赤い月

夏目綾

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第六話

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「兄様、此処を出るというのは一体どういうことなのですか!?」
屋根裏の自室に戻ったユーリにアレクサンドルが詰めよった。
「言葉のままだ、サーシャ。あの軍人が僕らを買って連れて帰るのだそうだ。」
「そんな屈辱あるものか!兄様はそれで良いのですか!?あんなやつ今すぐにでも殺してもいい!!それなのに・・・!!」
「あの人は僕たちの命の恩人だ。悪いようにはしない。」
それでもとアレクサンドルは兄を問い詰める。
「兄様は本当にそう思っているの?本当にそれで・・・!!」
「僕たちはどんな屈辱にも耐えねばならない。機会を待つんだ。いつかきっと、ヴァーニャが迎えにきてくれる。」
「兄様・・・。」
ユーリはそっとアレクサンドルを抱きしめた。
「大丈夫、サーシャは僕が守るからね。」
じゃあ、兄様は誰が守るんだい、オレが守らないと・・・。
アレクサンドルはぎゅっとユーリを抱きしめ返す。
その夜、いつかザハロフの再興を夢見て二人は寄り添い過ごしたのだった。

それから次の日。
ミハイルは持っていた宝飾品を帰りに立ち寄った街で売ると兄弟に立派な服を買い与え着せた。
こうするとやはり皇族だったことを思い出させる。凛と美しいその姿は眩しいほどであった。兄弟たちはというと相変わらずの無言でミハイルを睨み続けている。
ミハイルは、そんな彼らを馬車に乗せ自分の屋敷へと連れ帰った。

「この子たちをうちで預かることにした。私の親族なのだよ。これから私と同様の扱いをするように。」
そう、使用人たちにミハイルは言い放つ。
急に連れ帰ってきた見ず知らずの少年たちを主人同様の扱いをすると聞き使用人たちは驚いたが、ミハイルの人柄か使用人たちは最初こそ耳打ちしたもののすぐに従う意を見せた。
アレクサンドルはいい茶番だと呆れ返っている。そうだろう?兄様。と言わんばかりの顔で兄を見たが、ユーリは何一つ動揺することなく、ただただ今置かれている現実を見ていた。

「この二つの部屋をお使いください。その他にも何か欲しいものがあったら遠慮なく言ってください。」
笑顔で接するミハイルとは反対にユーリは相変わらず無表情である。
「部屋はひとつで結構です。」
「いや、使わない部屋はたくさんあるので問題ありません、ユーリ様。」
するとユーリはここで初めてキッとミハイルを睨んだ。
「様などつけないでください。敬語も結構です。虫酸がはしります。」
「しかし・・・。」
「今はあなたの方が地位は上です。ミハイル様。」
一瞬、感情的になったユーリであったがすぐに冷静さを取り戻し皮肉そうに言った。アレクサンドルはというとずっとミハイルを睨んだままである。
これ以上反論したところでこの兄弟を逆なでするだけのようだ。そう判断したミハイルは心苦しいながらもユーリの意見に従うことにした。
「それと、皆の前では、僕はエミール。弟はアレクセイと呼んでください。」
「わかったよ。・・・では私からも一つ。」
「なんです?」
「君たちからすれば、嫌かも知れない。でも君たちを助けたかった。それだけは本当だ。それだけは信じて欲しいんだ。」
「・・・・・。」
「オレは絶対に貴様を許さない・・・。何を言われようがだ!!」
無言のユーリに対して、アレクサンドルはそう敵意をむきだしにした。
彼らの自分たちへの怒りは計り知れないものだろう。ミハイルは自分でもわかっていた。しかし、助けたい。それがいつか伝わればいい。今は苦い想いをこらえて、ミハイルは兄弟たちの元を後にした。
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