17 / 68
【第三話 みずほ先輩と情熱的なラブレター】
【3-6】
しおりを挟む
★
「あの手紙のゆがみは本物の涙。――あなた、悔し涙を流しながらあの手紙を書いたのね。届かない気持ちを届けたくて」
みずほ先輩はけっして非難的にならないように、同情を込めた穏やかな声でそう告げた。
その言葉を飲み込むと同時に白石は顔を崩して突っ伏し、わあわあと泣き出した。
すべてを認めたがための嗚咽だった。
「だって……あんなに素敵なひと、もう二度と出会えるわけないじゃない……。清川先輩だってそう思うでしょ? 告白されたら、絶対承諾するでしょ?」
いやいや、それはないだろ。白石は心底惚れているらしく、猪俣が男の頂点に君臨しているらしい。
その魔法を何と呼べばいいのか、俺はわからず驚愕するばかりだ。
みずほ先輩と俺は顔を見合わせて肩をすくめた。
★
冷静さを取り戻した白石はすっかり神妙になっていた。ここまで心の裏を読まれてしまっては太刀打ちできるはずがない。
しかし、みずほ先輩の洞察力と凛とした振る舞いは見事としか言いようがない。素直にすごいひとだなと思う。
白石はみずほ先輩への嘘の謎かけを詫びたうえで、ひたいをテーブルに擦り付けて頼み込む。
「失礼を承知でお願いがありますッ! 彼が清川先輩に告白したら、どうか断ってください!」
「告白かぁ。んー、そりゃ断るわよ」
みずほ先輩はさも当然のように答える。白石は驚いたようで、はっと顔を上げる。
「ほっ、ほんとうですか! でもどうして⁉」
絶望で一度は壊れた表情だったが、しだいにもとの輪郭を取り戻す。
「だってねぇ、かつき君?」
みずほ先輩はかすかな笑みを浮かべて俺を瞳に捉える。
なんで俺の顔色をうかがうんだ?
白石の目線が怪訝そうにみずほ先輩と俺の間を行き来する。
「あの、ちょっとお尋ねしてもいいですか」
「なあに?」
「おふたりって、いったいどんな関係で……」
みずほ先輩はらしからぬためらいを見せ、探るように俺に尋ねる。
「え、と、かつき君、言ってもいい?」
俺が下僕として扱われているなんて、おおっぴらに言えるはずがない。もしも学校中に噂が広まり、みずほ先輩がドSみたいに思われたら申し訳なさすぎる。
けれど傷心の彼女に同情しないわけじゃないし、俺たちは彼女の弱みを握っているのだ。言っても口外することはないだろう。
「――まぁ、白石が絶対、秘密にするならいいっすよ」
みずほ先輩はこくりと首を縦に振った。桃色の唇を白石の耳元に寄せ、両手で筒をつくって内緒話。
時を同じくして俺は自慢の地獄耳を発動させた。全神経を聴覚に集中させる。
みずほ先輩の声がかすかに俺の耳に届く。
「あのね、かつき君って、実はわたしの、か――ゴニョゴニョ」
――『か』?
『下僕』じゃないのか? だとすれば今、なんて言ったんだ?
予想しなかった答えに困惑する。なにせ聞いた白石は口をあんぐりと開け、埴輪のような顔をしているのだ。
それからのっそりと立ち上がり、機械仕掛けの人形のようにカクカクと奇妙な動きで歩き出す。焦点の定まらない目で扉に向かった。
俺とすれ違いざまにぼそりとつぶやく。
「ばれたら黒澤くん、誰かに殺されちゃうかもね――」
「ひえっ!」
身の毛のよだつひとことに背筋が凍りつく。おい、いったい何と言われたんだ!
みずほ先輩の『か――』で、殺意を抱かれるもの。
それは――。
そして俺は熟考の末、ひとつの答えにたどり着いた。
雲の隙間から差し込む光線のようなインスピレーションが沸いたのだ。
――そっかぁ、俺、みずほ先輩の『影武者』だったんだ――って何で⁉
みずほ先輩はなぜか頬を赤らめて小首をかしげた。深い黒を湛えた瞳が俺の姿を映し出す。
理解の及ばない神秘の深淵に逆らえない俺は、ただ覚悟を決めるしかなかった。
腹をくくって『影武者』の決意を表明する。
「みずほ先輩、俺は命を懸けてみずほ先輩を守り抜きます!」
とたん、みずほ先輩は撃たれたように両手で胸を押さえて椅子からずり落ち、ぱたりと床に倒れ込んだ。笑っているか泣いているかわからない表情で叫ぶ。
「きみ、やっぱり最高すぎるよぉ~!」
「あ……あざーっす」
何が最高なんだか、考えれば考えるほどにそら恐ろしい。
俺はこのひとに苛まされ、眠れない夜を迎えるのだろう。
「あの手紙のゆがみは本物の涙。――あなた、悔し涙を流しながらあの手紙を書いたのね。届かない気持ちを届けたくて」
みずほ先輩はけっして非難的にならないように、同情を込めた穏やかな声でそう告げた。
その言葉を飲み込むと同時に白石は顔を崩して突っ伏し、わあわあと泣き出した。
すべてを認めたがための嗚咽だった。
「だって……あんなに素敵なひと、もう二度と出会えるわけないじゃない……。清川先輩だってそう思うでしょ? 告白されたら、絶対承諾するでしょ?」
いやいや、それはないだろ。白石は心底惚れているらしく、猪俣が男の頂点に君臨しているらしい。
その魔法を何と呼べばいいのか、俺はわからず驚愕するばかりだ。
みずほ先輩と俺は顔を見合わせて肩をすくめた。
★
冷静さを取り戻した白石はすっかり神妙になっていた。ここまで心の裏を読まれてしまっては太刀打ちできるはずがない。
しかし、みずほ先輩の洞察力と凛とした振る舞いは見事としか言いようがない。素直にすごいひとだなと思う。
白石はみずほ先輩への嘘の謎かけを詫びたうえで、ひたいをテーブルに擦り付けて頼み込む。
「失礼を承知でお願いがありますッ! 彼が清川先輩に告白したら、どうか断ってください!」
「告白かぁ。んー、そりゃ断るわよ」
みずほ先輩はさも当然のように答える。白石は驚いたようで、はっと顔を上げる。
「ほっ、ほんとうですか! でもどうして⁉」
絶望で一度は壊れた表情だったが、しだいにもとの輪郭を取り戻す。
「だってねぇ、かつき君?」
みずほ先輩はかすかな笑みを浮かべて俺を瞳に捉える。
なんで俺の顔色をうかがうんだ?
