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【第三話 みずほ先輩と情熱的なラブレター】
【3-1】
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梅雨の季節の登校は不快だ。シャツが体に張りついてわずらわしい。
席に着くやいなや、下敷きを取り出してシャツのボタンを開け、素肌に風を送り込む。
ああ、こもった熱よ、さようなら。
「よう、大親友の黒澤克樹君! ちょっと頼みがあるんだが聞いてくれねぇか』
突然、背後から野太い声がした。頑強な腕が首に巻きついてくる。
振り向くと、どんぐりのように突っ立った短髪の男の姿があった。
猪俣猛司、サッカー部に所属する俺のクラスメイトだ。
ちなみに接点はほとんどなく、親友であるはずがない。
けれどみずほ先輩が取材した相手のひとりだったと思い出す。
「お前、生徒会の一員だったよな」
「そうだけど何か用があんのか」
むさ苦しい腕をほどいて体を反転させ見上げる。猪俣は待ちきれないといった様子でさっそく用件を切り出した。
「生徒会ってさ、学生のお悩み相談にのってくれるんだよな」
「ああ、確か、そういう役目もあった気がする。でも俺が相談に乗るわけじゃなくて、上級生がやってるんだけどさ」
猪俣は俺に身を寄せ、自分の制服の内ポケットに手を突っ込む。
「実はこれのことなんだけどな」
取り出したのはパステルイエローの封筒。生徒の目を盗んでこっそりと開く。中には四つ折りにした可愛らしい花柄の便箋が入っていた。
「朝、下駄箱に入ってたんだけどさ、このラブレター。お前ならどう思うよ」
「はぁ、ラブレター⁉」
意外にもこいつ、女子にモテるのか! どう思うって、羨ましくないはずがないだろ!
「まぁ、読んでみろよ」
「いいのかよ、俺が読んじゃっても」
「いいから気にすんな」
抵抗はあったが、持ち主の相談なのだからやむを得ない。
それではごめん失礼する、こいつを好きになった変わり者のきみよ。
開くと並んだかわいらしい丸文字が並んでいる。
『猪俣猛司様
突然のお手紙、大変失礼します。私はこの気持ちを胸の中に閉じ込めておくことができなくて、手紙を書くことにしました。迷惑でしたら破り捨てて構わないですからね。
私の景色には必ずあなたがいました。あなたがフィールドを駆け回る姿は眩しくて、飛び散る汗はまるで宝石のように輝いて見えました。
慈愛に満ちたあたたかな眼差し、子供のように無邪気であどけない笑顔、そして心の奥に染み渡る優しい声。
いつからでしょうか、私の胸はくすぶる火鉢のように、ほんのりと熱を帯びていました。けれどその気持ちは炎となって勢いを増し、燃え上がり始めました。
私は、あなたの全部が好きです。
あなたはそんな私のことに気づいているのでしょうか? ううん、きっと気づいてなんかいないと思います。あなたの瞳に私は映っていないのですから。私はそのことが辛くてたまらないのです。
どうかあなたがいつか、私の気持ちに気づいてくれますように』
読み終えた俺は閉口した。
……なんか、真夜中にテンション上がっちゃった系のラブレターみたいだな。
読んでいる俺のほうが恥ずかしくなってしまう。
――あれ?
ふと、気になったことがあった。
便箋には水滴を吸い込んだような歪みがいくつもある。梅雨しずくのせいだろうか。それが文末に書いてある名前をにじませ、読み取れなくしていた。
「送り主が誰かわからないんだな」
「まあ、つまりそういうことだ」
さすがに女子に手当たりしだい、聞くわけにもいかない。困った挙句、生徒会の力を借りようというのか。けれどお門違いじゃないか?
