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7章 峡谷の異変
92 集結
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「バカな!」
知った声に解は振りかえった。
サイレンのようなタンの声に負けないほどの大声をあげたのはトウィードだ。
いつの間にか近くまで来た彼は、信じられないものを見るような目つきを雑夙の行進に向けている。
「ありえない。あんなにたくさんの雑夙が一体どうやって生まれたのか。あれほどの数の蘇石骨がどこにあるというのだ?」
解はハッとした。タンの「ビーッ!、ビーッ!」に負けないように声を張りあげた。
「地面に埋まった骨鉱山だ!」
「なにっ。」
「ぼくたちが電車で連れてこられた骨鉱山ですっ。あそこでぼくたちはたくさんの蘇石骨をとりましたっ。ぼくが抜けだしてからも残った人たち、地徒人が蘇石骨をとりつづけているはずです!」
トウィードがいっそうきびしい顔になった。
「地中の骨鉱山。たくさんの蘇石骨。」
「ぼくは一緒に来た人と組んで二日のあいだに五十くらいとりました!」
トウィードが目を剥いた。
「あそこはまだ手つかずだから、掘ればいくらでも出てくる感じでした!」
「その蘇石骨がすべて、あのでかいやつらに使われたとしたら、とんでもないことになる。倒しても倒してもきりがないぞ。」
トウィードの言葉に解はぎゅうっと眉をよせた。
峡谷で最初にあの巨大な雑夙を見たときから気になっていたことが、もう一度頭のなかに浮かびあがってきたのだ。
「なんのために?」
「ビーッ!、ビーッ!」
解のひとり言はタンのサイレンにかき消されてもおかしくなかったが、それを拾いあげた者がいた。
「そうだ、解くんの言うとおりだ。」
四ツ谷枢だ。
「一体なんのためにあいつらはここに集まってくるのだ? なんの必要がある?」
「ふん! だれかが青の亜陸を乗っとろうとでもいうつもりか!」
しわがれた、解のはじめて聞く声が加わった。
声のぬしを見るとそれは派手な縞もようの服をフード付きの上衣のなかに着こんだ、クリアドル族の族長エルグベームだった。
上衣のフードをとめる銀のエンブレムが見えた。
解の目にはそれが肋骨のかたちを紋章にしたように見えた。
白髪の、そして顔じゅう皺だらけの男だ。
よく日に焼けた皺のなかから飛びだしたような大きな二つの目玉がぎょろりと光った。
興奮のためか白目が少しばかり血走っている。トウィードに輪をかけて頑固そうな顔の男だった。
彼は吠えるように叫んだ。
「そうはさせるか! いくら大きいとはいえたかが雑夙!」
おなじようなことをだれかさんが言ったのを聞いたおぼえがあるぞ、と解は思った。
解はちらっとそのだれかさんを見た。
トウィードは唇をへの字に引きむすんで、あさっての方向へ顔を向けていた。
解はクラブリーの「もともと仲良しってわけじゃない。」という言葉を思いうかべた。
エルグベームが高らかに言いはなった。
「クリアドル族は雑夙などに負けんぞ! いくらでも倒してやる! 新たな蘇石骨も手に入ってちょうどよいくらいだ!」
「エルグベーム、待て。」
トウィードだ。エルグベームが目を剥いた。
「なんだ、じゃまをする気か、さては大群を前にしてひるんだか、アシファット族め! お前たちが手を引いても儂はやるぞ!」
「そうではない、あれを見ろ。」
トウィードが指さしたのは三川が一つになって大河になった下流、つまりツキクサ大峡谷の方角だ。
解もそっちを見た。
そして目を見ひらいた。
ツキクサ大峡谷の方角からたくさんの人の群れが飛んでくる。
よく見ると全員がフード付きの上衣を着ている。
彼らはトウィードが統率したアシファット族よりさらに整然とした隊列を組んでいた。
彼らの上衣が日ざしをあびて灰色に、そして緑色に、さらに青色にきらめいた。
整列のために上衣の色が変化して見えるのも一斉で、その光景はまるで大きな網を広げたようだった。
とても、とても大きな網だ。
「亜陸軍か!」
エルグベームが叫んだ。
「今頃になってやってきおったか! ふん、おおかた様子見をして放牧民だけで片をつけるのを待っておったのだろう! なにしろ当代の亜陸候閣下ときたら――。」
「その閣下もお出ましだぞ。」
トウィードの声には苦さが含まれていた。
亜陸軍の隊列がさーっと二つに割れた。
そしていちばん後方から一人の人物が姿を現した。
亜陸兵が一斉に胸に手を当てて頭を下げた。
「これはこれはサルタン閣下!」
エルグベームが大声で呼びかけた。
声こそ傲岸な響きだったが、それでもクリアドル族の族長は胸に片手をあてて一礼した。
トウィードも、クラブリーも、それに北流の四使たちもおなじように礼をした。
解もまねしておなじことをやりたかったが、あいにく手がふさがっている。
おまけに全員が礼をしたこの期に及んでもタンはあいかわらずタンのままだった。
「ビーッ! ビーッ! ビーッ!」
「しいっ、タン、ちょっとしずかにしてくれよ。」
「ビーッ! ビーッ!」
