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17.再びの騎士
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「ちっ、やられたな」
エドの調査を頼んだつもりが、返す刀で騙されるとは。俺もまだまだ修行が足りず、これではロージオやドロイを責められない。だからロージオが、偽りの書状を持ち帰った件で謝罪すると言ったけれど、とてもじゃないが受け入れられずに固辞した。
俺は暫く自分の未熟さに辟易する。それと同時に、そこまでして俺を騙そうとする父の執念にも恐ろしさを感じていた。
「……父はエドの死を信じ込ませる事に、一体何を求めていたんだ? 俺の死を見越してか?」
「まさか! 陛下はトニー殿下を愛してる!」
そう叫んだロージオの肘が、再びドロイを突く。という事は、またドロイが関係しているのだろうか。
「……ドロイ、正直に話せ」
「あの……殿下~、すみませんねぇ本当に。自白剤で喋ってしまったあと、良かれと思ってボクが陛下に進言したのがいけなかったんです」
『進言』と聞こえた途端、俺の脳裏に嫌な予感が走った。ドロイが時折、余計な一言を付け加えてしまう悪癖があるのを熟知しているからだ。これに対して、ロージオの可愛らしい癖へ向けるような微笑みは浮かべられない。
俺が心配していたら、正に想像通りの余計な進言をしていた事実が判明する。その内容は、当の本人があっけらかんと話してくれた。
「いや~、自白剤の件では、何となく罪の意識がボクにもあったんですよ。だから殿下の幸せを考えて『いっそ二人を結婚させてあげたらどうですか~』と言ったんです。そしたら陛下、本気で怒っちゃって」
俺はドロイの台詞に顔を覆う。その時の父の心理が手に取るように解ったからだ。
きっと父はドロイの言葉で想像したのだろう。人間の国の皇子とはいえ、顔も知らぬ男に男性型である俺が娶られる姿を。それは過保護の父からすると、大変不愉快だったに違いない。そこで父は、その可能性を少しでも潰す為に――。
「はぁ……エドが死んだという設定は、そこから出てきたんだな。徹底的に恋を諦めさせる材料として。それなのに言葉だけでは俺がなかなか信じないので、遺品やら墓やらの捏造を……これが大もとだったのか」
ロージオが何度か首を縦に振った。時系列から計算しても間違いないと自信を持っているようだ。
「陛下からの書状で、殿下はずっとこの屋敷で暮らすように言い渡されたよね? それもエド皇子の死を信じさせる為の一手だと思うよ」
「そうだな……尾まで切り、俺の軟禁を一生物という扱いにすれば、いつまでもエドが死んだ事にしておける」
俺は父の所業に深い溜息を吐いてから、ドロイにじとりとした視線を送る。ドロイは俺が追い詰められる原因を、それはもう大々的に作ったのだ。だというのに――当の本人ときたら、まるで意に介していないという風に軽く笑っている。俺のこめかみに青筋が立つのを感じた。
「あのなドロイ、聞いていたのか? 俺はエドの死を信じ込まされた上、この先ずっと軟禁状態に――」
「殿下は軟禁だったんですね~、いいなぁ。ボクは進言した後、そのまま城の地下に監禁されてましたぁ」
「身柄を押さえられているとは思っていたが、楽しい監禁生活だったとはな。まぁ反省するいい機会だろう」
「でも、ロージオ君が助けてくれたんですよ~。ゆっくり話を聞きたいからって。いやぁ嬉しかったなぁ、本当に」
ドロイがロージオへと視線を向ける。ロージオはそれに応えて軽く片手を上げた。
「騎士は解任されたけど、どうにか殿下を救いたいと思ってね。当たれる場所は全部当たった。その中にドロイ伯が居たんだよ」
「お前を遠ざけた俺の為に、色々と動いてくれたのか……そのお陰でエドの無事が判明した。感謝するぞ」
俺の謝意に対し、ロージオは苦虫を噛み潰したような表情で答える。
「私には感謝される資格など無い。私があの時、陛下の罠に気づいてさえいれば、エド皇子に関してこんな遠回りをせずに済んだ!」
ロージオが言いたい内容は俺にも解っていた。これは先ほど俺がロージオの謝罪を固辞したから、わざわざ蒸し返して来たのだ。偽の書状を持ち帰った件をだいぶ反省しているらしい。
しかし、これはロージオだけの責任ではなかった。俺だって書状の授受の詳細を確認せずに検収している。あの時、受け渡しの状況を詳しくチェックしておけば、父の策略に気づけた可能性が高かったのでは――そんな後悔が俺にも残っていた。だから、この場合に関しては俺とロージオの痛み分けだ。
