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メルト
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どうしよう。
とってもよかったけど、多分良くない。右手で目元を覆って項垂れる。
「そんなに落ち込まないでよ。傷つくよ」
傷つくと言いながらも、らいちは穏やかな笑顔だ。
立ち上がった彼女の腹筋に縦の線が入っていて、きれいだと思った。そして、自分の貧相な体が恥ずかしくなる。水泳にハマっているらいちの方が、下手するといい腹筋がついているかもしれない。そんな、どうでもいいことしか考えられない俺をさておいて、らいちは散らかった部屋を見回す。
「ドラゴンさんが帰ってくる前に証拠隠滅しないとね、とりあえずお風呂入っちゃお」
らいちは床に落ちていた下着を拾い、裸のまま部屋を出て行った。取り残された俺は、もそもそと服を着る。そして、今度は両手で頭を抱えて項垂れた。
どうしよう。らいちとやってしまった。
どうしてこんなことになったのか、朝から1日を思い返す。
今日は、俺の体調がまだ怪しかったし、ドラゴンさんも忙しいからと、店は臨時休業。らいちは様子の悪い俺を気遣い、家でダラダラしようと提案してくれた。そうと決まったら仕事は早かった。ピザを取り寄せたり、デザートはらいちがコンビニまで走ってくれたり、それぞれゲームをしたり、動画を観たりと、思い切りだらだらした。
そして、そうできるようにちょいちょい世話をしてくれている、彼女の思いやりが嬉しかった。だから自然と「ありがとう」なんて言葉が出てきた。
「うん。落ち着いた? なんか、様子が変だったから心配してたんだよ」
らいちがホッとしたように微笑んだ。正直、二人きりだと妙に近かったり、迫られたりするのが日常になっていたので、今日のいい感じの距離感が嬉しかった。
「うん。すごく落ち着いてゆっくりできた。ありがとう」
「で?」らいちが一歩距離を縮める。
「何があったの?」
「あー、ええと……なんていうか……失恋?」
「は?」
しまった。
らいちの顔色で、リラックスしすぎた自分の軽率さに気がつく。しかし後の祭りだ。
「色々聞かせてもらおうか?」
らいちは真顔で立ち上がり、冷凍庫からカップに入ったアイスクリームを二つ取り出して、ひとつをこっちに差し出した。
「ふむふむ。おにーちゃんは、グミさんにラブだったのね」
らいちはアイスクリームを両手で温めながら、何かの専門家のように難しい顔で頷いた。結局、俺は失恋の経緯を聞かれるままに白状した。もちろん、告白のセリフなどはオブラートに包んでいる。
「おにーちゃん、かわいそう。あのおっさんが、妻子もちなのを知らないで告白してたなんて……」
らいちは憐れみの眼差しを向けた。
「そんな目で見るな。また落ち込んじゃうから」
「……おにーちゃん。あのさ……昔、キッペーにキスしたりしてたけど、あの……もしかしてゲイなの?」
「え?」
多分それは違う。
女性経験はあるが、男性経験はない。そして一番好きなのは百合だ。
「今回はたまたま好きになった人が妻子もちの男だっただけだよ。あとキッペーはただの興味本位。多分」
らいちは宙に浮いた俺の回答を、上目遣いに眺めて暫く考え込んだ。
「……そんなものなの?」
「少なくとも、俺はそんなもんだよ」
「私は妻子もちのおっさん以下?」
「上下とかないよ。俺はグミさんが好きなだけだよ」
「好きなんだ?」
「すぐ嫌いになれなくない?」
「……わかる。食べな」
らいちは半分溶けたアイスクリームをスプーンで掬って、俺の口に押し込んできた。
「溶けてる」
「このくらいがベストなの。美味しい?」
笑顔のらいちを改めて可愛いと思った。
そして、なんとなく。そのまま、そうなってしまった。
とってもよかったけど、多分良くない。右手で目元を覆って項垂れる。
「そんなに落ち込まないでよ。傷つくよ」
傷つくと言いながらも、らいちは穏やかな笑顔だ。
立ち上がった彼女の腹筋に縦の線が入っていて、きれいだと思った。そして、自分の貧相な体が恥ずかしくなる。水泳にハマっているらいちの方が、下手するといい腹筋がついているかもしれない。そんな、どうでもいいことしか考えられない俺をさておいて、らいちは散らかった部屋を見回す。
「ドラゴンさんが帰ってくる前に証拠隠滅しないとね、とりあえずお風呂入っちゃお」
らいちは床に落ちていた下着を拾い、裸のまま部屋を出て行った。取り残された俺は、もそもそと服を着る。そして、今度は両手で頭を抱えて項垂れた。
どうしよう。らいちとやってしまった。
どうしてこんなことになったのか、朝から1日を思い返す。
今日は、俺の体調がまだ怪しかったし、ドラゴンさんも忙しいからと、店は臨時休業。らいちは様子の悪い俺を気遣い、家でダラダラしようと提案してくれた。そうと決まったら仕事は早かった。ピザを取り寄せたり、デザートはらいちがコンビニまで走ってくれたり、それぞれゲームをしたり、動画を観たりと、思い切りだらだらした。
そして、そうできるようにちょいちょい世話をしてくれている、彼女の思いやりが嬉しかった。だから自然と「ありがとう」なんて言葉が出てきた。
「うん。落ち着いた? なんか、様子が変だったから心配してたんだよ」
らいちがホッとしたように微笑んだ。正直、二人きりだと妙に近かったり、迫られたりするのが日常になっていたので、今日のいい感じの距離感が嬉しかった。
「うん。すごく落ち着いてゆっくりできた。ありがとう」
「で?」らいちが一歩距離を縮める。
「何があったの?」
「あー、ええと……なんていうか……失恋?」
「は?」
しまった。
らいちの顔色で、リラックスしすぎた自分の軽率さに気がつく。しかし後の祭りだ。
「色々聞かせてもらおうか?」
らいちは真顔で立ち上がり、冷凍庫からカップに入ったアイスクリームを二つ取り出して、ひとつをこっちに差し出した。
「ふむふむ。おにーちゃんは、グミさんにラブだったのね」
らいちはアイスクリームを両手で温めながら、何かの専門家のように難しい顔で頷いた。結局、俺は失恋の経緯を聞かれるままに白状した。もちろん、告白のセリフなどはオブラートに包んでいる。
「おにーちゃん、かわいそう。あのおっさんが、妻子もちなのを知らないで告白してたなんて……」
らいちは憐れみの眼差しを向けた。
「そんな目で見るな。また落ち込んじゃうから」
「……おにーちゃん。あのさ……昔、キッペーにキスしたりしてたけど、あの……もしかしてゲイなの?」
「え?」
多分それは違う。
女性経験はあるが、男性経験はない。そして一番好きなのは百合だ。
「今回はたまたま好きになった人が妻子もちの男だっただけだよ。あとキッペーはただの興味本位。多分」
らいちは宙に浮いた俺の回答を、上目遣いに眺めて暫く考え込んだ。
「……そんなものなの?」
「少なくとも、俺はそんなもんだよ」
「私は妻子もちのおっさん以下?」
「上下とかないよ。俺はグミさんが好きなだけだよ」
「好きなんだ?」
「すぐ嫌いになれなくない?」
「……わかる。食べな」
らいちは半分溶けたアイスクリームをスプーンで掬って、俺の口に押し込んできた。
「溶けてる」
「このくらいがベストなの。美味しい?」
笑顔のらいちを改めて可愛いと思った。
そして、なんとなく。そのまま、そうなってしまった。
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