやって光るおかげで日がささなくても探しやすいんだけどよ。それで、 蘇石骨ベラットってやつだけは赤く光るんだ。」
「赤。ええと、信号みたいな感じ?」
「赤信号より弱い光だが色はあんな感じだ。見りゃすぐわかる。大きさはモノによる。」
大河内は説明のために取りあげた骨を遠くへ放りなげた。
「いいかお前ら、言っとくがこのあたりはお前らより先に来たやつがとっくに採掘しおわった場所だからな。お前らはもっと離れた場所を探すんだ。で、見つけたらオレを呼べ。」

大河内はチノパンのポケットから白っぽいものを取りだして、結生に差しだした。

「お前が持て。お前、名前は?」
「宮崎結生です。」
「ふん、宮崎な。」
大河内はついでのように杉野母娘と解の名もたずねた。
ただし解が、
「小松解です」
と名乗ったのに対して返事もしなかった。

解は結生の手元を見た。
「それ、貝?」
「巻貝に見えるね。」
結生の片手に少し余るほどのサイズの、縦に長くて少しふくらみのある巻貝だ。
解の知らないことだがそれは日本でニシガイと呼ばれる貝に似たかたちをしていた。
うす暗いなかではっきりしないが、おそらく明るい色だ。
白かそれに近い色だろう。
大河内が結生に命じた。
「宮崎、お前ちょっと離れたところまで行け。」
結生が大河内に言われた通りに骨を踏みながら移動した。
ときどきパキ、パキ、と乾いた枯れ枝が折れるような音がする。
結生の体重で淡く光る骨が折れる音だ。
けっこうもろいんだなと解は思った。
結生が三十メートルほど離れると、大河内がチノパンの反対側のポケットから、おなじような巻貝を取りだした。
大河内の持つ巻貝からガサコソとなにか出てきた。
「わっ。」
解はおどろいて思わず声をあげた。
そいつはオレンジ色の胴体をしており、まるで虫のように、節のついた足が何本も生えている。
「貝の中身? でも足がある。ヤドカリっぽい。ねえ、これなんですか?」
大河内が足元の骨を解に向けて蹴ちらかした。
「チビ、お前ホントうるせえ。いいから黙ってろ!」
解は口を閉じた。
大河内が巻貝に向かって声を出した。
「スノだ、スノにつながれ。」

巻貝の中身、オレンジ色の身の部分がぐにゃりと動いた。

解は目を丸くして貝の身の変化を見守った。
身の端が巻貝の殻の外へ平べったいかたちに広がり、シワが寄りはじめた。
貝の身の半分くらいが人間の耳のようなかたちになった。
なんだこりゃ、と解は思った。
発生した耳もどきに向かって大河内が口元を近づけた。
「宮崎、聞こえるか。」
その声に呼応するように巻貝の身がふたたびかたちを変えた。
耳もどきの反対側に一本の線が生まれ、そのまわりが盛りあがり、今度はまるで人間の口のようなかたちになった。そして口みたいなかたちになった部分が動いた。

なんと、そいつは声を発したのだ。
『あ、はい、聞こえます。』
 巻貝の身から結生の声がした。
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