白石の目線が怪訝そうにみずほ先輩と俺の間を行き来する。
「あの、ちょっとお尋ねしてもいいですか」
「なあに?」
「おふたりって、いったいどんな関係で……」
みずほ先輩はらしからぬためらいを見せ、探るように俺に尋ねる。
「え、と、かつき君、言ってもいい?」
俺が下僕として扱われているなんて、おおっぴらに言えるはずがない。もしも学校中に噂が広まり、みずほ先輩がドSみたいに思われたら申し訳なさすぎる。
けれど傷心の彼女に同情しないわけじゃないし、俺たちは彼女の弱みを握っているのだ。言っても口外することはないだろう。
「――まぁ、白石が絶対、秘密にするならいいっすよ」
みずほ先輩はこくりと首を縦に振った。桃色の唇を白石の耳元に寄せ、両手で筒をつくって内緒話。
時を同じくして俺は自慢の地獄耳を発動させた。全神経を聴覚に集中させる。
みずほ先輩の声がかすかに俺の耳に届く。
「あのね、かつき君って、実はわたしの、か――ゴニョゴニョ」
――『か』?
『下僕』じゃないのか? だとすれば今、なんて言ったんだ?
予想しなかった答えに困惑する。なにせ聞いた白石は口をあんぐりと開け、埴輪のような顔をしているのだ。
それからのっそりと立ち上がり、機械仕掛けの人形のようにカクカクと奇妙な動きで歩き出す。焦点の定まらない目で扉に向かった。
俺とすれ違いざまにぼそりとつぶやく。
「ばれたら黒澤くん、誰かに殺されちゃうかもね――」
「ひえっ!」
身の毛のよだつひとことに背筋が凍りつく。おい、いったい何と言われたんだ!
みずほ先輩の『か――』で、殺意を抱かれるもの。
それは――。
そして俺は熟考の末、ひとつの答えにたどり着いた。
雲の隙間から差し込む光線のようなインスピレーションが沸いたのだ。
――そっかぁ、俺、みずほ先輩の『影武者』だったんだ――って何で⁉
みずほ先輩はなぜか頬を赤らめて小首をかしげた。深い黒を湛えた瞳が俺の姿を映し出す。
理解の及ばない神秘の深淵に逆らえない俺は、ただ覚悟を決めるしかなかった。
腹をくくって『影武者』の決意を表明する。
「みずほ先輩、俺は命を懸けてみずほ先輩を守り抜きます!」
とたん、みずほ先輩は撃たれたように両手で胸を押さえて椅子からずり落ち、ぱたりと床に倒れ込んだ。笑っているか泣いているかわからない表情で叫ぶ。
「きみ、やっぱり最高すぎるよぉ~!」
「あ……あざーっす」
何が最高なんだか、考えれば考えるほどにそら恐ろしい。
俺はこのひとに苛まされ、眠れない夜を迎えるのだろう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜
野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」
「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」
この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。
半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。
別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。
そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。
学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー
⭐︎第3部より毎週月・木・土曜日の朝7時に最新話を投稿します。
⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。
※表紙絵、挿絵はAI作成です。
※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件
こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。
・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。
・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。
・物静かで儚げな美術部員。
・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。
・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。
拓海の生活はどうなるのか!?
幼馴染に告白したら、交際契約書にサインを求められた件。クーリングオフは可能らしいけど、そんなつもりはない。
久野真一
青春
羽多野幸久(はたのゆきひさ)は成績そこそこだけど、運動などそれ以外全般が優秀な高校二年生。
そんな彼が最近考えるのは想い人の、湯川雅(ゆかわみやび)。異常な頭の良さで「博士」のあだ名で呼ばれる才媛。
彼はある日、勇気を出して雅に告白したのだが―
「交際してくれるなら、この契約書にサインして欲しいの」とずれた返事がかえってきたのだった。
幸久は呆れつつも契約書を読むのだが、そこに書かれていたのは予想と少し違った、想いの籠もった、
ある意味ラブレターのような代物で―
彼女を想い続けた男の子と頭がいいけどどこかずれた思考を持つ彼女の、ちょっと変な、でもほっとする恋模様をお届けします。
全三話構成です。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる