天流衆国の物語

スズキマキ

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7章 峡谷の異変

91 二つの遊牧民族の共闘

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トウィードはあいかわらず気むずかしそうな顔だし、そのトウィードに向かって大きな手ぶりでなにかを話すエルグベームのほうは、まるでトウィードに食ってかかる勢いだ。
クラブリーが顔をしかめた。
「おおう、ケンカなんぞしている場合じゃないぞ。しかし放牧民同士ってのは日頃から仲良しこよしってわけじゃないからなあ。」
そこへ四ツ谷枢が割って入った。二人の放牧民の族長がしぶしぶといった様子で四ツ谷枢の話を聞き、うなずいた。
クラブリーがうれしそうに歯をむいてわらった。
「うまいこと話をつけなさったようだ。さすが先生だよ。」
どうやら話がまとまったようだ。
トウィードはアシファット族のもとへ、エルグベームはカラジョルの群れのもとへ飛び去った。

先に動いたのはアシファット族だ。
彼らが列を組んで巨大な雑夙ボラスコの足元へ飛んでいく。
次から次へと雑夙ボラスコの股のあいだを通りぬけてロープを通す。
さきほどとちがうのは人数で、今回はアシファット族の男たち全員がその動きにとりくんだ。
巨大な雑夙ボラスコが両手を振りまわしてアシファット族を払おうとするが、アシファット族に比べると雑夙ボラスコの動きは緩慢で、思い通りにならなかった。
大きな雑夙ボラスコが次々にドウっと倒れた。その数は二十体を超えた。
地響きが解のいる岩の上にも伝わり、解は必至で踏んばった。
トウィードの声が響いた。
「すぐに離れろ! いそげ!」
同時にカラジョルの群れも動いた。たくさんのカラジョルが一斉に高い位置へ飛翔した。
解は目を細めた。群れの姿がぐんぐんと小さくなっていく。
ほどなく青い生きものの背に乗っていたクリアドル族の男たちがその背から離れるのが見えた。
だれかが、おそらく族長エルグベームが一声吠えるように叫んだ。

変幻蚰蜒カラジョルたちが姿を変えた。
青い生きものが長くて大きな槍に変化した。
解はハッとした。
(そうか、アシファット族が大きな岩石を高いところまで持ちあげて落としたことを、カラジョルでやるつもりなんだ。)
クリアドル族の男たちが青い槍につかまった。槍が次々に降下した。
アシファット族が出せるかぎりのスピードで退避する。巻きこまれたら彼ら自身も命にかかわる。
大きな、大きすぎる槍の雨だ。
(まるでミサイルだ。)
解は息をのんだ。
地上に近づいたところでクリアドル族の男たちがさっと青い槍から離れた。
どうやらギリギリまで照準を定めてから離れたらしい。
仰向けに倒れた雑夙ボラスコの腹や胸に、うつぶせに倒れた雑夙ボラスコの背中に、青い槍が突き刺さった。
断崖のあちこちでカラジョルの攻撃を受けた巨大な雑夙ボラスコが悲鳴をあげた。
地響きと悲鳴が解の耳をつんざいた。
そしてダメージを受けた雑夙ボラスコに向かってアシファット族が一斉に襲いかかった。
蘇石骨ベラットをうばうためだ。
クラブリーが両手を振りまわした。
「よっしゃあ! やっただ! もう一度あれをやればぜんぶ倒せるだ!」

そのとき、ズン、と地響きがした。
解は(あれ?)と思った。
ズン、ズン、ズン、と地響きが一定のリズムで響きだした。
「なんだ、これ。」
解はつぶやいた。思わずクラブリーを見たが彼は気づいていないようだ。
それはそうだろう、宙に浮く者の身体までは達しない響きだ。
つまり、この地響きに気づいているのは解一人ということになる。
ズン、ズン、ズン、ズン……。
(なんだろう、なんだかまるで、太鼓とか、そう、二拍子だ。行進曲みたいだ。)
そう考えて解はハッとした。
「クラブリーさん!」
「ん? どうしただ坊主。」
「なにか近づいてきませんか!」
「ん? なにか?」
「もしかして大きな雑夙ボラスコがもっと他にもいませんか。」
「そうだな、あのでかいやつら残り半分ってところだ。」
「ちがいます、そうじゃなくてその残りのほかにもーー。」
説明するのがもどかしくて、解はタンの身体を持ちあげると身体の力を抜いて浮揚をはじめた。タンの殻が少しばかり膨らんだかと思うとすぐに、
「ビーッ! ビーッ! ビーッ!」
と抗議の声が上がった。
解は無視した。
クラブリーがおどろいた顔になった。
「あっ、こら、坊主! 勝手に動かんでくれ! お前さんになにかあったらおれが枢先生に叱られるだ!」
解は浮揚しながらあたりをいそいで見まわした。
そして自分がなにを気にしたのかを理解した。
「あそこー!」
解は声をあげた。そして、
「ごめん、タン。」
そうことわるとタンの身体を少しばかり乱暴にゆらした。

「ビーッ! ビーッ! ビーッ! ビーッ!」

タンがわめいた。
その声に北流の四使が気づいたようだ。伊吹が近づいてくる。
「解くん、下にいなくちゃダメだよ!」
「見てください、あれ!」
解は伊吹に自分が見たものを指さした。

伊吹より先に解の言いたいことに気づいたのは花連だった。
花連が彼女の父親に解の指さした方向をさししめした。
四ツ谷枢が目を見ひらいた。
「あれは……。」

それは巨大な雑夙ボラスコが行進しながらこちらに向かってやってくる姿だった。
つい先ほど二つの遊牧民が力を合わせて倒した数よりもずっと多い。

ズン、ズン、ズン、ズン。

三本の川があつまる場所に向かってくる。

ズン、ズン、ズン……。
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