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7章 峡谷の異変
90 小さいやつなりの抵抗
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クラブリーがウンザリした顔でぼやいた。
「どうしたもこうしたもないだよ。抱えて飛んだとたんにこれだ。何度止めろといってもきかないだよ。」
解はクラブリーからタンを受けとって声をかけた。
「ちょっと、タン。おーい。タン、タンってば!」
一瞬、ビーッという音がとぎれた。
そしてタンが言葉を発した。
「おろセ!」
「うん?」
「たかいノいやダ! しヌ! おろセ! ビーッ! ビーッ!」
「うわっ、ちょっと、うるさいよ、タン。」
「ビーッ! ビーッ! ビーッ! ビーッ!」
花連が無言で冷たい視線をタンに向けた。
もし言葉にするなら「じゃま。」とかなんとかだろうが、どうやらたった一言でもタンのために声に出すのは無駄だと判断したようだ。
温和なはずの伊吹が眉をしかめた。
「クラブリー、さっさと連れていってくれ。」
「はいはい、わかりましただ。さあ行くだよ。」
タンを抱えた解をクラブリーが抱えた。
「やれやれ、坊主を抱えるのはそいつだけ持つより重いが、あいだに一人挟むだけマシになっただ。」
解はクラブリーに同情した。
こんなに話の通じないやつをずっと抱えたらだれだってうんざりするだろうと思う。
クラブリーは下へ向かった。地面のどこかに解とタンをおろすつもりだ。
解はダメ元で言ってみた。
「クラブリーさん、ぼく、このままこのへんにいてもいいですか? ここのほうが全体がよく見えるから。ほら、ただじっと浮くだけならクラブリーさんに抱えてもらわなくても、ぼく一人でなんとか……。」
「ビーッ!、ビーッ!、ビーッ!」
サイレンのような音がいっそう大きくなった。
解もクラブリーも顔をしかめた。
クラブリーがタンの発する音にまけないように声をはりあげた。
「すまんな坊主、これ以上うるさいのはごめんだ。」
「ビーッ!、ビーッ!」
「それにここがずっと安全というわけでは――」
「ビーッ!、ビーッ!」」
「ええい、この野郎、いいかげんにするだよ。」
「ビーッ!、ビーッ!、ビーッ!」
「えーと、そうですね、わかりました。」
解は引き下がった。とたんにサイレンのような音が止んだ。
クラブリーがあからさまにほっとした顔になった。
解は宙にとどまる北流の四使をながめた。
伊吹が伝話貝を取りだすのが見えた。
四ツ谷親子は油断のない視線を下へ向けている。
ドオーン、という大きな音が長く響いた。
解はその音のしたほうへ視線を移動させた。
あの巨大な雑夙が川底へ岩石を投げこんでいる。
一方で断崖から大岩が上がってくるのも見えた。
アシファット族がさっきとおなじように数十人で持ちあげている。
さっきとちがうのは、巨大な雑夙(ボラスコ)のほうでもおたがいに協力しはじめたことだ。
雑夙二人が上がってきた大岩をつかんだ。
アシファット族数十人と巨大な雑夙二人の力比べになった。
すると雑夙の数が増えた。
大岩に手をのばす巨大な雑夙が一人、また一人と増えた。
そしてこの力比べは、巨大な雑夙の勝ちになった。
雑夙がなにか叫んだ。どうも雑夙同士で合図を送ったようだ。
五人の巨大な雑夙の動きがかみあい、大岩は力づくでふたたび川底に投げこまれた。
トウィードの声が聞こえた。
「引け! 退避せよ! 一緒に落ちるぞ!」
解はその声を頼りにトウィードの姿をさがした。
彼は雑夙の頭の十メートルほど上を飛んでいた。
そのとき、トウィードに接近する人の姿があった。
あのフード付きの上衣を着ている。
そして上衣の下にはあざやかな赤や黄や黒の縞もようの、きれいな織物でつくった衣服が見えた。
クラブリーがつぶやいた。
「あれはエルグベーム様だ。」
「だれですか?」
「クリアドル族の族長だ。」
「クリアドル族って?」
「おもにカラジョルを飼う放牧民だ。カラジョルは高値で取引されるから、放牧民のなかでもまあまあ豊かな連中だ。ただし数が少ないだよ。アシファット族の七割ってところだな。ほれ、あそこを見るだよ。」
クラブリーが川の上流にあたる方角を指さした。
「あっ、カラジョルだ!」
解は声をあげた。
上空にたくさんの青い生きものが姿を現したのだ。
クラブリーが感心したような顔になった。
「ほっほー、こりゃあすごい。カラジョルの大群なんてなかなかお目にかからんぞい。クリアドル族もあのでかいやつらを追いかけてここへたどりついただな。」
しゃべりながらクラブリーは、断崖のなかでひときわ隆起した高い岩石の上に解とタンをおろした。
「ここなら少しは見はらしがいいだよ。」
クラブリーなりの、様子を見守りたいという解の頼みを聞き入れた結果がこの場所のようだ。
「ありがとうございます、クラブリーさん。」
解は片手でタンを抱えて岩石の上に立った。
揚骨の使い方にしだいに慣れてきたので、宙に浮くときと、なにかに足をつけるときのコツがわかってきた。
解をおろしたクラブリーはそのすぐ上に浮揚してキョロキョロとあたりの様子に目を配った。
「あれ?」
解はトウィードとクリアドル族のエルグベームの様子が気になった。
二人のあいだに、なんだか剣呑とした気配が生じたように感じるのだ。
「どうしたもこうしたもないだよ。抱えて飛んだとたんにこれだ。何度止めろといってもきかないだよ。」
解はクラブリーからタンを受けとって声をかけた。
「ちょっと、タン。おーい。タン、タンってば!」
一瞬、ビーッという音がとぎれた。
そしてタンが言葉を発した。
「おろセ!」
「うん?」
「たかいノいやダ! しヌ! おろセ! ビーッ! ビーッ!」
「うわっ、ちょっと、うるさいよ、タン。」
「ビーッ! ビーッ! ビーッ! ビーッ!」
花連が無言で冷たい視線をタンに向けた。
もし言葉にするなら「じゃま。」とかなんとかだろうが、どうやらたった一言でもタンのために声に出すのは無駄だと判断したようだ。
温和なはずの伊吹が眉をしかめた。
「クラブリー、さっさと連れていってくれ。」
「はいはい、わかりましただ。さあ行くだよ。」
タンを抱えた解をクラブリーが抱えた。
「やれやれ、坊主を抱えるのはそいつだけ持つより重いが、あいだに一人挟むだけマシになっただ。」
解はクラブリーに同情した。
こんなに話の通じないやつをずっと抱えたらだれだってうんざりするだろうと思う。
クラブリーは下へ向かった。地面のどこかに解とタンをおろすつもりだ。
解はダメ元で言ってみた。
「クラブリーさん、ぼく、このままこのへんにいてもいいですか? ここのほうが全体がよく見えるから。ほら、ただじっと浮くだけならクラブリーさんに抱えてもらわなくても、ぼく一人でなんとか……。」
「ビーッ!、ビーッ!、ビーッ!」
サイレンのような音がいっそう大きくなった。
解もクラブリーも顔をしかめた。
クラブリーがタンの発する音にまけないように声をはりあげた。
「すまんな坊主、これ以上うるさいのはごめんだ。」
「ビーッ!、ビーッ!」
「それにここがずっと安全というわけでは――」
「ビーッ!、ビーッ!」」
「ええい、この野郎、いいかげんにするだよ。」
「ビーッ!、ビーッ!、ビーッ!」
「えーと、そうですね、わかりました。」
解は引き下がった。とたんにサイレンのような音が止んだ。
クラブリーがあからさまにほっとした顔になった。
解は宙にとどまる北流の四使をながめた。
伊吹が伝話貝を取りだすのが見えた。
四ツ谷親子は油断のない視線を下へ向けている。
ドオーン、という大きな音が長く響いた。
解はその音のしたほうへ視線を移動させた。
あの巨大な雑夙が川底へ岩石を投げこんでいる。
一方で断崖から大岩が上がってくるのも見えた。
アシファット族がさっきとおなじように数十人で持ちあげている。
さっきとちがうのは、巨大な雑夙(ボラスコ)のほうでもおたがいに協力しはじめたことだ。
雑夙二人が上がってきた大岩をつかんだ。
アシファット族数十人と巨大な雑夙二人の力比べになった。
すると雑夙の数が増えた。
大岩に手をのばす巨大な雑夙が一人、また一人と増えた。
そしてこの力比べは、巨大な雑夙の勝ちになった。
雑夙がなにか叫んだ。どうも雑夙同士で合図を送ったようだ。
五人の巨大な雑夙の動きがかみあい、大岩は力づくでふたたび川底に投げこまれた。
トウィードの声が聞こえた。
「引け! 退避せよ! 一緒に落ちるぞ!」
解はその声を頼りにトウィードの姿をさがした。
彼は雑夙の頭の十メートルほど上を飛んでいた。
そのとき、トウィードに接近する人の姿があった。
あのフード付きの上衣を着ている。
そして上衣の下にはあざやかな赤や黄や黒の縞もようの、きれいな織物でつくった衣服が見えた。
クラブリーがつぶやいた。
「あれはエルグベーム様だ。」
「だれですか?」
「クリアドル族の族長だ。」
「クリアドル族って?」
「おもにカラジョルを飼う放牧民だ。カラジョルは高値で取引されるから、放牧民のなかでもまあまあ豊かな連中だ。ただし数が少ないだよ。アシファット族の七割ってところだな。ほれ、あそこを見るだよ。」
クラブリーが川の上流にあたる方角を指さした。
「あっ、カラジョルだ!」
解は声をあげた。
上空にたくさんの青い生きものが姿を現したのだ。
クラブリーが感心したような顔になった。
「ほっほー、こりゃあすごい。カラジョルの大群なんてなかなかお目にかからんぞい。クリアドル族もあのでかいやつらを追いかけてここへたどりついただな。」
しゃべりながらクラブリーは、断崖のなかでひときわ隆起した高い岩石の上に解とタンをおろした。
「ここなら少しは見はらしがいいだよ。」
クラブリーなりの、様子を見守りたいという解の頼みを聞き入れた結果がこの場所のようだ。
「ありがとうございます、クラブリーさん。」
解は片手でタンを抱えて岩石の上に立った。
揚骨の使い方にしだいに慣れてきたので、宙に浮くときと、なにかに足をつけるときのコツがわかってきた。
解をおろしたクラブリーはそのすぐ上に浮揚してキョロキョロとあたりの様子に目を配った。
「あれ?」
解はトウィードとクリアドル族のエルグベームの様子が気になった。
二人のあいだに、なんだか剣呑とした気配が生じたように感じるのだ。
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