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19.よし、行くぞ!
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俺はロージオを正式に称えようと、目の前に泳がせた。
「我が騎士ロージオよ、この度の働き、本当に……本当に……素晴らしきものであった! お前は、に、人魚界の誇りある、き、騎士として――」
そこで俺の視界に、ぱらぱらと白い球体が浮かぶ。何だろうと思ったが、気づいてみれば俺の涙だった。
「……す、すまん」
「気が緩んだんでしょう、当然だよ――ああ、そんなに泣いて……ちょっと失敬」
ロージオが俺の頭をぽんぽんと叩く。すると余計に真珠が生まれたので困った。
「……どうせ泣いてるなら、ついでに言っとこうかな。エド皇子からのメッセージなんだけど、軍事的な物の他に……ええと」
ロージオはドロイの方をちらちら見てから、俺の身体を抱き上げドアの外に移動させる。何事かと思ったら、俺の耳元に唇を寄せてきた。
「……あのね、抱きたいとか愛してるとか、たくさん書いてあったよ。あと、君の愛を信じてるって」
「そ、そうか……! お、俺も信じて……!」
いかん、大粒の真珠が量産されている。それを見たロージオは「やっぱりなぁ」と笑っていた。俺はこの嬉し涙をエドに捧げたく、ロージオとドロイに事情を言って手伝わせ、一粒残らず拾い集める。
俺は真珠を宝石箱に入れようとして、中に入っている偽りの羽飾りと髪に気づいた。それらをロージオに頼んで窓の外へ放ってもらい、代わりに真珠を敷き詰める。驚いた事に、宝石箱は満杯になってしまった。
「……これなら王冠を作っても、お釣りが来そうだな」
満足の思いで宝石箱を閉じた俺に、ロージオがすいすい近寄ってくる。それからロージオは、ちょっと悪戯そうな笑みと共に窓の外を指差した。
「殿下、そろそろエド皇子を助けに行かない?」
それに対する俺の返答は、もう決まっていた。
「もちろん行くぞ! ロージオも付いて来い!」
俺はきっぱりと言ってから、近くの窓に向かおうとした。しかし、うっかり自分が泳げない事を忘れており――少しだけ持ち上がっていた身体は、バランスを失い崩れ落ちる。
「ふ、不注意だったな……!」
「大丈夫? 痛いところは無い?」
ベッドに沈んだ俺をロージオが気遣った。そこへドロイが割り込んでくる。
「尾びれが使えないんじゃ、当然そうなりますよぉ。しかも、その痩せた様子だと無理でしょ~。どれだけ食べてないんですか~?」
ドロイの問いに俺は首を振った。いま用意された魚のすり身以前、いつから食べていないのか不明だからだ。
「……まぁいい。動けないなら、それなりの手を使う。ロージオ、俺を水面まで運べ」
俺がそう命じたのに、ロージオはドロイの方を向く。
「ドロイ伯、今の殿下はそれに耐えられるのか?」
「ボクは医者じゃないですけど……その体力じゃ、地上の空気に触れたらそれこそ死んじゃうと思いますよぉ?」
「ではロージオ、俺は水面ぎりぎりで潜っているから、お前がエドとの連絡を――」
「殿下、多分それも厳しいです~」
へらっと言うドロイに対しては、思わず鋭い視線を送ってしまった。でもドロイが気にせず続ける。
「今の弱った身体じゃ、そこまでの急激な水圧の変化に耐えられませんよぉ。食事を摂りながら、じわじわ浅い場所に移動するところから始めないと」
俺は、だんっと寝床を叩く。こんな事なら、いつでも動けるようにしておけば良かった。後悔先に立たずだ。
「どうしたらいいんだ、どうしたら……!」
状況は厳しいが、エドを助けたくて仕方ない。しかしエドに逢う前に死ぬ事も本意でなく、深い溜息を吐いて考え込んでしまう。
そんな俺を眺めていたドロイが、ふらっと部屋の外へ出て行った。先ほどロージオも同じような行動をしていたが、ドロイはすり身ではなく大きな鞄を持ってくる。
