リア充するにもほどがある!? 生徒会から始まる、みずほ先輩の下僕ライフ365日

秋月 一成

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【第三話 みずほ先輩と情熱的なラブレター】

【3-1】

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 梅雨の季節の登校は不快だ。シャツが体に張りついてわずらわしい。

 席に着くやいなや、下敷きを取り出してシャツのボタンを開け、素肌に風を送り込む。

 ああ、こもった熱よ、さようなら。

「よう、大親友の黒澤克樹くろさわかつき君! ちょっと頼みがあるんだが聞いてくれねぇか』

 突然、背後から野太い声がした。頑強な腕が首に巻きついてくる。

 振り向くと、どんぐりのように突っ立った短髪の男の姿があった。

 猪俣猛司いのまたたけし、サッカー部に所属する俺のクラスメイトだ。

 ちなみに接点はほとんどなく、親友であるはずがない。

 けれどみずほ先輩が取材した相手のひとりだったと思い出す。

「お前、生徒会の一員だったよな」
「そうだけど何か用があんのか」

 むさ苦しい腕をほどいて体を反転させ見上げる。猪俣は待ちきれないといった様子でさっそく用件を切り出した。

「生徒会ってさ、学生のお悩み相談にのってくれるんだよな」
「ああ、確か、そういう役目もあった気がする。でも俺が相談に乗るわけじゃなくて、上級生がやってるんだけどさ」

 猪俣は俺に身を寄せ、自分の制服の内ポケットに手を突っ込む。

「実はこれのことなんだけどな」

 取り出したのはパステルイエローの封筒。生徒の目を盗んでこっそりと開く。中には四つ折りにした可愛らしい花柄の便箋が入っていた。

「朝、下駄箱に入ってたんだけどさ、このラブレター。お前ならどう思うよ」
「はぁ、ラブレター⁉」

 意外にもこいつ、女子にモテるのか! どう思うって、羨ましくないはずがないだろ!

「まぁ、読んでみろよ」
「いいのかよ、俺が読んじゃっても」
「いいから気にすんな」

 抵抗はあったが、持ち主の相談なのだからやむを得ない。

 それではごめん失礼する、こいつを好きになった変わり者のきみよ。

 開くと並んだかわいらしい丸文字が並んでいる。

『猪俣猛司様

 突然のお手紙、大変失礼します。私はこの気持ちを胸の中に閉じ込めておくことができなくて、手紙を書くことにしました。迷惑でしたら破り捨てて構わないですからね。

 私の景色には必ずあなたがいました。あなたがフィールドを駆け回る姿は眩しくて、飛び散る汗はまるで宝石のように輝いて見えました。

 慈愛に満ちたあたたかな眼差し、子供のように無邪気であどけない笑顔、そして心の奥に染み渡る優しい声。

 いつからでしょうか、私の胸はくすぶる火鉢のように、ほんのりと熱を帯びていました。けれどその気持ちは炎となって勢いを増し、燃え上がり始めました。

 私は、あなたの全部が好きです。

 あなたはそんな私のことに気づいているのでしょうか? ううん、きっと気づいてなんかいないと思います。あなたの瞳に私は映っていないのですから。私はそのことが辛くてたまらないのです。

 どうかあなたがいつか、私の気持ちに気づいてくれますように』

 読み終えた俺は閉口した。

 ……なんか、真夜中にテンション上がっちゃった系のラブレターみたいだな。

 読んでいる俺のほうが恥ずかしくなってしまう。

 ――あれ?

 ふと、気になったことがあった。

 便箋には水滴を吸い込んだような歪みがいくつもある。梅雨しずくのせいだろうか。それが文末に書いてある名前をにじませ、読み取れなくしていた。

「送り主が誰かわからないんだな」
「まあ、つまりそういうことだ」

 さすがに女子に手当たりしだい、聞くわけにもいかない。困った挙句、生徒会の力を借りようというのか。けれどお門違いじゃないか?

「だが、問題はそれだけじゃないぜ」

 猪俣は指で手紙の両端を交互に指してみせる。文面の左右には小さな縦長の楕円が書かれていた。

 それぞれ中に「10」と「6」の数字が記されている。周りにはキラキラと光る効果のマークが描かれていた。

「この数字、どういう意味なんだ?」
「やっぱり、何か意味がありそうだよな。でもそれが分かれば苦労ないぜ。――そこで副生徒会長の『』にこの件を相談したいんだよ」
「みずほ先輩に!?」

 生徒会は頭脳明晰な学生の集団である。約一名を除くが。

 そして清川瑞穂きよかわみずほ――みずほ先輩は校内でも有名な才色兼備の副生徒会長。俺を生徒会に誘った張本人でもある。

「ああ、つまりお悩み相談っていうのは、『この手紙の謎を解いてほしい』ってことなのか」

 猪俣は口を三日月のようにしならせてみせた。

 そう、つまり猪俣の頼みとは、俺にみずほ先輩との橋渡しをしてくれ、ということなのだ。

「なあ、いいだろ大親友? お前にしか頼めないことだからさ」

 猪俣は俺に肩をすり寄せてくる。再度になるが俺はお前の親友などではない。けれど生徒会員としての使命は果たすつもりだ。

「構わないけど、ひとつ条件がある」
「条件?」
「いいか、みずほ先輩のことを気安く『みずほたん』呼ぶなボケー!」

 一喝した俺の豹変ぶりに猪俣は驚き、机をひとつ道連れにしてひっくり返った。

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