フルーツサンド 2人の女の子に恋をした。だから、挟まりたい。

Raychell

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プリンとゼリー

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コンコンコン

 ノックの音に続いて、部屋のドアが静かに開き、隙間かららいちが覗き込んだ。どうやら俺は、梅香と電話した後寝てしまっていたようで、気がつくと部屋の中は真っ暗になっていた。驚いてスマホを確認すると、時計が深夜であることを表示していた。
「熱下がった?」
 らいちはなぜか小声で話しかけてきた。
「多分。おかげさまで、ほぼほぼ元気」
「よかった。これ、差し入れ」
 彼女はそう言うと、隙間からそっと、何かが入ったコンビニの袋を差し入れ、床に置き、ドアを閉めた。
 ……ちょっと冷たすぎないか? そんなに部屋の中が臭うのか?
 弱ってる隙に、らいちに好き勝手されてしまうかと身構えていたけれど、結局そんなことはなく、かえって遠巻きにされている。安心は安心だが、人の気持ちは現金なもので、少し……いや、かなり寂しい。
 袋に入った差し入れを覗くと、プリンとゼリーが入っていた。
 冷蔵庫に入れないと。そう思い部屋を出る。冷蔵庫への道すがら、らいちが俺のTシャツの裾を引っ張って、後ろからついて来た。
「え? 何?」
「おにーちゃんの部屋、立ち入り禁止なの私。だから今ね、充電中」
 彼女が「えへへ」と子供の顔で笑う。
 やばい可愛い。
 でもごめんなさい。俺にはグミさんという心に決めた人がいる。少し複雑な気持ちになった。
「立ち入り禁止って?」
「風邪ひいてるから静かにしてあげなさいって、ドラゴンさんが……」
 それで言いつけを守って部屋に入ってこなかったのか。ドラゴンさん、ありがとう。
「そっか。あ、らいち。差し入れありがと。冷やして後で食べるね」
「ねえ? どっちが嬉しい?」
「ん? これ?」
 コンビニ袋を掲げると、らいちが頷いた。
「どっちも好きだし、嬉しいよ」
「だから、どっち先に食べるの?」
 どっちでもいいじゃないか。を飲み込んで、それらを冷蔵庫に仕舞いながら少し考える。
「……ゼリー?」
 俺の回答を聞くと、らいちはあからさまに不機嫌な顔で、掴んだTシャツの裾を引っ張った。
「伸びるからやめて」
「プリンの方が栄養あるよ?」
 そして、なぜかプリンを推す。
「えぇ? でも今、ゼリーって気分」
 ゼリーなんて何年振りに食べるだろう。改めて眺めると、透明なゼリーの中に、果物がたくさん閉じ込められていて、ひどく懐かしく見えた。
「あーあ、おにーちゃんの差し入れね、私はプリンがいいって言ったんだけど、グミさんは果物ゼリーが良いって言うからさ、対決してたんだよねー。でも、もーいいや。食べちゃお」
 らいちは冷蔵庫に入れたばかりのプリンを取り出した。
 差し入れとは? 
 いやそれよりも、グミさん店に来たのか……もしかしたら、もう来ないかもと心配していたので、単純に嬉しかった。
 らいちにつられて、俺も一緒にゼリーを食べることにする。グミさんが選んだと思うと、締まりのない顔になってしまうので、できるだけ平常心を意識してゼリーを口に運ぶ。
「ねーねー、やっぱプリンの方が良いんじゃない? おにーちゃん、不味そうな顔してるよ」
 少し機嫌を取り戻したらいちが、チャチャを入れる。
「いや、久しぶりに食べたけど、まあまあ美味いよ」
 本当はクッソうまい。グミさんありがとう。愛してる。そう思うと、ますます表情が硬くなった。俺の硬い顔を見て、らいちがケラケラと笑う。それを見てまた、複雑な気持ちになった。
「らいちさぁ?」
「ん? プリン? もうないよ」
「いや、いらないし。てか、もう食ったの? あ、いや。だから、らいちさ?」
「何よ?」
 らいちが怪訝な顔で、無くなった筈のプリンを頬張った。
「俺さ、最近になってやっとね、らいちの気持ちがわかるようになったかも」
「どゆこと?」
「らいちの表情と感情が一致してきた気がする」
「何それ?」
「前までさ、楽しそうにしてても、なんか、何考えてるかわかんなくて……ちょっと怖かったから」
 らいちは無表情で顔を上げた。
「じゃあ今、私が何考えてるかわかる?」
「プリン美味しい。かな?」
「……よくわかったね。あほ兄ちゃん」
「だろ?」
 らいちは無表情のまま、再度プリンに向き合った。彼女が何を考えているかなんて、俺には全くわからない。ただ、寂しさや悲しさをうまく隠して悟らせなかった彼女が、今は思ったことを話し、行動している……ように見えた。それは、霧島らいちという人物に、やっと出会えたような感覚だった。
「あーでも、私ね、今が一番楽しいかも」
 らいちが微笑む。
 うん。この表情はきっと、嘘じゃなくて、本当の気持ちを話しているんだろう。
 だからこそ、らいちの『一番楽しい今』に梅香がいないことが余計に寂しく感じた。勝手だけれど、それを認めたくなくて話を逸らす。
「今日、店忙しかった? 休んじゃってごめん」
「ふつーだったから、大丈夫だよ」
「そういえばドラゴンさんは?」
「グミさん家」
 変なタイミングで、好きな人の名前が出てきて驚く。
「は? なんで?」
「なんか、訳あり?」
「へ? ワケアリ? なんの??」
「知らなーい。ごちそうさま、お風呂入ろーっと」
 らいちは面倒くさそうに空のプリン容器を捨てて、風呂へ行ってしまった。
 ドラゴンさんとグミさんのワケアリって何だろう。
 
 ものすごく嫌な予感がした。
 


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