何だろうと観察していると、ドロイが真っ黒な液体の入った薬瓶を出してきた。多分、俺の何かに役立つ物なのだろう。なのでドロイから薬瓶を引っ手繰った。
「この中身は何だ?」
「身体はここにあるまま、魂だけを移動させる薬ですよぉ」
「……どういう意味だ?」
「殿下がこれを飲むと、身体から魂だけが離れるんです。それを例えばロージオ君に憑依させると、ロージオ君の身体が動かせますぅ。憑依したロージオ君から、例えばボクに移る事も出来るんですよぉ。ただし、殿下に敵意を持っている人間には弾かれるので悪しからず」
突拍子も無い効果に驚き、俺はドロイの表情を見つめる。涼しげな瞳からは全く考えを読めない。しかし、今まで何度もドロイの研究品には不思議な体験をさせられており――通常なら信じがたい話だけれど、ドロイが言うのであれば本当だろうと思えた。
「……ドロイよ、一つ聞きたい。俺が憑依した場合、ロージオはどうなる?」
「身体の中に魂が二つ共存するだけで、殿下が離れればすぐに元通りですよ~」
俺はロージオをじいっと見つめる。それを受け、ロージオが余裕の表情で頷いた。俺も軽く頷き返し、小瓶の中身を一気飲みする。
すぐに効果が現れたらしく、気づけば自分の身体を俯瞰で眺めていた。俺の身体は魂が抜けたせいか、死んだように眠っている。面白いので、暫くそのまま観察してしまった。そんな俺に、ドロイが声を掛けてくる。
「殿下~、誰にも憑依しないでいるとマズいですよ~。魂が消えちゃうかもしれませんよぉ」
「た、大変だ! 殿下、早く私の身体へ!」
ロージオはきょろきょろ周囲を見回した。と、いう事は、俺の姿が目に見えていないらしい。
俺は心配しているロージオに近づき、そっと重なった。その途端に視界が変わり、眼下には金の鱗が見て取れる。
「これはロージオの鱗だ……成功したようだな」
「殿下、良かった! 私の身体に居るんだね!」
「……ん? おかしい、俺とロージオが同時に喋っている!」
俺は不随意に動く唇を感じ混乱した。ついでに右手を動かしてみると、今度は勝手に左手も動く。それで解った、俺とロージオは二匹で一つの身体を使っているのだ。その状況に対し、満面の笑顔のドロイが両手を広げた。
「大成功ですよぉ!」
「しかしドロイよ、先程から俺とロージオの行動がかち合っているようだ」
「共存って言ったじゃないですかぁ。ですから身体の動きは、どちらかに任せる若しくは二匹で息を合わせてくださいね~」
「なるほど、そういう事か」
思っていたのとは少し違うが、それでもこれは僥倖だ。俺はロージオに声を掛けた。
「ではロージオ、暫く頼むぞ。ドロイの言う通りに動いてみよう」
「まぁ私と殿下なら、阿吽の呼吸で大丈夫だと思うよ?」
「……いやぁ、本当に上手く行ってるなぁ~。後でデータを取らせてくださいね」
ドロイはとても喜んでいる。もちろん俺だって順調なら嬉しい。しかし、ドロイが発した次の一言で不安になった。
「なるべく早く帰って来てくださいよ~、じゃないと泡になっちゃいますから」
「……何!? あ、泡だと!?」
「長時間に渡って本体と魂が離れた場合、お互いに疲弊して崩れるんです。殿下の場合は既に両方が弱ってますから、八時間以内に帰って来ないと――」
「了解だ、では急ぐ!」
まだ何か言い掛けているドロイを置き、俺は軟禁場所の屋敷を出た。外には、どこか見覚えのある顔の男性型が数匹泳いでいる。父の寄越した警備かと思い、俺は一瞬だけ身構えた。この屋敷の人魚には、まだ父の意向が伝わりきっていないはずだ。しかし、ロージオの様子がゆったりしているので、違う可能性に思い当たる。
「……ロージオ、この人魚たちはお前が?」
「うん、有志だけでこの位だね――殿下がお見えだぞ、整列!」
ロージオが声を掛けると、俺の眼前に二十数匹の人魚が集ってくる。ロージオはその人魚らにドロイの薬の事情を説明した。なので、この人魚たちは俺に対するように振る舞い、殿下と呼ぶ。
