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【プロローグ】
【プロローグ】
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放課後の生徒会室は混沌の世界と化していた。
しきりに行き交う足音と、あふれる喧騒はとどまることを知らない。五月雨式に降りかかる雑務に対応するためだ。
生徒たちの放つ熱気が満ちる部屋のなか、一年生で新人の俺は、ただただ勢いに圧倒されるばかりだ。
生徒会長の宇和野空先輩が皆にてきぱきと指示を出す。
「南鷹、例の課外活動報告書、今日中に仕上がりそうか」
「ふう、ついに佳境にさしかかったわ。たとえこの指が折れようとも仕上げるから」
「添削は俺がやるから目途がついたら声かけてくれ」
「わかったわ、午後五時までには必ずバトンをつなぐよ」
実務担当の三年生、南鷹静香先輩は画面を凝視したまま電光石火でキーボードを打ち鳴らす。
「宇和野先輩、注文したこの照明セット、どこに保管するんでしたっけ」
「ああ、それは体育館の物置な。鍵は職員室で借りてきてくれ。遅くなると断られるから急いでほしい。ひとりで四往復してもらえるか」
「了解しました、敵は手強いほど燃えるってもんです!」
二年生の円城嘉門先輩は重たそうな段ボール箱を台車に乗せ、勢いよく生徒会室を飛び出した。
それから宇和野先輩は俺に目を向ける。
「ところで黒澤」
「はっ、はいっ!」
「ぽかんと口開けてるが広報誌の編集はどうだ。そっちの期限が差し迫っているんだろ?」
「すいません宇和野先輩、つい土偶に魂を乗っ取られてました」
「おいおい、口開けてんのは埴輪のほうだろ?」
「まじですか!」
さすがはハイスペックの生徒会長。今日も俺に新たな発見をもたらしてくれた。
けれどおちおち感心している場合じゃない。
「実は原稿がやばいらしいんです! 俺はともかくとして、肝心のみずほ先輩のほうが――」
「瑞穂が?」
宇和野先輩は窓際のデスクに目を向けた。
そこにはひとりの女子生徒の背中姿がある。声に気づいたようで、反射的に身を起こし、風に翻るシルクのように振り向いた。
きゃしゃな首を傾けると艶のある黒髪がはらりと肩からこぼれ落ちる。日本人形のような整った丸顔に、剥きたてのゆで卵に勝るとも劣らない、きめの細かな美白肌。遠慮がちな奥二重の向こうからのぞく瞳はこぼれそうなほどに大きくて、その黒はどこまでも深い。
視線が俺を捉え、威風堂々とした返事が届く。
「お察しの通り、わたし、ただいま超ピンチです!」
清川瑞穂――通称『みずほ先輩』は才色兼備の二年生。この城西高等学校には隠れファンが星の数ほどいると、まことしやかに噂されている。
そんな彼女が真剣な面持ちでペンを握っているのは、生徒会が発行する広報誌を執筆するためだ。
『瑞穂のタウンアドベンチャー!』という、地域の見どころを紹介するコラム。
けれどみずほ先輩の最大の武器であるウォーターマンのボールペンはすっかり足止めを食らっている。デスクの上の原稿には、遠目にもわかるほど、だだっ広い空白があった。
「さてはネタ切れなんですね……」
すると、みずほ先輩は弾かれたようにデスクから立ち上がり、相棒のデジタル一眼レフを首に掛けた。
「そうよ。だから、これから取材に行くわよ、かつき君!」
即座に行動に移すのは日常茶飯事のこと。俺も心構えはできている。
呼び声がかかると同時に姿勢を正し、即座に了承した。
「はいっ! 喜んでお供いたします!」
生徒会員となって早々に身についた下僕反射。
その切り返したるや、本日も絶好調である。
しきりに行き交う足音と、あふれる喧騒はとどまることを知らない。五月雨式に降りかかる雑務に対応するためだ。
生徒たちの放つ熱気が満ちる部屋のなか、一年生で新人の俺は、ただただ勢いに圧倒されるばかりだ。
生徒会長の宇和野空先輩が皆にてきぱきと指示を出す。
「南鷹、例の課外活動報告書、今日中に仕上がりそうか」
「ふう、ついに佳境にさしかかったわ。たとえこの指が折れようとも仕上げるから」
「添削は俺がやるから目途がついたら声かけてくれ」
「わかったわ、午後五時までには必ずバトンをつなぐよ」
実務担当の三年生、南鷹静香先輩は画面を凝視したまま電光石火でキーボードを打ち鳴らす。
「宇和野先輩、注文したこの照明セット、どこに保管するんでしたっけ」
「ああ、それは体育館の物置な。鍵は職員室で借りてきてくれ。遅くなると断られるから急いでほしい。ひとりで四往復してもらえるか」
「了解しました、敵は手強いほど燃えるってもんです!」
二年生の円城嘉門先輩は重たそうな段ボール箱を台車に乗せ、勢いよく生徒会室を飛び出した。
それから宇和野先輩は俺に目を向ける。
「ところで黒澤」
「はっ、はいっ!」
「ぽかんと口開けてるが広報誌の編集はどうだ。そっちの期限が差し迫っているんだろ?」
「すいません宇和野先輩、つい土偶に魂を乗っ取られてました」
「おいおい、口開けてんのは埴輪のほうだろ?」
「まじですか!」
さすがはハイスペックの生徒会長。今日も俺に新たな発見をもたらしてくれた。
けれどおちおち感心している場合じゃない。
「実は原稿がやばいらしいんです! 俺はともかくとして、肝心のみずほ先輩のほうが――」
「瑞穂が?」
宇和野先輩は窓際のデスクに目を向けた。
そこにはひとりの女子生徒の背中姿がある。声に気づいたようで、反射的に身を起こし、風に翻るシルクのように振り向いた。
きゃしゃな首を傾けると艶のある黒髪がはらりと肩からこぼれ落ちる。日本人形のような整った丸顔に、剥きたてのゆで卵に勝るとも劣らない、きめの細かな美白肌。遠慮がちな奥二重の向こうからのぞく瞳はこぼれそうなほどに大きくて、その黒はどこまでも深い。
視線が俺を捉え、威風堂々とした返事が届く。
「お察しの通り、わたし、ただいま超ピンチです!」
清川瑞穂――通称『みずほ先輩』は才色兼備の二年生。この城西高等学校には隠れファンが星の数ほどいると、まことしやかに噂されている。
そんな彼女が真剣な面持ちでペンを握っているのは、生徒会が発行する広報誌を執筆するためだ。
『瑞穂のタウンアドベンチャー!』という、地域の見どころを紹介するコラム。
けれどみずほ先輩の最大の武器であるウォーターマンのボールペンはすっかり足止めを食らっている。デスクの上の原稿には、遠目にもわかるほど、だだっ広い空白があった。
「さてはネタ切れなんですね……」
すると、みずほ先輩は弾かれたようにデスクから立ち上がり、相棒のデジタル一眼レフを首に掛けた。
「そうよ。だから、これから取材に行くわよ、かつき君!」
即座に行動に移すのは日常茶飯事のこと。俺も心構えはできている。
呼び声がかかると同時に姿勢を正し、即座に了承した。
「はいっ! 喜んでお供いたします!」
生徒会員となって早々に身についた下僕反射。
その切り返したるや、本日も絶好調である。
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