「黒の亜陸の意裁官はどこか?」
タンに負けず劣らず甲高い声がした。
知った声に解は振りかえった。
サイレンのようなタンの声に負けないほどの大声をあげたのはトウィードだ。
いつの間にか近くまで来た彼は、信じられないものを見るような目つきを雑夙の行進に向けている。
「ありえない。あんなにたくさんの雑夙が一体どうやって生まれたのか。あれほどの数の蘇石骨がどこにあるというのだ?」
解はハッとした。タンの「ビーッ!、ビーッ!」に負けないように声を張りあげた。
「地面に埋まった骨鉱山だ!」
「なにっ。」
「ぼくたちが電車で連れてこられた骨鉱山ですっ。あそこでぼくたちはたくさんの蘇石骨をとりましたっ。ぼくが抜けだしてからも残った人たち、地徒人が蘇石骨をとりつづけているはずです!」
トウィードがいっそうきびしい顔になった。
「地中の骨鉱山。たくさんの蘇石骨。」
「ぼくは一緒に来た人と組んで二日のあいだに五十くらいとりました!」
トウィードが目を剥いた。
「あそこはまだ手つかずだから、掘ればいくらでも出てくる感じでした!」
「その蘇石骨がすべて、あのでかいやつらに使われたとしたら、とんでもないことになる。倒しても倒してもきりがないぞ。」
トウィードの言葉に解はぎゅうっと眉をよせた。
峡谷で最初にあの巨大な雑夙を見たときから気になっていたことが、もう一度頭のなかに浮かびあがってきたのだ。
「なんのために?」
「ビーッ!、ビーッ!」
解のひとり言はタンのサイレンにかき消されてもおかしくなかったが、それを拾いあげた者がいた。
「そうだ、解くんの言うとおりだ。」
四ツ谷枢だ。
「一体なんのためにあいつらはここに集まってくるのだ? なんの必要がある?」
「ふん! だれかが青の亜陸を乗っとろうとでもいうつもりか!」
しわがれた、解のはじめて聞く声が加わった。
声のぬしを見るとそれは派手な縞もようの服をフード付きの上衣のなかに着こんだ、クリアドル族の族長エルグベームだった。
上衣のフードをとめる銀のエンブレムが見えた。
解の目にはそれが肋骨のかたちを紋章にしたように見えた。
白髪の、そして顔じゅう皺だらけの男だ。
よく日に焼けた皺のなかから飛びだしたような大きな二つの目玉がぎょろりと光った。
興奮のためか白目が少しばかり血走っている。トウィードに輪をかけて頑固そうな顔の男だった。
彼は吠えるように叫んだ。
「そうはさせるか! いくら大きいとはいえたかが雑夙!」
おなじようなことをだれかさんが言ったのを聞いたおぼえがあるぞ、と解は思った。
解はちらっとそのだれかさんを見た。
トウィードは唇をへの字に引きむすんで、あさっての方向へ顔を向けていた。
解はクラブリーの「もともと仲良しってわけじゃない。」という言葉を思いうかべた。
エルグベームが高らかに言いはなった。
「クリアドル族は雑夙などに負けんぞ! いくらでも倒してやる! 新たな蘇石骨も手に入ってちょうどよいくらいだ!」
「エルグベーム、待て。」
トウィードだ。エルグベームが目を剥いた。
「なんだ、じゃまをする気か、さては大群を前にしてひるんだか、アシファット族め! お前たちが手を引いても儂はやるぞ!」
「そうではない、あれを見ろ。」
トウィードが指さしたのは三川が一つになって大河になった下流、つまりツキクサ大峡谷の方角だ。
解もそっちを見た。
そして目を見ひらいた。
ツキクサ大峡谷の方角からたくさんの人の群れが飛んでくる。
よく見ると全員がフード付きの上衣を着ている。
彼らはトウィードが統率したアシファット族よりさらに整然とした隊列を組んでいた。
彼らの上衣が日ざしをあびて灰色に、そして緑色に、さらに青色にきらめいた。
整列のために上衣の色が変化して見えるのも一斉で、その光景はまるで大きな網を広げたようだった。
とても、とても大きな網だ。
「亜陸軍か!」
エルグベームが叫んだ。
「今頃になってやってきおったか! ふん、おおかた様子見をして放牧民だけで片をつけるのを待っておったのだろう! なにしろ当代の亜陸候閣下ときたら――。」
「その閣下もお出ましだぞ。」
トウィードの声には苦さが含まれていた。
亜陸軍の隊列がさーっと二つに割れた。
そしていちばん後方から一人の人物が姿を現した。
亜陸兵が一斉に胸に手を当てて頭を下げた。
「これはこれはサルタン閣下!」
エルグベームが大声で呼びかけた。
声こそ傲岸な響きだったが、それでもクリアドル族の族長は胸に片手をあてて一礼した。
トウィードも、クラブリーも、それに北流の四使たちもおなじように礼をした。
解もまねしておなじことをやりたかったが、あいにく手がふさがっている。
おまけに全員が礼をしたこの期に及んでもタンはあいかわらずタンのままだった。
「ビーッ! ビーッ! ビーッ!」
「しいっ、タン、ちょっとしずかにしてくれよ。」
「ビーッ! ビーッ!」
「黒の亜陸の意裁官はどこか?」
タンに負けず劣らず甲高い声がした。
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