リア充するにもほどがある!? 生徒会から始まる、みずほ先輩の下僕ライフ365日

秋月 一成

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【第三話 みずほ先輩と情熱的なラブレター】

【3-5】

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「家須君、ひとつお願いがあるんだけどいいかな」

 みずほ先輩に声をかけられた家須満いえすみつる先輩はゆっくりと振り返る。黒縁メガネの奥から放つ鋭い視線が向けられた。

 家須先輩はみずほ先輩の同級生で、科学研究部に属している。生徒会も兼ねているが、天才肌ゆえ難なくこなせるらしい。成績は常にトップクラスで、みずほ先輩のさらに上を行く頭脳を持つ特別進学コースの特待生。だからみずほ先輩が頼るのも理解できる。

「何の用だ、清川。十秒以内に言ってみろ」
「この手紙についたしずくが、涙かどうか分析することってできるかしら」

 家須先輩の思案はほんの一瞬だった。

 表情をみじんも変えることなく、黙って右手を伸ばして見せ、親指を天井に向かって突き立てた。

 それは『イエス』を意味する彼の返事。

 家須先輩は頼み事が難題であればあるほど燃える性格だ。

 そう、彼は誰かの頼みごとは絶対に断らない、生粋の『イエスマン』なのだ。

 みずほ先輩と俺は家須先輩の後についていく。向かったのは化学室。科学研究部の活動が行われている現場だ。

 けれど過疎化した部活なのか、生徒の姿はなかった。

「今、準備するから待っててくれ」

 家須先輩はアルミ製のトレーひとつを持ち、その上にピンセット、はさみ、蒸留水、それから小さなチューブを揃えて並べた。体温計のような機器もあった。

「先輩、これはなんすか?」
「ああ、塩分濃度計だ。感度が良くて0.01%の濃度まで測定できるやつな」
「なるほど、塩分を感知することで涙かどうか判断するんっすね」
「ああ、そうだ。――それから清川、例の手紙を貸してくれないか。一部切り取らせてもらう。猪俣ってやつは『好きにしていいです』って言ってたよな」
「あっ、ええ。構わないと思うけど」

 どうやら家須先輩は素知らぬふりをしながらも、すべてを聞き取っていたようだ。

 それから『涙の証明』について簡潔に説明する。

「涙の水分は蒸発しても塩分はしっかりと紙に残っているから、一か所の歪みに残った塩分を測定する。ちなみに涙一滴の体積はおよそ0.05 mlで、塩分濃度は0.6%程度だから、手紙の歪んだ部分を切り取って1 mlの水に馴染ませれば、0.03%の濃度となり、この塩分濃度計で検出できる。つまり塩分が測定できさえすれば、涙の染みだと考えられる」

 家須先輩はビニール手袋を着用した。手の汗が手紙につかないようにするためだ。手際よくピペットで蒸留水を吸い上げ、チューブに蒸留水を1 ml、注ぎ込む。

 それからハサミで手紙のゆがみのある部分を丸く切り取る。ピンセットでつまみ、チューブに注入した蒸留水に浸す。蓋をしてよく撹拌した。

 俺とみずほ先輩は固唾を飲んでその様子を見守っていた。

 十五分ほどなじませたところでチューブの蓋を開け、塩分濃度計のプローブを浸す。

 すると――。

『0.04%』

 と表示された。

 ということは、歪みは涙のしずくなのか。

「だが、そのしずくが涙だとして、そこにどんな意味があるのかが問題だ」
「そうよね。でも……」

 みずほ先輩は腑に落ちない顔をしている。

「塩分が含まれているのは間違いないけど、計算よりも若干濃いみたいじゃない。数値が想定よりも高く出るなんてあるのかな」

 そこで家須先輩が説明する。

「――涙の塩分って、感情によって濃度が違うんだよ」
「うそっ!」
「まじですか!」

 俺もみずほ先輩も驚きを隠せない。

 家須先輩の解説によると、嬉し泣きや悲しみの涙は塩分濃度が低く、悔しさや怒りの涙は塩分濃度が高いらしい。涙腺を作動させる自律神経の違いが関係しているとのことだ。

「だけど誤差が生じる可能性だってある。いくつか検証してみよう」

 慎重な姿勢を見せる家須先輩は科学者気質だなと思う。

 ほかのゆがんだ場所も切り取り、何度か検証を繰り返す。

 けれど塩分濃度計が示す数値は、すべて一致していた。

「測定結果に間違いはないようだな」
「だとすると――」

 結論は明らかだった。

 そう、この染みは白石が悔しさや怒りの感情を抱いて、ラブレターを書いていたことを物語っていたのだ。

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