リア充するにもほどがある!? 生徒会から始まる、みずほ先輩の下僕ライフ365日

秋月 一成

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【第二話 みずほ先輩は女優さんに怒られる】

【2-8】

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 その数日後。

 いっぱしの生徒会員と認められた俺は、胸を張って生徒会室へ向かった。

 みずほ先輩が俺専用のデスクを用意してくれたらしいのだ。

 おやつも準備してあるから楽しみにしてね、とも言ってくれた。

 生徒会室に来たくさせるほどの厚遇に、下僕生活もまんざらではないなと頬が緩む。

 扉の前に立つと、生徒会室の中はやけに賑やかだった。

「うっそ、あの瑞穂ちゃんが⁉」

 ――えっ?

 みずほ先輩の話をしていることに気づいた俺は、ドアを開ける手をすかさず止めた。

 地獄耳を発動させて聞き耳を立てる。

「あの清川がそこまで危険な選択をするとは、にわかには信じられないです」
「それで瑞穂は無事なのか⁉」
「いや……わからないです。けれど、真相を知るものはただひとり――」

 先輩方の会話が真剣そのもので、まるでみずほ先輩によからぬことが起きたようなやり取りだった。

 ぞっとして心臓が縮み上がる。すぐさま扉を開けて尋ねる。

「みずほ先輩になにかあったんですかっ!」

 その場にいたのは、三年生の宇和野空うわのそら先輩と南鷹静香なんだかしずか先輩、それから二年生の円城嘉門えんじょうかもん先輩と家須満いえすみつる先輩。

 総勢六名となった生徒会員のうち、俺とみずほ先輩を除く四名が勢ぞろいしていた。全員の視線が俺に向けられた。

 奇妙なことに、俺の姿を見るやいなや、そろいもそろって表情筋を硬直させている。

 数秒間、無動の静寂につつまれる。

「どっ、どうしたんすか先輩たち……」

 突然、南鷹先輩がスイッチを入れたかのように動き出した。両手を目の前で派手に振って、あわてたように俺に言う。

「みっ、瑞穂ちゃんは全然元気だから心配しないでねっ、ねっ!」
「はああ、そうなんですか、よかったぁ~。じゃあ今日来ます?」
「もっ、もっちろん来るわよ!」
「いやぁ、みずほ先輩が一大事みたいな話が聞こえたもんで。聞き違いでしたかね」
「えっ、ええ、きっとそうよ。ねえ、宇和野君?」

 声をかけられた宇和野先輩はなぜか放心状態でうわのそら。

 焦点の定まらない目で俺を見てぼそっとこぼす。

「お前、瑞穂の何なんだよ……」
「えっ? そりゃあ――」

 一瞬ためらったが、正直、このメンバーにははっきり言っておいたほうがいいだろう。

 みずほ先輩の駒だという立場を理解してもらえれば、雑多な仕事を押し付けられたりしないはずだ。

「俺、みずほ先輩の『下僕』として働いています!」
「へっ、下僕……?」

 宇和野先輩はすっとんきょうな顔になる。かたや家須先輩はしかめっ面で俺に尋ねた。

「黒澤、それは違うんじゃないか。だって清川はお前のことを――」

 その瞬間、宇和野先輩が家須先輩に手のひらを向けて言葉を制する。

「まて、確かに黒澤は瑞穂の下僕だ。下僕でいいはずだ。それ以外の可能性など、みじんもあるはずがない! なあ、そうだろ家須」
「あっ、はっ、はい! 下僕に相違ありません!」

 なぜか宇和野先輩から恐ろしいほどの気迫を感じる。目つきが鋭くなり、悪霊に憑かれたかのようだ。

 家須先輩はメガネのブリッジをくいっと持ち上げた。冷静さを保っているように見えた。

「すまん黒澤。皆、お前の立場を失念していたようだ。くれぐれも瑞穂の下僕として、節度ある対応を心掛けるように」
「了解しましたー!」

 背筋を伸ばしてきっちりと一礼する。よし、みずほ先輩の苦労を少しでも肩代わりできるよう、俺も頑張ろう。

 窓際に目を向けると、みずほ先輩のデスクの隣にもうひとつ、新しいデスクが置かれていた。

「宇和野先輩、あのデスク、ひょっとして俺のですか?」
「ああ、先日、瑞穂が設置してたぞ。――かなり悔しいが」
「え? 悔しい?」
「いや、まあ、窓際いいなぁって思って」
「なんか悪いっすね。おいしいところをいただいちゃったみたいで」
「くっ、確かにお前は美味しいところを奪っていきやがった」
「えっ? だったら俺と代わります?」
「あっ、いや、それは物理的に無理無理!」

 机の移動なんて、たいした作業じゃないはずなのに、宇和野先輩はひどくうろたえて拒否をする。いったいどうしたのだろう?

 今日の生徒会長は、どこかに大切なネジを落としてしまったのかも、と心配になる俺であった。

 そのとき、駆け足の音が近づいてきた。勢いよく扉が開く。

「遅くなりましたー!」

 生徒会室に飛び込んできたみずほ先輩は、視線の照準を真っ先にこちらに向けた。そして上品な笑みを浮かべる。

 なぜ俺だけに、と不思議に思い辺りを見回す。

 すると宇和野先輩は放心状態で、円城先輩と家須先輩は気の毒そうな顔でみずほ先輩を見ていた。

 そのうえ南鷹先輩はときめく乙女のような顔をして、俺とみずほ先輩を交互に眺めている。

 バラエティーに富んだ生徒会員たちの思惑が不明すぎて、俺は背筋が凍りそうになった。

 けれど下僕となった俺はもう、後に引くことなど、できるはずもなかった。
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