「だが、問題はそれだけじゃないぜ」
猪俣は指で手紙の両端を交互に指してみせる。文面の左右には小さな縦長の楕円が書かれていた。
それぞれ中に「10」と「6」の数字が記されている。周りにはキラキラと光る効果のマークが描かれていた。
「この数字、どういう意味なんだ?」
「やっぱり、何か意味がありそうだよな。でもそれが分かれば苦労ないぜ。――そこで副生徒会長の『みずほたん』にこの件を相談したいんだよ」
「みずほ先輩に!?」
生徒会は頭脳明晰な学生の集団である。約一名を除くが。
そして清川瑞穂――みずほ先輩は校内でも有名な才色兼備の副生徒会長。俺を生徒会に誘った張本人でもある。
「ああ、つまりお悩み相談っていうのは、『この手紙の謎を解いてほしい』ってことなのか」
猪俣は口を三日月のようにしならせてみせた。
そう、つまり猪俣の頼みとは、俺にみずほ先輩との橋渡しをしてくれ、ということなのだ。
「なあ、いいだろ大親友? お前にしか頼めないことだからさ」
猪俣は俺に肩をすり寄せてくる。再度になるが俺はお前の親友などではない。けれど生徒会員としての使命は果たすつもりだ。
「構わないけど、ひとつ条件がある」
「条件?」
「いいか、みずほ先輩のことを気安く『みずほたん』呼ぶなボケー!」
一喝した俺の豹変ぶりに猪俣は驚き、机をひとつ道連れにしてひっくり返った。
席に着くやいなや、下敷きを取り出してシャツのボタンを開け、素肌に風を送り込む。
ああ、こもった熱よ、さようなら。
「よう、大親友の黒澤克樹君! ちょっと頼みがあるんだが聞いてくれねぇか』
突然、背後から野太い声がした。頑強な腕が首に巻きついてくる。
振り向くと、どんぐりのように突っ立った短髪の男の姿があった。
猪俣猛司、サッカー部に所属する俺のクラスメイトだ。
ちなみに接点はほとんどなく、親友であるはずがない。
けれどみずほ先輩が取材した相手のひとりだったと思い出す。
「お前、生徒会の一員だったよな」
「そうだけど何か用があんのか」
むさ苦しい腕をほどいて体を反転させ見上げる。猪俣は待ちきれないといった様子でさっそく用件を切り出した。
「生徒会ってさ、学生のお悩み相談にのってくれるんだよな」
「ああ、確か、そういう役目もあった気がする。でも俺が相談に乗るわけじゃなくて、上級生がやってるんだけどさ」
猪俣は俺に身を寄せ、自分の制服の内ポケットに手を突っ込む。
「実はこれのことなんだけどな」
取り出したのはパステルイエローの封筒。生徒の目を盗んでこっそりと開く。中には四つ折りにした可愛らしい花柄の便箋が入っていた。
「朝、下駄箱に入ってたんだけどさ、このラブレター。お前ならどう思うよ」
「はぁ、ラブレター⁉」
意外にもこいつ、女子にモテるのか! どう思うって、羨ましくないはずがないだろ!
「まぁ、読んでみろよ」
「いいのかよ、俺が読んじゃっても」
「いいから気にすんな」
抵抗はあったが、持ち主の相談なのだからやむを得ない。
それではごめん失礼する、こいつを好きになった変わり者のきみよ。
開くと並んだかわいらしい丸文字が並んでいる。
『猪俣猛司様
突然のお手紙、大変失礼します。私はこの気持ちを胸の中に閉じ込めておくことができなくて、手紙を書くことにしました。迷惑でしたら破り捨てて構わないですからね。
私の景色には必ずあなたがいました。あなたがフィールドを駆け回る姿は眩しくて、飛び散る汗はまるで宝石のように輝いて見えました。
慈愛に満ちたあたたかな眼差し、子供のように無邪気であどけない笑顔、そして心の奥に染み渡る優しい声。
いつからでしょうか、私の胸はくすぶる火鉢のように、ほんのりと熱を帯びていました。けれどその気持ちは炎となって勢いを増し、燃え上がり始めました。
私は、あなたの全部が好きです。
あなたはそんな私のことに気づいているのでしょうか? ううん、きっと気づいてなんかいないと思います。あなたの瞳に私は映っていないのですから。私はそのことが辛くてたまらないのです。
どうかあなたがいつか、私の気持ちに気づいてくれますように』
読み終えた俺は閉口した。
……なんか、真夜中にテンション上がっちゃった系のラブレターみたいだな。
読んでいる俺のほうが恥ずかしくなってしまう。
――あれ?
ふと、気になったことがあった。
便箋には水滴を吸い込んだような歪みがいくつもある。梅雨しずくのせいだろうか。それが文末に書いてある名前をにじませ、読み取れなくしていた。
「送り主が誰かわからないんだな」
「まあ、つまりそういうことだ」
さすがに女子に手当たりしだい、聞くわけにもいかない。困った挙句、生徒会の力を借りようというのか。けれどお門違いじゃないか?
「だが、問題はそれだけじゃないぜ」
猪俣は指で手紙の両端を交互に指してみせる。文面の左右には小さな縦長の楕円が書かれていた。
それぞれ中に「10」と「6」の数字が記されている。周りにはキラキラと光る効果のマークが描かれていた。
「この数字、どういう意味なんだ?」
「やっぱり、何か意味がありそうだよな。でもそれが分かれば苦労ないぜ。――そこで副生徒会長の『みずほたん』にこの件を相談したいんだよ」
「みずほ先輩に!?」
生徒会は頭脳明晰な学生の集団である。約一名を除くが。
そして清川瑞穂――みずほ先輩は校内でも有名な才色兼備の副生徒会長。俺を生徒会に誘った張本人でもある。
「ああ、つまりお悩み相談っていうのは、『この手紙の謎を解いてほしい』ってことなのか」
猪俣は口を三日月のようにしならせてみせた。
そう、つまり猪俣の頼みとは、俺にみずほ先輩との橋渡しをしてくれ、ということなのだ。
「なあ、いいだろ大親友? お前にしか頼めないことだからさ」
猪俣は俺に肩をすり寄せてくる。再度になるが俺はお前の親友などではない。けれど生徒会員としての使命は果たすつもりだ。
「構わないけど、ひとつ条件がある」
「条件?」
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