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3P

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 あれからひと月。梅香は俺の貞操を知り、それでなんか満足しちゃったのだろう。その後は特に、橘平のことを聞かれることもなく今に至る。梅香に猥談を吹き込まれ、らいちにたかられ、橘平にはたまに泊まり込まれる、マイナーチェンジした日常を過ごしていた。

「きょーちゃん、ありがと! 助かったよ」
 らいちは、悪びれない全開のスマイルで俺の金で買ったメロンパンを頬張った。
「よくも甘いパンばっかり4つも食えるよな。しかも、飲み物までいちごオレとか……ホントすげーな」
 俺は食ってもいないのに、もたれ始めた胃のあたりをさすった。
「初めの2個は朝ごはん。次の1個は、おやつ。で、これはお昼」
「昼は一個で足りるの?」
「ん。あまり食べると太っちゃうかもしれないし、この辺でやめとこうかな。ごちそうさま!」
「お粗末様です。で、今日の授業は?」
「どうしよっかなー。もう6時間目しか間に合わないんだよねー」
 らいちはあくびをして、軽く伸びをした。

 今の状況を説明すると、定時制に通う俺の通学時間に、全日制に通うらいちがのんびり登校してきた。声をかけたら、腹が減っているが金がないと訴えられた。そして今は堂々と学校の裏庭で朝食兼、おやつ兼、昼食として、購買にかろうじて残っていた菓子パン祭りを開催している。
「ほんと、目が覚めたら10時でびっくりしたぁ! ほんと、きょーちゃんがいて助かった。朝ごはん食べないで来たし、お財布も忘れてきたしで……よし。今日は体調不良でお休みにしよーかな。眠たくなってきたし」
 らいちは再びあくびをした。サボることに決めたらしい。あと、10時に起きたらならもう少し早い時間に来れたんじゃないかなって言葉は飲み込んだ。言ったところでどうにもならないし。
「じゃ、俺は学校始まるから行くね」
 席を立った俺の背後から、らいちの声が追いかけてきた。
「あ、そうだ。梅香ね、日曜日に誕生日なんだよ」
「え? まじ?」
「パーティーしようよ! 3人で」
 3人でパーティー。3Pじゃん。やったね!
「え? 良いの?」
「ん? 良いんじゃない?」
 らいちとパジャマパーティーとかしたい。そう言って照れる梅香の顔がよぎった。
「それ、めちゃくちゃ、いいね! やろう!」
「うん。きょーちゃん、たまにスイッチ入って面白いよね」
「そう? うわ。めっちゃ楽しみ。どうしよ。俺もサボって計画練っちゃおかな?」
「イアイア、きょーちゃん。学校は行っといたほうが良い。あとは私に任せて行ってらっしゃ~い」
 大遅刻をした上にサボった自分を棚に上げて、らいちはひらひらと手を振った。

 そして、週末。梅香の誕生日……の前日。
 本人は当日、家族と食事に出かけるらしいので、俺達とは前日からうちに泊まりがけでパーティーをする計画。だった。
「うう……行ぎだ……がった……グスグス」
 俺の隣で梅香が本気の号泣をしている。男の一人暮らしに泊まりに行くのが、ママ友ネットワークで親にバレたらしい。梅香は相変わらず詰めが甘い。
 3人で買い出しをして、そのまま俺の部屋に行こうと、待ち合わせをしていたのだが、まずそこに現れたのは殺し屋のような殺気を帯びた梅香だった。
 梅香は持てる限りの精神力で泣くのを堪えてやって来たのだが、俺の姿を確認した瞬間に、それは崩壊した。
「しょうがないよ。また今度泊まりなしでやろうって」
「ふぐぅ……らいちのパジャマ、お風呂上がりのらいち、眠れないからお話ししようかって話しかけるタイミングとか……この日のために……何回も何回も……うぐう、ズビっ……ううううう、うわああああ……」
 梅香って、泣くと鼻水が出るタイプなんだなー。なんて思いながら、俺はそっとポケットティッシュを差し出しつつ、様子を見守っていた。
 梅香によると、らいちはなかなか泊まりの約束を取り付けることが難しいらしい。これまでに何度かダメになっていて、梅香としては今回の泊まりが千載一遇の大チャンスだったそうだ。
 ひとしきり泣いた後、らいちの顔を見てしまうと諦めきれないと話し、梅香は帰路についた。それから少しして、らいちが待ち合わせ場所に現れた。

「こーゆー訳で、今回は中止ってことで」
「ええ~そうなんだ~梅香ぁ~寂しい~」
「まあ、バレちゃ仕方ないよ。男の一人暮らしだし」
「どうしてもダメ?」
「梅香、もう帰ったよ」
「そーじゃなくて……」
 何か言いたそうな表情でこちらを見あげるらいち。
 いけませんよ。ダメに決まってますよ。らいちさん。
「泊まるって言ってきたから、ちょっと家帰りたくないっていうか……」
「なんか、訳あり?」
「……うん。ちょっとね」
 訳ありだろうがダメなんですけどね。
「俺んは良いんだけど、2人きりはダメだろ?」
「私、なんにもしないよ! 安心してよ!」
 らいちは何もしなくても、俺は橘平にすら手を出した前科がある。
 待てよ、橘平……2人きりよりは良いかも。
「じゃあ橘平呼ぼうか?」
「え? なんで? やだ」
 ですよね。
「お願い!」
 らいちは大きな仕草で両手を合わせ、頭を下げた。俺はらいちのお願いに弱い。
「ええと……うん。良いけど……」
 ついに了解してしまった。こうなれば、電話中継で梅香に間に入ってもらおうか。と思った矢先。
「梅香、かわいそうだから、とりあえず今日は黙っておこうね」
 と、らいちが提案をしてきた。
「……はい」
 退路が断たれた。仕方がない。俺も学校で道徳教育を受けた人間だ。友達を不幸な目に合わせることなどしない。理性ある行動を取れるはずだ。きっと多分。
「じゃあ行こうか」
「ありがと、きょーちゃん!」
 らいちは間合いを詰め、至近距離で礼を言ってきた。
 近い近い近い。上目遣いスマイル。やばい。なんか良い匂い。まつ毛長い。唇がつやつやしてる。胸が上腕にあたってる。
 梅香。助けて。
 しかし今頼れるのは自分の理性だけだ。大丈夫、俺は百合を愛でし紳士だ。いつか咲くかもしれない百合の蕾を自ら摘み取るわけにはいきませぬ。
 てか「ませぬ」ってなんだよ。よし。調子が戻ってきた。頑張ろう。

 俺の戦いの夜が始まる。
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