俺がそんな事を考える間、ロージオは丁寧な謝罪の言葉を述べていた。俺は今さっき思いついた痛み分けという単語でロージオに慰めを与える。
ロージオは感謝と共に俺を見つめた。まだ不安そうだったが、俺が微笑んでやるとだいぶ安堵したようだ。
しかし――それでもロージオは俺を見つめ続ける。よくよく観察すれば、ロージオの蒼い瞳には何か言いたげな色彩が映り込んでいた。
言いたい事があるのなら言えばいい。そう思った俺はロージオの言葉を静かに待つ。するとロージオが俺の前で堅苦しく鱗を揃えた。
「私は頼りない存在だ。でも、痛み分けと言ってくれるのなら――殿下の騎士に戻して欲しい」
「あんな事があっても、また俺の騎士に……?」
「もちろんだよ! 私の主君は殿下しか居ない!」
俺はその忠誠心に悩んでしまう。一度突き放した俺には、ロージオほどの男性型を再び騎士にする資格など無いように思えた。しかも俺は尾びれを落とされた為、自由に動く事が出来ず――ロージオには騎士というより、世話係のような仕事が待っている。他の皇族の騎士に推薦した方が、ロージオの能力を活かせるのは確定事項だ。
そこにロージオが、もう一回自分の願いを伝えてくる。なぜかドロイも脇から加勢した。ドロイによれば、この屋敷への移動中に、そんな話題がロージオから何度も出ていたらしい。
「ロージオ君、すごい悩んでたんですよぉ~。殿下もロージオ君が嫌じゃなければ、騎士にしてあげたらいいじゃないですか~」
「嫌な訳があるか! 逆にロージオを大切に思うからこそ悩んでいるんだ!」
俺が即答すると、ロージオの表情がぱあっと明るくなる。夜光虫の灯り球が五個分くらいの照度だろうか。仕方ない、そこまで喜んでくれるのなら――。
「……騎士に戻す件は了解だ。これから叙任の儀式、というのは厳しいが」
「略式でいいから、今すぐお願い……!」
俺はロージオから奪っていた騎士章を再び手に取る。もうこの章に触れる事は無いと思っていたけれど、一寸先には何が起こるか判らないものだ。
少々感慨に耽っていたら、ロージオが早くと急かしてきた。俺は指先で水を動かし望み通りにしてやる。それから騎士章を手渡すと、ロージオが嬉しそうに頬擦りした。
「もう絶対、誰にも渡さない」
「ああ、ずっとお前が持っていてくれ」
俺の言葉にロージオはとても嬉しそうだ。ドロイも鱗をぱちぱちと鳴らしてくれる。これは目出度い時によくやる行為で、俺はドロイへ感謝の意を伝えた。
エドの調査を頼んだつもりが、返す刀で騙されるとは。俺もまだまだ修行が足りず、これではロージオやドロイを責められない。だからロージオが、偽りの書状を持ち帰った件で謝罪すると言ったけれど、とてもじゃないが受け入れられずに固辞した。
俺は暫く自分の未熟さに辟易する。それと同時に、そこまでして俺を騙そうとする父の執念にも恐ろしさを感じていた。
「……父はエドの死を信じ込ませる事に、一体何を求めていたんだ? 俺の死を見越してか?」
「まさか! 陛下はトニー殿下を愛してる!」
そう叫んだロージオの肘が、再びドロイを突く。という事は、またドロイが関係しているのだろうか。
「……ドロイ、正直に話せ」
「あの……殿下~、すみませんねぇ本当に。自白剤で喋ってしまったあと、良かれと思ってボクが陛下に進言したのがいけなかったんです」
『進言』と聞こえた途端、俺の脳裏に嫌な予感が走った。ドロイが時折、余計な一言を付け加えてしまう悪癖があるのを熟知しているからだ。これに対して、ロージオの可愛らしい癖へ向けるような微笑みは浮かべられない。
俺が心配していたら、正に想像通りの余計な進言をしていた事実が判明する。その内容は、当の本人があっけらかんと話してくれた。
「いや~、自白剤の件では、何となく罪の意識がボクにもあったんですよ。だから殿下の幸せを考えて『いっそ二人を結婚させてあげたらどうですか~』と言ったんです。そしたら陛下、本気で怒っちゃって」
俺はドロイの台詞に顔を覆う。その時の父の心理が手に取るように解ったからだ。
きっと父はドロイの言葉で想像したのだろう。人間の国の皇子とはいえ、顔も知らぬ男に男性型である俺が娶られる姿を。それは過保護の父からすると、大変不愉快だったに違いない。そこで父は、その可能性を少しでも潰す為に――。
「はぁ……エドが死んだという設定は、そこから出てきたんだな。徹底的に恋を諦めさせる材料として。それなのに言葉だけでは俺がなかなか信じないので、遺品やら墓やらの捏造を……これが大もとだったのか」
ロージオが何度か首を縦に振った。時系列から計算しても間違いないと自信を持っているようだ。
