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【第二話 みずほ先輩は女優さんに怒られる】
【2-8】
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★
その数日後。
いっぱしの生徒会員と認められた俺は、胸を張って生徒会室へ向かった。
みずほ先輩が俺専用のデスクを用意してくれたらしいのだ。
おやつも準備してあるから楽しみにしてね、とも言ってくれた。
生徒会室に来たくさせるほどの厚遇に、下僕生活もまんざらではないなと頬が緩む。
扉の前に立つと、生徒会室の中はやけに賑やかだった。
「うっそ、あの瑞穂ちゃんが⁉」
――えっ?
みずほ先輩の話をしていることに気づいた俺は、ドアを開ける手をすかさず止めた。
地獄耳を発動させて聞き耳を立てる。
「あの清川がそこまで危険な選択をするとは、にわかには信じられないです」
「それで瑞穂は無事なのか⁉」
「いや……わからないです。けれど、真相を知るものはただひとり――」
先輩方の会話が真剣そのもので、まるでみずほ先輩によからぬことが起きたようなやり取りだった。
ぞっとして心臓が縮み上がる。すぐさま扉を開けて尋ねる。
「みずほ先輩になにかあったんですかっ!」
その場にいたのは、三年生の宇和野空先輩と南鷹静香先輩、それから二年生の円城嘉門先輩と家須満先輩。
総勢六名となった生徒会員のうち、俺とみずほ先輩を除く四名が勢ぞろいしていた。全員の視線が俺に向けられた。
奇妙なことに、俺の姿を見るやいなや、そろいもそろって表情筋を硬直させている。
数秒間、無動の静寂につつまれる。
「どっ、どうしたんすか先輩たち……」
突然、南鷹先輩がスイッチを入れたかのように動き出した。両手を目の前で派手に振って、あわてたように俺に言う。
「みっ、瑞穂ちゃんは全然元気だから心配しないでねっ、ねっ!」
「はああ、そうなんですか、よかったぁ~。じゃあ今日来ます?」
「もっ、もっちろん来るわよ!」
「いやぁ、みずほ先輩が一大事みたいな話が聞こえたもんで。聞き違いでしたかね」
「えっ、ええ、きっとそうよ。ねえ、宇和野君?」
声をかけられた宇和野先輩はなぜか放心状態でうわのそら。
焦点の定まらない目で俺を見てぼそっとこぼす。
「お前、瑞穂の何なんだよ……」
「えっ? そりゃあ――」
一瞬ためらったが、正直、このメンバーにははっきり言っておいたほうがいいだろう。
みずほ先輩の駒だという立場を理解してもらえれば、雑多な仕事を押し付けられたりしないはずだ。
「俺、みずほ先輩の『下僕』として働いています!」
「へっ、下僕……?」
宇和野先輩はすっとんきょうな顔になる。かたや家須先輩はしかめっ面で俺に尋ねた。
「黒澤、それは違うんじゃないか。だって清川はお前のことを――」
その瞬間、宇和野先輩が家須先輩に手のひらを向けて言葉を制する。
「まて、確かに黒澤は瑞穂の下僕だ。下僕でいいはずだ。それ以外の可能性など、みじんもあるはずがない! なあ、そうだろ家須」
「あっ、はっ、はい! 下僕に相違ありません!」
なぜか宇和野先輩から恐ろしいほどの気迫を感じる。目つきが鋭くなり、悪霊に憑かれたかのようだ。
家須先輩はメガネのブリッジをくいっと持ち上げた。冷静さを保っているように見えた。
「すまん黒澤。皆、お前の立場を失念していたようだ。くれぐれも瑞穂の下僕として、節度ある対応を心掛けるように」
「了解しましたー!」
背筋を伸ばしてきっちりと一礼する。よし、みずほ先輩の苦労を少しでも肩代わりできるよう、俺も頑張ろう。
窓際に目を向けると、みずほ先輩のデスクの隣にもうひとつ、新しいデスクが置かれていた。
「宇和野先輩、あのデスク、ひょっとして俺のですか?」
「ああ、先日、瑞穂が設置してたぞ。――かなり悔しいが」
「え? 悔しい?」
「いや、まあ、窓際いいなぁって思って」
「なんか悪いっすね。おいしいところをいただいちゃったみたいで」
「くっ、確かにお前は美味しいところを奪っていきやがった」
「えっ? だったら俺と代わります?」
「あっ、いや、それは物理的に無理無理!」
机の移動なんて、たいした作業じゃないはずなのに、宇和野先輩はひどくうろたえて拒否をする。いったいどうしたのだろう?
今日の生徒会長は、どこかに大切なネジを落としてしまったのかも、と心配になる俺であった。
そのとき、駆け足の音が近づいてきた。勢いよく扉が開く。
「遅くなりましたー!」
生徒会室に飛び込んできたみずほ先輩は、視線の照準を真っ先にこちらに向けた。そして上品な笑みを浮かべる。
なぜ俺だけに、と不思議に思い辺りを見回す。
すると宇和野先輩は放心状態で、円城先輩と家須先輩は気の毒そうな顔でみずほ先輩を見ていた。
そのうえ南鷹先輩はときめく乙女のような顔をして、俺とみずほ先輩を交互に眺めている。
バラエティーに富んだ生徒会員たちの思惑が不明すぎて、俺は背筋が凍りそうになった。
けれど下僕となった俺はもう、後に引くことなど、できるはずもなかった。
その数日後。
いっぱしの生徒会員と認められた俺は、胸を張って生徒会室へ向かった。
みずほ先輩が俺専用のデスクを用意してくれたらしいのだ。
おやつも準備してあるから楽しみにしてね、とも言ってくれた。
生徒会室に来たくさせるほどの厚遇に、下僕生活もまんざらではないなと頬が緩む。
扉の前に立つと、生徒会室の中はやけに賑やかだった。
「うっそ、あの瑞穂ちゃんが⁉」
――えっ?
