フルーツサンド 2人の女の子に恋をした。だから、挟まりたい。

Raychell

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モンスター

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「え? 2人?」
 真顔で梅香が振り向いた。
「あ、うん。2人が好き」
 聞き返されたので、もう一度言い直す。
「んん? 辻と褄が合わなくない?」
 梅香は俺の告白を受け、刻まれた眉間の皺を指差し、まるで名探偵のような仕草で唸る。
「ちょっと……情報を整理しようか?」
 そして、彼女は見えないろくろを回し始めた。
 
 情報を整理すると俺はついさっき、柑野橘平にキスをしたことが梅香にバレてしまった。恥ずかしすぎて、自分が好きなのは梅香とらいちだと告白してしまった。
 ろくろを回しながら梅香は、語る。
「キッペーとのことは遊びじゃない。そして、らいちと私が好き……杏ちゃんは、もしかしてだけど、人間ならなんでも良い、物凄いヤリチンだったって事?」
「いいえ違います。俺はまっさらな体です」
 この際、経験あるなしを恥ずかしがっている場合ではない。
「童貞の……ヤリチン」
「何だよ、その、悲しいモンスター……梅香さ、ちょっと待って、いま説明するから!」
 梅香の中で俺は、人間ならなんでも良い、性欲の塊みたいな生き物に認定されてしまった。誠に不本意である。
 しかし、待て。
 そもそも百合に挟まりたいなどと思うこと自体が、性欲の塊の発想だ。俺は、梅香とらいちの間に挟んでもらったとして、何をするつもりなんだ?
 具体的に何をする予定なのか全く考えていない事に気が付き、急いでプランを立てる。が、立てられなかった。
 圧倒的に経験がない。
 だから、全く想像つかない。これではたとえ、相手が1人だとしても上手く渡り合える気がしない。状況に緊張して自爆するような気さえする。いっぱいいっぱいだ。
 教材こそこれまでに沢山試聴して勉強に余念はないが、映像の中の先生は百戦錬磨の戦士だ。初めから先生のようにできるわけがないし、それをそのまま実践したら犯罪になりかねない事も理解している。
 結果、俺はただ愛し合う百合の寝室にそっと佇む観葉植物でありたい。そう、参加でなく見学だ。今の俺には挟まることは無理である。少し急ぎすぎてしまった。作戦変更だ。挟まるのは、具体的なプランを練ってからだ。
 しかし、今のこの状況を都合の良いように回すためにはどうしたら良いんだろう? 俺は、なるべく今まで通りの関係で、梅香の恋の行方を応援していたい。
「杏ちゃん、まとまった?」
 梅香は押し黙る俺に痺れを切らしたのか、話を切り出した。手元の柿ピーからはすっかりピーナッツが抜けていた。
「うん。なんていうかさ、俺にとって梅香とらいちは……推し?」
「推し?」
「うん。推し」
 彼女の視線は一旦、空を彷徨い、俺に戻る。
「いつも応援ありがとう」
 梅香は完璧な笑顔で握手をしてきた。アイドルかよ。可愛いな。
 そして、その笑顔のまま続けた。
「キッペーは? 遊びじゃないの? 何で振ったの?」
 確かにその辺は変な言い方になってた。とにかく恥ずかしくて自分でもよく分かっていなかったし。言葉に詰まる俺をよそに、梅香は畳みかける。
「キスってさ、誰にでもできるものなの?」
 何となくクラスメイトを順番に思い描く。確かに、誰にでもできるものじゃない。
 あの日は、半日ずっとらいちと一緒にいた。その間、彼女の胸に4.5回接触した。決してわざとではない。彼女の距離感が近すぎた上に、こちらから引くことをしなかったため、必然的に腕や背中に接触があった。4.5回というのは、正確には4回だが、そのうち1回は「押し付け」が発生したため、ボーナス加算で1.5回とカウントする梅香方式を採用している。とにかく言えることは、とても柔らくて非常に悶々とした。
 それからの、橘平へのキスである。悶々とした気持ちと、強引にされたら男も女も関係なく嫌だろ? って変な正義感の他に、何かあったかな? 強いて言えば、可哀想な橘平に「俺でよければ」と妙な仏心があったかもしれない。そんな気持ちは、迷惑以外の何者でもないと自分でもわかるけれど……。

 再び黙り込む俺に呆れたのか、梅香はすでに机の上の道具をきれいに片付け、荷作りを完了していた。
「今日は答えが聞けそうにないから、次回に持ち越しね」
 そう言って梅香は手を振った。
「うん、何だかごめん。まとまらなくて」
「いいよ。らいちには、杏ちゃんはヤリチンじゃないし童貞だったって伝えておく」
「いや、やめて……」
「うん。分かった。それは杏ちゃんが直接らいちに言ってあげて」
 綺麗な笑顔で微笑む梅香。必ずらいちに俺が童貞である事を報告しなければいけないらしい。
「……はい」
「よし! これからも応援よろしく」
 男前にがっしりと握手をして、梅香は帰っていった。
 何が、よし! なのかよくわからないけれど、梅香が良しとするならそれでいいか。

 抜けるような青空に向かって伸びをして、少し遠回りをして家に戻った。
 
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