「陛下からの書状で、殿下はずっとこの屋敷で暮らすように言い渡されたよね? それもエド皇子の死を信じさせる為の一手だと思うよ」
「そうだな……尾まで切り、俺の軟禁を一生物という扱いにすれば、いつまでもエドが死んだ事にしておける」
俺は父の所業に深い溜息を吐いてから、ドロイにじとりとした視線を送る。ドロイは俺が追い詰められる原因を、それはもう大々的に作ったのだ。だというのに――当の本人ときたら、まるで意に介していないという風に軽く笑っている。俺のこめかみに青筋が立つのを感じた。
「あのなドロイ、聞いていたのか? 俺はエドの死を信じ込まされた上、この先ずっと軟禁状態に――」
「殿下は軟禁だったんですね~、いいなぁ。ボクは進言した後、そのまま城の地下に監禁されてましたぁ」
「身柄を押さえられているとは思っていたが、楽しい監禁生活だったとはな。まぁ反省するいい機会だろう」
「でも、ロージオ君が助けてくれたんですよ~。ゆっくり話を聞きたいからって。いやぁ嬉しかったなぁ、本当に」
ドロイがロージオへと視線を向ける。ロージオはそれに応えて軽く片手を上げた。
「騎士は解任されたけど、どうにか殿下を救いたいと思ってね。当たれる場所は全部当たった。その中にドロイ伯が居たんだよ」
「お前を遠ざけた俺の為に、色々と動いてくれたのか……そのお陰でエドの無事が判明した。感謝するぞ」
俺の謝意に対し、ロージオは苦虫を噛み潰したような表情で答える。
「私には感謝される資格など無い。私があの時、陛下の罠に気づいてさえいれば、エド皇子に関してこんな遠回りをせずに済んだ!」
ロージオが言いたい内容は俺にも解っていた。これは先ほど俺がロージオの謝罪を固辞したから、わざわざ蒸し返して来たのだ。偽の書状を持ち帰った件をだいぶ反省しているらしい。
しかし、これはロージオだけの責任ではなかった。俺だって書状の授受の詳細を確認せずに検収している。あの時、受け渡しの状況を詳しくチェックしておけば、父の策略に気づけた可能性が高かったのでは――そんな後悔が俺にも残っていた。だから、この場合に関しては俺とロージオの痛み分けだ。
俺がそんな事を考える間、ロージオは丁寧な謝罪の言葉を述べていた。俺は今さっき思いついた痛み分けという単語でロージオに慰めを与える。
ロージオは感謝と共に俺を見つめた。まだ不安そうだったが、俺が微笑んでやるとだいぶ安堵したようだ。
しかし――それでもロージオは俺を見つめ続ける。よくよく観察すれば、ロージオの蒼い瞳には何か言いたげな色彩が映り込んでいた。
言いたい事があるのなら言えばいい。そう思った俺はロージオの言葉を静かに待つ。するとロージオが俺の前で堅苦しく鱗を揃えた。
「私は頼りない存在だ。でも、痛み分けと言ってくれるのなら――殿下の騎士に戻して欲しい」
「あんな事があっても、また俺の騎士に……?」
「もちろんだよ! 私の主君は殿下しか居ない!」
俺はその忠誠心に悩んでしまう。一度突き放した俺には、ロージオほどの男性型を再び騎士にする資格など無いように思えた。しかも俺は尾びれを落とされた為、自由に動く事が出来ず――ロージオには騎士というより、世話係のような仕事が待っている。他の皇族の騎士に推薦した方が、ロージオの能力を活かせるのは確定事項だ。
そこにロージオが、もう一回自分の願いを伝えてくる。なぜかドロイも脇から加勢した。ドロイによれば、この屋敷への移動中に、そんな話題がロージオから何度も出ていたらしい。
「ロージオ君、すごい悩んでたんですよぉ~。殿下もロージオ君が嫌じゃなければ、騎士にしてあげたらいいじゃないですか~」
「嫌な訳があるか! 逆にロージオを大切に思うからこそ悩んでいるんだ!」
俺が即答すると、ロージオの表情がぱあっと明るくなる。夜光虫の灯り球が五個分くらいの照度だろうか。仕方ない、そこまで喜んでくれるのなら――。
「……騎士に戻す件は了解だ。これから叙任の儀式、というのは厳しいが」
「略式でいいから、今すぐお願い……!」
俺はロージオから奪っていた騎士章を再び手に取る。もうこの章に触れる事は無いと思っていたけれど、一寸先には何が起こるか判らないものだ。
少々感慨に耽っていたら、ロージオが早くと急かしてきた。俺は指先で水を動かし望み通りにしてやる。それから騎士章を手渡すと、ロージオが嬉しそうに頬擦りした。
「もう絶対、誰にも渡さない」
「ああ、ずっとお前が持っていてくれ」
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