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18.謁見にて
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ドロイへ感謝を伝える最中、ふいっとロージオが消えた為、何事かと思ったら――魚をすり潰した消化のいいメニューを何種類か持ち帰ってくる。
「私が騎士として最初にする仕事はコレだ!」
「……給仕か? なぜだ?」
「食べさせるためだよ! 殿下はただでさえ細かったから……今、本当に酷い!」
「あ、ああ、そうだな、体力をつけなければ。この身体では、水面に行くだけでも大変そうだ」
「水面?」
ロージオが聞き返すので、枕元のエドの小瓶に目をやった。この中身は水面まで行かなければ読む事ができない。海中ではインクが溶けてしまうからだ。ロージオは俺の視線を追ってから、先程書き取りした手帳を見る。
「そういえば、この小瓶の入手経路も尋ねていたっけ。ええと、後はこれさえ判明すれば、殿下からの疑問点が全部解消される?」
「そのようだな。情報源はドロイ、エドの死を捏造したのもドロイの進言から。そこで父によって策略が練られ、俺はすっかり騙された――こう理解したが合っているか?」
ロージオが頷きつつも再び謝ろうとする。だが、必要ないので辞退した。今はそれよりも最後の疑問点、小瓶の事を聞きたい。そう訴えるとロージオが小瓶を摘んだ。
「これはドロイ伯の話でエド皇子が生きていると確信した後、殿下の別荘へ調査しに行って拾ったんだ」
「別荘はかなり傷んでいたと思うが……まだ建っているのか?」
「そうだね、悲惨な状態だったけど、何とか。だからこの小瓶は、半分以上が砂に隠れていたよ」
俺はその寂しい様子に思いを馳せる。小瓶が俺のもとへ届いたのは奇跡のようだ。だったら余計に中身が見たい。
ロージオにそれを伝えると、彼は少し申し訳なさそうな表情をした。
「実は、殿下に見せる必要があるのか確かめたくて、その場で読んじゃったんだけど――いま私の口から伝えた方がいい?」
「もちろんだ、頼む!」
「なら、魚のすり身の前で聞かせようか。その方が食も進みそうだ」
ロージオが俺に伝えてくれたのは、混乱した戦況の中でもエドの無事が確認できる内容だった。記された日付けは外から見える通りに、つい先日。今の戦場は陸から海に移って、敵の方が海戦に長けているため苦労しているらしい。手紙には海図が添えられており、それによれば現在あの浜辺に程近い場所で陣を張っているようだ。
「そうか。海戦ならば、いよいよ俺の出番だな」
俺は何も考えず発言してから、無かった事にしようと訂正した。
「すまない、俺がまた姿を現せば、ますます人魚狩りが酷くなる。俺はこの屋敷でエドの無事を祈ろう」
「殿下、最初に私はここから出ようって言ったよね? 陛下の許可を貰ってあるし、もう大丈夫なんだよ!」
「……何だと?」
ロージオはドロイの一件を知った後、処分を覚悟で父に謁見したらしい。そして、俺の状況をつぶさに報告し、エドとの恋に許しを得ようと試みる。それで初めて父は知ったのだ。俺が自殺に向かっている事を。
そこまで話したロージオが、ドアの外に居るであろう監視の人魚を睨みつける。
「あの人魚たちは都に居る上司に対して、殿下の死に行く様子を伝えなかったんだ。ほら、あの時の殿下は誰の言う事も聞かなかったでしょう? もしも、その様子を報告してしまったら、どうなると思う?」
「……まぁ、多少は評価を落とされただろうな。なぜ俺を御せないのかと」
「それを恐れる監視たちの手によって、陛下のもとには誤った報告書が届いていたんだ。だから陛下の中には、恋を諦め尾びれを落として大人しくなった殿下が、好きな本でも読みながら穏やかに暮らしている――こんな光景しか無かった」
そこでロージオは、ふっと遠い目をする。それから俺に向かって微笑んだ。
「陛下は、真実を知って珍しく頭を抱えておられたよ。あまりそういった表情を見せないお方だけど――やっぱりトニー殿下は特別なんだ、良い意味でも悪い意味でも」
「俺への執着に関しては、本当に困った父だ……!」
「うん、ちょっとだけ同感。でも、その陛下の手腕は、やっぱりすごい。普段から恐れられているだけに、陛下がお触れを出せば人間に近づく人魚は居ないし、海中の罠は全部解除、定期的に見回り。お陰で人魚の安全は守られてる」
それらに関しては流石としか言いようがない。俺が考えていた対処は実行されている。思わず安堵の息を吐くと、ロージオはにっこり笑った。
「で、ここからが面白いんだけどね! 実は私の謁見にマリア后妃が同席してて、私からその話を聞き終わった途端、もっっっのすごく怒ってくれたんだ。いやー、陛下が頭を叩かれるところ、初めて見たよ!」
「……ぶっ、怒った母なら、やりかねないな」
「しかも后妃は『自殺に追い込んでまで息子の恋路を邪魔したいなら、私はお暇をいただきます!』って、どこかに行っちゃって。陛下は慌てながら私に『トニアランはもう好きにさせよ! 待て、待たんかマリア!』……こんな感じ」
ロージオが身振り手振りに口真似までしながら話すので、俺もドロイも爆笑してしまう。普段とあまりにかけ離れているから、本当に似ているのかどうか判別しかねるのが余計に楽しい。