俺はびしっと整列している人魚たちに声を掛けた。
「よく集まってくれたな、感謝しよう。では、早速だが――」
この人魚たちが信頼できそうか確かめたく、俺は一匹一匹に動機を聞いて回る。大抵は俺に憧れていたとか、ロージオの人脈だったりするのだが――その途中、気になる男性型を発見した。ロージオが作成した協力者リストに載っていない人魚で、どこからか潜り込んだらしい。事情があり、どうしても参加したかったようだ。
俺はその男性型の話を聞いてやった。それによれば、人魚狩りでつがいの女性型が怪我をし、二度と歌えなくなったようで――つまり、この男性型は復讐したいのだろう。俺はその怒りに震える肩へ、ぽんと手を置いた。
「怪我に関しては俺の責任でもあり、なるべくの事はしてやりたいと思う。ただ今回は俺が愛する人間――エドを守りつつ、エドの国を勝たせるという戦いだ。お前の私怨を晴らす場ではない」
負の感情が強い人魚は扱い辛いのだ。俺はこの男性型を置いていこうと思った。しかし男性型が食い下がる。
「殿下! 私は隣国を負かすお役に立ちたいのです!」
「エドの国が勝つのだから、その結果で隣国は負ける。この単純な計算式に、恨みを持つお前が加わると――話がややこしくなるんだ。解ってくれ」
「わ、私めが考えているのは単なる復讐ではなく、これで戦いを終わらせ、全ての女性型に平和な合唱場所を提供する事です!」
必死な表情をしている男性型。その瞳が真剣なので根負けし、渋々ながら連れて行く事に決めた。これで協力者たる人魚たちの検分は終了だ。
俺はその男性型から離れ、もう一度全員を見渡す。彼らは未だ敬礼を崩さず控えていた。立派なものだ。あり合わせながら、俺の騎士団と呼んでやってもいい。
俺はすうっと息を吸い込み、なるべく大きな声で号令をかけた。
「よし、行くぞ!」
「かしこまりました! 勝利をその手に!」
俺と共に騎士団の面々が泳ぎだす。ああ、本当に急がなければ。ただでさえ遠方に住まわされているのだ。往復だけで六時間は下るまい。
「我が騎士ロージオよ、この度の働き、本当に……本当に……素晴らしきものであった! お前は、に、人魚界の誇りある、き、騎士として――」
そこで俺の視界に、ぱらぱらと白い球体が浮かぶ。何だろうと思ったが、気づいてみれば俺の涙だった。
「……す、すまん」
「気が緩んだんでしょう、当然だよ――ああ、そんなに泣いて……ちょっと失敬」
ロージオが俺の頭をぽんぽんと叩く。すると余計に真珠が生まれたので困った。
「……どうせ泣いてるなら、ついでに言っとこうかな。エド皇子からのメッセージなんだけど、軍事的な物の他に……ええと」
ロージオはドロイの方をちらちら見てから、俺の身体を抱き上げドアの外に移動させる。何事かと思ったら、俺の耳元に唇を寄せてきた。
「……あのね、抱きたいとか愛してるとか、たくさん書いてあったよ。あと、君の愛を信じてるって」
「そ、そうか……! お、俺も信じて……!」
いかん、大粒の真珠が量産されている。それを見たロージオは「やっぱりなぁ」と笑っていた。俺はこの嬉し涙をエドに捧げたく、ロージオとドロイに事情を言って手伝わせ、一粒残らず拾い集める。
俺は真珠を宝石箱に入れようとして、中に入っている偽りの羽飾りと髪に気づいた。それらをロージオに頼んで窓の外へ放ってもらい、代わりに真珠を敷き詰める。驚いた事に、宝石箱は満杯になってしまった。
「……これなら王冠を作っても、お釣りが来そうだな」
満足の思いで宝石箱を閉じた俺に、ロージオがすいすい近寄ってくる。それからロージオは、ちょっと悪戯そうな笑みと共に窓の外を指差した。
「殿下、そろそろエド皇子を助けに行かない?」
それに対する俺の返答は、もう決まっていた。
「もちろん行くぞ! ロージオも付いて来い!」
俺はきっぱりと言ってから、近くの窓に向かおうとした。しかし、うっかり自分が泳げない事を忘れており――少しだけ持ち上がっていた身体は、バランスを失い崩れ落ちる。
