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【由季也】先輩が卒業する
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「卒業おめでとうございました」
「ありがと」
紬先輩は俺の言葉を受け止めて、多分ふんわりと笑っている。
というのも、先輩は俺の背後に立っているから、顔が見えない。
シャキシャキと小気味の良いハサミの音が響く。
専門学校の寮には、系列の学校に通う生徒たちが住んでいるので、年齢や勉強している内容、そして生活スタイルが様々である。グラフィックデザインを学ぶ俺の隣の部屋には、理容師を目指していた先輩が住んでいて、金がなくヘアスタイルにこだわらない俺と、気兼ねのない練習台を探していた先輩とは利害が一致したので良く髪を切ってもらっていた。
「お客様ー、お髭剃りますかぁー?」
「あー結構ですー」
「今なら卒業記念でアンダーヘアーをハート型に剃るサービスをしておりますがー」
「絶対嫌ですー」
「じゃあヘッドマッサージしますねぇー」
そういって先輩は、俺の頭を鷲掴みにして指に力を入れる。彼は卒業後、ここから遠く離れた実家の理容店を手伝うらしい。頭を鷲掴みにしていた手が、優しく頬を包み、襟元から胸元を伝い、脇の下へ滑り込んだ。
「由季也君、寂しい?」
急に耳元で名前を囁かれると、反射的に体が熱くなった。自分で気がついていなかったが、堪えていたらしい涙が滲んできた。
お互い、勉強とアルバイトで忙しく、恋愛まで手が伸ばせないような暮らしをしている中で、持て余す性欲を相互扶助してきた間柄だ。平たく言えば、セックスまではしないセックスフレンドだった。
(顔がちょっと可愛いだけで、男相手でもエロいことなんてできちゃうもんだな)
初めての逢瀬の時にそう思ったことを不意に思い出す。
「由季也ぁ、ねぇ寂しい? って聞いてるんだけど」
紬先輩は、端正ではあるが少しあどけない顔立ちをしている。その癖、声が低くてよく通る。たまに声を聞くだけで変な気分になることさえあった。そんな声でこうして甘えられると、弱い。
「……寂しい」
「俺も」
先輩はそのまま、後ろからぎゅうと抱きついて、かすれた声で続けた。
「卒業したい」
「あれ? まだ試験とか残ってるんですか?」
先輩は俺の首筋に頭を埋めたまま、ぐりぐりと頭を振った。横に振っている感じがしたので、多分否定したのだと思う。
「……童貞を卒業したい」
「え? へぇ? いや、あの、風俗でも行きますか? あ、いいですよ。卒業祝いに奢りますよ! 俺と先輩の間柄だし、協力しますよ」
「いいの?」
「いいですよ。俺でよければ何でも協力します」
彼とは一方的にだけれど、友情を超えた何かが生まれてしまっていたので、自分ができることならなんでもしてあげよう。それで、思い出の最後のページを飾ろうと思った。
「ありがとう。お前のそういうとこ、大好き」
そう言って先輩は俺の顔を覗き込んだ。
やっぱり、思った通り。紬先輩はふんわりと笑っていた。俺の大好きな笑顔だ。
「ありがと」
紬先輩は俺の言葉を受け止めて、多分ふんわりと笑っている。
というのも、先輩は俺の背後に立っているから、顔が見えない。
シャキシャキと小気味の良いハサミの音が響く。
専門学校の寮には、系列の学校に通う生徒たちが住んでいるので、年齢や勉強している内容、そして生活スタイルが様々である。グラフィックデザインを学ぶ俺の隣の部屋には、理容師を目指していた先輩が住んでいて、金がなくヘアスタイルにこだわらない俺と、気兼ねのない練習台を探していた先輩とは利害が一致したので良く髪を切ってもらっていた。
「お客様ー、お髭剃りますかぁー?」
「あー結構ですー」
「今なら卒業記念でアンダーヘアーをハート型に剃るサービスをしておりますがー」
「絶対嫌ですー」
「じゃあヘッドマッサージしますねぇー」
そういって先輩は、俺の頭を鷲掴みにして指に力を入れる。彼は卒業後、ここから遠く離れた実家の理容店を手伝うらしい。頭を鷲掴みにしていた手が、優しく頬を包み、襟元から胸元を伝い、脇の下へ滑り込んだ。
「由季也君、寂しい?」
急に耳元で名前を囁かれると、反射的に体が熱くなった。自分で気がついていなかったが、堪えていたらしい涙が滲んできた。
お互い、勉強とアルバイトで忙しく、恋愛まで手が伸ばせないような暮らしをしている中で、持て余す性欲を相互扶助してきた間柄だ。平たく言えば、セックスまではしないセックスフレンドだった。
(顔がちょっと可愛いだけで、男相手でもエロいことなんてできちゃうもんだな)
初めての逢瀬の時にそう思ったことを不意に思い出す。
「由季也ぁ、ねぇ寂しい? って聞いてるんだけど」
紬先輩は、端正ではあるが少しあどけない顔立ちをしている。その癖、声が低くてよく通る。たまに声を聞くだけで変な気分になることさえあった。そんな声でこうして甘えられると、弱い。
「……寂しい」
「俺も」
先輩はそのまま、後ろからぎゅうと抱きついて、かすれた声で続けた。
「卒業したい」
「あれ? まだ試験とか残ってるんですか?」
先輩は俺の首筋に頭を埋めたまま、ぐりぐりと頭を振った。横に振っている感じがしたので、多分否定したのだと思う。
「……童貞を卒業したい」
「え? へぇ? いや、あの、風俗でも行きますか? あ、いいですよ。卒業祝いに奢りますよ! 俺と先輩の間柄だし、協力しますよ」
「いいの?」
「いいですよ。俺でよければ何でも協力します」
彼とは一方的にだけれど、友情を超えた何かが生まれてしまっていたので、自分ができることならなんでもしてあげよう。それで、思い出の最後のページを飾ろうと思った。
「ありがとう。お前のそういうとこ、大好き」
そう言って先輩は俺の顔を覗き込んだ。
やっぱり、思った通り。紬先輩はふんわりと笑っていた。俺の大好きな笑顔だ。
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