「――と、まぁそんな訳で陛下のお墨付きをいただいたし、人魚狩りも心配ないし、殿下は好きにしていいんだよ?」
ロージオが俺の顔を覗き込む。ああ、なんという解決方法なのだろう。俺は母に感謝した。もちろん、最後まで諦めなかった俺の騎士にも。
「私が騎士として最初にする仕事はコレだ!」
「……給仕か? なぜだ?」
「食べさせるためだよ! 殿下はただでさえ細かったから……今、本当に酷い!」
「あ、ああ、そうだな、体力をつけなければ。この身体では、水面に行くだけでも大変そうだ」
「水面?」
ロージオが聞き返すので、枕元のエドの小瓶に目をやった。この中身は水面まで行かなければ読む事ができない。海中ではインクが溶けてしまうからだ。ロージオは俺の視線を追ってから、先程書き取りした手帳を見る。
「そういえば、この小瓶の入手経路も尋ねていたっけ。ええと、後はこれさえ判明すれば、殿下からの疑問点が全部解消される?」
「そのようだな。情報源はドロイ、エドの死を捏造したのもドロイの進言から。そこで父によって策略が練られ、俺はすっかり騙された――こう理解したが合っているか?」
ロージオが頷きつつも再び謝ろうとする。だが、必要ないので辞退した。今はそれよりも最後の疑問点、小瓶の事を聞きたい。そう訴えるとロージオが小瓶を摘んだ。
「これはドロイ伯の話でエド皇子が生きていると確信した後、殿下の別荘へ調査しに行って拾ったんだ」
「別荘はかなり傷んでいたと思うが……まだ建っているのか?」
「そうだね、悲惨な状態だったけど、何とか。だからこの小瓶は、半分以上が砂に隠れていたよ」
俺はその寂しい様子に思いを馳せる。小瓶が俺のもとへ届いたのは奇跡のようだ。だったら余計に中身が見たい。
ロージオにそれを伝えると、彼は少し申し訳なさそうな表情をした。
「実は、殿下に見せる必要があるのか確かめたくて、その場で読んじゃったんだけど――いま私の口から伝えた方がいい?」
「もちろんだ、頼む!」
「なら、魚のすり身の前で聞かせようか。その方が食も進みそうだ」
ロージオが俺に伝えてくれたのは、混乱した戦況の中でもエドの無事が確認できる内容だった。記された日付けは外から見える通りに、つい先日。今の戦場は陸から海に移って、敵の方が海戦に長けているため苦労しているらしい。手紙には海図が添えられており、それによれば現在あの浜辺に程近い場所で陣を張っているようだ。
「そうか。海戦ならば、いよいよ俺の出番だな」
俺は何も考えず発言してから、無かった事にしようと訂正した。
「すまない、俺がまた姿を現せば、ますます人魚狩りが酷くなる。俺はこの屋敷でエドの無事を祈ろう」
「殿下、最初に私はここから出ようって言ったよね? 陛下の許可を貰ってあるし、もう大丈夫なんだよ!」
「……何だと?」
ロージオはドロイの一件を知った後、処分を覚悟で父に謁見したらしい。そして、俺の状況をつぶさに報告し、エドとの恋に許しを得ようと試みる。それで初めて父は知ったのだ。俺が自殺に向かっている事を。
そこまで話したロージオが、ドアの外に居るであろう監視の人魚を睨みつける。
「あの人魚たちは都に居る上司に対して、殿下の死に行く様子を伝えなかったんだ。ほら、あの時の殿下は誰の言う事も聞かなかったでしょう? もしも、その様子を報告してしまったら、どうなると思う?」
「……まぁ、多少は評価を落とされただろうな。なぜ俺を御せないのかと」
「それを恐れる監視たちの手によって、陛下のもとには誤った報告書が届いていたんだ。だから陛下の中には、恋を諦め尾びれを落として大人しくなった殿下が、好きな本でも読みながら穏やかに暮らしている――こんな光景しか無かった」
そこでロージオは、ふっと遠い目をする。それから俺に向かって微笑んだ。
「陛下は、真実を知って珍しく頭を抱えておられたよ。あまりそういった表情を見せないお方だけど――やっぱりトニー殿下は特別なんだ、良い意味でも悪い意味でも」
「俺への執着に関しては、本当に困った父だ……!」
「うん、ちょっとだけ同感。でも、その陛下の手腕は、やっぱりすごい。普段から恐れられているだけに、陛下がお触れを出せば人間に近づく人魚は居ないし、海中の罠は全部解除、定期的に見回り。お陰で人魚の安全は守られてる」
それらに関しては流石としか言いようがない。俺が考えていた対処は実行されている。思わず安堵の息を吐くと、ロージオはにっこり笑った。
「で、ここからが面白いんだけどね! 実は私の謁見にマリア后妃が同席してて、私からその話を聞き終わった途端、もっっっのすごく怒ってくれたんだ。いやー、陛下が頭を叩かれるところ、初めて見たよ!」
「……ぶっ、怒った母なら、やりかねないな」
「しかも后妃は『自殺に追い込んでまで息子の恋路を邪魔したいなら、私はお暇をいただきます!』って、どこかに行っちゃって。陛下は慌てながら私に『トニアランはもう好きにさせよ! 待て、待たんかマリア!』……こんな感じ」
ロージオが身振り手振りに口真似までしながら話すので、俺もドロイも爆笑してしまう。普段とあまりにかけ離れているから、本当に似ているのかどうか判別しかねるのが余計に楽しい。
「――と、まぁそんな訳で陛下のお墨付きをいただいたし、人魚狩りも心配ないし、殿下は好きにしていいんだよ?」
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