「ふ、不注意だったな……!」
「大丈夫? 痛いところは無い?」
ベッドに沈んだ俺をロージオが気遣った。そこへドロイが割り込んでくる。
「尾びれが使えないんじゃ、当然そうなりますよぉ。しかも、その痩せた様子だと無理でしょ~。どれだけ食べてないんですか~?」
ドロイの問いに俺は首を振った。いま用意された魚のすり身以前、いつから食べていないのか不明だからだ。
「……まぁいい。動けないなら、それなりの手を使う。ロージオ、俺を水面まで運べ」
俺がそう命じたのに、ロージオはドロイの方を向く。
「ドロイ伯、今の殿下はそれに耐えられるのか?」
「ボクは医者じゃないですけど……その体力じゃ、地上の空気に触れたらそれこそ死んじゃうと思いますよぉ?」
「ではロージオ、俺は水面ぎりぎりで潜っているから、お前がエドとの連絡を――」
「殿下、多分それも厳しいです~」
へらっと言うドロイに対しては、思わず鋭い視線を送ってしまった。でもドロイが気にせず続ける。
「今の弱った身体じゃ、そこまでの急激な水圧の変化に耐えられませんよぉ。食事を摂りながら、じわじわ浅い場所に移動するところから始めないと」
俺は、だんっと寝床を叩く。こんな事なら、いつでも動けるようにしておけば良かった。後悔先に立たずだ。
「どうしたらいいんだ、どうしたら……!」
状況は厳しいが、エドを助けたくて仕方ない。しかしエドに逢う前に死ぬ事も本意でなく、深い溜息を吐いて考え込んでしまう。
そんな俺を眺めていたドロイが、ふらっと部屋の外へ出て行った。先ほどロージオも同じような行動をしていたが、ドロイはすり身ではなく大きな鞄を持ってくる。
何だろうと観察していると、ドロイが真っ黒な液体の入った薬瓶を出してきた。多分、俺の何かに役立つ物なのだろう。なのでドロイから薬瓶を引っ手繰った。
「この中身は何だ?」
「身体はここにあるまま、魂だけを移動させる薬ですよぉ」
「……どういう意味だ?」
「殿下がこれを飲むと、身体から魂だけが離れるんです。それを例えばロージオ君に憑依させると、ロージオ君の身体が動かせますぅ。憑依したロージオ君から、例えばボクに移る事も出来るんですよぉ。ただし、殿下に敵意を持っている人間には弾かれるので悪しからず」
突拍子も無い効果に驚き、俺はドロイの表情を見つめる。涼しげな瞳からは全く考えを読めない。しかし、今まで何度もドロイの研究品には不思議な体験をさせられており――通常なら信じがたい話だけれど、ドロイが言うのであれば本当だろうと思えた。
「……ドロイよ、一つ聞きたい。俺が憑依した場合、ロージオはどうなる?」
「身体の中に魂が二つ共存するだけで、殿下が離れればすぐに元通りですよ~」
俺はロージオをじいっと見つめる。それを受け、ロージオが余裕の表情で頷いた。俺も軽く頷き返し、小瓶の中身を一気飲みする。
すぐに効果が現れたらしく、気づけば自分の身体を俯瞰で眺めていた。俺の身体は魂が抜けたせいか、死んだように眠っている。面白いので、暫くそのまま観察してしまった。そんな俺に、ドロイが声を掛けてくる。
「殿下~、誰にも憑依しないでいるとマズいですよ~。魂が消えちゃうかもしれませんよぉ」
「た、大変だ! 殿下、早く私の身体へ!」
ロージオはきょろきょろ周囲を見回した。と、いう事は、俺の姿が目に見えていないらしい。
俺は心配しているロージオに近づき、そっと重なった。その途端に視界が変わり、眼下には金の鱗が見て取れる。
「これはロージオの鱗だ……成功したようだな」
「殿下、良かった! 私の身体に居るんだね!」
「……ん? おかしい、俺とロージオが同時に喋っている!」
俺は不随意に動く唇を感じ混乱した。ついでに右手を動かしてみると、今度は勝手に左手も動く。それで解った、俺とロージオは二匹で一つの身体を使っているのだ。その状況に対し、満面の笑顔のドロイが両手を広げた。
