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【第四話 かつき君の不思議な夏の体験記】

【4-4】

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「ここで待っててね、手当てしてあげるから」

 コンビニのドアをくぐり抜け、いくつか必要なものを買い揃える。

 消毒液、絆創膏、ティッシュペーパー、それに紙コップ。

 消毒液と絆創膏は家に置いていなかったから、買っておいても損はないと思った。

 ふたたび会計を済ませてレシートを財布にしまう。

 コンビニの外に出ると、まよちゃんは駐車場の縁石にちょこんと座って待っていた。

 買ったティッシュペーパーを開け、消毒液を染み込ませてまよちゃんの膝の傷口を消毒する。

「なにしてるの」

 そう聞かれたことを俺は不思議に感じたが、まよちゃんに怖がられないよう、ていねいに説明する。

「消毒してるんだ。ばい菌をやっつけるためだよ」
「ちょっといたいけど、なんかきもちいい」

 まよちゃんは無邪気に笑って目を細めた。

「ばいきんって、わるいやつなの?」
「うん、体の中に入ると腫れておおごとになる場合もあるからね」
「へー、このつめたいの、びょうきをなおしてくれるの?」

 小学生の知識って、一般的にこの程度なんだろうか。その頃の自分を振り返ってみようとするがよくわからない。

「このおみせ、すごいものうっているんだねぇ」

 やけに感心した様子だ。コンビニで買い物をしたことがないのだろうか。

「薬は薬局のほうが揃っているけどね」
「へぇー、のんだらどんなびょうきでもなおるのかなぁ……」
「この薬、飲んだらだめだよ、さすがにね」
「むぅ~、ざんねんだなぁ」

 口をとがらせて顔をしかめた。なかなか可愛らしい表情だ。

 絆創膏を一枚、傷口に貼ってあげた。

「明日までは、はがさないでそのままにしておいてね」
「うん、だいじにする」

 まよちゃんは嬉しそうに絆創膏を眺めていた。

 辺りを見回すが、この子の親らしい人物の姿はいまだにない。

「誰も迎えに来ないねぇ」
「もうすぐおにいちゃんといっしょにかえるの。まよ、それをまってるの。だからだいじょうぶだよ」

 そうか。浴衣を着ているのは、これからお祭りか、花火大会にでも行くってことなのか。それなら親も一緒に来るだろう。

「コンビニの中で待っていたらどう? 少しは暑さを凌げるからね」

 店内はさほど涼しくないとはいえ、外よりはるかにましだ。この子をこのまま炎天下に置き去りにするわけにもいかないし、店内で待たせておけば熱中症の心配はない。

「……はいっていいの?」

 俺の提案に、まよちゃんは顔を曇らせた。

 ひとりでお店に入るなと親に言われているのだろうか。

「大丈夫、コンビニのおじいさんもまよちゃんのこと心配していたからさ」

 そうは言っていなかったが、ひとりで待たされていると知ったら心配するに決まっている。

「おいで」

 まよちゃんは素直に俺の後をついてきた。

 コンビニの中に入ると、まよちゃんは驚いたような顔になる。

「うわぁ、ここはごくらくじょうどなの……? とってもきもちいい……」

 クーラーの涼しさがまよちゃんの火照った顔を冷ましたみたいだ。まよちゃんは目を細めてクーラーの風を味わっている。

 そしてふと、何かに気づいたようでパタパタと走っていく。

「お店の中は走っちゃだめだよ」

 好奇心が旺盛なせいか、俺の声が耳に届いていない。

 まよちゃんはおにぎりコーナーの前で足を止めた。

 途中にアニメのキャラクターの絵が描かれたお菓子とかアイスクリームのショーケースがあったけど、まったく目をくれなかった。俺にはそれが意外なことに思えた。

「おむすび、たくさんあるねぇ。おいしそう……」
「そうかな、ここは品数が少ないほうだけどさ」

 おじいさんに聞こえないように小声で返事をする。

「おまつりみたいで、とってもすてき」
「お祭り、かぁ」

 この子はほんとうに世間知らずに思える。見たこともない子だから、最近、田舎から引っ越してきたのかもしれない。

「まよちゃんは最近、この街に引っ越してきたの?」
「ううん、うまれたときからここにいるよ」

 意外な返事だった。見たことがない子だし、初めてコンビニに入ったような反応にはすこぶる違和感があった。

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