天流衆国の物語

スズキマキ

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2章 地中に埋まった骨鉱山

28 へんなやつ

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解はじいーっとそいつの様子をうかがった。
そいつはリュックサックを持ちあげ、引っくりかえした。フンフンと息を吸いこむ音がした。
どうもにおいを嗅いでいるみたいだ。

声がした。
「いいにおイ。うまそウ。」

解はドキッとした。
(うわっ、しゃべったぞ。)
変な声だ。裏声みたいなかん高くてキイキイした声。それにたどたどしい。
一瞬、解はチョコレートの箱のことを思いうかべた。
食べるものといえばそれくらいだ。
でもチョコレートは杉野さんに預けたからリュックサックの中にはないはずだ。
そいつはリュックサックを開けようとしばらく格闘した。
だがどうやら開け方がわからないみたいだ。
もしかしてこいつはこういうモノを見るのが初めてなのかな、と解は思った。
やがてそいつはリュックサックを放りだした。

「つかれタ。」
「はあ?」
思わず解は声をあげてしまった。
(つかれタって「疲れた」? たったあれだけの動きで?)

暗闇に慣れた解の目にそいつの目が見えた。二つのキョロリとした目が。
そしてそいつも解を見た。いまはじめて解がいることに気づいたような気配だ。
解とそいつはだまって見つめあった。一瞬だけ。
すぐにそいつが、
「うわアッ!」
と声をあげて後ずさった。
解はその瞬間に飛びだしてそいつの手からリュックサックをひったくった。
そいつの目がますますキョロリと大きくなった。
解の目がようやくそいつの輪郭をとらえた。
完全に透明というわけじゃないんだ、と解は気づいた。

(卵。)
解は思った。

そいつは大きな楕円形、つまり卵のかたちをしていた。
半透明の卵だ。
その卵のまん中でぼんやりと赤く蘇石骨ベラットが光っているのだ。
卵の殻を突きやぶって手足がにょきっと出ている。
手足にちっぽけな指があり、腕や指やそれに足にもびっしりと短い毛が生えているのが見えた。
人の手足よりサルの手足に近いように見える。
手足もぼんやりと半透明で、そいつの向こう側の岩壁がぼうっと透けて見えた。
卵のまん中より少しばかり上の位置に目が二つくっついている。
キョロリとしたまんまるの目だ。
背の高さは卵と足の長さを足して解のお腹ほどだ。
そいつが声をあげた。
「かえセ。」

「えっ?」
「それタンが見つけタ。タンのもノ。」
「それって君の名前? タン? 君、人間じゃないよね。何者?」
「タン。」
「え、じゃあタンって名前じゃなくて、ええとなんて言えばいいんだ、種族?」
「タン、タン!」
言葉が咬みあっているのかいないのかわからないやりとりのあと、解はなるべく強気な顔を作ってそいつ、タンというやつに宣言した。
「これはぼくのだ、君のじゃない。」
「タンのもノ。タンが見つけタ。」
「君が見つける前からぼくのなんだってば。ぼくがここへ持ってきたんだから。」
言いながら解はふとべつのことが気になった。
「ところで良いにおいってなんのこと?」
タンはリュックサックを指さした。
解にはタンの目つきがうらめしそうに見えた。
「なカ。」
「この中?」
解はリュックサックを開けた。
まず出てきたのは、ゲーム機だ。
「これ?」
タンは首を横に振った。
「それ、くっさイ。」
ご丁寧に鼻をつまんでみせた。
(鼻があるのか。)と解はそのしぐさではじめて気づいた。
なにしろ暗いしタンの身体が半透明なので、解の目には鼻のかたちがよく見えない。
(失礼なやつだな。)
解は一瞬そう思ったが受けながすことにした。
それよりもなにがタンの気をそそっているのか知りたかったのだ。
解は次に着替えを取りだした。タンはそれにも首を横に振った。
「くっさ、くさイ。」
解は歯ブラシと歯磨き粉を取りだした。
するとタンの目がパアッと輝いた。解は言った。
「こっち? あ、歯ブラシじゃないの? じゃあこっち。」
ようやく当たりだ。
どうやらタンの目当ては歯磨き粉らしい。
タンの卵の殻のなかでゴクリとつばを飲みこむ音がした。

タンが言った。
「うまそウ。」
「えっ、君はペパーミントが好きなの? これはにおいがするだけでペパーミント味の食べものじゃないよ。」
タンが解の言葉を無視して歯磨き粉に手をのばした。
解は歯磨き粉を持った手を上へあげた。
タンがピョンピョンと飛びあがって歯磨き粉を奪おうとする。
しばらく攻防がつづいた。
やがてタンがヘタリと腰をおろした。手足が卵の殻のなかへ引っこんだ。
「つかれタ。」
卵がゴロンと横に転がった。
「はアー。」
ため息をついてゴロゴロと転がる卵の様子を見て解は一瞬、ものすごくお腹が減っているのかと思った。が、どうもちがうようだ。
「めんどイ。」
「は?」
「とりあいっコ、めんどイ。」
(こいつもしかして、ものすっごい怠け者……?)
解はあきれた。
ふと思いついて解はチューブのふたを開けて歯磨き粉を少しだけひねりだした。
「タン、ねえタン、ほら、これはこんなだよ。食べるものじゃないんだってば。」
解が歯磨き粉をくっつけた指を卵に向かって差しだすと、卵のまんなかで目がキョロリと動いた。殻からさっと手が伸びて解の手首をつかみ、殻が解の指にこすりつけられた。
解は思わず声をあげた。
「わっ。」
「うまッ。」
殻が何度も解の指をこすり、歯磨き粉はあっという間になくなった。
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