みずほ先輩の話をしていることに気づいた俺は、ドアを開ける手をすかさず止めた。
地獄耳を発動させて聞き耳を立てる。
「あの清川がそこまで危険な選択をするとは、にわかには信じられないです」
「それで瑞穂は無事なのか⁉」
「いや……わからないです。けれど、真相を知るものはただひとり――」
先輩方の会話が真剣そのもので、まるでみずほ先輩によからぬことが起きたようなやり取りだった。
ぞっとして心臓が縮み上がる。すぐさま扉を開けて尋ねる。
「みずほ先輩になにかあったんですかっ!」
その場にいたのは、三年生の宇和野空先輩と南鷹静香先輩、それから二年生の円城嘉門先輩と家須満先輩。
総勢六名となった生徒会員のうち、俺とみずほ先輩を除く四名が勢ぞろいしていた。全員の視線が俺に向けられた。
奇妙なことに、俺の姿を見るやいなや、そろいもそろって表情筋を硬直させている。
数秒間、無動の静寂につつまれる。
「どっ、どうしたんすか先輩たち……」
突然、南鷹先輩がスイッチを入れたかのように動き出した。両手を目の前で派手に振って、あわてたように俺に言う。
「みっ、瑞穂ちゃんは全然元気だから心配しないでねっ、ねっ!」
「はああ、そうなんですか、よかったぁ~。じゃあ今日来ます?」
「もっ、もっちろん来るわよ!」
「いやぁ、みずほ先輩が一大事みたいな話が聞こえたもんで。聞き違いでしたかね」
「えっ、ええ、きっとそうよ。ねえ、宇和野君?」
声をかけられた宇和野先輩はなぜか放心状態でうわのそら。
焦点の定まらない目で俺を見てぼそっとこぼす。
「お前、瑞穂の何なんだよ……」
「えっ? そりゃあ――」
一瞬ためらったが、正直、このメンバーにははっきり言っておいたほうがいいだろう。
みずほ先輩の駒だという立場を理解してもらえれば、雑多な仕事を押し付けられたりしないはずだ。
「俺、みずほ先輩の『下僕』として働いています!」
「へっ、下僕……?」
宇和野先輩はすっとんきょうな顔になる。かたや家須先輩はしかめっ面で俺に尋ねた。
「黒澤、それは違うんじゃないか。だって清川はお前のことを――」
その瞬間、宇和野先輩が家須先輩に手のひらを向けて言葉を制する。
「まて、確かに黒澤は瑞穂の下僕だ。下僕でいいはずだ。それ以外の可能性など、みじんもあるはずがない! なあ、そうだろ家須」
「あっ、はっ、はい! 下僕に相違ありません!」
なぜか宇和野先輩から恐ろしいほどの気迫を感じる。目つきが鋭くなり、悪霊に憑かれたかのようだ。
家須先輩はメガネのブリッジをくいっと持ち上げた。冷静さを保っているように見えた。
「すまん黒澤。皆、お前の立場を失念していたようだ。くれぐれも瑞穂の下僕として、節度ある対応を心掛けるように」
「了解しましたー!」
背筋を伸ばしてきっちりと一礼する。よし、みずほ先輩の苦労を少しでも肩代わりできるよう、俺も頑張ろう。
窓際に目を向けると、みずほ先輩のデスクの隣にもうひとつ、新しいデスクが置かれていた。
「宇和野先輩、あのデスク、ひょっとして俺のですか?」
「ああ、先日、瑞穂が設置してたぞ。――かなり悔しいが」
「え? 悔しい?」
「いや、まあ、窓際いいなぁって思って」
「なんか悪いっすね。おいしいところをいただいちゃったみたいで」
「くっ、確かにお前は美味しいところを奪っていきやがった」
「えっ? だったら俺と代わります?」
「あっ、いや、それは物理的に無理無理!」
机の移動なんて、たいした作業じゃないはずなのに、宇和野先輩はひどくうろたえて拒否をする。いったいどうしたのだろう?
今日の生徒会長は、どこかに大切なネジを落としてしまったのかも、と心配になる俺であった。
そのとき、駆け足の音が近づいてきた。勢いよく扉が開く。
「遅くなりましたー!」
生徒会室に飛び込んできたみずほ先輩は、視線の照準を真っ先にこちらに向けた。そして上品な笑みを浮かべる。
なぜ俺だけに、と不思議に思い辺りを見回す。
すると宇和野先輩は放心状態で、円城先輩と家須先輩は気の毒そうな顔でみずほ先輩を見ていた。
そのうえ南鷹先輩はときめく乙女のような顔をして、俺とみずほ先輩を交互に眺めている。
バラエティーに富んだ生徒会員たちの思惑が不明すぎて、俺は背筋が凍りそうになった。
けれど下僕となった俺はもう、後に引くことなど、できるはずもなかった。
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