「大成功ですよぉ!」
「しかしドロイよ、先程から俺とロージオの行動がかち合っているようだ」
「共存って言ったじゃないですかぁ。ですから身体の動きは、どちらかに任せる若しくは二匹で息を合わせてくださいね~」
「なるほど、そういう事か」
思っていたのとは少し違うが、それでもこれは僥倖だ。俺はロージオに声を掛けた。
「ではロージオ、暫く頼むぞ。ドロイの言う通りに動いてみよう」
「まぁ私と殿下なら、阿吽の呼吸で大丈夫だと思うよ?」
「……いやぁ、本当に上手く行ってるなぁ~。後でデータを取らせてくださいね」
ドロイはとても喜んでいる。もちろん俺だって順調なら嬉しい。しかし、ドロイが発した次の一言で不安になった。
「なるべく早く帰って来てくださいよ~、じゃないと泡になっちゃいますから」
「……何!? あ、泡だと!?」
「長時間に渡って本体と魂が離れた場合、お互いに疲弊して崩れるんです。殿下の場合は既に両方が弱ってますから、八時間以内に帰って来ないと――」
「了解だ、では急ぐ!」
まだ何か言い掛けているドロイを置き、俺は軟禁場所の屋敷を出た。外には、どこか見覚えのある顔の男性型が数匹泳いでいる。父の寄越した警備かと思い、俺は一瞬だけ身構えた。この屋敷の人魚には、まだ父の意向が伝わりきっていないはずだ。しかし、ロージオの様子がゆったりしているので、違う可能性に思い当たる。
「……ロージオ、この人魚たちはお前が?」
「うん、有志だけでこの位だね――殿下がお見えだぞ、整列!」
ロージオが声を掛けると、俺の眼前に二十数匹の人魚が集ってくる。ロージオはその人魚らにドロイの薬の事情を説明した。なので、この人魚たちは俺に対するように振る舞い、殿下と呼ぶ。
俺はびしっと整列している人魚たちに声を掛けた。
「よく集まってくれたな、感謝しよう。では、早速だが――」
この人魚たちが信頼できそうか確かめたく、俺は一匹一匹に動機を聞いて回る。大抵は俺に憧れていたとか、ロージオの人脈だったりするのだが――その途中、気になる男性型を発見した。ロージオが作成した協力者リストに載っていない人魚で、どこからか潜り込んだらしい。事情があり、どうしても参加したかったようだ。
俺はその男性型の話を聞いてやった。それによれば、人魚狩りでつがいの女性型が怪我をし、二度と歌えなくなったようで――つまり、この男性型は復讐したいのだろう。俺はその怒りに震える肩へ、ぽんと手を置いた。
「怪我に関しては俺の責任でもあり、なるべくの事はしてやりたいと思う。ただ今回は俺が愛する人間――エドを守りつつ、エドの国を勝たせるという戦いだ。お前の私怨を晴らす場ではない」
負の感情が強い人魚は扱い辛いのだ。俺はこの男性型を置いていこうと思った。しかし男性型が食い下がる。
「殿下! 私は隣国を負かすお役に立ちたいのです!」
「エドの国が勝つのだから、その結果で隣国は負ける。この単純な計算式に、恨みを持つお前が加わると――話がややこしくなるんだ。解ってくれ」
「わ、私めが考えているのは単なる復讐ではなく、これで戦いを終わらせ、全ての女性型に平和な合唱場所を提供する事です!」
必死な表情をしている男性型。その瞳が真剣なので根負けし、渋々ながら連れて行く事に決めた。これで協力者たる人魚たちの検分は終了だ。
俺はその男性型から離れ、もう一度全員を見渡す。彼らは未だ敬礼を崩さず控えていた。立派なものだ。あり合わせながら、俺の騎士団と呼んでやってもいい。
俺はすうっと息を吸い込み、なるべく大きな声で号令をかけた。
「よし、行くぞ!」
「かしこまりました! 勝利をその手に!」
俺と共に騎士団の面々が泳ぎだす。ああ、本当に急がなければ。ただでさえ遠方に住まわされているのだ。往復だけで六時間は下るまい。
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