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太陽が西へ傾き、辺りは黄金に染まっていた。普段なら、学生らの帰宅がチラホラとあるのだが、一切見られない。
それどころか、人っこ一人いやしない。子供の笑い声は聞こえないし、井戸端会議に明け暮れる主婦の姿もない。
まさに、ゾンビワールドの形成が急速に押し進められた証拠といえよう。
だというのに、俺はまだゾンビと遭遇していなかった。
家を出て数分。もうすぐ、例のコンビニに着く。これは、なかなかに幸先が良い。
(このまま何事もなく終わってくれれば良いが……。)
アクシデントが起きない事を祈り、俺は歩くスピードを速めた。
手はじんわりと汗ばんでいて心地悪いし、ここ数日の疲れが祟って、コンディションも万全とは言い難い。
だから俺は少しでも早く事を済ませたかった。
燃え上がり、黒焦げになったバイクに、もはや生前どんな姿をしていたかも分からない肉片。
その他、奴らの仕業と思われる異物たちを横目に、俺は目的の場所へ向かう。
込み上げる吐き気を必死で抑制し、足を動かす。
そうして、俺はコンビニにたどり着いた。だが、それは俺の知っているコンビニの姿ではなかった。
自動ドアが完膚なきまでに破壊されており、いつでも入店できるように様変わりしていたのである。
明らかにここで何かが起きた、そう主張しているようで、俺は恐怖を感じた。
(絶対に入るべきではないよな。)
己の危険察知センサーがビンビン鳴っている。でも、ここまで来て、そうあっさりと帰ることなどできるはずもない。
俺は息を短く切って、前進した。
慎重に中を覗いてみる。
「ウッ。」
声にならない絶叫。視界に入って来たのは、ナニカを食すゾンビだった。
悲鳴を上げなかったのは賢かったと思う。しかし、それだけだ。緊急事態であることに変わりない。
(戦うか?)
俺は自問する。回答はNO。足がガクガクと震え、戦うなど以ての外だった。
俺は、気がつくと後退りをしていた。意識の範疇を超えて、奴に恐怖を覚えているらしい。それは本能に近く、拭い去ることができない。
(落ち着け、奴はまだ俺に気づいていない。)
不幸中の幸いとでもいうべきか。そのゾンビは貪ることに夢中で、俺に興味を示していなかった。
(今ならやれる!)
正しくは「今しかやれない」であったが、今はどうだっていい。
俺は、なるだけ足音を消し、入店した。奴は気づいていない。
その隙に、お菓子や保存食が並んだ棚に足を進める。
そして、からっていたリュックを下ろし、次々と食糧を詰め込み始めた。
内容は確認せず、手に取った物を無作法に放っていく。余裕は一ミリもなかった。
やがて、リュックがパンパンになると、俺はすぐにチャックを閉めて、肩にからう。
(よし、早くで……。)
瞬間、心臓を鷲掴みにされたかのような衝撃が走った。自然と、身体が冷えてゆく。対照に、脳だけが熱を帯びる。
それは、恐れていた出来事。
それは、一巻の終わり。
俺は、いつの間にかゾンビに囲まれていた。
それどころか、人っこ一人いやしない。子供の笑い声は聞こえないし、井戸端会議に明け暮れる主婦の姿もない。
まさに、ゾンビワールドの形成が急速に押し進められた証拠といえよう。
だというのに、俺はまだゾンビと遭遇していなかった。
家を出て数分。もうすぐ、例のコンビニに着く。これは、なかなかに幸先が良い。
(このまま何事もなく終わってくれれば良いが……。)
アクシデントが起きない事を祈り、俺は歩くスピードを速めた。
手はじんわりと汗ばんでいて心地悪いし、ここ数日の疲れが祟って、コンディションも万全とは言い難い。
だから俺は少しでも早く事を済ませたかった。
燃え上がり、黒焦げになったバイクに、もはや生前どんな姿をしていたかも分からない肉片。
その他、奴らの仕業と思われる異物たちを横目に、俺は目的の場所へ向かう。
込み上げる吐き気を必死で抑制し、足を動かす。
そうして、俺はコンビニにたどり着いた。だが、それは俺の知っているコンビニの姿ではなかった。
自動ドアが完膚なきまでに破壊されており、いつでも入店できるように様変わりしていたのである。
明らかにここで何かが起きた、そう主張しているようで、俺は恐怖を感じた。
(絶対に入るべきではないよな。)
己の危険察知センサーがビンビン鳴っている。でも、ここまで来て、そうあっさりと帰ることなどできるはずもない。
俺は息を短く切って、前進した。
慎重に中を覗いてみる。
「ウッ。」
声にならない絶叫。視界に入って来たのは、ナニカを食すゾンビだった。
悲鳴を上げなかったのは賢かったと思う。しかし、それだけだ。緊急事態であることに変わりない。
(戦うか?)
俺は自問する。回答はNO。足がガクガクと震え、戦うなど以ての外だった。
俺は、気がつくと後退りをしていた。意識の範疇を超えて、奴に恐怖を覚えているらしい。それは本能に近く、拭い去ることができない。
(落ち着け、奴はまだ俺に気づいていない。)
不幸中の幸いとでもいうべきか。そのゾンビは貪ることに夢中で、俺に興味を示していなかった。
(今ならやれる!)
正しくは「今しかやれない」であったが、今はどうだっていい。
俺は、なるだけ足音を消し、入店した。奴は気づいていない。
その隙に、お菓子や保存食が並んだ棚に足を進める。
そして、からっていたリュックを下ろし、次々と食糧を詰め込み始めた。
内容は確認せず、手に取った物を無作法に放っていく。余裕は一ミリもなかった。
やがて、リュックがパンパンになると、俺はすぐにチャックを閉めて、肩にからう。
(よし、早くで……。)
瞬間、心臓を鷲掴みにされたかのような衝撃が走った。自然と、身体が冷えてゆく。対照に、脳だけが熱を帯びる。
それは、恐れていた出来事。
それは、一巻の終わり。
俺は、いつの間にかゾンビに囲まれていた。
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